あやかし達の送り屋をやっています! 〜正反対な狐のあやかし双子との出会い〜

巴藍

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第七章 旧校舎の花子さん

52話

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「──じゃあ、やっぱりみんなが行方不明だったのは花子さんの仕業だったんだね?」
『うぐっ、ご、ごめんなさい……』

 花子さんは烈央くんに謝る。
 ……本当に人が変わったみたいに別人。
 こっちが本当の花子さんなんだ。

「それで? その、紅魔~とかいうあやかしはどこにいるのさ結花」
「へ? なに言ってるの星守くん、紅魔くんならそこに──あれっ?」

 さっきまで紅魔くんが立っていた場所には、誰もいなかった。
 周りを見渡しても、いない。

「な、なんで!? 紅魔くんどこに行っちゃったの!?」
「はぁ? ホントに居たの~?」
「居たよ! ね、美琴ちゃん!?」
「うん」
「ほら、美琴ちゃんも言ってるじゃん!」

 頬を膨らませて二人を見れば、なんともビミョーな顔をしていた。
 へ、なになに?

「うん? 二人ともどうしたの?」
「結花ちゃん……その子、甲斐田美琴ちゃんだよね?」
「え? うん、そうだよ」
「──ボクたち、あやかしの姿なんですけど!? なんで甲斐田美琴に姿が見えてんの!?」

 んん?
 確かにいま、二人は狐の耳としっぽがでている。
 あやかしの姿は普通の人には見えない。
 でも美琴ちゃんの視線ははっきりと、烈央くんと星守くんに向けられていた。

「あ、本当だ……! 美琴ちゃん、あやかしが見えるようになったんだね!?」
「朝霧兄弟があやかしなら、そうなるのかもしれない。そういえば花子さんも見えてたし、紅魔もあやかしなら……どうしてなんだろう?」

 言われてみれば、あやかしが見えないはずの美琴ちゃんが花子さんと紅魔くんのことは見えていた。
 美琴ちゃんも突然見えるようになったのかな。 

「……うーん。花子さんというあやかしに関わったことで、一時的に見えるようになったのかもしれないね? それに甲斐田美琴ちゃんには、不思議なものを見る素質があるのかも」

 烈央くんにそう言われた美琴ちゃんは、ちょっぴり嬉しそう。
 ……そうだ、美琴ちゃんは昔から幽霊や妖怪の類が大好きだった。
 だから、あやかしが見れることにワクワクしてるに違いない。

「ちょっと! ボクたちがあやかしだって、バレちゃったんだけど……? どーしてくれんの、結花!?」
「私っ!? どうって言われても、大丈夫だと思うけど……」
「っ、ボクたちのことを言いふらしたりしないんだろうね? 甲斐田美琴!」
「別にしないよ。結花と一緒にいられるのなら、約束は守るし」
「……な、ならいいけどさぁ。なに、二人は仲直りしたの?」

 星守くんの問いかけに、私と美琴ちゃん「ふふ」と笑い合う。

「その様子だと仲直りしたみたいだ。よかったね結花ちゃん」
「うんっ!」
「さて。じゃあ二人が仲直りしたから、あとは行方不明のクラスメイトを見つけるだけだ」

 烈央くんがそう言うと、花子さんが『あっあのー』と手をあげた。

『私が凶暴化している時にさらった生徒は、にいると思います』
「体育館? 旧校舎にいないのかい?」
『あ、普通の体育館じゃなくて私が作り出した方の体育館です! そもそもいま、ここは旧校舎じゃなくて私の空間というか異空間? みたいな感じなんですよ』
  
 そういえば紅魔くんが『ここは、あの少女のテリトリーだ』と言っていた気がする。
 花子さんが作り出した、旧校舎そっくりの異空間にいま私たちはいるんだ。

『一階のつき当たりに、扉があります。そこを開けると渡り廊下があって、体育館につながっているんですっ』
「なるほど。その体育館に、みんなはいるんだね。君が案内してくれると嬉しいのだけど」
『わ、私が行くとみんなを怖がらせちゃいますから……』
「そうかい。なら、俺たちだけで行こうか」
「ん。大分調子も良くなってきたしね~」

 ──ボフン!
 烈央くんと星守くんが人間の姿になった。
 前に、人間の姿になる方が妖力を使うって言っていたから、本当に体調が良くなったんだね。

 ひらりと手を振って見送ってくれる花子さんを背に、私たちは四人で体育館を目指した。

◆◆◆◆◆

 言われた通り、つき当たりには扉があって渡り廊下を進むと体育館が見えてくる。
 途中、星守くんが渡り廊下をそれて外に出ようしたけど透明な壁にはばまれてしまった。

 体育館の重たい扉を開けると、花子さんに連れ去られていた五年一組のみんなが床に倒れていた。
 どうやら眠っているだけみたいで、一人ずつ揺さぶって起こしていく。

「う~ん……あれ? 私、どうしてこんなところに?」
「イタタタ。うう、体が痛い。う、ここはどこだ?」

 次々に起きはじめたみんな。
 まず、なんで自分が体育館にいるのかわかってないみたい。
 話を聞いていくと、花子さんにさらわれた記憶はなくて気づいたら今らしい。

 一時的にとはいえ、あやかしである花子さんと接して記憶が混乱しているのかも、と烈央くんが言う。
 幸いにも怪我をしている人もいなくて、みんなはぞろぞろと体育館を出ていった。

「みんな、ちゃんと旧校舎を出られるかなっ?」
「多分、大丈夫だと思うよ。ここは花子さんのテリトリーだから、きっと出口まで彼らを導いてくれるはずだ」

 広い体育館に、ぽつりと私たち四人だけになった。
 見れば見るほどいつも使っている体育館にしか見えなくて、本当にここが異空間なのか疑ってしまう。

 ──カタッ。 
 音がした方を見ると、花子さんが体育館の入り口からぴょこりと顔を出した。

「あ、花子さんっ!」
『みなさん、無事に旧校舎……ここを出て行きましたよ』 
「本当? よかった……!」

 タタタッと花子さんが走ってきて、隣に並んだ。
 こうしてみると、本当にただの女の子でさっきまでの怖さはない。
 瘴気はあやかしを本来の姿とは大きく変わったものにしてしまうんだと、改めて怖くなった。

「花子さん。この土地は鬼が封印されているし、最近は漏れでる瘴気も多い。……その瘴気を体に溜めこんで、また君が凶暴化してしまう恐れがある。……隠世に行くことを選択するかい?」

 のっぺらぼうの時は、聞く余地もなく隠世へ連れて行かれていた。
 でも花子さんはいま、意識がはっきりしているしなにか悪さをするようには見えない。
 ……これは烈央くんの優しさ、なのかな。

 烈央くんの問いかけに、花子さんはすぐには答えなかった。
 耳が痛いくらいの無音が体育館に訪れる。

 数分経ってから、すぅと息を吸う音が聞こえた。

『私は……学校が好きです。封鬼小学校が、大好きです。だからどうか、ここに居させてください。ここが──私のなんです』

 花子さんが頭を下げた。
 そんな花子さんを複雑そうに、送り屋の二人は見ている。

「でも送り屋として、君がまた凶暴化する可能性を放っておけないんだ」
『そ、それは大丈夫だと思いますっ。妖力もだいぶ回復したし、これなら当分は自分の身を守れます。……なにより、遊びに来てくれるお友達ができましたから』

 花子さんは私を見てニコリと笑う。
 私は大きく頷いた。

「ふ~ん。まぁ学校の怪談も土地神様と同じようにある意味、信仰だしね~。……ウワサ話をして怖がることで、花子さんの存在が保たれるしー」
『そうなんですっ! 最近はめっきり私のウワサ話が減ってしまって。……力がなくなっていた所に、土地から大量の瘴気が漏れでたので対処できなくてあんなことに……。でも、結花さんが来てくれれば私は消えずにいられますっ』
「私、責任重大……?」
「大丈夫よ、結花。花子さん、私も遊びに来てもいいかな?」
『へっ? み、美琴さんも来てくれんですかっ? もちろんです! 嬉しいです!』

  花子さんは、ぴょんぴょん飛びはねて喜んでいる。

「なら、俺も遊びに行くよ」
「ま、ボクも来てあげてもいいけどぉ?」
『ええっ、送り屋のお二人もですか? す、すごい、一気に四人もお友達ができるなんて……!』
「ボク、まだ友達になるとは言ってないんだけど」
『ひえぇっ!? そんな、ひどいです! ……結花さん、このあやかしがいじめてきます!』
「あー、ダメだよ星守くん! もうっ」
「なんでボクが怒られなきゃいけないのさ! だから、まだ未定なだけでならないとはいってないじゃん!?」
「ふふ、素直じゃない星守が発動したね」
「ちょっ烈央は黙っててよね!?」
「はいはい。それも照れ隠しだね」
「だーかーらー!!」

 言い合いを始めた烈央くんと星守くん。
 そんな二人を見て、私と美琴ちゃんと花子さんはお腹をかかえて笑う。


 ──新しい本校舎が建てられる前は、たくさんの子どもが遊んで学んだ場所。
 ここが……この旧校舎が、花子さんにとっての居場所。
 花子さんはこの場所が何より大切で、きっと思い出もたくさんあるんだと思う。
 これからは、私たちと一緒に新しい思い出を作っていけたらいいな。

 でも、ふと思う。
 ……私の居場所は、どこなんだろう?
 
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