あやかし達の送り屋をやっています! 〜正反対な狐のあやかし双子との出会い〜

巴藍

文字の大きさ
上 下
29 / 53
第四章 現世の朝霧家にて、猫又と座敷童子と

29話

しおりを挟む
 驚いてふり返ると、一人の女の子が立っている。
 頭には、ぴょこりと三角の耳が二つ。
 背中側には二本のしっぽがピンとのびていた。
 ──だ、誰!?
 女の子と目が合い、ギロリとにらまれる。

「──見つけたわ、人間! あなたね、二人の鍵を奪ったのは!」
「へっ!?」

 女の子は私に向かって歩いてくる。
 ガシっ! と腕をつまれて、女の子に引っ張られながら部屋を出た。

「きゃあ!? あ、あのっ!」

 私が声をかけても女の子は無視して歩き続ける。
 広い屋敷の中を歩き、とある部屋にたどりついた。電気がついてなくて窓もないから、昼間だけど部屋の中は薄暗い。

 女の子も一緒に部屋に入って襖を閉めた後、バンッと乱暴にお札のようなものを貼った。
 そのお札は一瞬だけ淡く光ったけど、部屋の中にはなにも変化はない。
 女の子は座りこんでいる私の目の前で、腕を組み仁王立ちで見下ろしてきた。

「あっ……あの、どちら様ですか?」
「あなたに名乗る名前なんて、無いわ!」

 圧がすごくて、思わず「ひぇ」と声が出てしまった。
 な、なんなの!?
 私がなにをしたって言うの!
 ……って面と向かって言えたら良いけど、怖すぎるよこの子!
 すごく、にらんでくるんだもん!

「あなた、名前は!?」
「はいぃぃ! 長月結花です!」
「そんなの知らないわよ!」
「ですよね! ごめんなさい!」

 バッと頭を下げたところで、ん? となる。
 なんで私が謝ってるの?
 名前を聞いてきたのはそっちなのに!

「お、おかしくないかなっ? 私は伊織さんとお話をしていたのに、急に入ってきて……あなたこそっ、不法侵入ってやつじゃないんですか!?」
「なっ、あたしが不法侵入ですって!? ちゃんと遊びに来るって知らせてから来たわよ!」
「だ、だとしても急に人の腕をつかんで部屋に連れこむなんて、おっ横暴です!」

 フガー! フガー! と、私たちの鼻息は荒い。
 次になんて言い返すか考えていると、女の子はハッと後ろをふり返る。
 直後、襖に貼られていたお札がジュッと燃えて無くなった。

「くっ、もう来たのね? まだこの子と話してるんだから、伊織さんはあっちに行ってて──えっ?」

 女の子は怒りながら襖へ向かい、スパンと勢いよく開けた。
 でも廊下に立っていたのは伊織さんではなく……。

「やぁ、乃々のの
「やほー、ボクもいるよ」
「れ、烈央っ星守!」

 慌てた様子の女の子に目もくれず、烈央くんは私のそばへやってくると「怪我はない?」と聞いてくれた。

「うん、だ、大丈夫だよっ」

 ちょっと言い合いをしただけで、別にケンカをしたわけじゃないもん……多分?

「なら良かった。ところで……こんな薄暗い部屋で、結花ちゃんになにをしてたのかな? 乃々」
「乃々のことだから、どうせ暴走してたんでしょー」
「そっ、それは……」

 なかなか言い出せない女の子に、はぁとため息をつく烈央くん。

「俺は怒ってるわけじゃないよ、乃々。ただ結花ちゃんは人間で、あやかしよりとても怪我をしやすいんだ。そのことを忘れてはいけない」
「……っ!」

 女の子はこっちをふり返り、すこしだけ赤くなっている私の腕を見て、大きな瞳をさらに見開いた。
 これはさっき腕を引っ張られた時に、すこし力が強かったから赤くなってしまっただけで、いまはもう見た目ほど痛くない。
 
「あ、あたしっ……ごめんなさい……」

 女の子はいまにも泣きそうな顔になって、ぺたんと座りこんでしまった。
 今度は私が慌ててしまう。

「いまはもう痛くないよっ。大丈夫だから、泣かないでっ? ね?」

 オロオロしながら女の子の背中に手を当ててさする。
 でも、うわーん、と盛大に泣きはじめてしまった。
 なっなにか泣き止んでもらう方法、……なにかない!? 


「──そうだ。ねぇ、かくれんぼしよう!?」

 烈央くんと星守くんが、「なに言ってんだこいつ」という顔で見てくる。
 女の子も涙が引っこんだのか、ポカンとしていた。
 私も自分がなんで「かくれんぼしよう」って言ったかはわからない。
 でもかくれんぼしたら、仲良くなれる気がしたの。
 お告げ……そう、神様のお告げ!
 鈴葉様の声が聞こえた気がする! 多分!

「ゆ、結花ちゃん?」
「はぁ? なに言ってんの結花」
「な、なにを言ってるのあなた」
「鬼に見つかった人も、鬼として他の人を見つけてね! ほら、とりあえずじゃんけんしよう! じゃーんけーん……ポンッ!」

 ジャンケンに負けたのは女の子……じゃなくてこの際、乃々ちゃんと呼ばせてもらおう。
 乃々ちゃんが鬼だ。

、二十秒数えたら探しに来てね!」
「っ! ……はぁ、なんなのあなた。わかったわ、さっさと隠れなさいよ」
「うん! 烈央くん、星守くんいこう!」

 私は顔を見合わせている二人の背中をぐいぐい押して、部屋を出た。
 よし、隠れるぞっ!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1、ブザービートからはじまる恋〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※第15回童話・児童書大賞用作品のため、アルファポリス様のみで掲載中。→noichigoさんに転載。

小さな王子さまのお話

佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』…… **あらすじ** 昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。 珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。 王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。 なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。 「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。 ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…? 『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』―― 亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。 全年齢の童話風ファンタジーになります。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

妖精の風の吹くまま~家を追われた元伯爵令嬢は行き倒れたわけあり青年貴族を拾いました~

狭山ひびき@バカふり200万部突破
児童書・童話
妖精女王の逆鱗に触れた人間が妖精を見ることができなくなって久しい。 そんな中、妖精が見える「妖精に愛されし」少女エマは、仲良しの妖精アーサーとポリーとともに友人を探す旅の途中、行き倒れの青年貴族ユーインを拾う。彼は病に倒れた友人を助けるために、万能薬(パナセア)を探して旅をしているらしい。「友人のために」というユーインのことが放っておけなくなったエマは、「おいエマ、やめとけって!」というアーサーの制止を振り切り、ユーインの薬探しを手伝うことにする。昔から妖精が見えることを人から気味悪がられるエマは、ユーインにはそのことを告げなかったが、伝説の万能薬に代わる特別な妖精の秘薬があるのだ。その薬なら、ユーインの友人の病気も治せるかもしれない。エマは薬の手掛かりを持っている妖精女王に会いに行くことに決める。穏やかで優しく、そしてちょっと抜けているユーインに、次第に心惹かれていくエマ。けれども、妖精女王に会いに行った山で、ついにユーインにエマの妖精が見える体質のことを知られてしまう。 「……わたしは、妖精が見えるの」 気味悪がられることを覚悟で告げたエマに、ユーインは―― 心に傷を抱える妖精が見える少女エマと、心優しくもちょっとした秘密を抱えた青年貴族ユーイン、それからにぎやかな妖精たちのラブコメディです。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...