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優子の季節 第8話
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次の日曜日、那須に誘われて優子はドライブに出かけた。
季節は秋の中盤で、紅葉が見頃だった。
海岸沿いを走り、有名な道の駅で食事をした。
会社の社員のこと、社長の癖など那須は面白おかしく優子に話した。
優子はずっと笑いっぱなしだった。
秋の夕暮れはつるべ落としと言われるように、夕方を過ぎるともうすっかり暗くなった。
帰路につく国道は渋滞していた。
「ごめんね、帰りは遅くなりそうだ。明日仕事なのにね。」
「いいのよ。楽しかったもの。」
カーラジオは地元のコミュニティ放送局にチューニングされ、地元の話題が流れていた。
「来週はまたお祭りがあるみたいね。那須さん、お祭りは好き?」
「ああ、大好きだよ。行ってみたいな。」
「じゃ一緒に行きましょうか?」
「いいね。」
優子と那須はまた会う約束をして、その日は別れた。
その祭りは海の見える公園での音楽祭や、ちょっとした出店があるものだった。
一般的な神社のお祭りと違った雰囲気だったので、浴衣という選択肢もなく普段着で気軽に行けるお祭りで、その気軽さがより優子を楽しい気分にさせた。
那須もジーンズに長袖のジャケット姿と、ラフな格好で待ち合わせ場所にいた。
二人は出店で軽食を買い、音楽祭での生演奏を楽しんでいた。
那須がトイレへ行ってくると席を離れた。
優子が一人で音楽を楽しんでいると、前方に見慣れたシルエットがあった。
優子は息が止まるような気がした。
それは亮輔だった。
亮輔は見知らぬ女と手を組んで、楽しそうに歩いていた。
そして、亮輔とその女のほかに、那須のサーファーの友人もいた。
優子は見てはいけないものを見た気になり、思わず目を伏せた。
「お待たせ。トイレが混んでいて参ったよ。」
那須がにこやかに戻ってきた。
「どうしたの?顔が真っ青だけど・・・」
「ううん、なんでもないの。」
その時、前方から声がした。
「おーい。一郎じゃねーかよ。」
あのサーファーだった。
那須は一瞬たじろいだが、すぐ気を取り直して、
「おう。」
と必要最小限の挨拶をした。
そして那須はすべてを察したように、
「さ、もう行こうか」
と優子の腕を取り、その場から足早に去ろうとした。
しかし、友人のサーファーは那須と優子の方へ駆けだしてきた。
「おい、逃げなくてもいいじゃねえか。」
友人のサーファーは酔っているようで、少しろれつの回らない言葉で言った。
優子は亮輔、見知らぬ女、あのいやなサーファーという組み合わせにめまいを感じた。
那須は優子の腕を取り、走り出した。
しかし、人混みに邪魔されて、友人のサーファーに追いつかれた。
「おっ亮輔の元カノじゃん。一郎、モノにしたのかよ。」
「おい、モノ扱いするな。失礼だろ。」
「モノはモノなんだよ。なんなら亮輔に聞いてみるか?おーい、りょうすけー!」
「やめて!」
優子は震えながら小声で叫んだ。
那須はその声を聞いてサーファーの友人に凄んだ。
「いい加減にしろよ!」
「なんだよ。やるのかよ?おい、またムショに戻りたいのか?」
「きさま!黙れ!」
「本当のことだろ?俺と一緒にムショで暮らした事、忘れていないよな。」
那須は無言になった。
優子は何が何だがわからなくなった。
しかし、この場にいてはいけないことだけは理解できた。
「行きましょう。那須さん」
那須は、友人のサーファーを突き飛ばし、優子と一緒に駆けだした。
後ろでは友人のサーファーの怒号が聞こえてきた。
二人は祭り会場から離れた別の公園にたどり着いた。
ベンチに座り、息を整えた。
那須が自販機でペットボトルのお茶を買ってきて優子に手渡した。
「ありがとう」
「ごめん。せっかくの祭りを台無しにしてしまって。」
「ううん。平気。」
「その、元カノって聞こえたけど・・・」
「あっ・・・聞いていたの?」
「うん。」
「サーファーの友人と一緒にいたやつとちょっと付き合ってたの。でも、今はなんとも思っていない。」
「そっか。狭い町だからね。気にすることないよ。」
「うん。」
優子は、那須に男としての包容力を感じた。
二人の間に長い沈黙が訪れた。
優子はこの沈黙を破っていいものか思案した。
破るなら、あのサーファーの友人が言っていたことについて聞きたかった。
「またムショに戻りたいのか?」
額面通りに受け止めると、那須は刑務所に入っていたことになる。
本当なのか?愛し始めた男が犯罪者・・・信じたくはなかった。何かの間違い?
刑務所と言っても、例えば交通事故で相手を死傷させるなど業務上過失致死で収監されることもある。
実際優子の会社の社員で、業務上過失致死で刑務所に入った社員もいた。
一概に悪人が刑務所に入るとは限らない。
聞いてみたい衝動に駆られたが、亮輔が生活保護だったと知られて自分から去って行ったことを考えると、必要以上に人のプライベートに踏み込むことはできなかった。
やはり沈黙を続けるしかなかった。
優子がペットボトルのお茶を飲み干した時、那須が沈黙を破った。
「一緒にいたやつ、元カレになるのかな?女連れていたね。」
優子はドキッとした。
「もしかして優子さん、つらい目にあったんじゃない?」
「うん・・・」
「俺なら絶対そんな目に遭わさない。」
「うん。」
「約束するよ。」
「うん。」
「だから・・・俺と付き合ってください。」
那須が優子を見つめながら、いつにない真剣な表情で言った。
季節は秋の中盤で、紅葉が見頃だった。
海岸沿いを走り、有名な道の駅で食事をした。
会社の社員のこと、社長の癖など那須は面白おかしく優子に話した。
優子はずっと笑いっぱなしだった。
秋の夕暮れはつるべ落としと言われるように、夕方を過ぎるともうすっかり暗くなった。
帰路につく国道は渋滞していた。
「ごめんね、帰りは遅くなりそうだ。明日仕事なのにね。」
「いいのよ。楽しかったもの。」
カーラジオは地元のコミュニティ放送局にチューニングされ、地元の話題が流れていた。
「来週はまたお祭りがあるみたいね。那須さん、お祭りは好き?」
「ああ、大好きだよ。行ってみたいな。」
「じゃ一緒に行きましょうか?」
「いいね。」
優子と那須はまた会う約束をして、その日は別れた。
その祭りは海の見える公園での音楽祭や、ちょっとした出店があるものだった。
一般的な神社のお祭りと違った雰囲気だったので、浴衣という選択肢もなく普段着で気軽に行けるお祭りで、その気軽さがより優子を楽しい気分にさせた。
那須もジーンズに長袖のジャケット姿と、ラフな格好で待ち合わせ場所にいた。
二人は出店で軽食を買い、音楽祭での生演奏を楽しんでいた。
那須がトイレへ行ってくると席を離れた。
優子が一人で音楽を楽しんでいると、前方に見慣れたシルエットがあった。
優子は息が止まるような気がした。
それは亮輔だった。
亮輔は見知らぬ女と手を組んで、楽しそうに歩いていた。
そして、亮輔とその女のほかに、那須のサーファーの友人もいた。
優子は見てはいけないものを見た気になり、思わず目を伏せた。
「お待たせ。トイレが混んでいて参ったよ。」
那須がにこやかに戻ってきた。
「どうしたの?顔が真っ青だけど・・・」
「ううん、なんでもないの。」
その時、前方から声がした。
「おーい。一郎じゃねーかよ。」
あのサーファーだった。
那須は一瞬たじろいだが、すぐ気を取り直して、
「おう。」
と必要最小限の挨拶をした。
そして那須はすべてを察したように、
「さ、もう行こうか」
と優子の腕を取り、その場から足早に去ろうとした。
しかし、友人のサーファーは那須と優子の方へ駆けだしてきた。
「おい、逃げなくてもいいじゃねえか。」
友人のサーファーは酔っているようで、少しろれつの回らない言葉で言った。
優子は亮輔、見知らぬ女、あのいやなサーファーという組み合わせにめまいを感じた。
那須は優子の腕を取り、走り出した。
しかし、人混みに邪魔されて、友人のサーファーに追いつかれた。
「おっ亮輔の元カノじゃん。一郎、モノにしたのかよ。」
「おい、モノ扱いするな。失礼だろ。」
「モノはモノなんだよ。なんなら亮輔に聞いてみるか?おーい、りょうすけー!」
「やめて!」
優子は震えながら小声で叫んだ。
那須はその声を聞いてサーファーの友人に凄んだ。
「いい加減にしろよ!」
「なんだよ。やるのかよ?おい、またムショに戻りたいのか?」
「きさま!黙れ!」
「本当のことだろ?俺と一緒にムショで暮らした事、忘れていないよな。」
那須は無言になった。
優子は何が何だがわからなくなった。
しかし、この場にいてはいけないことだけは理解できた。
「行きましょう。那須さん」
那須は、友人のサーファーを突き飛ばし、優子と一緒に駆けだした。
後ろでは友人のサーファーの怒号が聞こえてきた。
二人は祭り会場から離れた別の公園にたどり着いた。
ベンチに座り、息を整えた。
那須が自販機でペットボトルのお茶を買ってきて優子に手渡した。
「ありがとう」
「ごめん。せっかくの祭りを台無しにしてしまって。」
「ううん。平気。」
「その、元カノって聞こえたけど・・・」
「あっ・・・聞いていたの?」
「うん。」
「サーファーの友人と一緒にいたやつとちょっと付き合ってたの。でも、今はなんとも思っていない。」
「そっか。狭い町だからね。気にすることないよ。」
「うん。」
優子は、那須に男としての包容力を感じた。
二人の間に長い沈黙が訪れた。
優子はこの沈黙を破っていいものか思案した。
破るなら、あのサーファーの友人が言っていたことについて聞きたかった。
「またムショに戻りたいのか?」
額面通りに受け止めると、那須は刑務所に入っていたことになる。
本当なのか?愛し始めた男が犯罪者・・・信じたくはなかった。何かの間違い?
刑務所と言っても、例えば交通事故で相手を死傷させるなど業務上過失致死で収監されることもある。
実際優子の会社の社員で、業務上過失致死で刑務所に入った社員もいた。
一概に悪人が刑務所に入るとは限らない。
聞いてみたい衝動に駆られたが、亮輔が生活保護だったと知られて自分から去って行ったことを考えると、必要以上に人のプライベートに踏み込むことはできなかった。
やはり沈黙を続けるしかなかった。
優子がペットボトルのお茶を飲み干した時、那須が沈黙を破った。
「一緒にいたやつ、元カレになるのかな?女連れていたね。」
優子はドキッとした。
「もしかして優子さん、つらい目にあったんじゃない?」
「うん・・・」
「俺なら絶対そんな目に遭わさない。」
「うん。」
「約束するよ。」
「うん。」
「だから・・・俺と付き合ってください。」
那須が優子を見つめながら、いつにない真剣な表情で言った。
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