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優子の季節 第15話
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見合相手とは、その後仲介をしてくれた叔母と母親が連絡を取り、相手がまた会いたいと言っていると優子に言ってきた。
優子も相手の事をもっとよく知りたいと思っていたので、今度の休日に二人でドライブすることになった。
その日、優子の自宅まで車で迎えに来たのだが、彼の乗ってきた車は大排気量の国産の高級車であった。
それは、亮輔の中古の国産高級車よりもワンランク上のものであり、まだ新車の匂いがしていた。
優子は驚いたが、平然を装い助手席に座った。
走り去る車を、優子の両親は目を細めて見送っていた。
彼の名は菱沼幸吉と言った。
菱沼はこの町で生まれて、この町で育った。
国立大学の受験を2回失敗して、大都市の私立大学に進学、4年間で無事卒業後は市役所の試験に合格して今に至る。
女性経験は、そのルックスからも少ないか、あるいはほとんどないことが伺え知れた。
優子は、経験豊富よりはマシだと思った。亮輔のように、二股かけられることは二度と経験したくはない。
彼自身の車は1000CCの小型自動車で国産の大衆車であり、今回乗ってきた車は父の車だった。
彼は父が使用していないときは、その車を借用できる身分だった。
なるほど親が資産家というのは、こういうメリットがあるのかと、優子は少し嬉しい気分になった。
菱沼は、優子の事をすっかり気に入ったようで、もう結婚を前提に色々と話をしてきた。
結婚したら住むことになる2世帯住宅の建材や家具が高価なものであること、まだ新しい家であることなど教えてくれた。
庭も広く、あずまやがあり、そこにはすぐバーベキューが出来るように焼き台が備え付けられていることや、母親が趣味で家庭菜園もしており、収穫時期には親戚を集めてバーベキューをして、収穫したばかりの野菜を焼いて味わうことなど、楽しそうに話してくれた。
「優子さんにもぜひ味わって欲しいな。」
菱沼は上機嫌だった。
その日は、ドライブをしただけで別れた。
菱沼は優子の家まで送ってくれた。
両親が出迎えてくれており、菱沼は丁寧に両親に挨拶をして去って行った。
「優子、どうだった?」
「どうって?ただドライブしただけよ。」
「そうじゃなくて、結婚相手としてどう思った?」
「ああ、まあ、いいんじゃないかな?一生付き合っていくには、ああいう人の方がいいかもね。」
「それじゃ見合成立ってことね。早速叔母さんに連絡するわよ。」
「うん。」
「優子、よく考えての結論なんだな?」
父が念を押すように言ってきた。
「まあ、考えるも何も、公務員で資産家で、何か不都合がある?」
「うん・・・いや、お前がいいならいいんだ。」
父はばつが悪そうに沈黙した。
優子は、「親の都合に100%合わせだんだから。下手な文句なんかつけないで欲しいわ。」と、少し両親に対して、恨みにも似た感情が芽生えていた。
数日後、今回の見合話を持ってきた叔母から、相手もこの縁談をぜひ進めて欲しいと返事をもらったと連絡があった。
ついては、仲人、式の日取りなど諸々打ち合わせしたいと、母に連絡があった。
優子は煩わしさを感じてはいたが、仕方ないとあきらめて、日取りなどについて母とああでもない、こうでもないと検討していた。
実際に結婚式を挙げるとなると、誰を呼ぶのかから始まり、挨拶をする人、席順など雑多な事を決めなければならないが、新婦側だけで決められないことも多く、新郎側との打ち合わせもしなければならない。
優子はだんだん憂鬱になってきた。
「これがマリッジブルーって奴?」
また、菱沼との仲も深めるため、週に1回は会うことにしていた。
結婚式は有名な式場ですることになり、来賓では菱沼家と懇意にしている議員を呼んだり、どこかの会社の社長を呼んだりするとのことだった。
そのため日程調整に手間取り、結局半年後に式を行うことになった。
優子は、菱沼にしばらくは今の会社に勤務したいことを告げ、菱沼も問題なく納得してくれた。
また、2世帯住宅に住むのは式が終わってからとお互い決めた。
季節はもう3月になっていた。
優子は会社帰りに友人の麻美のスナックへ行った。
「独身でいられるのも後半年。なんだか寂しいわ。」
優子は麻美に愚痴っていた。
「まだ半年もあるじゃない。結婚式は9月でしょ。まだまだよ。」
「多分あっという間よ。これで良かったんだよね。」
「もちろんじゃない。優子の安定した一生が約束されたようなものだわ。」
「そうかしら。先の事なんて想像できないわ。」
「そうよね。でも、人間必ず老いるのよ。あと40年も経てば、今の選択はベストだったって思うわよ。」
「麻美もまだ21歳で、よくそんな老けた事言えるわね。感心するわ。」
「まあね。商売柄、いろんな人を見てるからね。ある程度シュミレーションができるのよ。」
「はあー。とてもかなわないわ。」
「優子は人生勝ち組よ。勝ち馬に乗っているんだから。このまま突っ走りなさいね。」
「そんなものかな。」
まだ若い優子には実感できないものだったが、亮輔や那須からは得られなかった安心感に満足していた。
季節は5月になっていた。
満開の桜を見るために、たくさんの観光客が訪れ、どこか浮かれていた街に静かな日常が戻っていた。
優子と菱沼は、週1回会うこと続けていた。
そのため、優子は菱沼の事を良くも悪くも深く知るようになっていた。
まず、女性経験が全くないこと、そしていわゆるオタクであること、友人もオタクと言われている人たちであることだった。
しかし、別に犯罪でもなく、ただ趣味がアニメやパソコンゲームというだけであって、人格に問題があるわけではないので、優子は気にしないことにしていた。
また、服装のセンスが絶望的に悪いということもわかったが、これから優子が選んでやれば良いことである。
心配していた、いわゆるマザコンではなくて安心した。
菱沼の女性経験が全くないせいで、週1回会っていても、まだ肉体関係には及んでいなかった。
それはそれで煩わしくなくて良かったが、若い優子にとっては若干不満が残る点でもあり、もしかして男性として機能しないのではないかという一抹の不安も感じてはいた。
しかし、これについては優子から誘うこともできず、確かめる方法もないので、結婚してから考えることにした。
そんな、どちらかというと幸せな日常を過ごしていた。
6月になり、乾燥している北海道でも蝦夷梅雨といわれる雨が続いていた。
優子は朝起きて、いつも通りに朝食を取りながら、テレビでニュース番組を見るともなしに見ていた。
すると、見たことのある名前がテロップに出た。
那須一郎の名前だった。
優子は箸を持つ手を止めて、テレビに釘付けになった。
「那須一郎さん(25歳)新証言により無罪」
優子は呆然とした。
優子も相手の事をもっとよく知りたいと思っていたので、今度の休日に二人でドライブすることになった。
その日、優子の自宅まで車で迎えに来たのだが、彼の乗ってきた車は大排気量の国産の高級車であった。
それは、亮輔の中古の国産高級車よりもワンランク上のものであり、まだ新車の匂いがしていた。
優子は驚いたが、平然を装い助手席に座った。
走り去る車を、優子の両親は目を細めて見送っていた。
彼の名は菱沼幸吉と言った。
菱沼はこの町で生まれて、この町で育った。
国立大学の受験を2回失敗して、大都市の私立大学に進学、4年間で無事卒業後は市役所の試験に合格して今に至る。
女性経験は、そのルックスからも少ないか、あるいはほとんどないことが伺え知れた。
優子は、経験豊富よりはマシだと思った。亮輔のように、二股かけられることは二度と経験したくはない。
彼自身の車は1000CCの小型自動車で国産の大衆車であり、今回乗ってきた車は父の車だった。
彼は父が使用していないときは、その車を借用できる身分だった。
なるほど親が資産家というのは、こういうメリットがあるのかと、優子は少し嬉しい気分になった。
菱沼は、優子の事をすっかり気に入ったようで、もう結婚を前提に色々と話をしてきた。
結婚したら住むことになる2世帯住宅の建材や家具が高価なものであること、まだ新しい家であることなど教えてくれた。
庭も広く、あずまやがあり、そこにはすぐバーベキューが出来るように焼き台が備え付けられていることや、母親が趣味で家庭菜園もしており、収穫時期には親戚を集めてバーベキューをして、収穫したばかりの野菜を焼いて味わうことなど、楽しそうに話してくれた。
「優子さんにもぜひ味わって欲しいな。」
菱沼は上機嫌だった。
その日は、ドライブをしただけで別れた。
菱沼は優子の家まで送ってくれた。
両親が出迎えてくれており、菱沼は丁寧に両親に挨拶をして去って行った。
「優子、どうだった?」
「どうって?ただドライブしただけよ。」
「そうじゃなくて、結婚相手としてどう思った?」
「ああ、まあ、いいんじゃないかな?一生付き合っていくには、ああいう人の方がいいかもね。」
「それじゃ見合成立ってことね。早速叔母さんに連絡するわよ。」
「うん。」
「優子、よく考えての結論なんだな?」
父が念を押すように言ってきた。
「まあ、考えるも何も、公務員で資産家で、何か不都合がある?」
「うん・・・いや、お前がいいならいいんだ。」
父はばつが悪そうに沈黙した。
優子は、「親の都合に100%合わせだんだから。下手な文句なんかつけないで欲しいわ。」と、少し両親に対して、恨みにも似た感情が芽生えていた。
数日後、今回の見合話を持ってきた叔母から、相手もこの縁談をぜひ進めて欲しいと返事をもらったと連絡があった。
ついては、仲人、式の日取りなど諸々打ち合わせしたいと、母に連絡があった。
優子は煩わしさを感じてはいたが、仕方ないとあきらめて、日取りなどについて母とああでもない、こうでもないと検討していた。
実際に結婚式を挙げるとなると、誰を呼ぶのかから始まり、挨拶をする人、席順など雑多な事を決めなければならないが、新婦側だけで決められないことも多く、新郎側との打ち合わせもしなければならない。
優子はだんだん憂鬱になってきた。
「これがマリッジブルーって奴?」
また、菱沼との仲も深めるため、週に1回は会うことにしていた。
結婚式は有名な式場ですることになり、来賓では菱沼家と懇意にしている議員を呼んだり、どこかの会社の社長を呼んだりするとのことだった。
そのため日程調整に手間取り、結局半年後に式を行うことになった。
優子は、菱沼にしばらくは今の会社に勤務したいことを告げ、菱沼も問題なく納得してくれた。
また、2世帯住宅に住むのは式が終わってからとお互い決めた。
季節はもう3月になっていた。
優子は会社帰りに友人の麻美のスナックへ行った。
「独身でいられるのも後半年。なんだか寂しいわ。」
優子は麻美に愚痴っていた。
「まだ半年もあるじゃない。結婚式は9月でしょ。まだまだよ。」
「多分あっという間よ。これで良かったんだよね。」
「もちろんじゃない。優子の安定した一生が約束されたようなものだわ。」
「そうかしら。先の事なんて想像できないわ。」
「そうよね。でも、人間必ず老いるのよ。あと40年も経てば、今の選択はベストだったって思うわよ。」
「麻美もまだ21歳で、よくそんな老けた事言えるわね。感心するわ。」
「まあね。商売柄、いろんな人を見てるからね。ある程度シュミレーションができるのよ。」
「はあー。とてもかなわないわ。」
「優子は人生勝ち組よ。勝ち馬に乗っているんだから。このまま突っ走りなさいね。」
「そんなものかな。」
まだ若い優子には実感できないものだったが、亮輔や那須からは得られなかった安心感に満足していた。
季節は5月になっていた。
満開の桜を見るために、たくさんの観光客が訪れ、どこか浮かれていた街に静かな日常が戻っていた。
優子と菱沼は、週1回会うこと続けていた。
そのため、優子は菱沼の事を良くも悪くも深く知るようになっていた。
まず、女性経験が全くないこと、そしていわゆるオタクであること、友人もオタクと言われている人たちであることだった。
しかし、別に犯罪でもなく、ただ趣味がアニメやパソコンゲームというだけであって、人格に問題があるわけではないので、優子は気にしないことにしていた。
また、服装のセンスが絶望的に悪いということもわかったが、これから優子が選んでやれば良いことである。
心配していた、いわゆるマザコンではなくて安心した。
菱沼の女性経験が全くないせいで、週1回会っていても、まだ肉体関係には及んでいなかった。
それはそれで煩わしくなくて良かったが、若い優子にとっては若干不満が残る点でもあり、もしかして男性として機能しないのではないかという一抹の不安も感じてはいた。
しかし、これについては優子から誘うこともできず、確かめる方法もないので、結婚してから考えることにした。
そんな、どちらかというと幸せな日常を過ごしていた。
6月になり、乾燥している北海道でも蝦夷梅雨といわれる雨が続いていた。
優子は朝起きて、いつも通りに朝食を取りながら、テレビでニュース番組を見るともなしに見ていた。
すると、見たことのある名前がテロップに出た。
那須一郎の名前だった。
優子は箸を持つ手を止めて、テレビに釘付けになった。
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