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第四章 現世の朝霧家にて、猫又と座敷童子と
25話
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『結花ちゃんに紹介したい人がいるんだ。……よければ今度の日曜日、俺たちの家に来てもらえるかな?』
『用事があるなら全然断ってくれてもいいからねー。むしろ、断って欲しいんだけど……』
『星守、それは嫌なことを先延ばしにするだけだろう……』
と、やけに元気がない二人に言われたのが二日前の金曜日。
不思議に思いつつも日曜日は何も用事がなかったから、私はいま大きなお屋敷の玄関の前に立っていた。
瓦屋根の立派なお屋敷だ。
玄関にたどり着くまでに大きな池で鯉が泳いでいたり、綺麗なチューリップの花がたくさん咲いていたりと別世界みたい。
こんなにすごいお屋敷に住んでるなんて、烈央くんと星守くんはお金持ちなのかも。
すぅー、はぁー。
深呼吸をして私は、いざ! とインタホーンを鳴らした。
ピンポーンと音がした後「はーい」と、中から声がする。
ガラガラと引き戸の玄関を開けて出てきたのは、美人の……お兄さん?
「──あぁ、いらっしゃい」
すこし迷ったのはとっても綺麗な顔と、腰まであるサラサラとした髪の毛だったから。
でも見上げるほど身長が高くて、夏目先生より高いかもしれない。
髪の毛は銀色で、毛先に行くほど薄紫色へグラデーションになっててキラキラと輝いている。
「君は……結花さんだね? 烈央と星守から話は聞いているよ。はじめまして」
「は、はじめましてっ!」
「私は伊織。さあ、上がっておくれ結花さん」
伊織さんは着物を着ていて、だからなのかすごく姿勢が良い。
自然と私も背筋がのびた。
おいでと手招きする伊織さんの後をついていき、家の中に入ると広い和室に通される。
畳のいい匂いがした。
私は用意されていた座布団に、ちょこんと座る。
「烈央と星守は、ちょっと用事で出払っててね。もうすぐ帰ってくるから、ゆっくりしてておくれ」
「はいっ!」
「──おや。私としたことが、お茶とお菓子の用意を忘れていた。ちょっと待ってて」
「お、おかまいなくっ!」
伊織さんはニコリとほほえむと、部屋を出ていった。
姿が見えなくなって、私は無意識のうちに入っていた体の力をぬく。
「ふぅ……緊張したっ。伊織さんって、二人のお父さんなのかな? それともお兄さんとか?」
ふと部屋を見渡せば、一段高くなっている床の間のスペースには掛け軸があった。
じゃれあう小さな二匹の狐が描かれている。
まるで烈央くんと星守くんみたい。
「ふふっ、可愛い」
「──おねぇちゃん、狐が好きなのー?」
「うん、好きだよ! 私、もふもふしてる動物が好きでね……へ?」
いま私、誰と喋ってた?
伊織さんが出ていったから、この部屋には私一人のはず。
なのに小さな女の子の声が聞こえた。
「──おねぇちゃん、遊ぼ?」
まただ!!
……私はギギギと、古びたロボットのように顔を動かして声がした方を向く。
「あたしとかくれんぼ、する?」
くりくりと大きな瞳、真っ赤な着物、おかっぱ頭の……小さな女の子が居た。
こてん、と首をかしげている。
「で、でっ出たぁぁぁぁぁあ!?」
── 幽霊っ、幽霊が出た!!
転がるように部屋の隅に移動して、女の子と距離を取る。
「誰かっ、烈央くん星守くん! 早く帰ってきてー!」
ひぃぃぃぃと頭を抱えて部屋の隅で小さくなっていると、とある名前が浮かんできた。
おかっぱ頭に、着物を着ている子供。
「……もしかして、ざ、座敷わらしっ?」
「おー。ご名答~」
私が震えた声で言えば、パチパチと手を叩いてほめてくれた。
えへへ、嬉し……くないよっ!?
「ねーねー。おねぇちゃんはなにしに来たの? 伊織に用事? あたしは座敷わらし~」
こてん、と首をかしげる仕草は可愛い。
ドッドッと速い心臓がゆっくりになるのを待って、私はじりじりと座敷わらしちゃんに近寄る。
「あ、あなた……本当に座敷わらしなの?」
「なぬぅ、桜子をうたがうの? ひどーい」
座敷わらしちゃんは桜子と言うらしい。
桜子ちゃんは、ぷくーと頬をふくらませてご立腹。
なんだか小さい子に悪いことをしたみたいで、罪悪感がわいてきた。
「えぇっ、そんなつもりじゃなかったの! ごめんね桜子ちゃん」
「わかればいいのです。許しましょうぞ」
……どうにか許してもらえたみたい?
ほっと胸を撫で下ろしていると、桜子ちゃんがじーっと私に視線を送ってくる。
なんとなく見返していると、そのままお互い無言で見つめ合うこと数十秒。
スッと襖が開いて、伊織さんが帰ってきた。
手には、カステラとコップが乗ったトレーを持っている。
「結花さん、カステラは食べれる──おや?」
伊織さんは桜子ちゃんが部屋にいることに気づいて、片眉を上げた。
「伊織ー、このおねぇちゃんが昨日言ってたお客さん?」
「そうだよ。桜子、私は勝手に部屋に入っちゃダメって言ってたのに。まったくもう」
結花さんを驚かせてしまうのだから、と付け加えた伊織さん。
……それはもう、はい。
ビックリしました。
畳に打ちつけた肩がヒリヒリと少し痛い。
「だって、早く会いたかったんだもん。……ごめんね、おねぇちゃん?」
大きな瞳をきゅるるん、と潤ませて上目づかいで私を見る桜子ちゃん。
くっ、可愛いすぎる……!
「伊織さん、大丈夫ですよ。ほら桜子ちゃん、結花おねぇちゃんは元気!」
右腕をあげて、力こぶを見せてあげると桜子ちゃんは「おぉー」と言ってくれた。
……力こぶなんて、ちっともないのに。
小さな子に気を使わせてしまった自分に、情けない気分になってしまった。
『用事があるなら全然断ってくれてもいいからねー。むしろ、断って欲しいんだけど……』
『星守、それは嫌なことを先延ばしにするだけだろう……』
と、やけに元気がない二人に言われたのが二日前の金曜日。
不思議に思いつつも日曜日は何も用事がなかったから、私はいま大きなお屋敷の玄関の前に立っていた。
瓦屋根の立派なお屋敷だ。
玄関にたどり着くまでに大きな池で鯉が泳いでいたり、綺麗なチューリップの花がたくさん咲いていたりと別世界みたい。
こんなにすごいお屋敷に住んでるなんて、烈央くんと星守くんはお金持ちなのかも。
すぅー、はぁー。
深呼吸をして私は、いざ! とインタホーンを鳴らした。
ピンポーンと音がした後「はーい」と、中から声がする。
ガラガラと引き戸の玄関を開けて出てきたのは、美人の……お兄さん?
「──あぁ、いらっしゃい」
すこし迷ったのはとっても綺麗な顔と、腰まであるサラサラとした髪の毛だったから。
でも見上げるほど身長が高くて、夏目先生より高いかもしれない。
髪の毛は銀色で、毛先に行くほど薄紫色へグラデーションになっててキラキラと輝いている。
「君は……結花さんだね? 烈央と星守から話は聞いているよ。はじめまして」
「は、はじめましてっ!」
「私は伊織。さあ、上がっておくれ結花さん」
伊織さんは着物を着ていて、だからなのかすごく姿勢が良い。
自然と私も背筋がのびた。
おいでと手招きする伊織さんの後をついていき、家の中に入ると広い和室に通される。
畳のいい匂いがした。
私は用意されていた座布団に、ちょこんと座る。
「烈央と星守は、ちょっと用事で出払っててね。もうすぐ帰ってくるから、ゆっくりしてておくれ」
「はいっ!」
「──おや。私としたことが、お茶とお菓子の用意を忘れていた。ちょっと待ってて」
「お、おかまいなくっ!」
伊織さんはニコリとほほえむと、部屋を出ていった。
姿が見えなくなって、私は無意識のうちに入っていた体の力をぬく。
「ふぅ……緊張したっ。伊織さんって、二人のお父さんなのかな? それともお兄さんとか?」
ふと部屋を見渡せば、一段高くなっている床の間のスペースには掛け軸があった。
じゃれあう小さな二匹の狐が描かれている。
まるで烈央くんと星守くんみたい。
「ふふっ、可愛い」
「──おねぇちゃん、狐が好きなのー?」
「うん、好きだよ! 私、もふもふしてる動物が好きでね……へ?」
いま私、誰と喋ってた?
伊織さんが出ていったから、この部屋には私一人のはず。
なのに小さな女の子の声が聞こえた。
「──おねぇちゃん、遊ぼ?」
まただ!!
……私はギギギと、古びたロボットのように顔を動かして声がした方を向く。
「あたしとかくれんぼ、する?」
くりくりと大きな瞳、真っ赤な着物、おかっぱ頭の……小さな女の子が居た。
こてん、と首をかしげている。
「で、でっ出たぁぁぁぁぁあ!?」
── 幽霊っ、幽霊が出た!!
転がるように部屋の隅に移動して、女の子と距離を取る。
「誰かっ、烈央くん星守くん! 早く帰ってきてー!」
ひぃぃぃぃと頭を抱えて部屋の隅で小さくなっていると、とある名前が浮かんできた。
おかっぱ頭に、着物を着ている子供。
「……もしかして、ざ、座敷わらしっ?」
「おー。ご名答~」
私が震えた声で言えば、パチパチと手を叩いてほめてくれた。
えへへ、嬉し……くないよっ!?
「ねーねー。おねぇちゃんはなにしに来たの? 伊織に用事? あたしは座敷わらし~」
こてん、と首をかしげる仕草は可愛い。
ドッドッと速い心臓がゆっくりになるのを待って、私はじりじりと座敷わらしちゃんに近寄る。
「あ、あなた……本当に座敷わらしなの?」
「なぬぅ、桜子をうたがうの? ひどーい」
座敷わらしちゃんは桜子と言うらしい。
桜子ちゃんは、ぷくーと頬をふくらませてご立腹。
なんだか小さい子に悪いことをしたみたいで、罪悪感がわいてきた。
「えぇっ、そんなつもりじゃなかったの! ごめんね桜子ちゃん」
「わかればいいのです。許しましょうぞ」
……どうにか許してもらえたみたい?
ほっと胸を撫で下ろしていると、桜子ちゃんがじーっと私に視線を送ってくる。
なんとなく見返していると、そのままお互い無言で見つめ合うこと数十秒。
スッと襖が開いて、伊織さんが帰ってきた。
手には、カステラとコップが乗ったトレーを持っている。
「結花さん、カステラは食べれる──おや?」
伊織さんは桜子ちゃんが部屋にいることに気づいて、片眉を上げた。
「伊織ー、このおねぇちゃんが昨日言ってたお客さん?」
「そうだよ。桜子、私は勝手に部屋に入っちゃダメって言ってたのに。まったくもう」
結花さんを驚かせてしまうのだから、と付け加えた伊織さん。
……それはもう、はい。
ビックリしました。
畳に打ちつけた肩がヒリヒリと少し痛い。
「だって、早く会いたかったんだもん。……ごめんね、おねぇちゃん?」
大きな瞳をきゅるるん、と潤ませて上目づかいで私を見る桜子ちゃん。
くっ、可愛いすぎる……!
「伊織さん、大丈夫ですよ。ほら桜子ちゃん、結花おねぇちゃんは元気!」
右腕をあげて、力こぶを見せてあげると桜子ちゃんは「おぉー」と言ってくれた。
……力こぶなんて、ちっともないのに。
小さな子に気を使わせてしまった自分に、情けない気分になってしまった。
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