優子の季節

短足マンチカン

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優子の季節 第7話

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翌朝、休みたいほど精神的に疲弊していた優子であったが、家で悶々としているよりも会社で仕事をしていたほうが心が休まると思い、優子は出勤した。
那須の現場に出入りするための社員証が出来上がり、那須が取りに来た。
「どうもありがとうございます。おっ社員証の写真、実物よりいい男に撮れてますね。」
那須は少しおどけて優子に話しかけた。
しかし、優子は不機嫌な表情で無言で那須に社員証を渡した。
那須は不思議そうな顔をしていたが、何か思いついたような表情に変わり、早足で事務所から出て行った。
那須はサーファーの友人宅に乗り込んでいった。
「おい、きさま山根さんに何をした?」
「何のことだよ。知らねえし。」
「ふざけんなよ。きさまのことだ。なにかしたんんだろ。」
「何もしてねえよ」
那須は、サーファーの友人の胸ぐらを掴んで凄んだ。
「おい・・・忘れたんじゃねえだろうな。俺がどんな人間だったか。最近甘い顔していりゃ、つけあがりやがってよ。自衛隊で仕込んだ技を味わいたいのか?」
サーファーの友人は青ざめた。
「わかったよ。話すから、この手を離せよ。」
那須は無言で手を離した。
サーファーの友人は、優子は自分の高校時代の不良グループの仲間が付き合っていた女で、最近別れたこと、その仲間も本気じゃなく遊びだったこと、優子が淫乱だったと聞いていたこと、寂しい盛りだから自分が相手してやろうとしたことなどを那須に話した。
那須は、表情を強ばらせた。
「おい、おまえも最低だが、その友人ってやつも最低のクズだな。」
那須は友人宅を後にした。
翌朝、那須は現場に行く前に優子に会いに行った。
「山根さんに謝りたいことがあるんです。今日、仕事が終わったら話を聞いてもらえませんか?」
「謝りたいこと?何かしら。」
「とにかく、話だけでも聞いてください。」
那須の必死な態度を見て、優子は話だけでも聞く気になった。
「わかったわ。じゃ、事務所近くのファミレスでいいかしら?」
「はい、ぜひお願いします。」
事務所近くのファミレスは、地元で展開しているチェーン店で、個性的なメニューが特徴の人気のある店だった。
特に、唐揚げを使ったハンバーガーは、その地元ではソウルフードとまで言われていた。
優子が店に入ると、すでに那須は席に座っていた。
「山根さん、こっちです。」
那須が手を振った。
「何か食べますか?奢りますよ。」
「いいわよ。自分で払うわ。」
優子はカフェラテを注文した。
「謝りたいことってなに?」
「この間、日曜日に会いましたよね。」
「ええ。」
「そのときに会った、俺のダチ・・・っていってもそんなに仲のいい訳でもないんですが、そのダチが山根さんに大変失礼なことをしたようで・・・」
「えっ?なぜ知っているの?」
「とにかくすみません!俺がうっかり声なんてかけなければ・・・」
「・・・那須さんがどこまで知っているのかわからないけど、那須さんのせいじゃないのよ。」
「いや、でも」
「全部私の蒔いた種よ。私が男を見る目がなかっただけの話。」
「世の中には、想定外の悪い奴がいますから。山根さんのせいじゃないですよ。」
優子は乾いた心が潤っていくような気がした。久しぶりに人に優しくされた気がした。
その後、他愛のない世間話をして別れた。
優子は那須に親しみを感じた。
その日以降、那須と優子はお互いを意識し出していた。那須はすぐ現場に行くのだが、わずかな時間を見つけては、優子に話しかけていた。
那須は、なにか二人だけで会うためのきっかけを探していた。
「山根さん、ずっと地元でしょ?」
「そうだけど。」
「俺、車を買おうと思っているんだけど、いい中古車屋とか知らないかな?」
「あら、車買うまでお金貯まったんだ。」
「いやいや。ローンで買おうと思っているんだ。それも中古ね。まだまだ金なんて貯まらないよ。」
「そうねえ。じゃ今度の日曜日にでも一緒に見て回ろうか?」
「マジで?あ、でもどうやって回るつもり?車ないし・・・」
「電車でいいんじゃないの?」
そして、日曜日に那須と優子は駅前で待ち合わせ、電車に乗って中古車屋を数件回った。
数日後、那須は優子と一緒に回った中古車屋で、優子も好印象を示していた中古の軽自動車を購入した。
「山根さん、この間は付き合ってくれてありがとう。おかげでいい車が見つかったよ。」
「納車されたらどこかドライブでも連れて行ってよね。」
優子はさりげなく言った。
那須は顔を赤くした。
「ぜひ、喜んで!」
どこかの居酒屋のようなリアクションに優子は笑ってしまった。
「那須さんといると、亮輔のことも忘れることができそう。」
優子は久しぶりに清々しい気分になった。
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