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第四章 現世の朝霧家にて、猫又と座敷童子と
29話
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驚いてふり返ると、一人の女の子が立っている。
頭には、ぴょこりと三角の耳が二つ。
背中側には二本のしっぽがピンとのびていた。
──だ、誰!?
女の子と目が合い、ギロリとにらまれる。
「──見つけたわ、人間! あなたね、二人の鍵を奪ったのは!」
「へっ!?」
女の子は私に向かって歩いてくる。
ガシっ! と腕をつまれて、女の子に引っ張られながら部屋を出た。
「きゃあ!? あ、あのっ!」
私が声をかけても女の子は無視して歩き続ける。
広い屋敷の中を歩き、とある部屋にたどりついた。電気がついてなくて窓もないから、昼間だけど部屋の中は薄暗い。
女の子も一緒に部屋に入って襖を閉めた後、バンッと乱暴にお札のようなものを貼った。
そのお札は一瞬だけ淡く光ったけど、部屋の中にはなにも変化はない。
女の子は座りこんでいる私の目の前で、腕を組み仁王立ちで見下ろしてきた。
「あっ……あの、どちら様ですか?」
「あなたに名乗る名前なんて、無いわ!」
圧がすごくて、思わず「ひぇ」と声が出てしまった。
な、なんなの!?
私がなにをしたって言うの!
……って面と向かって言えたら良いけど、怖すぎるよこの子!
すごく、にらんでくるんだもん!
「あなた、名前は!?」
「はいぃぃ! 長月結花です!」
「そんなの知らないわよ!」
「ですよね! ごめんなさい!」
バッと頭を下げたところで、ん? となる。
なんで私が謝ってるの?
名前を聞いてきたのはそっちなのに!
「お、おかしくないかなっ? 私は伊織さんとお話をしていたのに、急に入ってきて……あなたこそっ、不法侵入ってやつじゃないんですか!?」
「なっ、あたしが不法侵入ですって!? ちゃんと遊びに来るって知らせてから来たわよ!」
「だ、だとしても急に人の腕をつかんで部屋に連れこむなんて、おっ横暴です!」
フガー! フガー! と、私たちの鼻息は荒い。
次になんて言い返すか考えていると、女の子はハッと後ろをふり返る。
直後、襖に貼られていたお札がジュッと燃えて無くなった。
「くっ、もう来たのね? まだこの子と話してるんだから、伊織さんはあっちに行ってて──えっ?」
女の子は怒りながら襖へ向かい、スパンと勢いよく開けた。
でも廊下に立っていたのは伊織さんではなく……。
「やぁ、乃々」
「やほー、ボクもいるよ」
「れ、烈央っ星守!」
慌てた様子の女の子に目もくれず、烈央くんは私のそばへやってくると「怪我はない?」と聞いてくれた。
「うん、だ、大丈夫だよっ」
ちょっと言い合いをしただけで、別にケンカをしたわけじゃないもん……多分?
「なら良かった。ところで……こんな薄暗い部屋で、結花ちゃんになにをしてたのかな? 乃々」
「乃々のことだから、どうせ暴走してたんでしょー」
「そっ、それは……」
なかなか言い出せない女の子に、はぁとため息をつく烈央くん。
「俺は怒ってるわけじゃないよ、乃々。ただ結花ちゃんは人間で、俺たちあやかしよりとても怪我をしやすいんだ。そのことを忘れてはいけない」
「……っ!」
女の子はこっちをふり返り、すこしだけ赤くなっている私の腕を見て、大きな瞳をさらに見開いた。
これはさっき腕を引っ張られた時に、すこし力が強かったから赤くなってしまっただけで、いまはもう見た目ほど痛くない。
「あ、あたしっ……ごめんなさい……」
女の子はいまにも泣きそうな顔になって、ぺたんと座りこんでしまった。
今度は私が慌ててしまう。
「いまはもう痛くないよっ。大丈夫だから、泣かないでっ? ね?」
オロオロしながら女の子の背中に手を当ててさする。
でも、うわーん、と盛大に泣きはじめてしまった。
なっなにか泣き止んでもらう方法、……なにかない!?
「──そうだ。ねぇ、かくれんぼしよう!?」
烈央くんと星守くんが、「なに言ってんだこいつ」という顔で見てくる。
女の子も涙が引っこんだのか、ポカンとしていた。
私も自分がなんで「かくれんぼしよう」って言ったかはわからない。
でもかくれんぼしたら、仲良くなれる気がしたの。
お告げ……そう、神様のお告げ!
鈴葉様の声が聞こえた気がする! 多分!
「ゆ、結花ちゃん?」
「はぁ? なに言ってんの結花」
「な、なにを言ってるのあなた」
「鬼に見つかった人も、鬼として他の人を見つけてね! ほら、とりあえずじゃんけんしよう! じゃーんけーん……ポンッ!」
ジャンケンに負けたのは女の子……じゃなくてこの際、乃々ちゃんと呼ばせてもらおう。
乃々ちゃんが鬼だ。
「乃々ちゃん、二十秒数えたら探しに来てね!」
「っ! ……はぁ、なんなのあなた。わかったわ、さっさと隠れなさいよ」
「うん! 烈央くん、星守くんいこう!」
私は顔を見合わせている二人の背中をぐいぐい押して、部屋を出た。
よし、隠れるぞっ!
頭には、ぴょこりと三角の耳が二つ。
背中側には二本のしっぽがピンとのびていた。
──だ、誰!?
女の子と目が合い、ギロリとにらまれる。
「──見つけたわ、人間! あなたね、二人の鍵を奪ったのは!」
「へっ!?」
女の子は私に向かって歩いてくる。
ガシっ! と腕をつまれて、女の子に引っ張られながら部屋を出た。
「きゃあ!? あ、あのっ!」
私が声をかけても女の子は無視して歩き続ける。
広い屋敷の中を歩き、とある部屋にたどりついた。電気がついてなくて窓もないから、昼間だけど部屋の中は薄暗い。
女の子も一緒に部屋に入って襖を閉めた後、バンッと乱暴にお札のようなものを貼った。
そのお札は一瞬だけ淡く光ったけど、部屋の中にはなにも変化はない。
女の子は座りこんでいる私の目の前で、腕を組み仁王立ちで見下ろしてきた。
「あっ……あの、どちら様ですか?」
「あなたに名乗る名前なんて、無いわ!」
圧がすごくて、思わず「ひぇ」と声が出てしまった。
な、なんなの!?
私がなにをしたって言うの!
……って面と向かって言えたら良いけど、怖すぎるよこの子!
すごく、にらんでくるんだもん!
「あなた、名前は!?」
「はいぃぃ! 長月結花です!」
「そんなの知らないわよ!」
「ですよね! ごめんなさい!」
バッと頭を下げたところで、ん? となる。
なんで私が謝ってるの?
名前を聞いてきたのはそっちなのに!
「お、おかしくないかなっ? 私は伊織さんとお話をしていたのに、急に入ってきて……あなたこそっ、不法侵入ってやつじゃないんですか!?」
「なっ、あたしが不法侵入ですって!? ちゃんと遊びに来るって知らせてから来たわよ!」
「だ、だとしても急に人の腕をつかんで部屋に連れこむなんて、おっ横暴です!」
フガー! フガー! と、私たちの鼻息は荒い。
次になんて言い返すか考えていると、女の子はハッと後ろをふり返る。
直後、襖に貼られていたお札がジュッと燃えて無くなった。
「くっ、もう来たのね? まだこの子と話してるんだから、伊織さんはあっちに行ってて──えっ?」
女の子は怒りながら襖へ向かい、スパンと勢いよく開けた。
でも廊下に立っていたのは伊織さんではなく……。
「やぁ、乃々」
「やほー、ボクもいるよ」
「れ、烈央っ星守!」
慌てた様子の女の子に目もくれず、烈央くんは私のそばへやってくると「怪我はない?」と聞いてくれた。
「うん、だ、大丈夫だよっ」
ちょっと言い合いをしただけで、別にケンカをしたわけじゃないもん……多分?
「なら良かった。ところで……こんな薄暗い部屋で、結花ちゃんになにをしてたのかな? 乃々」
「乃々のことだから、どうせ暴走してたんでしょー」
「そっ、それは……」
なかなか言い出せない女の子に、はぁとため息をつく烈央くん。
「俺は怒ってるわけじゃないよ、乃々。ただ結花ちゃんは人間で、俺たちあやかしよりとても怪我をしやすいんだ。そのことを忘れてはいけない」
「……っ!」
女の子はこっちをふり返り、すこしだけ赤くなっている私の腕を見て、大きな瞳をさらに見開いた。
これはさっき腕を引っ張られた時に、すこし力が強かったから赤くなってしまっただけで、いまはもう見た目ほど痛くない。
「あ、あたしっ……ごめんなさい……」
女の子はいまにも泣きそうな顔になって、ぺたんと座りこんでしまった。
今度は私が慌ててしまう。
「いまはもう痛くないよっ。大丈夫だから、泣かないでっ? ね?」
オロオロしながら女の子の背中に手を当ててさする。
でも、うわーん、と盛大に泣きはじめてしまった。
なっなにか泣き止んでもらう方法、……なにかない!?
「──そうだ。ねぇ、かくれんぼしよう!?」
烈央くんと星守くんが、「なに言ってんだこいつ」という顔で見てくる。
女の子も涙が引っこんだのか、ポカンとしていた。
私も自分がなんで「かくれんぼしよう」って言ったかはわからない。
でもかくれんぼしたら、仲良くなれる気がしたの。
お告げ……そう、神様のお告げ!
鈴葉様の声が聞こえた気がする! 多分!
「ゆ、結花ちゃん?」
「はぁ? なに言ってんの結花」
「な、なにを言ってるのあなた」
「鬼に見つかった人も、鬼として他の人を見つけてね! ほら、とりあえずじゃんけんしよう! じゃーんけーん……ポンッ!」
ジャンケンに負けたのは女の子……じゃなくてこの際、乃々ちゃんと呼ばせてもらおう。
乃々ちゃんが鬼だ。
「乃々ちゃん、二十秒数えたら探しに来てね!」
「っ! ……はぁ、なんなのあなた。わかったわ、さっさと隠れなさいよ」
「うん! 烈央くん、星守くんいこう!」
私は顔を見合わせている二人の背中をぐいぐい押して、部屋を出た。
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