奴隷鬼の少女とやさしい黒騎士

志人

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進章: 崩壊造鉄都市 アマノマ

伍話:私の暗殺

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1

私が無様に転がり落ちた。
私は急いで辺りを見渡す。

辺りは先程降った剣の雨がこの街の至る所に刺さっている。

男の腹ごと地面に刺さっている刀。
瓦造りの屋根を粉々にし、深々と刺さる刀。
荷を運んでいたであろう男の脳天にさえも。

街の全てから呻き声と悲鳴が聞こえる。

全身を隈無く走る痛みを無視して立ち上がろうとするが、よろめき再び地面に顔を打ち付ける。

あの馬鹿な大名。
自分の治める街を自分で壊してどうする。

「真蒼様・・・!」

こんな街がどうなろうが知ったことではないが、我が主だけが心配。

「そこの忍び装束の女。先程の賊の仲間だな」

とても冷たい声。見上げると背の高い甲冑に身を包んだ侍。

「ただで死ねると思うなよ」

侍の刀が私の肩を突き刺す。

「あ・・・うぅ・・・」

早く早く真蒼様のお元へ向かわなければいけないのに

私は

絶望で視界が暗くなってゆく。

「自分の身を守ることだけ考えよ」

暗闇の中で透き通った言葉が私の脳をさす。

これは真蒼様が私に下さったご命令。
その命令を想うと腹から力が湧いてくる。

「私はっ・・・」

くないを侍の首に投げる。
刺さることは刺さったが、まだ浅い。
「ああっ!」
腕を地面に叩きつけ、侍の首まで私の頭を持ってゆく。
あとはづつきでくないを押した。

「ゲボっロ」

侍の男は鼻と口から血を吐きながら倒れ込む。

逃げないと

くないと引き抜き私は城とは逆の方に走った。

2

もう何時逃げているだろう。
日は完全に沈んだが、タタラ場から出火した火は増すばかり。
 
鉄を作るには火がどうしても必要となる。

あの剣の雨でタタラ場は崩壊したのだろう。
火を扱う人間が死ねば火は自由となり、辺りを燃やし始める。

血を多く失い過ぎたのかもしれない。
脚に自分で巻いた包帯を見ると血が滲んでいる。
火で傷口を炙って止血したのに。

「居たぞ!ここだ!ここに隠れておる!」

見つかった。侍だ!一人の叫びでぞろぞろとこちらに侍が駆けつける。

こんな現状だというのに、この侍達は火を治めることより、私を見つけることを優先している。

「観念しろ女」

「誰が・・・すると・・・」

血が乾いたくないを構える。
侍は全部で十人。全員が眷属刀を持っている。

「私に力をお貸しください真蒼様」

3

そこからは
侍を蹴ったり、くないで刺したり、
噛み付いたり、目を指で潰してり。

できる全ての力で応戦した。
半時ぐらいで全ての敵を殺せた。
半時も限界の来た身体を動かせ続けたのだ。
私は立つことすら、這うことすらできずただ意識をもつのが精一杯。

そんな中。

「あ、・・・でも一人だけ生きてるよ。よかった・・・」

男の声がした。とてもしんどそうな。
今にも死にそうな声が。

敵・・・?
いや、考えるまでもない。
敵だ。
真蒼様以外の全ては敵だ。
私は身体を起こす。
不思議ともう痛みも疲労も身体を襲わない。

帰るんだ。真蒼様のお元へ

その男の姿はぼやけて見えない。
殺す。ただ殺意だけを胸に私はその男を殺そうとした。

4

目が覚めると視界より先に身体に痛みが走る。

「あう・・・」

私はどうやら横向けの姿勢でいる。
首を傾けられないので目だけを動かし、辺りを見渡す。

「あ、起きたんだ。良かった」

どこかで聞いた声だ。そうだ気を失う前だ。
私は情けをかけられたのか?
いや、動けない私をこの人はどうするか解らない。

「あなたは・・・?いや、ここは?今いつ?」

「ここは天目の空き家。今は月の位置からして丑三つ時ぐらい。俺の名前はアスラ」

阿修羅?いや明日良かも・・・

「君は?」

「私・・・雛菊」

「そっかヒナギクか。可愛らしい名前だね」

この人は真蒼様から頂いた私の名前を褒めてくれた。だからと言って信用できないけど。

今まで甘い言葉をかけて近寄ってきた男の人は沢山いた。
私は身も心も我が主に捧げたので、どんなに言い寄られようと迷惑。

「それからどうしたのその傷?」

この人も私は信じない。

「その背中の傷は刀で刺された傷だし、太ももの傷は鋭利な物が深深と刺さった傷だ。なにがどうしたの?しかもそれは忍び装束だ。」

この人私の身体を調べたんだ。私が気を失ってるあいだに。
傷口はなんなと言って誤魔化せたけど、忍び装束は駄目。
私はくないを探すが、どこにもない。
なんて言い訳しよう。もししくじればこの人は外で巡回してる侍を呼ぶに違いない。

「実は・・・忍びの稽古中に空から刀が降ってきて・・・それをまともに受けてしまったんです」
しまった。空から刀が降ってきたなんて通じる訳がない。しくじってしまった。

「そっか・・・それは災難だったね・・・」

信じるの?

次は何故私があそこで侍と殺しあっていたかの言い訳をしないと

「死にたくなくて逃げ回ってると、侍様方が私に乱暴しようとして・・・それで私・・・どうすればいいのか解らなくて・・・」
 
しまった!この人は私が何故侍と殺しあってたかは問うてない。
問うてないことをわざわざ説明なんてすれば、裏があると勘ぐくられてしま

「そっか・・・大変だったんだ」
  
また信じた。
ここまで信じる人を見ると逆に何か裏があるのではないかとこちらが気を張ってしまう。

「すみません。少しあっちを向いて貰ってていいですか?」
  
「いいけど何かするの?手伝いがいたら遠慮なく言ってね」

「はい。私の様な者に気遣い感謝いたします」

目の前のボサボサの髪の男は私に背を向ける。
この男が私を侍に売らない保証はどこにもない。
もし侍が来たら私は今度こそ死ぬ。くないも回収しなきゃ。
そして何よりもう真蒼様にお会い出来ない。
真蒼様の身の世話を出来ない。

それを阻止する為にはこの人を殺すのが一番いいだろう。

ずっと脇に括り付けていた針を取り出す。
狙うはうなじの上。
ここは頭蓋骨に隙間があり、針が刺さる。
脳を掻き回すから、声も出さずに楽に殺せる。

さようなら。名も知らない人

「ちょっと待ったぁーーーー‼」

「!」

少女の声のする方を見る。
何故か鞄から顔を出す、角の生えた少女。
私の暗殺は鬼の少女によって阻止された。
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