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優子の季節 第12話
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新年が明けた。優子の会社は12月30日から1月4日まで休みだった。
当然同じ会社の那須も休みだったが、故郷の青森に帰郷していた。
優子の実家は正月ということもあり、親戚が集まっていた。
その席で叔母から、優子の見合い話が持ち出された。
相手が資産家の公務員という事で両親も乗り気になり、優子よりも真剣に話を聞いていた。
優子は興味を持つこともなく、適当にあしらい、その場を離れた。
親戚が帰った後、両親は優子に見合い話を勧めた。
「どうだ。優子、この人は親が資産家で、初婚で市役所勤務だぞ。この街から離れなくていいし、父さんはいいと思うぞ。」
「うーん。いまいち」
優子は見合写真を見ながら答えた。相手は亮介や那須さんに比べると、かなり見劣りした。
「優子、あんたもしかして好きな人がいるんじゃないの?交際している人、いるんだよね。」
さすがに母親は敏感だ。まあ、毎週土日出かけているし、クリスマスは泊まりがけで出かけたし、両親には女の友人と旅行に行くと言ったが、母親の目を騙すことは難しいようだ。
優子は思いきって言った。
「そうよ。今交際している人がいて、結婚を申し込まれているの。」
「あんた、そうなら早く言いなさいよ。」
「どんな男なんだ?」
「同じ会社の人。25歳。」
「今度連れてきなさいよ。母さん会ってみたいわ。」
「そうだな。父さんも会わなきゃならん。」
「もう、そんなことしたら結婚をオッケーしたと勘違いされるでしょ。」
「なんだ?お前その人と結婚する気はないのか?」
「まあ、今悩み中。」
「何か問題のある人なのかい?」
「まさか、お前不倫とかじゃないだろうな?相手に奥さんと子供がいるとか?」
「いるわけないでしょ!不倫なんかするわけない!」
「じゃ、なにを迷っているの?」
「・・・」
優子は無言になった。
那須が元犯罪者とは言えなかった。しかし、那須と結婚するからには、避けては通れないし、すべてを知ってもらった上で、両親に祝福して欲しかった。
「とにかく私の気持ちの問題なの。整理がついたら話すわ。」
そう言って優子は部屋に籠もった。
那須が帰郷から戻ってきたのは仕事始めの前日、1月3日だった。
青森県の土産を優子に渡したいと連絡してきた。
二人は優子の自宅から割と近くの喫茶店で会った。
「里帰りはどうだったの?」
「うん・・・いや。相変わらずさ」
「そう。青森県って修学旅行で行ったきりだわ。その時は仙台に行ったのよ。」
「俺の故郷はもっと田舎だよ。八戸市さ。あ、これお土産。」
土産はせんべい汁だった。
「せんべい汁って初めてだわ。ありがとう。私もたまに青森県に行ってみたいな。」
優子の言葉に那須の表情が曇った。
「実は里帰りは久しぶりなんだ。ほら、俺刑務所に入っていたからさ。それ以来、家族とはうまくいっていないんだ。」
「あ・・・」
優子は触れていけない話題に触れたと思い、言葉を詰まらせた。
「今回は、就職も出来て、社会人として生活できているって事を、母さんだけに教えて安心させたかったんだ。母さんだけは、俺の心配をしているから。それと・・・」
那須は優子の小指のリングを見つめて言った。
「結婚したい人が出来たということも伝えたかったんだ。」
「それって・・・私の事?」
「他にいる?」
実家に私の事を報告に行ったことを知り、優子は那須が本気で結婚を考えていることを実感した。
「やっぱり今度青森に行ってみたいわ。連れて行ってくれる?」
「本当かい?もちろんだよ!」
その日二人はそれで別れた。
優子は帰宅してから那須の土産のせんべい汁を作り、家族に振る舞った。
「せんべい汁なんて、母さん初めて食べたわ。」
「俺は青森県に出張したときに食べたな。結構うまかったぞ。優子の作ったせんべい汁も同じくらいうまい。」
家族団らんでいい雰囲気になっていた。
優子は話すなら今しかないと思い、打ち明けた。
「実はこのせんべい汁をくれた人と結婚したいと思っているの。」
両親の手が止まり、二人はお互い目を合わせた。
少しの沈黙の後、母が口火を切った。
「そうかい。青森の人なんだね。前に話していた人でしょ。やっと結婚に踏ん切りがついたの?」
「うん、彼このお正月に実家に帰って私のことを言ったみたい。結婚したいって。彼がそこまで本気なら、私も結婚してもいいかなと思った。」
「そうか。いいんじゃないのか。今度連れてきなさい。」
父が優しい笑顔で言った。
「実は結婚に迷っていたのには、もっと他に理由があったの。父さん母さんにも理解して欲しいことなんだけど。」
父は笑顔から曇った表情になった。
「なんだ?言ってみなさい。まさか借金でもあるのか?」
「ううん。お金にはきちんとしている人よ。ギャンブルもしないし。派手でもない。ただ、若い頃ちょっとしたトラブルに巻き込まれて・・・」
優子は躊躇したが、思い切って言った。
「刑務所に入っていたの。」
優子の言葉に、その場の空気が凍り付いた。
当然同じ会社の那須も休みだったが、故郷の青森に帰郷していた。
優子の実家は正月ということもあり、親戚が集まっていた。
その席で叔母から、優子の見合い話が持ち出された。
相手が資産家の公務員という事で両親も乗り気になり、優子よりも真剣に話を聞いていた。
優子は興味を持つこともなく、適当にあしらい、その場を離れた。
親戚が帰った後、両親は優子に見合い話を勧めた。
「どうだ。優子、この人は親が資産家で、初婚で市役所勤務だぞ。この街から離れなくていいし、父さんはいいと思うぞ。」
「うーん。いまいち」
優子は見合写真を見ながら答えた。相手は亮介や那須さんに比べると、かなり見劣りした。
「優子、あんたもしかして好きな人がいるんじゃないの?交際している人、いるんだよね。」
さすがに母親は敏感だ。まあ、毎週土日出かけているし、クリスマスは泊まりがけで出かけたし、両親には女の友人と旅行に行くと言ったが、母親の目を騙すことは難しいようだ。
優子は思いきって言った。
「そうよ。今交際している人がいて、結婚を申し込まれているの。」
「あんた、そうなら早く言いなさいよ。」
「どんな男なんだ?」
「同じ会社の人。25歳。」
「今度連れてきなさいよ。母さん会ってみたいわ。」
「そうだな。父さんも会わなきゃならん。」
「もう、そんなことしたら結婚をオッケーしたと勘違いされるでしょ。」
「なんだ?お前その人と結婚する気はないのか?」
「まあ、今悩み中。」
「何か問題のある人なのかい?」
「まさか、お前不倫とかじゃないだろうな?相手に奥さんと子供がいるとか?」
「いるわけないでしょ!不倫なんかするわけない!」
「じゃ、なにを迷っているの?」
「・・・」
優子は無言になった。
那須が元犯罪者とは言えなかった。しかし、那須と結婚するからには、避けては通れないし、すべてを知ってもらった上で、両親に祝福して欲しかった。
「とにかく私の気持ちの問題なの。整理がついたら話すわ。」
そう言って優子は部屋に籠もった。
那須が帰郷から戻ってきたのは仕事始めの前日、1月3日だった。
青森県の土産を優子に渡したいと連絡してきた。
二人は優子の自宅から割と近くの喫茶店で会った。
「里帰りはどうだったの?」
「うん・・・いや。相変わらずさ」
「そう。青森県って修学旅行で行ったきりだわ。その時は仙台に行ったのよ。」
「俺の故郷はもっと田舎だよ。八戸市さ。あ、これお土産。」
土産はせんべい汁だった。
「せんべい汁って初めてだわ。ありがとう。私もたまに青森県に行ってみたいな。」
優子の言葉に那須の表情が曇った。
「実は里帰りは久しぶりなんだ。ほら、俺刑務所に入っていたからさ。それ以来、家族とはうまくいっていないんだ。」
「あ・・・」
優子は触れていけない話題に触れたと思い、言葉を詰まらせた。
「今回は、就職も出来て、社会人として生活できているって事を、母さんだけに教えて安心させたかったんだ。母さんだけは、俺の心配をしているから。それと・・・」
那須は優子の小指のリングを見つめて言った。
「結婚したい人が出来たということも伝えたかったんだ。」
「それって・・・私の事?」
「他にいる?」
実家に私の事を報告に行ったことを知り、優子は那須が本気で結婚を考えていることを実感した。
「やっぱり今度青森に行ってみたいわ。連れて行ってくれる?」
「本当かい?もちろんだよ!」
その日二人はそれで別れた。
優子は帰宅してから那須の土産のせんべい汁を作り、家族に振る舞った。
「せんべい汁なんて、母さん初めて食べたわ。」
「俺は青森県に出張したときに食べたな。結構うまかったぞ。優子の作ったせんべい汁も同じくらいうまい。」
家族団らんでいい雰囲気になっていた。
優子は話すなら今しかないと思い、打ち明けた。
「実はこのせんべい汁をくれた人と結婚したいと思っているの。」
両親の手が止まり、二人はお互い目を合わせた。
少しの沈黙の後、母が口火を切った。
「そうかい。青森の人なんだね。前に話していた人でしょ。やっと結婚に踏ん切りがついたの?」
「うん、彼このお正月に実家に帰って私のことを言ったみたい。結婚したいって。彼がそこまで本気なら、私も結婚してもいいかなと思った。」
「そうか。いいんじゃないのか。今度連れてきなさい。」
父が優しい笑顔で言った。
「実は結婚に迷っていたのには、もっと他に理由があったの。父さん母さんにも理解して欲しいことなんだけど。」
父は笑顔から曇った表情になった。
「なんだ?言ってみなさい。まさか借金でもあるのか?」
「ううん。お金にはきちんとしている人よ。ギャンブルもしないし。派手でもない。ただ、若い頃ちょっとしたトラブルに巻き込まれて・・・」
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