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第六章 おじいさんは神出鬼没?
38話
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「──居た! そっちだ、星守!」
「わかってるっ! 結花はあっちの道を塞いで!」
「う、うんっ!」
「ほっほっほ。元気よのぉ、最近の若い子は。ワシも歳をとったもんじゃわ」
「誰が年取ったって!? ボクたちが追いつけないくらい足が速ければ、その年にしては十分すぎるでしょっ!」
「ああそうだなっ、星守の言うとおりだっ」
星守くんと烈央くんが息を切らしながら、とあるあやかしを追いかけている。
かく言う私も、逃げ道をなくすために道を塞いでお手伝い中だ。
私たちが追いかけているあやかしは……、口ひげが長いおじいさん。
腰が曲がっていて速く走れそうには見えないのに、かれこれ十分以上猛スピードで走り続けている。
なんと、烈央くんと星守くんの二人が追いつけないくらいのスピードでだ。
なんでこんなことになっているのかは、今日の朝にさかのぼるんだけど──……。
◆◆◆◆◆
わた毛たちのカラス騒ぎも終わり。
現世に残ることを決めたわた毛のあやかし『ましろ』と、私は楽しく暮らしていた。
ましろは私が学校に行っている日中、外にぷら~と遊びにでかけて、夜は開けている窓から帰ってくると私と一緒にベッドで寝ている。
今朝も、息苦しくて飛び起きたら私の顔にはりついてましろが寝てたから……そっとベッドに戻したり。
日課であるお散歩にでかけていくましろを見送って私も学校に登校すると、珍しく私より先に烈央くんと星守くんが登校していた。
「わ、はやいね! おはよう、烈央くん星守くん!」
「おはよう……結花ちゃん」
「はよー……」
烈央くんは机に頬杖をついていて、星守くんもだらーんと手足を放り出して椅子に座っている。
……なんだか二人とも、疲れた様子だ。
「どうしたの? 朝からそんなんじゃ、帰りまでもたないよ」
「そうだね……あはは」
「ん~……もう疲れたぁ」
うおぅ。見てるこっちまで、朝なのにもう疲れてきた気がする……!
「どうしたのどうしたのっ! 私までなんか肩が重いっていうか、体がダルくなってきちゃったよ……! もう!」
「ん~元気でいいね、結花は。はぁぁぁぁ」
「せ、星守くんはもうダメだコレ……! 烈央くんっ、二人にいったいなにがあったの?」
「あぁ、それが……」
烈央くんは何かを思いだしたのか、またはぁとため息をついてから話し始めた。
「前に、隠世にいるあやかしが現世へ行くには特別な通行証がいるって言ったのを覚えてる?」
「うんっ覚えてるよ。その通行証を発行するのも……隠世にいる送り屋さんたちなんだよね?」
「ふふ、そうだよ。その通行証には現世での滞在期間が書かれていて、その日時を過ぎると不法滞在になってしまうんだ」
不法滞在になったあやかしの取り扱いについて、烈央くんが詳しく教えてくれた。
基本的には、ちゃんと期日を守ってるあやかしがほとんどなんだって。
通行証は、滞在予定日の最終日に『開門』と唱えると簡易的な隠世への門が開かれるらしい。
でもその門をくぐらずに現世に不法滞在をしているあやかしは、送り屋に指名手配をされて追いかけ回されるみたいだ。
「そして俺たちにも、その不法滞在中のあやかしの指名手配の知らせが来たんだ。通常なら沢山の送り屋が捜査にあたるんだけど……」
──あやかしの目撃情報がここ、封鬼小学校周辺だからってここら一帯の担当である俺たち二人に、この件は一任されたんだ……。
烈央くんは、眉を下げてはぁとまたため息。
送り屋の烈央くんと星守くんは、封鬼小学校周辺を任されていて、現世で悪いことをするあやかしを隠世に強制送還するお仕事が主だ。
でも送り屋のお仕事自体、とてもやることが多い。
普段の仕事をしながら、不法滞在中のあやかしも追っているなんて……それはすごく大変だ。
「私にも、なにか出来ることがあったら手伝うからねっ!」
「ありがとう、結花ちゃん。ただ、けっこう相手のあやかしがクセがあってね……」
「超~すばしっこいおじいさんだよ」
星守くんがそう言って、よいしょっと立ち上がる。
右腕をのばして、空を掴む。
「この手で触れるところまでは、近づけのにっ。あと一歩のところで、逃げられちゃったんだから。ホント、悔しい!」
「星守の言う通りあと一歩……いやなんなら全然、近づけている感じがしないんだ」
烈央くんはまた、はぁと深いため息をつく。
「足が速いんだ、あのおじいさん。今朝も学校の近くで見つけて追いかけたんだけど、逃げられてしまった」
「ボクもう、くたくた~。足が速すぎるし、身軽だし、年齢詐称してるでしょあれは!」
二人の言うことを頭の中でまとめて、あやかしのおじいさんを想像してみる。
足が速そうに見えないけど、身軽で二人が全然追いつけないおじいさん……?
「うーん、ぜんっぜん想像できない……!」
「気づいたら俺たちの近くにいるし、気づいたら逃げられてるんだ。放課後、もう一度探す予定だけど気が重いな」
「ボクも~……」
「ううっ。私、足速くないし戦力になれるか心配」
「相手の逃げ道を一つでも塞いでくれていたら、それだけでもすごく助かるよ結花ちゃん」
「そう? なら、がんばるね……!」
「うん、一緒に頑張ろう。そうだ……俺、すごく疲れてるから結花ちゃんが手を握ってくれると嬉しいな?」
上目づかいで言う烈央くんに、ドキリとする。
……って、妖力を回復したいから言っているのであって他意はないんだから!
勘違いするな私!
「いいよっ、はい──」
「ブッブー。嘘はよくないでしょー、烈央?」
私に向かってきた烈央くんの手をぺしん、と星守くんが叩く。
「おや星守、嫉妬かい?」
「はぁ? だいたい使ったのは体力であって妖力は使ってないのに、回復してほしいとか言う方がおかしいでしょーが!」
大声で言いあう二人に、私は周りに声が聞こえないか心配になる。
朝の時間、みんなも誰かと話していたり教室の中はガヤガヤしているから、多分聞かれてないとは思うけど……。
「──結花!」
「は、はいぃぃ!」
「烈央のこーんなに簡単な嘘を見抜けなきゃ、いつか痛い目見るよ。わかってるの!?」
「でっでもさっきの本当っぽい──ひぃ、おっしゃるとおりです!」
「結花ちゃん、俺の妖力が『本当に』きれそうな時はお願いね? 優しく、君の手をにぎるから」
怪しく笑う烈央くん。
……うん?
いま、『本当に』って言った?
じゃあやっぱりさっきのは嘘ってこと?
ほら見たことか、と星守くんはジト目で私を見てくる。
私は、あはは……と笑って誤魔化すしかできなかった。
──と、とにかく!
二人の役に立って、不法滞在中のあやかしを見つけて隠世に返すことに集中!
「わかってるっ! 結花はあっちの道を塞いで!」
「う、うんっ!」
「ほっほっほ。元気よのぉ、最近の若い子は。ワシも歳をとったもんじゃわ」
「誰が年取ったって!? ボクたちが追いつけないくらい足が速ければ、その年にしては十分すぎるでしょっ!」
「ああそうだなっ、星守の言うとおりだっ」
星守くんと烈央くんが息を切らしながら、とあるあやかしを追いかけている。
かく言う私も、逃げ道をなくすために道を塞いでお手伝い中だ。
私たちが追いかけているあやかしは……、口ひげが長いおじいさん。
腰が曲がっていて速く走れそうには見えないのに、かれこれ十分以上猛スピードで走り続けている。
なんと、烈央くんと星守くんの二人が追いつけないくらいのスピードでだ。
なんでこんなことになっているのかは、今日の朝にさかのぼるんだけど──……。
◆◆◆◆◆
わた毛たちのカラス騒ぎも終わり。
現世に残ることを決めたわた毛のあやかし『ましろ』と、私は楽しく暮らしていた。
ましろは私が学校に行っている日中、外にぷら~と遊びにでかけて、夜は開けている窓から帰ってくると私と一緒にベッドで寝ている。
今朝も、息苦しくて飛び起きたら私の顔にはりついてましろが寝てたから……そっとベッドに戻したり。
日課であるお散歩にでかけていくましろを見送って私も学校に登校すると、珍しく私より先に烈央くんと星守くんが登校していた。
「わ、はやいね! おはよう、烈央くん星守くん!」
「おはよう……結花ちゃん」
「はよー……」
烈央くんは机に頬杖をついていて、星守くんもだらーんと手足を放り出して椅子に座っている。
……なんだか二人とも、疲れた様子だ。
「どうしたの? 朝からそんなんじゃ、帰りまでもたないよ」
「そうだね……あはは」
「ん~……もう疲れたぁ」
うおぅ。見てるこっちまで、朝なのにもう疲れてきた気がする……!
「どうしたのどうしたのっ! 私までなんか肩が重いっていうか、体がダルくなってきちゃったよ……! もう!」
「ん~元気でいいね、結花は。はぁぁぁぁ」
「せ、星守くんはもうダメだコレ……! 烈央くんっ、二人にいったいなにがあったの?」
「あぁ、それが……」
烈央くんは何かを思いだしたのか、またはぁとため息をついてから話し始めた。
「前に、隠世にいるあやかしが現世へ行くには特別な通行証がいるって言ったのを覚えてる?」
「うんっ覚えてるよ。その通行証を発行するのも……隠世にいる送り屋さんたちなんだよね?」
「ふふ、そうだよ。その通行証には現世での滞在期間が書かれていて、その日時を過ぎると不法滞在になってしまうんだ」
不法滞在になったあやかしの取り扱いについて、烈央くんが詳しく教えてくれた。
基本的には、ちゃんと期日を守ってるあやかしがほとんどなんだって。
通行証は、滞在予定日の最終日に『開門』と唱えると簡易的な隠世への門が開かれるらしい。
でもその門をくぐらずに現世に不法滞在をしているあやかしは、送り屋に指名手配をされて追いかけ回されるみたいだ。
「そして俺たちにも、その不法滞在中のあやかしの指名手配の知らせが来たんだ。通常なら沢山の送り屋が捜査にあたるんだけど……」
──あやかしの目撃情報がここ、封鬼小学校周辺だからってここら一帯の担当である俺たち二人に、この件は一任されたんだ……。
烈央くんは、眉を下げてはぁとまたため息。
送り屋の烈央くんと星守くんは、封鬼小学校周辺を任されていて、現世で悪いことをするあやかしを隠世に強制送還するお仕事が主だ。
でも送り屋のお仕事自体、とてもやることが多い。
普段の仕事をしながら、不法滞在中のあやかしも追っているなんて……それはすごく大変だ。
「私にも、なにか出来ることがあったら手伝うからねっ!」
「ありがとう、結花ちゃん。ただ、けっこう相手のあやかしがクセがあってね……」
「超~すばしっこいおじいさんだよ」
星守くんがそう言って、よいしょっと立ち上がる。
右腕をのばして、空を掴む。
「この手で触れるところまでは、近づけのにっ。あと一歩のところで、逃げられちゃったんだから。ホント、悔しい!」
「星守の言う通りあと一歩……いやなんなら全然、近づけている感じがしないんだ」
烈央くんはまた、はぁと深いため息をつく。
「足が速いんだ、あのおじいさん。今朝も学校の近くで見つけて追いかけたんだけど、逃げられてしまった」
「ボクもう、くたくた~。足が速すぎるし、身軽だし、年齢詐称してるでしょあれは!」
二人の言うことを頭の中でまとめて、あやかしのおじいさんを想像してみる。
足が速そうに見えないけど、身軽で二人が全然追いつけないおじいさん……?
「うーん、ぜんっぜん想像できない……!」
「気づいたら俺たちの近くにいるし、気づいたら逃げられてるんだ。放課後、もう一度探す予定だけど気が重いな」
「ボクも~……」
「ううっ。私、足速くないし戦力になれるか心配」
「相手の逃げ道を一つでも塞いでくれていたら、それだけでもすごく助かるよ結花ちゃん」
「そう? なら、がんばるね……!」
「うん、一緒に頑張ろう。そうだ……俺、すごく疲れてるから結花ちゃんが手を握ってくれると嬉しいな?」
上目づかいで言う烈央くんに、ドキリとする。
……って、妖力を回復したいから言っているのであって他意はないんだから!
勘違いするな私!
「いいよっ、はい──」
「ブッブー。嘘はよくないでしょー、烈央?」
私に向かってきた烈央くんの手をぺしん、と星守くんが叩く。
「おや星守、嫉妬かい?」
「はぁ? だいたい使ったのは体力であって妖力は使ってないのに、回復してほしいとか言う方がおかしいでしょーが!」
大声で言いあう二人に、私は周りに声が聞こえないか心配になる。
朝の時間、みんなも誰かと話していたり教室の中はガヤガヤしているから、多分聞かれてないとは思うけど……。
「──結花!」
「は、はいぃぃ!」
「烈央のこーんなに簡単な嘘を見抜けなきゃ、いつか痛い目見るよ。わかってるの!?」
「でっでもさっきの本当っぽい──ひぃ、おっしゃるとおりです!」
「結花ちゃん、俺の妖力が『本当に』きれそうな時はお願いね? 優しく、君の手をにぎるから」
怪しく笑う烈央くん。
……うん?
いま、『本当に』って言った?
じゃあやっぱりさっきのは嘘ってこと?
ほら見たことか、と星守くんはジト目で私を見てくる。
私は、あはは……と笑って誤魔化すしかできなかった。
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