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第五章 狙われたわた毛たちを守る大作戦!
36話
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──ビュオォォォ。
──カァカァ。
次の日。
風が強い中、河川敷のそばで私たち三人とわた毛たちはあのカラス集団と対峙していた。
やんのか? と、カラスたちは鋭い眼光で私たちをにらんでくる。
私がわた毛たちに視線を送れば、「心得た!」と言うように横一列に並んだ。
もこもこもこ、と並んでいる姿は後ろから見てもすごく可愛い……じゃなくてっ。
ゴホン。
私が昨日考えた作戦。
それは──。
「……わた毛たち、いいよ!」
横一列に並んでいたわた毛たちは、私のかけ声を聞くと毛を逆立てて、ふんぬっ! と体に力を入れた。
──ポポポーン!
──ポンポンッ!
──ポーン!
わた毛たちの体から、たくさんの白い毛玉が分裂した。
今日は風が強いけど星守くんが結界を張ってくれているおかげで、白い毛玉は飛んでいくことなく地面に積み上がっていく。
毛玉はふわふわと柔らかくて高級そう。
わた毛のあやかしたちにはある小さな二つの目が、この毛玉にはない。
ただの毛のかたまりだ。
「さぁカラスさん。この毛玉を巣作りに使って? そのかわり、もうわた毛たちを狙わないでほしいの! お願い!」
カラスたちは顔を見合わせて、スッと一匹のカラスが前に出てくる。
あの日、わた毛を口にくわえたボスカラスだ。
ごくり。
緊張感がただよう。
お願い、どうか毛玉をくわえて帰って……!
──カァ!
──カァカァカァ!!
ボスカラスがひと鳴きすると、周りにいたカラスたちが一斉に毛玉に群がった。
全てのカラスが口に毛玉をくわえると、星守くんが結界を解く。
するとカラスたちは、バサバサと飛びたっていった。
一匹になったボスカラスは……カァ! と鳴いて、私たちを見てから飛びたっていく。
河川敷には私たち三人と、わた毛のあやかしたちだけ。
「これは、……作戦成功ってことだよね?」
烈央くんと星守くんを見れば、うんと頷いてくれた。
「──やったー!!」
イェーイ!
二人とハイタッチして、わた毛たちともハイタッチをする。
と言っても、私の手のひらにテイッ! て体を押し当ててくるだけだけど、すごく可愛い。
「それにしても、結花にしてはいいアイディアだったね。やるじゃん」
「あぁ、昨日は何度聞いても『まかせて』とだけしか言わなかったから、どうなるかと思ったけど……やるね結花ちゃん」
「えへへ。昨日ね、一匹のわた毛の子がくしゃみをするようにブルリって震えたら、体から毛玉が出てきたのを見て思いついたの!」
わた毛たちにそっくりな毛玉。
これならカラスたちが巣を作る時に、暖かいんじゃないかなって思ったんだ。
「これで一件落着!」
「──じゃないでしょ結花」
「え? な、なんでよ星守くん」
「あのねぇ、カラスの巣作りは毎年行われることだから。来年もわた毛たちがカラスに毛玉をあげないと、また狙われちゃうんだよ」
た、たしかに……!
私はわた毛たちを見る。
なんだろう心なしか、わた毛たちが小さくなった気がする?
もしも毎年、毛玉を作り続けたらいつか存在が消えちゃうんじゃないの……?
わた毛たちは「これで終わりじゃないのー?」と言うように、身を寄せ合って私を見上げている。
「ねぇ……あなたたちには、現世は厳しくて生きづらいんじゃない? 隠世っていう、あやかしがたくさん住んでいる世界があるの。行ってみる?」
隠世に行けば絶対安全……とは言えないかもしれないけど、厳しい自然で生きるよりは良いのかなと思う。
みんなと離れるのはすごく寂しいけど。
「結花ちゃんの言う通り、隠世に行けば少しは安全かな。君たちをお世話してくれるあやかしがいるかもね。小さいものが好きなあやかしも、結構いるんだ」
「色々なあやかしが働いてる場所もあるし、そこなら雇ってくれるんじゃない? ボク、小さなネズミが働いてるの見たことあるよ」
「へぇ、そうなんだ! ねぇ……どうかな?」
わた毛たちは一ヶ所に集まって、ふわふわと浮いたりプルプル小刻みに震えたりしている。
みんなで「ねぇどうする?」って話してるように見えた。
しばらくして話がまとまったのか、一匹のわた毛がぴょんぴょんと前に出てくる。
「……隠世に行く?」
わた毛は頷くように、一度だけぴょーんととんだ。
わた毛たちが隠世に行ったら、寂しくなる。
でも、わた毛たちの存在がなくなってしまう方がもっと嫌だから。
笑顔で送り出してあげなきゃ。
──カァカァ。
次の日。
風が強い中、河川敷のそばで私たち三人とわた毛たちはあのカラス集団と対峙していた。
やんのか? と、カラスたちは鋭い眼光で私たちをにらんでくる。
私がわた毛たちに視線を送れば、「心得た!」と言うように横一列に並んだ。
もこもこもこ、と並んでいる姿は後ろから見てもすごく可愛い……じゃなくてっ。
ゴホン。
私が昨日考えた作戦。
それは──。
「……わた毛たち、いいよ!」
横一列に並んでいたわた毛たちは、私のかけ声を聞くと毛を逆立てて、ふんぬっ! と体に力を入れた。
──ポポポーン!
──ポンポンッ!
──ポーン!
わた毛たちの体から、たくさんの白い毛玉が分裂した。
今日は風が強いけど星守くんが結界を張ってくれているおかげで、白い毛玉は飛んでいくことなく地面に積み上がっていく。
毛玉はふわふわと柔らかくて高級そう。
わた毛のあやかしたちにはある小さな二つの目が、この毛玉にはない。
ただの毛のかたまりだ。
「さぁカラスさん。この毛玉を巣作りに使って? そのかわり、もうわた毛たちを狙わないでほしいの! お願い!」
カラスたちは顔を見合わせて、スッと一匹のカラスが前に出てくる。
あの日、わた毛を口にくわえたボスカラスだ。
ごくり。
緊張感がただよう。
お願い、どうか毛玉をくわえて帰って……!
──カァ!
──カァカァカァ!!
ボスカラスがひと鳴きすると、周りにいたカラスたちが一斉に毛玉に群がった。
全てのカラスが口に毛玉をくわえると、星守くんが結界を解く。
するとカラスたちは、バサバサと飛びたっていった。
一匹になったボスカラスは……カァ! と鳴いて、私たちを見てから飛びたっていく。
河川敷には私たち三人と、わた毛のあやかしたちだけ。
「これは、……作戦成功ってことだよね?」
烈央くんと星守くんを見れば、うんと頷いてくれた。
「──やったー!!」
イェーイ!
二人とハイタッチして、わた毛たちともハイタッチをする。
と言っても、私の手のひらにテイッ! て体を押し当ててくるだけだけど、すごく可愛い。
「それにしても、結花にしてはいいアイディアだったね。やるじゃん」
「あぁ、昨日は何度聞いても『まかせて』とだけしか言わなかったから、どうなるかと思ったけど……やるね結花ちゃん」
「えへへ。昨日ね、一匹のわた毛の子がくしゃみをするようにブルリって震えたら、体から毛玉が出てきたのを見て思いついたの!」
わた毛たちにそっくりな毛玉。
これならカラスたちが巣を作る時に、暖かいんじゃないかなって思ったんだ。
「これで一件落着!」
「──じゃないでしょ結花」
「え? な、なんでよ星守くん」
「あのねぇ、カラスの巣作りは毎年行われることだから。来年もわた毛たちがカラスに毛玉をあげないと、また狙われちゃうんだよ」
た、たしかに……!
私はわた毛たちを見る。
なんだろう心なしか、わた毛たちが小さくなった気がする?
もしも毎年、毛玉を作り続けたらいつか存在が消えちゃうんじゃないの……?
わた毛たちは「これで終わりじゃないのー?」と言うように、身を寄せ合って私を見上げている。
「ねぇ……あなたたちには、現世は厳しくて生きづらいんじゃない? 隠世っていう、あやかしがたくさん住んでいる世界があるの。行ってみる?」
隠世に行けば絶対安全……とは言えないかもしれないけど、厳しい自然で生きるよりは良いのかなと思う。
みんなと離れるのはすごく寂しいけど。
「結花ちゃんの言う通り、隠世に行けば少しは安全かな。君たちをお世話してくれるあやかしがいるかもね。小さいものが好きなあやかしも、結構いるんだ」
「色々なあやかしが働いてる場所もあるし、そこなら雇ってくれるんじゃない? ボク、小さなネズミが働いてるの見たことあるよ」
「へぇ、そうなんだ! ねぇ……どうかな?」
わた毛たちは一ヶ所に集まって、ふわふわと浮いたりプルプル小刻みに震えたりしている。
みんなで「ねぇどうする?」って話してるように見えた。
しばらくして話がまとまったのか、一匹のわた毛がぴょんぴょんと前に出てくる。
「……隠世に行く?」
わた毛は頷くように、一度だけぴょーんととんだ。
わた毛たちが隠世に行ったら、寂しくなる。
でも、わた毛たちの存在がなくなってしまう方がもっと嫌だから。
笑顔で送り出してあげなきゃ。
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