異世界忍者譚 (休止中)

michael

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第一部

その1の巻 帰郷。

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 九州のとある田舎町に、清鷹きよたか 神社がある。
 清鷹神社は「清鷹家の屋敷の裏山にあるから」というだけで、地元の人々が勝手に呼んでいるだけの、元々名もない小さな神社である。
    敷地自体も、古くからこの地を治めてきた清鷹家の私有地であった。
 今、その神社に続く石段を駆け上る一人の青年がいた。

(あや様、俺、帰って来ました)
 
   この伸びるに任せたボサボサ髪の青年の名前は、猿渡一馬さるわたりかずまである。
   その石段を駆け上がる姿は、躍動感に満ちあふれている。
    ちなみに、このボサボサ髪は自分の目線を読ませないようにするためであり、ワザとである。
    なぜ目線を読ませない必要があるのか?
    答えは簡単である。
    それは、猿渡一馬がだからである。
    しかし、そのための髪ではあるが、生命力にあふれたキラキラした瞳だけは隠しきれていなかった。

(俺、綾様を影から守れる、立派な忍者に成りました)
 
 猿渡家は、清鷹家に代々仕えてきた忍者の家系である。なので、その猿渡家に生まれ落ちた一馬もまた、幼少より忍者としてこの地で修行を積まされてきたのだった。
 だが、一馬は五年前のある事件が元で、ずっと全国各地、ときには海外まで修行に出されていた。
    そして、必死の修行の結果、ようやく彼の祖父であり猿渡家頭首でもある猿渡厳三げんぞうに帰郷の許可を得て、この町に着いたのが今朝なのである。

(綾様、綾様、綾姉ー!)
 
    清鷹綾きよたかあやは、年の頃は一馬より一つ上である。 
   二人とも両親を早くに亡くしたこともあり、一馬が修行を始めるまでは主従の関係なく、姉弟のように育てられた。
    小さい頃はお互い「綾姉あやねぇ」「一君いっくん」と呼び合い、いつも一緒に過ごしていた。
    一馬にとって綾は、仕えるべき主君でもあり、姉でもあり、そして今なお想いが募る初恋の人でもあった。

(この神社も懐かしいな。色々思い出してきた。綾様は俺がイタズラをする度に、このんだよな。そして俺が走って戻って来ると、笑顔で身体中を撫でてくれたんだ。あの空中に浮かび上がる感覚。そして高速で流れる風景。最後に何より綾様が撫でてくれる!  あれが俺は大好きだったんだよな!   そういや、小さい頃の綾様は「不思議だねぇ」が口癖だったっけ)
 
 綾は早朝に神社の掃除をすることが日課らしい。一馬は町に帰って来るなりに押し掛けた、清鷹家の家人にそう聞いていた。

(もうすぐ、もうすぐ) 

「綾様ー!」

 思わず漏れた心の声を実際に口に出しながら、最後の石段を駆け上った。

 その瞬間ーー。

 社の前にいた女性が、こちらを振り返り。

「来ちゃ駄目!」

 光に包まれ、視界が全て白く染まった。
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