上 下
31 / 53
第四章 現世の朝霧家にて、猫又と座敷童子と

31話

しおりを挟む
 狭い押し入れから這い出て私たちは、はじめに伊織さんに通された部屋に戻る。
 すると伊織さんが、人数分の飲み物を用意してくれていた。

「遊んだから喉がかわいたでしょう。さぁ、飲んで潤しなさい」

 伊織さんはそう言って部屋を出て行こうとする。
 それを星守くんと烈央くんが引きためた。

「伊織、結花と話さなくて良いの?」
「俺たちに結花ちゃんを呼ばせたのは、送り屋のことを話すためだろう?」
「あぁ、もういいんだ。ふふ、それに二人には内緒の話を私と結花さんはしたから。ね、結花さん?」

 ──パチン。
 伊織さんは綺麗なウィンクを私に飛ばした。
 そのまま桜子ちゃんを連れて、部屋を出て行ってしまう。

「ちょ、結花。なにを伊織と話したのっ?」
「秘密の話って、本当に俺たちには言えない?」

 二人が私に詰め寄ってくる。
 伊織さんが言った秘密の話はきっと、二人が現世に来た初日に寂しがっていた話……だと思う。

「ひ、秘密! だから言えません!」
「ボクたちに秘密? 結花が? ……へぇ、いい度胸じゃん」
「ふふ。それはどんな手を使ってでも、暴く価値がありそうだね」

 ひぃぃぃぃ!
 二人ともっ、顔が怖いよ!

「──女子の秘密を無闇に暴こうとするなんて嫌われるわよ、星守、烈央」

 まさに鶴の一声。
 乃々ちゃんが呆れたように言う。
 その言葉が刺さったのか、烈央くんと星守くんはうぐっと声を詰まらせた。

「ありがとう、乃々ちゃん……!」
「ちょっ、抱きつかないでよ暑苦しいわねぇ!」

 味方をしてくれたことが嬉しくて、私は乃々ちゃんに抱きつく。
 口では「抱きつくな」って言ってるけど、私をはがそうとはしない。
 乃々ちゃんって、本当はすごく優しいんだね。
 ぐりぐりと頭を押し付けると、乃々ちゃんは「まったく……」と言いながら頭を撫でてくれた。

「……女の子同士の絆が深まっているところ悪いけど、ちゃんと自己紹介したら? 乃々。もっと結花ちゃんと仲良くなるためにもね」
「そう、ね」

 私は一旦、乃々ちゃんから離れて座りなおす。
 乃々ちゃんはコホンと咳をすると、視線を上下左右に移動させて頬を赤くした。

「あ、あたしは猫田ねこた乃々。見ての通り、猫又のあやかしよ」

 乃々ちゃんの頭には、ぴこぴこと動く三角の耳、そしてゆらゆらと揺れている猫みたいなしっぽがある。
 
「えへへ……、乃々ちゃんの耳もしっぽも可愛いって思ってたの!」
「そっ、そうかしら?」

 乃々ちゃんは、ピンとしっぽを立てた。
 くぅ、いつか仲良くなったらしっぽも耳も触りたいなぁ。

「あたしと烈央と星守の関係だけど……。二人のご両親とあたしの親が仲がいいから、あたしは二人とは生まれた時から一緒にいたの。幼馴染ってやつよ」
「幼馴染ってことは……、乃々ちゃんも隠世かくりよに住んでるの? 現世うつしよは初めて?」
「えぇ、隠世に住んでいるわ。烈央たちが現世での勤務になってから、現世に来るようになったから……今回で三回目かしら」
「三回目かぁ。私もいつか、隠世に行ってみたいな」
「二人に言えば連れて行ってくれるんじゃない? 送り屋じゃないの」

 ちらりと期待をこめた眼差しで烈央くんと星守くんを見ると、なんとも微妙な顔をしていた。

「うーんり人間の結花ちゃんを隠世へ連れて行くことは、すぐには難しいかな」
「色々とあるしねー。だいたい、弱っちぃ結花が隠世に行ったら即あやかしに食べられちゃうんじゃなーい?」
「食べられる……ひぃっ! 怖いこと言わないでよっ!」

 星守くんがクスクス笑いながら、手をパクパクと口に見立てて脅かしてくる。
 これはあれだ、鈴葉様の祠に行った時もやられたやつ。
 私だって、やられてばかりじゃない!

 星守くんの手をえいやっ! と握りこんで、動きを封じる。
 ──ふふ、これでもう動かせないでしょ?
 してやったり、勝ち誇った顔で星守君を見れば目を大きく見開いた。
 次第に顔を赤くして、プイッとそっぽを向いてしまう。
 のどがかわいていたのか、ジュースをぐびぐび飲みはじめた。
 うん? 急にどうしたんだろ、星守くん。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1、ブザービートからはじまる恋〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※第15回童話・児童書大賞用作品のため、アルファポリス様のみで掲載中。→noichigoさんに転載。

悪魔図鑑~でこぼこ3兄妹とソロモンの指輪~

天咲 琴葉
児童書・童話
全ての悪魔を思い通りに操れる『ソロモンの指輪』。 ふとしたことから、その指輪を手に入れてしまった拝(おがみ)家の3兄妹は、家族やクラスメートを救うため、怪人や悪魔と戦うことになる!

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】 「……襲われてる! 助けなきゃ!」  錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。  人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。 「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」  少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。 「……この手紙、私宛てなの?」  少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。  ――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。  新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。 「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」  見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。 《この小説の見どころ》 ①可愛いらしい登場人物 見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎ ②ほのぼのほんわか世界観 可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。 ③時々スパイスきいてます! ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。 ④魅力ある錬成アイテム 錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。 ◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。 ◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 ◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。 ◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。

処理中です...