あやかし達の送り屋をやっています! 〜正反対な狐のあやかし双子との出会い〜

巴藍

文字の大きさ
上 下
25 / 53
第四章 現世の朝霧家にて、猫又と座敷童子と

25話

しおりを挟む
結花ゆかちゃんに紹介したい人がいるんだ。……よければ今度の日曜日、俺たちの家に来てもらえるかな?』
『用事があるなら全然断ってくれてもいいからねー。むしろ、断って欲しいんだけど……』
星守せら、それは嫌なことを先延ばしにするだけだろう……』

 と、やけに元気がない二人に言われたのが二日前の金曜日。
 不思議に思いつつも日曜日は何も用事がなかったから、私はいま大きなお屋敷の玄関の前に立っていた。

 瓦屋根の立派なお屋敷だ。
 玄関にたどり着くまでに大きな池で鯉が泳いでいたり、綺麗なチューリップの花がたくさん咲いていたりと別世界みたい。
 こんなにすごいお屋敷に住んでるなんて、烈央れおくんと星守くんはお金持ちなのかも。

 すぅー、はぁー。
 深呼吸をして私は、いざ! とインタホーンを鳴らした。
 ピンポーンと音がした後「はーい」と、中から声がする。
 ガラガラと引き戸の玄関を開けて出てきたのは、美人の……お兄さん?

「──あぁ、いらっしゃい」

 すこし迷ったのはとっても綺麗な顔と、腰まであるサラサラとした髪の毛だったから。
 でも見上げるほど身長が高くて、夏目先生より高いかもしれない。
 髪の毛は銀色で、毛先に行くほど薄紫色へグラデーションになっててキラキラと輝いている。

「君は……結花さんだね? 烈央と星守から話は聞いているよ。はじめまして」
「は、はじめましてっ!」
「私は伊織いおり。さあ、上がっておくれ結花さん」

 伊織さんは着物を着ていて、だからなのかすごく姿勢が良い。
 自然と私も背筋がのびた。
 おいでと手招きする伊織さんの後をついていき、家の中に入ると広い和室に通される。
 畳のいい匂いがした。
 私は用意されていた座布団に、ちょこんと座る。

「烈央と星守は、ちょっと用事で出払っててね。もうすぐ帰ってくるから、ゆっくりしてておくれ」
「はいっ!」
「──おや。私としたことが、お茶とお菓子の用意を忘れていた。ちょっと待ってて」
「お、おかまいなくっ!」

 伊織さんはニコリとほほえむと、部屋を出ていった。
 姿が見えなくなって、私は無意識のうちに入っていた体の力をぬく。

「ふぅ……緊張したっ。伊織さんって、二人のお父さんなのかな? それともお兄さんとか?」

 ふと部屋を見渡せば、一段高くなっている床の間のスペースには掛け軸があった。
 じゃれあう小さな二匹の狐が描かれている。
 まるで烈央くんと星守くんみたい。

「ふふっ、可愛い」
「──おねぇちゃん、狐が好きなのー?」
「うん、好きだよ! 私、もふもふしてる動物が好きでね……へ?」

 いま私、誰と喋ってた?
 伊織さんが出ていったから、この部屋には私一人のはず。
 なのに小さな女の子の声が聞こえた。

「──おねぇちゃん、遊ぼ?」

 まただ!!
 ……私はギギギと、古びたロボットのように顔を動かして声がした方を向く。

「あたしとかくれんぼ、する?」

 くりくりと大きな瞳、真っ赤な着物、おかっぱ頭の……小さな女の子が居た。
 こてん、と首をかしげている。
 
「で、でっ出たぁぁぁぁぁあ!?」

 ── 幽霊っ、幽霊が出た!!
 転がるように部屋の隅に移動して、女の子と距離を取る。

「誰かっ、烈央くん星守くん! 早く帰ってきてー!」

 ひぃぃぃぃと頭を抱えて部屋の隅で小さくなっていると、とある名前が浮かんできた。
 おかっぱ頭に、着物を着ている子供。

「……もしかして、ざ、座敷わらしっ?」
「おー。ご名答~」

 私が震えた声で言えば、パチパチと手を叩いてほめてくれた。
 えへへ、嬉し……くないよっ!?

「ねーねー。おねぇちゃんはなにしに来たの? 伊織に用事? あたしは座敷わらし~」

 こてん、と首をかしげる仕草は可愛い。
 ドッドッと速い心臓がゆっくりになるのを待って、私はじりじりと座敷わらしちゃんに近寄る。

「あ、あなた……本当に座敷わらしなの?」
「なぬぅ、桜子さくらこをうたがうの? ひどーい」

 座敷わらしちゃんは桜子と言うらしい。
 桜子ちゃんは、ぷくーと頬をふくらませてご立腹。
 なんだか小さい子に悪いことをしたみたいで、罪悪感がわいてきた。

「えぇっ、そんなつもりじゃなかったの! ごめんね桜子ちゃん」
「わかればいいのです。許しましょうぞ」

 ……どうにか許してもらえたみたい?
 ほっと胸を撫で下ろしていると、桜子ちゃんがじーっと私に視線を送ってくる。
 なんとなく見返していると、そのままお互い無言で見つめ合うこと数十秒。
 スッとふすまが開いて、伊織さんが帰ってきた。
 手には、カステラとコップが乗ったトレーを持っている。

「結花さん、カステラは食べれる──おや?」

 伊織さんは桜子ちゃんが部屋にいることに気づいて、片眉を上げた。

「伊織ー、このおねぇちゃんが昨日言ってたお客さん?」
「そうだよ。桜子、私は勝手に部屋に入っちゃダメって言ってたのに。まったくもう」

 結花さんを驚かせてしまうのだから、と付け加えた伊織さん。
 ……それはもう、はい。
 ビックリしました。
 畳に打ちつけた肩がヒリヒリと少し痛い。

「だって、早く会いたかったんだもん。……ごめんね、おねぇちゃん?」

 大きな瞳をきゅるるん、と潤ませて上目づかいで私を見る桜子ちゃん。
 くっ、可愛いすぎる……!

「伊織さん、大丈夫ですよ。ほら桜子ちゃん、結花おねぇちゃんは元気!」

 右腕をあげて、力こぶを見せてあげると桜子ちゃんは「おぉー」と言ってくれた。
 ……力こぶなんて、ちっともないのに。
 小さな子に気を使わせてしまった自分に、情けない気分になってしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

ぬらりひょんと私

四宮 あか
児童書・童話
私の部屋で私の漫画を私より先に読んでいるやつがいた。 俺こういうものです。 差し出されたタブレットに開かれていたのはwiki…… 自己紹介、タブレットでwiki開くの? 私の部屋でくつろいでる変な奴は妖怪ぬらりひょんだったのだ。 ぬらりひょんの術を破った私は大変なことに巻き込まれた……

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

左左左右右左左  ~いらないモノ、売ります~

菱沼あゆ
児童書・童話
 菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。 『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。  旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』  大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?

待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。 けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た! ……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね? 何もかも、私の勘違いだよね? 信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?! 【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

処理中です...