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番外編
ハウザーの独り言。
しおりを挟む初めての森の外に出た感想は、素晴らしいの一言だった。本当にどうしていままで出ようとしなかったのか、分からない。道なりに見える地平線、うっすらと霞む山脈、木々しかない森とは雲泥の差である。何処から調達してきたのか知らないが、馬車や下級魔族どもなど、全てルルエールが用意していたので、我は馬車に揺られながら、風景画を描くことだけに没頭出来た。至福の時であった。
いつの間にか、我が魔族軍の総大将になっていたが、かまいはしない。全ての下級魔族を捨て駒として使えるのだ、むしろ良い話だ。
実際、初戦では面白いぐらいに上手くいった。人間は我の魔法を知らないようで無警戒であったし、下級魔族を特攻させたら隙だらけにもなる。
ただ、二人ほどの人間はルルエールの指示にあったが見逃した。赤い鎧の大男は魔法を使ってなお危険だと判断し、蒼い鎧の男は戦場の最中で殺すと死体が思わぬ損傷をする恐れがあったからだ。後で名前を知った蒼い鎧の男ーークレイの存在は我を喜ばせた。この男もモデルとして素晴らしい!
我が二人を見逃した事で文句を言われるかと思っていたが、ルルエールは逆に我に謝ってきた。さもありなん、ルルエールめは肝心のソフィア王女を逃していたのだ!
「我の目的を忘れたか! お前の言う神の復讐など、我にはどうでもいいのだ! 我は芸術家、絵画に全てをかけた存在である!」
ルルエールは平身低頭して我に頼み込んできた。ソフィア王女は、辺境都市キーシュに勇者召喚するために向かった。なので、我に追いかけてそれを絶対に阻止して欲しいと。
頭にきてはいたが、我はうなずいた。元より我の目的はソフィア王女である。ソフィア王女が逃げたなら、それを追うしか我の選択肢はない。クレイも一緒にいるようなので、都合が良かった事もある。
我がソフィア王女を追いかけている間、ルルエールはどうするのかと聞いたら、奴は王都で仕込みがあるという。人間の都には魔術の結界があるハズだと言うと、抜け道があるとニヤリと嗤って去っていった。
ルルエールが、我を利用しているのは分かっている。我もまたルルエールを利用しているのだ、その事に異論はない。だが、隠れてコソコソしているのは気にくわない。魔法で操っているのかは知らないが、人間の協力者もいるようで、この国の内情を良く知っている。それも含めて、この事が終わったら問い詰めてくれよう。
それにしても、キーシュに向かう山道は最悪である。馬車が揺れて筆が安定しない。下級魔族どもが、最近やたらと生意気になってきたのも気にくわない。
馬車が揺れるので担いで歩け、というのにも文句をたれる始末。何人か殺して、始めて言うことをきく。
しかし、こうしてみるとルルエールの魔法は良かったと思う。殺す手間を省いて命令を効かせられるのだ、面倒がなくて便利だった。もっとも、ルルエールの魔法はそれだけではある。人間相手に攻めるのにも、我の手助けがいる。上級魔族でありながら、哀れなものだ。
キーシュに着くと同時に、我はデイルの絵を描きあげる事が出来た。傑作である。自分の才能が恐ろしく感じる。この芸術を解さない者がいるとは思えない。そんな者がいるとしたら、そいつは俗物であり生きる価値もない存在だろう。
馬車から出ると、久かたぶりの日の光が目に痛む。ずっと徹夜で描いていれば仕方ないものか。人間どもは城壁の上で我を歓迎しているようで、ソフィア王女だけでなく、クレイもいる。他にも多数の人間がいるが、魔力を感じる者はいない。勇者は膨大な魔力を秘めているらしいから、どうやら我は間に合ったようだ。まあ、例え勇者がいても、どうせ我の魔法の前には無力であろうがな。
それにしても、実際に始めて魔術の結界とやらをみるが、厄介なものだ。ルルエールは抜け道がどうだとか言っていたが、我には感じられぬ。どうやっても、結界内に『瞬間移動』は出来ない。
小賢しくも人間どもは籠城する作戦のようだな。まあ、別に人間どもが籠城を続けて餓死するまで待ったりしてもいいのだが、我は早く絵を描きたいのだ。人間どもを引っ張り出した方が早い。
そのためには話をすれば良いだけな事を、我は経験上知っている。人間というものは、我が芸術の話をすれば向かってくるのだ。
幸いにも弓を構えている人間はいない。いちいち、話を弓で中断される面倒はなくて良い。ククッ、人間どもも我の姿を側で見たいとみえる。
さて、光栄にも我がモデルになる存在に対して、挨拶をするとしよう。
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面白かった、言われて大変喜んでおります!
読んで頂いて本当にありがとうございます\(^o^)/
退会済ユーザのコメントです
ありがとうございます。
世界観は結構苦労してる作品なので大変うれしいです!
色々突っ込まれるようになるよう頑張ります!