あやかし達の送り屋をやっています! 〜正反対な狐のあやかし双子との出会い〜

巴藍

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第六章 おじいさんは神出鬼没?

43話

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 ──烈央くんと星守くん。
 二人が封鬼ふうき小学校に転校してくるまで、私はクラスでも……学年でも浮いた存在で。
 からあった、あの出来事のせい。
 みんな私と話してはくれるけど、特別仲がいい子もいなくて。
 寂しいって思いながら、毎日を過ごしていたのを思いだした。
 
 でもいまは、違う。

「烈央くんと星守くん、二人が転校してきてから毎日たくさんのことが起こって……もちろん楽しいことだけじゃないけど、しています!」
「……そうか、それはなによりじゃ。今世は心ゆくまで楽しんむんじゃぞ」

 ──今世は?
 なんのことだかわからなくて、おじいさんに聞き返そうとした時。
 烈央くんにポンと肩に手を置かれた。

「結花ちゃん、鍵を」
「あ、うんっ!」

 ふと、おじいさんを見ると星守くんにちょっかいをかけている。
 ……さっきのは、またいつか会えた時に聞こう。

 私は胸元に手を当てて、念じる。
 するとじわりと胸があたたかくなって、導きの鍵が出てきた。

「正しき道、隠世かくりよへ導きたまえ!」

 ──ふわり。
 甘い金木犀の香りがして、隠世の門が出現する。
 鍵をさしこみガチャリとまわして、門を開けた。

「……いい香りじゃのぉ。ほっほっほ、ワシは金木犀の香りが一番好きなんじゃよ」

 ──あの子もそうじゃった。
 あの子って誰?
 聞き返そうとしたら、おじいさんはさっさと門の中へ入ってしまう。
 な、なんだか何度もタイミングを逃してしまっている気がしてきた……!

 どうしよう、ちゃんと聞こうかなと思っていると、おじいさんが途中でふり返って手を振ってくれた。

「長生きしなさいな~、お嬢ちゃん」
「は、はいっ! ……おじいさんもどうか、いつまでもお元気で!」
「ほっほ。そんなことを言われたら、しぶとく生きるしかないのぉ。あぁ、白い狐の坊やも、元気でのー」
 
 星守くんは、ひらりと手を振る。

「ま、まぁ、ボクが隠世に帰った時はまた遊んであげてもいいけど?」
「それはそれは、嬉しいのぉ。しかしワシを捕まえることは、お前さんには出来んじゃろ? ワシより足が遅いからの。ほっほっほ!」
「なっ!」

 ぶくりと頬をふくらませて、プイッとそっぽを向いてしまった星守くん。
 やっぱり一度もおじいさんを捕まえられなかったことが、すごく悔しかったんだね。

「そっちの黒い狐の坊や、ちょいと」

 ちょいちょいと手招きされて、烈央くんは首を傾げながらおじいさんの元へ行く。

 何かを話してる二人。
 おじいさんの声が小さくて、よく聞こえない。
 私と星守くんは顔を見合わせた。

「なにを話してるんだろ?」
「さぁーね。……次に会うまでにもっと鍛えなきゃ。足が速くなるのって、走りこむ以外の方法ってあるわけ? どんなトレーニングが効果的なんだろ」

 星守くんはもうおじいさんと速さで競うことを考えているのか、なにやらブツブツと言っている。

「──そ、それはっ!」
「ほっほっほ!」

 突然、烈央くんの大声とおじいさんの笑い声が聞こえた。
 なにを喋ってるのかここからじゃ聞こえないけど、烈央くんは顔をすこし赤くして怒ってるみたい。
 おじいさんは服の袖からなにかを取り出して、烈央くんに握らせる。
 もう一度だけ私たちへ手を振ってから、おじいさんは暗闇の向こうへ消えていった。

 おじいさんを見送って門から出てきた烈央くんは、むっとした顔をしている。

「──まったく、逃げ足だけは速いな」
「烈央くん。さっき、おじいさんからなにをもらったの?」

 烈央くんは握っていた手を開いて、私たちに見せてくれた。
 小さな可愛い包み紙だ。

「あー! 烈央だけ飴玉もらってる! ずるーい」
「……星守、違うから。はぁよく見て」

 口の端をピクピクさせながら、低い声で言う烈央くん。
 もう一度、烈央くんの手を覗きこむと包み紙の中に飴玉はなくて空だった。

「うん? 中身ないじゃん」
「そう……俺にゴミを渡して帰っていたんだ、あのは」
「ええっ、あのおじいさんぬらりひょん!? ──ってなんだっけ?」

 ──ズコッ!
 私が首を傾げたら、二人は……主に星守くんが呆れた顔をして見てきた。
 烈央くんがゴホン、と一つ咳をする。

「結花ちゃん。ぬらりひょんは簡単に言えば、気づいたら勝手に家に上がりこんでいたり、ぬらりくらりとしているあやかしだよ」
「結花ったら、ぬらりひょんも知らないなんて……勉強しなぁ?」
「ええっ二人だって、はじめからおじいさんがぬらりひょんだって気づいてたわけじゃないでしょ! たしか、伊織いおりさんに聞くとかなんとか言ってなかった?」

 二人はスーッと私から顔をそらす。
 ……や、やっぱり伊織さんに聞いたんだ!

 じぃとその横顔を見つめても、二人は私と目を合わせない。
 はぁ、と息をはいて私は脱力する。
 別にそこまで怒りたいわけじゃないし、まぁいっか。

「……むぅ。それにしても、お菓子ねだりおじいさんじゃなかったんだ」
「──ふ、ははっ。おねだりおじいさんって……あのぬらりひょんを? ふふ……あははっ!」

 突然笑いだした烈央くんにぎょっとする。
 笑い終わったと思ったら、またお腹を抱えて笑い始めた。笑いすぎて涙が出ている。
 こ、こんな烈央くん見たことないっ!

「あーあ。結花のせいで、烈央の変なツボにはいっちゃったじゃん~」
「わ、私のせいっ!?」
「変なこと言うからだよ。……まぁでもこれで一件落着~! おじいさんは無事に隠世に帰って行ったし。滞在期間を過ぎてるあやかしをほったらかしにしてるって思われてたら、ボクたちの株が下がるからねー」

 星守くんはそう言うと「れーお、いつまで笑ってんの?」と烈央くんの脇腹をツンツンし始めた。
 烈央くんはそれがくすぐったいのか、走って逃げる。
 それを追いかける星守くん……と、なんとも平和な光景だ。

「──そっちに行った! 結花っ、烈央を捕まえて!」
「ええっ、わ、わかった!」
「なっ、結花ちゃん!? 星守の味方をするのかいっ」
「そんなに笑ってる烈央くん珍しいから、……私もくすぐりたい!」
「ひ、ひどいよっ結花ちゃん……! 俺は一人でも逃げるからっ」
「あ! 待ってー!」
「二対一じゃ逃げらんないからね、烈央っ!」
「く、来るな~!!」


 ──足が速くて、お菓子をねだる神出鬼没な優しいおじいさん。
 またどこかで会えるといいな。
 その時はぜひ、隠世にいた鬼のお話の続きを聞かせてもらいたい。


 ……そういえば、なんでおじいさんは私が誰かと会ったのか聞いてきたんだろう?
 旧校舎にいた燃えるように赤い、髪の長い不思議な子の正体も気になるし……。
 とにかく、用心しておこう。
 烈央くんと星守くんに、たくさん迷惑をかけたくないもん。
 私は服の上からお守りをきゅっと握ってから、泣きながら走って逃げる烈央くんを追いかけた。
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