27 / 53
第四章 現世の朝霧家にて、猫又と座敷童子と
27話
しおりを挟む
「結花さんが、あやかしに狙われる様になった原因はまだわからないけれど、用心するに越したことはない。身の危険を感じたら、すぐに烈央と星守を頼りなさいね」
こくりと頷くと、伊織さんは「よろしい」と言ってお茶をすする。
「……烈央と星守が導きの鍵を触れなくなって、人間の結花さんが送り屋の手伝いをすることになったと知った時は、どうなるかと思ったけれど。君なら大丈夫そうだ」
「手伝い……、不可抗力といいますかっ巻きこまれたといいますか……!」
「ふふっそうだね。なぜ人間の結花さんに、導きの鍵が反応したのかわからない以上、烈央と星守から離れないでほしい。あの二人は必ず、君を守ってくれるからね。原因はいま調べているけど、わかるまで時間がかかりそうなんだ」
「そうですか……。ご迷惑をおかけてして、すみません」
「結花さん、顔を上げて。……きっと鍵が何かを示したがっているんだ。それを調べるのは大人の役目。だから君のせいじゃないよ」
伊織さんが優しすぎて、涙が出そうだ。
横にいる桜子ちゃんが立ち上がって「よしよし」と、私の頭を撫でてくれた。
あ、優しさがしみて本当にちょっと涙が出たかも。
「もっと早く……そう、君の体の中に鍵が入った日に会うべきだった。二人が上手く隠し通していたから、会うのが遅くなってしまったんだ。怒られると思ったって。ふふ、隠す方がこってり怒られるというに」
笑いながらも、ゴゴゴッ! と背後に怖いオーラが出ている伊織さん。
この間、烈央くんと星守くんの元気がなかったのは、伊織さんに怒られたからだとわかった。
「一通りのことは隠世で学んでは来たらしいけれど……二人はまだ現世の知識が浅い子供だからね。保護者代理である私が、しっかりしないと。ふふ」
それはもうコッテリ怒られたんだなって思って、私は心の中で二人に手を合わせておく。
「そうだ。結花さんは、なぜ二人が現世に来たのかは聞いているかい?」
「……えっ、送り屋をするためじゃないんですか?」
「正解だよ。ふふっでも送り屋はね、必ずしも現世で活動するわけじゃない。二人がまだ送り屋見習いだった一ヶ月前……正式に送り屋になることが決まったんだ」
「一ヶ月前? ……私、もう二人は何年もやってるんだと思ってました。慣れているっていうか、ちゃんとしてますし!」
「ふふ、それは良いことを聞いた。二人はしっかりと、送り屋を出来ているようだね。現世に来た初日は、やっぱり両親が恋しいのか寂しげにしていたのに」
──あぁ、これは二人には秘密だよ? 私が結花さんに、告げ口をしたって怒られてしまうからね。
おちゃめに笑う伊織さんに、私はこくりと頷いておく。
やっぱり、気丈に見えるけど二人とも寂しかったんだね。
「二人には秘密、ですね!」
「うん、私と結花さんの秘密だ。……話を戻すね。送り屋は担当する地域がそれぞれ割り当てられるんだ。現世の場合、瘴気により凶暴化したあやかしを浄化する任務もある。二人の担当地域が隠世なのか現世なのか、直前までわからなかった。そして決まったのが、結花ちゃんも通っている封鬼小学校。──私はね、二人と結花さんは不思議な縁で繋がっているのかもしれないと思うんだ」
もしもあの日、筆箱を教室に忘れていなかったら。
もしも二階の音楽室に寄らずに、帰っていたら。
二人があやかしだって知らないまま、過ごしていたかもしれない。
そう思うと……縁っていうのは、とても不思議だなと感じる。
「それにね、私はあの子たちに友達ができるか心配だったんだ。特に星守は口が悪いから、本当に困ったものだよ」
はぁ、とため気をつく伊織さん。
星守くんが口が悪いのは、共感しかないです……! って声に出しそうになって、グッとこらえた。
でも失礼なことを言ってくるけど、本当にバカにしてるわけじゃないんだよね星守くんって。
えっとこう、微妙なところをついてくるっていうか……うーん?
あれ、やっぱりバカにしてるのかな!?
いやいやっ、私のことおバカって言いながらも色々手伝ってくれたりするから、やっぱり優しいはずだ、星守くんは。
……そう思いたい。
こくりと頷くと、伊織さんは「よろしい」と言ってお茶をすする。
「……烈央と星守が導きの鍵を触れなくなって、人間の結花さんが送り屋の手伝いをすることになったと知った時は、どうなるかと思ったけれど。君なら大丈夫そうだ」
「手伝い……、不可抗力といいますかっ巻きこまれたといいますか……!」
「ふふっそうだね。なぜ人間の結花さんに、導きの鍵が反応したのかわからない以上、烈央と星守から離れないでほしい。あの二人は必ず、君を守ってくれるからね。原因はいま調べているけど、わかるまで時間がかかりそうなんだ」
「そうですか……。ご迷惑をおかけてして、すみません」
「結花さん、顔を上げて。……きっと鍵が何かを示したがっているんだ。それを調べるのは大人の役目。だから君のせいじゃないよ」
伊織さんが優しすぎて、涙が出そうだ。
横にいる桜子ちゃんが立ち上がって「よしよし」と、私の頭を撫でてくれた。
あ、優しさがしみて本当にちょっと涙が出たかも。
「もっと早く……そう、君の体の中に鍵が入った日に会うべきだった。二人が上手く隠し通していたから、会うのが遅くなってしまったんだ。怒られると思ったって。ふふ、隠す方がこってり怒られるというに」
笑いながらも、ゴゴゴッ! と背後に怖いオーラが出ている伊織さん。
この間、烈央くんと星守くんの元気がなかったのは、伊織さんに怒られたからだとわかった。
「一通りのことは隠世で学んでは来たらしいけれど……二人はまだ現世の知識が浅い子供だからね。保護者代理である私が、しっかりしないと。ふふ」
それはもうコッテリ怒られたんだなって思って、私は心の中で二人に手を合わせておく。
「そうだ。結花さんは、なぜ二人が現世に来たのかは聞いているかい?」
「……えっ、送り屋をするためじゃないんですか?」
「正解だよ。ふふっでも送り屋はね、必ずしも現世で活動するわけじゃない。二人がまだ送り屋見習いだった一ヶ月前……正式に送り屋になることが決まったんだ」
「一ヶ月前? ……私、もう二人は何年もやってるんだと思ってました。慣れているっていうか、ちゃんとしてますし!」
「ふふ、それは良いことを聞いた。二人はしっかりと、送り屋を出来ているようだね。現世に来た初日は、やっぱり両親が恋しいのか寂しげにしていたのに」
──あぁ、これは二人には秘密だよ? 私が結花さんに、告げ口をしたって怒られてしまうからね。
おちゃめに笑う伊織さんに、私はこくりと頷いておく。
やっぱり、気丈に見えるけど二人とも寂しかったんだね。
「二人には秘密、ですね!」
「うん、私と結花さんの秘密だ。……話を戻すね。送り屋は担当する地域がそれぞれ割り当てられるんだ。現世の場合、瘴気により凶暴化したあやかしを浄化する任務もある。二人の担当地域が隠世なのか現世なのか、直前までわからなかった。そして決まったのが、結花ちゃんも通っている封鬼小学校。──私はね、二人と結花さんは不思議な縁で繋がっているのかもしれないと思うんだ」
もしもあの日、筆箱を教室に忘れていなかったら。
もしも二階の音楽室に寄らずに、帰っていたら。
二人があやかしだって知らないまま、過ごしていたかもしれない。
そう思うと……縁っていうのは、とても不思議だなと感じる。
「それにね、私はあの子たちに友達ができるか心配だったんだ。特に星守は口が悪いから、本当に困ったものだよ」
はぁ、とため気をつく伊織さん。
星守くんが口が悪いのは、共感しかないです……! って声に出しそうになって、グッとこらえた。
でも失礼なことを言ってくるけど、本当にバカにしてるわけじゃないんだよね星守くんって。
えっとこう、微妙なところをついてくるっていうか……うーん?
あれ、やっぱりバカにしてるのかな!?
いやいやっ、私のことおバカって言いながらも色々手伝ってくれたりするから、やっぱり優しいはずだ、星守くんは。
……そう思いたい。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
【完】ノラ・ジョイ シリーズ
丹斗大巴
児童書・童話
✴* ✴* 母の教えを励みに健気に頑張る女の子の成長と恋の物語 ✴* ✴*
▶【シリーズ1】ノラ・ジョイのむげんのいずみ ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~ 母を亡くしてみなしごになったノラ。職探しの果てに、なんと盗賊団に入ることに! 非道な盗賊のお頭イサイアスの元、母の教えを励みに働くノラ。あるとき、イサイアスの正体が発覚! 「え~っ、イサイアスって、王子だったの!?」いつからか互いに惹かれあっていた二人の運命は……? 母の教えを信じ続けた少女が最後に幸せをつかむシンデレラ&サクセスストーリー
▶【シリーズ2】ノラ・ジョイの白獣の末裔 お互いの正体が明らかになり、再会したノラとイサイアス。ノラは令嬢として相応しい教育を受けるために学校へ通うことに。その道中でトラブルに巻き込まれて失踪してしまう。慌てて後を追うイサイアスの前に現れたのは、なんと、ノラにうりふたつの辺境の民の少女。はてさて、この少女はノラなのかそれとも別人なのか……!?
✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴* ✴*
【完結】お試しダンジョンの管理人~イケメンたちとお仕事がんばってます!~
みなづきよつば
児童書・童話
異世界ファンタジーやモンスター、バトルが好きな人必見!
イケメンとのお仕事や、甘酸っぱい青春のやりとりが好きな方、集まれ〜!
十三歳の女の子が主人公です。
第1回きずな児童書大賞へのエントリー作品です。
投票よろしくお願いします!
《あらすじ》
とある事情により、寝泊まりできて、働ける場所を探していた十三歳の少女、エート。
エートは、路地裏の掲示板で「ダンジョン・マンション 住み込み管理人募集中 面接アリ」というあやしげなチラシを発見する。
建物の管理人の募集だと思い、面接へと向かうエート。
しかし、管理とは実は「お試しダンジョン」の管理のことで……!?
冒険者がホンモノのダンジョンへ行く前に、練習でおとずれる「お試しダンジョン」。
そこでの管理人としてのお仕事は、モンスターとのつきあいや、ダンジョン内のお掃除、はては、ゴーレムづくりまで!?
おれ様イケメン管理人、ヴァンと一緒に、エートがダンジョンを駆けまわる!
アナタも、ダンジョン・マンションの管理人になってみませんか?
***
ご意見・ご感想お待ちしてます!
2023/05/24
野いちごさんへも投稿し始めました。
2023/07/31
第2部を削除し、第1回きずな児童書大賞にエントリーしました。
詳しくは近況ボードをご覧ください。
盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。
桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。
山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。
そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。
するとその人は優しい声で言いました。
「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」
その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。
(この作品はほぼ毎日更新です)
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる