あやかし達の送り屋をやっています! 〜正反対な狐のあやかし双子との出会い〜

巴藍

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第七章 旧校舎の花子さん

45話

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「……結花ちゃん、やっぱり具合が悪いんじゃないかい?」

 昼休み。
 烈央くんは心配そうに私の顔を覗きこむ。

「ちょっとね……。でも大丈夫だよ、すこし疲れてるだけだから」
「──結花さぁ。行方不明になった甲斐田美琴みことって子のこと、気になってるんでしょ」
「どっ、どうして?」

 星守くんが席を立って、私の机の前にやってきた。
 両手で頬杖をつきながら、私を上目づかいで見てくる。

 その瞳はなんだかいつもより優しい気がした。

「朝の会の時。夏目先生が甲斐田美琴の名前を言ったら結花、ビクッて肩を揺らしてたもん。後ろから見てたからすぐわかったし。知り合いなの?」
「……うん。美琴ちゃんは私が一年生の時、すごく仲が良かった友達なの」
「『仲が良かった』ってなに、いまは悪いの? ケンカでもした?」
「星守。そうずけすげと、聞いていい話じゃないだろう?」
「だって結花ったら、朝からずーーっと『はぁ』ってため息ついて肩を落としてるし。気になるなって言う方が、無理な話でしょ」
「それは……そうだけど」

 二人は不安げな顔をして私を見てくる。
 星守くんも烈央くんも、私を心配してくれているんだ。
 
「あのね……私、昔美琴ちゃんとケンカしちゃってそれからずっと口を聞いてないんだ」

 二人は私の話を静かに聞いてくれた。

 一年生の時、黒い影のせいで美琴ちゃんとケンカをしてしまったこと。
 みんなに嘘つきって呼ばれて、二年生に上がってからも仲のいい友達ができなかったこと。
 いまは当時の出来事がだいぶ薄れて、みんな普通に話しかけてくれるようになったこと……。

 ぽつりぽつり、と話していく。
 はなし終わった頃には、烈央くんと星守くんは難しい顔をしていた。

「そんなことが……。結花ちゃん、辛かっただろうによく頑張ったね」
「っ……!」

 誰も一緒に遊んでくれないし、話してもくれない。
 本当に辛くて、学校に行きたくないってお母さんに駄々をこねた時期もあった。
 烈央くんの一言に、目が熱くなる。

「っ、あり、がと……」

 泣いている姿を見せたくなくて、服の袖で目元を拭う。
 でもその腕を星守くんに掴まれた。

「もう、こすっちゃダメ。……いまはボクたちがいるでしょ、結花」
「せ、らくんっ……」
「そうだよ結花ちゃん。一人じゃない。俺たちは友達だ」
「烈央くんっ……ありがとう二人とも、嬉しい」

 にへ、と笑えば二人も笑ってくれた。
 二人はとってもやさしい。
 やさしくて、あたたかいな。

「ねぇ結花」
「うん?
と仲直り、しなくていーの?」
「そ、それは……」

 ──あの日から美琴ちゃんとは一回も同じクラスにならなくて、謝る機会を逃し続けてきた。
 いまだって別に、美琴ちゃんのこと嫌いになったわけじゃない。
 仲直りしたいって、ずっと、ずっと思ってきた。

「ねぇ二人とも。──手伝って欲しいことがあるの」
「ふふ。結花ちゃんのためなら、なんでも手伝うよ」
「まぁ、手伝ってあげてもいいけどねー?」

 二人はニィッ! と満面の笑みを浮かべた。
 もしも……もしも、もう一度チャンスがあるのなら。
 ごめんねって、大好きだよって、美琴ちゃんに伝えたい。

「私、美琴ちゃんと仲直りがしたい!」

◆◆◆◆◆

 美琴ちゃんと仲直りするべく、まずは美琴ちゃんを見つけるための情報を集めることになった。

「あのねっ私、美琴ちゃんの行方を知ってる子がわかるかもしれない」

 朝の会の時すごく怯えていた二人……はるなちゃんと凛ちゃん。
 私たちは、はるなちゃんと凛ちゃんを体育館裏に呼び出すことにした。


「──こ、こんなところに呼び出して、なんの用?」

 はるなちゃんが怪しむ目で私たちを見る。
 凛ちゃんは、そんなはるなちゃんの背中に隠れていて、いまにも泣きそうな顔をしていた。

「あのねっ聞きたいことがあるの。……はるなちゃん、凛ちゃん。二人は美琴ちゃんがなんで行方不明なのか、知ってるんでしょう?」
「ひっ」
「いやっ!」

 二人は怯えた様子で声を上げて、その場にしゃがみこむ。 

「私たちは、ななな、なにも知らないっ!」
「そうだよぅ! なにも知らない、見てないもん!」

 はるなちゃんと凛ちゃんのあまりの怯えように、私はびっくりして後ずさる。
 トン、と私の後ろに立っていた烈央くんと星守くんに体が当たってしまった。

「あ、ごめっ──ひぇっ!」
「どう見てもこの二人、知ってるよねぇ?」
「あぁ、心当たりがあるからこそ怖がっているんだろうね。さぁ、どう聞き出すか」
「ははっ。腕の見せ所ってやつ~?」

 あまりにも二人が怖い顔をしていたから、思わず声が出てしまった。
 そんな、いまから拷問するわけじゃないんだよ二人とも!?

「烈央くん星守くん、顔が怖い!」
「威嚇していかなきゃあの二人、なにも話さないかもしれないじゃん」
「おっと。俺、そんなに怖い顔してた?」
「見てあの二人を! 星守くんと烈央くんの顔を見て、さらに怯えちゃってるよ!!」

 はるなちゃんと凛ちゃんは、抱き合って体を小さくしていた。
 プルプルと生まれたての子鹿みたいに震えていて、可哀想になってくる。

「は、はるなちゃんっ凛ちゃん、お願い。調べるのは自分たちでやるから小さなことでもいい、美琴ちゃんの手がかり欲しいの」

 私は二人に頭を下げて頼みこむ。
 
「……本当に話すだけだよ?」
「わっ私たち、もうには近づきたくないからねっ?」
「っ、うん! ありがとう。じゃあまず……美琴ちゃんは昨日どこに居たか知ってる?」

 はるなちゃんと凛ちゃんは顔を見合わせてから、はるなちゃんが昨日のことを思いだすように、すこしずつ言葉を紡いでいく。

「昨日の放課後。私と凛は、夏目先生とおしゃべりしてて帰るのが遅くなったの──」

 夏目先生とおしゃべりをして、いつもより二十分ほど遅れて教室を出たはるなちゃんと凛ちゃん。
 廊下を歩いていると、ふと旧校舎に美琴ちゃんが入っていくのを見たらしい。
 ──旧校舎は立ち入れないように鍵をかけられているし、見間違いかもしれないね。
 そう思った二人は、確認をしに行った。
 旧校舎の入り口は何重もの鎖で硬く閉じられていて、やっぱり入れそうもない。

『なんだ、やっぱり見間違いだったんだ』
『早く帰ろうよ、はるなちゃんっ。なんだかここ、不気味だし怖いよぉ』

 ──ガタッ。
 どこからか音がして、もしかしたら美琴ちゃんがいるのかもと思った二人は、壁伝いに旧校舎を一周することに。
 歩いていると、ちょうど一階の女子トイレあたりで人影が見えて立ち止まる。
 美琴ちゃんかもしれないと思った二人は、背伸びをして窓ガラス越しに廊下を覗きこんだ。

「──そうしたら美琴ちゃんが、うつろな目をしてて。そのまま女子トイレに入って行ったよ。その後、すぐに……」
「知らない女の子で『捕まえた』って、こっ声が聞こえてきたのぉ……!」

 二人は当時のことを思いだしたのか、またぎゅうと抱き合って涙目になった。
 はるなちゃんが「それにね……」と、話を続ける。

「あのあと二十分くらい待ったけど美琴ちゃん、女子トイレから出てこなかったの」
「わ、私たちっ怖くなっちゃって……。美琴ちゃんを置いて、帰っちゃった。あれは絶対、に連れ去られたんだよぉ!」
「トイレの花子さん?」

 トイレの花子さんと言えば、全国の小学生が知っている定番の学校の怪談話だ。
 もちろん封鬼ふうき小学校にも、トイレの花子さんのウワサがある。

 一階の女子トイレの三番目の扉を五回叩くとか、二番目の扉を三回叩いて開けるとか。
 でもどれも本校舎じゃなくて、旧校舎の女子トイレのウワサばかり。
 入れないのにどうしてそんなウワサが立つのかって、学校で問題になった時期もあったくらいだ。

 旧校舎の女子トイレに、手がかりある……。
 ふり返って烈央くんと星守くんを見れば、二人は頷いてくれた。
 一人だったら絶対に怖くて、旧校舎の調査なんて出来なかったと思う。
 二人がいるとこんなにも心強いし安心しちゃうんだから、不思議。

「…… ありがとう、はるなちゃん、凛ちゃん。あとは私たちにまかせて」

 私がそう言うと、はるなちゃんと凛ちゃんは逃げるように走っていった。
 私と烈央くん、星守くんの三人だけになる。

「烈央くん、星守くん。あのね、まずは旧校舎を調べようと思うの」
「でも旧校舎の入り口には、鍵がかかってるんでしょー?」
「なら入れる場所を探すところからだね。甲斐田美琴ちゃんが中に居たということは、どこかに抜け道があるはずだ」

 昼休みはまだ時間がある。
 私たち三人はさっそく、旧校舎に向かった。
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