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第七章 旧校舎の花子さん
50話
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「離れておけ結花、美琴」
「う、うんっ!」
「結花っ、こっち!」
三番目のトイレから少し離れた場所にいる美琴ちゃんの元へ走って移動する。
紅魔くんは私が美琴ちゃんのそばに行ったことを確認すると、扉の前に立った。
ピタリ、と扉の音が鳴り止む。
『──はぁい。うふふ』
……女の子の声がすると、バンッ! と扉が開いて中から黒いモヤがたくさん出てきた。
ウネウネと触手のような黒いモヤが、紅魔くんが襲いかかる!
黒いモヤは紅魔くんの腕や足に絡みついた。
「ハッ。この程度で僕を足止め出来ると? 笑わせてくれる」
──ボウッ!!
黒いモヤは、一瞬にして紅魔くんの黒い炎に焼かれて消えていった。
『あらザンネン。もっと遊べると思ったのに』
キィィと嫌な音をたてて、一番奥の五番目の扉が開いた。
中から、おかっぱ頭の赤いスカートを履いた女の子が出てくる。
顔や手、足には赤黒い模様が入っていてこの世のものじゃないナニカに見えた。
「お前だな? 瘴気を取り込みすぎて、凶暴化しているのは」
『……ウルサイ、私の勝手でしょう? そんなにいうのなら、もっと遊んでくれるんだよね?』
「──結花、美琴。ここから出ろ」
「えっ?」
「行こう、結花っ」
美琴ちゃんに腕を引かれて、女子トイレを出る。
廊下に出て右に曲がったところで、ガシャン! っと後ろからものすごい音がした。
走りながらふり返ると、紅魔くんが壁に背中を打ちつけてそのまま倒れこんだ。
「紅魔くんっ! 美琴ちゃん離してっ、紅魔くんを助けに行ってくる!」
「そんな、危ないよ! 結花に何ができるのっ?」
「何って……わかんないけど、このままじゃ紅魔くんが危ないから!」
私は首から下げていたお守りを外して、美琴ちゃん預ける。
「もし危ない状況が美琴ちゃんでも誰でも、私は助けに行くよっ! これ、肌身離さず持ってて! 守ってくれるからっ」
「あ……ダメっ結花!!」
美琴ちゃんの私を呼ぶ声を背中で聞いて、私は紅魔くんの元へ走った。
「紅魔くんっ! 大丈夫!?」
眉を寄せながら苦しそうにしている紅魔くんは、私をチラリと見てゆっくりと立ち上がった。
「……なぜ戻ってきた? このくらい平気だ」
「平気じゃないよ! 血が出てるもんっ」
何かの破片で切ってしまったのか、頬に赤い線が走っている。
紅魔くんはそれをぐいっと手の甲で拭った。
「大した傷じゃない。……それより、来るぞっ」
『うふふ、遊びーましょ?』
──キィィィィ。
花子さんの合図と共に、女子トイレ、そして男子トイレの個室の扉が開いた。
中から小さな子供サイズのガイコツが出てくる!
『楽しい休み時間の始まりだよ。うふふ』
お守りは美琴ちゃんに渡しちゃったし、いま私ができることは導きの鍵を取り出すくらいだ。
でもそれじゃ何の役にも立たないよ!
……いや、もう一つあった。
「紅魔くんっ、ちょっとごめんね」
えいやっと紅魔くんの手を取って、ぎゅうと両手で握る。
紅魔くんが目を見開いた。
「妖力が……回復した? いや、それにしても結花、お前さんは──」
回復したってことは、やっぱり紅魔くんはあやかしだ!
私はできるかぎり、沢山の妖力が回復するように力をこめる。
実際にいつもより多いのかはわからないけど、こういうのは気持ちが大事だ。
……すこしクラリとめまいがして、顔を歪める。
「っどう? 回復した?」
紅魔くんは目を見開いて私を見つめている。
「紅魔く──きゃっ!」
急に紅魔くんが私を抱きしめた。
ぎゅうと痛いくらいに。
──ギャァァァァア!
その時、後ろからガイコツの悲鳴が聞こえてくる。
すこしだけふり向くと、紅魔が片手を突き出してそこから黒い炎を出していた。
そっか、ガイコツが来ていたから抱きしめて守ってくれたんだ。
「あり、がとう紅魔くん」
「気を緩めるな、危ないだろう。……だが、妖力は助かった。感謝する」
「っ!」
ふっと笑う紅魔くん。
そんな状況じゃないのに綺麗、って思った。
『──二人だけずるい。ねぇ、私とも遊ぼうよ。もっと……私が退屈しないようにさぁ!』
花子さんから、黒いモヤが飛んでくる。
紅魔くんは私を片腕で抱きしめると、ぴょんととんで花子さんと距離を取った。
「結花、よく聞け」
「うんっ?」
「お前ならあの少女を癒せるかもしれない。……あのあやかしは濃い瘴気によって魂が傷ついている。それを癒すことができれば、この状況を打破できるはずだ」
「私が花子さんを癒すっ?」
「あぁ。瘴気は、負の感情を増幅させる」
沢山の瘴気が、花子さんがかかえる負の感情を増幅させて、あの時ののっぺらぼうみたいに凶暴化してるってこと?
でも癒すって言っても、どうやったらいいの……!?
──ボフウ!
──ギャァァァ!
──あーそーびーまーしょー!
──あのねボール遊びは苦手なんだぼく~
──私は追いかけっこがしたい! キャハハ!
「チッ。キリがないなっ」
紅魔くんに方法を聞きたいけど、ガイコツと黒いモヤを同時に相手をしていて、とても話しかけられる状況じゃない。
私ならどうするっ……?
さりげなく私の方へ来るガイコツや黒いモヤを倒してくれる紅魔くんを横目に、頭をフル回転させて考えた。
負の感情……花子さんはきっと旧校舎が使われなくなって、子供が居なくなったから寂しいんだと思う。
隣に建った新しい本校舎。
子供たちの笑い声がする楽しげな光景を見つめては、ガランと静かな旧校舎がとても寂しく思えたんじゃないかな。
だからさっきから、遊ぼうって言う花子さんがどこか……悲しげな表情に見えたんだ。
私が寂しい時、なにをしてもらえたら嬉しかった?
ふと、昔のことを思いだす。
それはまだ、私のおばあちゃんが生きている頃のことだ。
『お母さん、お父さん、どこにいるの? 寂しいよっ、うわーん!』
昔、おばあちゃんが住む田舎に帰った時、お母さんとお父さんが二人だけで出かけた日があった。
私は二人がいないことが寂しくて、わんわん目が腫れるまで泣いちゃったんだ。
実際には、お母さんたちは同窓会に行ってたんだけどね。
夜には帰ってくる予定だったのに、私はすっかり忘れていたの。
でもおばあちゃんはやさしく抱きしめて、『おばあがいるからね』って言ってくれた。
そんなおばあちゃんがあたたかくて、私はすぐに泣き止んだ。
……これだ。
誰かがいないと、ひとりぼっちは寂しいよね。
悲しいよね。
きっと花子さんも、昔の私と同じ気持ちなんだ。
ふぅと深呼吸をする。
そんな私に気づいた紅魔くんが、なにやら数秒考えた後花子さんへ手をのばした。
その手のひらから黒い炎が出て、花子さんはそれをひらりとかわす。
『いまのじゃ、効かないよ。もっと、もっともっともっと! 寂しい……誰も私のところに来ない、寂しい、ただ遊びたいだけなのに、私は怖くないよ……。もっと、もっと遊んでよ!!』
花子さんはクシャクシャと髪の毛をかき回す。
──いまだ!
「花子さん!」
『──なっ!?』
私は隙を見計らって、花子さんに抱きついた。
「う、うんっ!」
「結花っ、こっち!」
三番目のトイレから少し離れた場所にいる美琴ちゃんの元へ走って移動する。
紅魔くんは私が美琴ちゃんのそばに行ったことを確認すると、扉の前に立った。
ピタリ、と扉の音が鳴り止む。
『──はぁい。うふふ』
……女の子の声がすると、バンッ! と扉が開いて中から黒いモヤがたくさん出てきた。
ウネウネと触手のような黒いモヤが、紅魔くんが襲いかかる!
黒いモヤは紅魔くんの腕や足に絡みついた。
「ハッ。この程度で僕を足止め出来ると? 笑わせてくれる」
──ボウッ!!
黒いモヤは、一瞬にして紅魔くんの黒い炎に焼かれて消えていった。
『あらザンネン。もっと遊べると思ったのに』
キィィと嫌な音をたてて、一番奥の五番目の扉が開いた。
中から、おかっぱ頭の赤いスカートを履いた女の子が出てくる。
顔や手、足には赤黒い模様が入っていてこの世のものじゃないナニカに見えた。
「お前だな? 瘴気を取り込みすぎて、凶暴化しているのは」
『……ウルサイ、私の勝手でしょう? そんなにいうのなら、もっと遊んでくれるんだよね?』
「──結花、美琴。ここから出ろ」
「えっ?」
「行こう、結花っ」
美琴ちゃんに腕を引かれて、女子トイレを出る。
廊下に出て右に曲がったところで、ガシャン! っと後ろからものすごい音がした。
走りながらふり返ると、紅魔くんが壁に背中を打ちつけてそのまま倒れこんだ。
「紅魔くんっ! 美琴ちゃん離してっ、紅魔くんを助けに行ってくる!」
「そんな、危ないよ! 結花に何ができるのっ?」
「何って……わかんないけど、このままじゃ紅魔くんが危ないから!」
私は首から下げていたお守りを外して、美琴ちゃん預ける。
「もし危ない状況が美琴ちゃんでも誰でも、私は助けに行くよっ! これ、肌身離さず持ってて! 守ってくれるからっ」
「あ……ダメっ結花!!」
美琴ちゃんの私を呼ぶ声を背中で聞いて、私は紅魔くんの元へ走った。
「紅魔くんっ! 大丈夫!?」
眉を寄せながら苦しそうにしている紅魔くんは、私をチラリと見てゆっくりと立ち上がった。
「……なぜ戻ってきた? このくらい平気だ」
「平気じゃないよ! 血が出てるもんっ」
何かの破片で切ってしまったのか、頬に赤い線が走っている。
紅魔くんはそれをぐいっと手の甲で拭った。
「大した傷じゃない。……それより、来るぞっ」
『うふふ、遊びーましょ?』
──キィィィィ。
花子さんの合図と共に、女子トイレ、そして男子トイレの個室の扉が開いた。
中から小さな子供サイズのガイコツが出てくる!
『楽しい休み時間の始まりだよ。うふふ』
お守りは美琴ちゃんに渡しちゃったし、いま私ができることは導きの鍵を取り出すくらいだ。
でもそれじゃ何の役にも立たないよ!
……いや、もう一つあった。
「紅魔くんっ、ちょっとごめんね」
えいやっと紅魔くんの手を取って、ぎゅうと両手で握る。
紅魔くんが目を見開いた。
「妖力が……回復した? いや、それにしても結花、お前さんは──」
回復したってことは、やっぱり紅魔くんはあやかしだ!
私はできるかぎり、沢山の妖力が回復するように力をこめる。
実際にいつもより多いのかはわからないけど、こういうのは気持ちが大事だ。
……すこしクラリとめまいがして、顔を歪める。
「っどう? 回復した?」
紅魔くんは目を見開いて私を見つめている。
「紅魔く──きゃっ!」
急に紅魔くんが私を抱きしめた。
ぎゅうと痛いくらいに。
──ギャァァァァア!
その時、後ろからガイコツの悲鳴が聞こえてくる。
すこしだけふり向くと、紅魔が片手を突き出してそこから黒い炎を出していた。
そっか、ガイコツが来ていたから抱きしめて守ってくれたんだ。
「あり、がとう紅魔くん」
「気を緩めるな、危ないだろう。……だが、妖力は助かった。感謝する」
「っ!」
ふっと笑う紅魔くん。
そんな状況じゃないのに綺麗、って思った。
『──二人だけずるい。ねぇ、私とも遊ぼうよ。もっと……私が退屈しないようにさぁ!』
花子さんから、黒いモヤが飛んでくる。
紅魔くんは私を片腕で抱きしめると、ぴょんととんで花子さんと距離を取った。
「結花、よく聞け」
「うんっ?」
「お前ならあの少女を癒せるかもしれない。……あのあやかしは濃い瘴気によって魂が傷ついている。それを癒すことができれば、この状況を打破できるはずだ」
「私が花子さんを癒すっ?」
「あぁ。瘴気は、負の感情を増幅させる」
沢山の瘴気が、花子さんがかかえる負の感情を増幅させて、あの時ののっぺらぼうみたいに凶暴化してるってこと?
でも癒すって言っても、どうやったらいいの……!?
──ボフウ!
──ギャァァァ!
──あーそーびーまーしょー!
──あのねボール遊びは苦手なんだぼく~
──私は追いかけっこがしたい! キャハハ!
「チッ。キリがないなっ」
紅魔くんに方法を聞きたいけど、ガイコツと黒いモヤを同時に相手をしていて、とても話しかけられる状況じゃない。
私ならどうするっ……?
さりげなく私の方へ来るガイコツや黒いモヤを倒してくれる紅魔くんを横目に、頭をフル回転させて考えた。
負の感情……花子さんはきっと旧校舎が使われなくなって、子供が居なくなったから寂しいんだと思う。
隣に建った新しい本校舎。
子供たちの笑い声がする楽しげな光景を見つめては、ガランと静かな旧校舎がとても寂しく思えたんじゃないかな。
だからさっきから、遊ぼうって言う花子さんがどこか……悲しげな表情に見えたんだ。
私が寂しい時、なにをしてもらえたら嬉しかった?
ふと、昔のことを思いだす。
それはまだ、私のおばあちゃんが生きている頃のことだ。
『お母さん、お父さん、どこにいるの? 寂しいよっ、うわーん!』
昔、おばあちゃんが住む田舎に帰った時、お母さんとお父さんが二人だけで出かけた日があった。
私は二人がいないことが寂しくて、わんわん目が腫れるまで泣いちゃったんだ。
実際には、お母さんたちは同窓会に行ってたんだけどね。
夜には帰ってくる予定だったのに、私はすっかり忘れていたの。
でもおばあちゃんはやさしく抱きしめて、『おばあがいるからね』って言ってくれた。
そんなおばあちゃんがあたたかくて、私はすぐに泣き止んだ。
……これだ。
誰かがいないと、ひとりぼっちは寂しいよね。
悲しいよね。
きっと花子さんも、昔の私と同じ気持ちなんだ。
ふぅと深呼吸をする。
そんな私に気づいた紅魔くんが、なにやら数秒考えた後花子さんへ手をのばした。
その手のひらから黒い炎が出て、花子さんはそれをひらりとかわす。
『いまのじゃ、効かないよ。もっと、もっともっともっと! 寂しい……誰も私のところに来ない、寂しい、ただ遊びたいだけなのに、私は怖くないよ……。もっと、もっと遊んでよ!!』
花子さんはクシャクシャと髪の毛をかき回す。
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