あやかし達の送り屋をやっています! 〜正反対な狐のあやかし双子との出会い〜

巴藍

文字の大きさ
上 下
24 / 53
第三章 小さな神様の、探し人

24話

しおりを挟む
 いまでこそ私は、わた毛のあやかしや小さなあやかしは好きだ。
 でも一時期はあやかしが見えることが、すごく嫌だったし怖いと思っていた。

 けれど見えるからこそ、こうして烈央くんと星守くんとの不思議なえにしになったし、悪いことだけじゃなかったって思ってる。
 だから佐藤先生にも鈴葉様が見えてほしいって、声が聞こえてほしいってすごく思うのに。

 モヤモヤぐるぐると、私の中で大きくなっていく感情に心が追いつかない……。
 
『結花、近うよれ』
「……っ、はい鈴葉様」
隠世かくりよへの門は、祠の前で出してほしいのじゃ。あそこは、妾のお家じゃからの!』

 ニパッと笑う鈴葉様。

「そうそう。はやく隠世に行かないと、消えちゃうんじゃない? だってまだ、こーんなにちっこいんだからさ」
『なにをぉ!? お主たちが妾のことを考えてくれたおかげで、昨日から三センチの背が伸びたんじゃぞ! この調子で隠世に行けば、元の大人な妾に返り咲けると言うものよ。星守よりもっと、背が高くなってしまうのぉ? あーはっはっはっ!!』
「──烈央、結花。このエセ神様をはやく隠世に送っちゃおうよ」
『ぎゃ! 離せ無礼者っ! 結花、結花ー! 白い狸が妾をいじめるぅ!』
「誰が白い狸だって!? ボクは狐だ!」

 言い合いを始めた二人を見て、私と烈央くんは肩をすくめる。

「まったく、騒がしいんだからあの二人は」
「……ふふ、ほんとだね! あははっ」
「──やっと笑った、結花ちゃん」

 烈央くんに言われて、あっと気づく。
 私、保健室に入ってから一度も笑ってないかも。
 出た後も烈央くんたちの前で、暗い顔をしてたような……。

「──あやかしや神様は、人間と交わらない」
「っ!」
「って星守に言われたんじゃない?」
「ど、どうしてわかったの」
「うーん。そう言われた顔をしていたから、かな?」

 ……はぐらかされてしまった。
 烈央くんは鈴葉様を優しげな瞳で見つめている。

「人間とあやかしじゃ、生きる年月が違う。それは、結花ちゃんもわかるだろう?」
「うん……。でも、それでもっ。少しの間でもいいから、一緒にいたいって思う人もいるんじゃないかな?」
「……置いていかれる方は、ずっと相手を想い、恋焦がれて苦しさでおかしくなる。もう会えないとわかりながらも、自分の命が消えるまで何百年も燃え続けるなんて、俺なら耐えられそうにないな」

 目を伏せて、いまにも泣きそうな顔をする烈央くん。
 ちくり、と胸が痛い。

 生きる年月が違ったら……。
 じゃあ二人にとって、私と一緒にいた時間はほんの一瞬だったっていつか感じるのかな。
 せっかくこうやって烈央くんと星守くんと出会えて、友達になれたのに。
 ……そんなの嫌だ。
 二人においていかれるのも、二人をおいていくのも、どっちも嫌だよ。

「……烈央くん。私、長生きする!」
「結花ちゃん?」

 急にふがーと鼻息を荒くして、宣言した私を烈央くんは目をまんまるにしながら見た。

「それでね──あやかしのこともっと知りたい。鈴葉様は土地神様だったけど、人には見えない存在について、もっともっと知りたい! 詳しくなりたい。しわくちゃのおばあちゃんになっても、烈央くんと星守くんに教えてもらうからね!」

 私がそう言うと、ピシリと固まってしまった烈央くん。

「おーい。烈央くん?」
「……ふふ、嬉しい」

 烈央くんにしては珍しく、へにゃりと笑った。
 初めて見る笑顔に、ドキリとする。

「あやかしについて、もっと知りたいんだよね? なら、あやかしを相手にしてる送り屋は君にピッタリだ。ふふ」
「うん、そうだね──へ?」

 烈央くんは私の両手をギュッとにぎる。
 綺麗な顔を近づけてきて、大きな瞳に私がうつっているのが見えた。

「これから先もずっと、ずーっと。一緒に送り屋として頑張ろうね結花ちゃん」
「え?」

 いい話だった気がするのに……いつの間にやら、私が送り家のお手伝いをすることになってない!?

◆◆◆◆◆

「今日こそ、結花の家で遊ぶ──じゃなくて作戦会議ね。ここ数日、忙しくて行けてないしー」
「いま遊ぶって言わなかった? 星守くん」
「気のせいじゃない?」
「俺は、はっきり聞こえたよ」
「烈央は黙ってて。結花なら、ワンチャン聞き逃してるかもしれないんだからっ」

 下駄箱で靴を履き替えながら、私たちは今日も今日とてケンカ──じゃなくて意見交換中!

 小さな神様、鈴葉様の一件が落ち着いて日常が戻ってきた。
 鈴葉様は最後、笑顔で門をくぐりながら隠世の世界に行ったよ。

 そして烈央くんと星守くんの二人が、密かに心配していた土地神様の不在。
 二人の話を聞いた時はたしかに、封鬼ふうき小学校一帯の土地を守っていた神様がいなくなるのは心配だと私も思った。
 だけど鈴葉様が隠世に行く前に『隣町の神に、ここら辺も守るよう頼んでおいたから大丈夫じゃ! たぶん!』と、言い残していったの。

 そういえば昨日、杖をついて肩で息をしながら裏山の方へいく派手な着物のおじいさんを見かけたけど……。
 もしかして、あの人が隣町の土地神様だったりするのかな?

「あら、結花ちゃん」
「──佐藤先生!」

 ひらり、と手を振りながら佐藤先生が隣にやってくる。
 佐藤先生と話すのは、保健室で会ったあの日以来……一週間ぶりくらいかな。

「気をつけて帰るのよ、三人とも」
「はい!」
「はい」
「はーい」
「ふふ、良い返事ね。……そうだ、結花ちゃん」
「はい?」
「二人で、祠の話をした日があったでしょう? なんだか昔がなつかしくなって次の日、祠に手を合わせに行ったの。でも……祠には誰もいない気がしてね。さようなら、と告げてきたわ」
「そう、ですか……」

 佐藤先生が言ったように、もうあの祠には鈴葉様は居ない。
 探し求めていた女の子が佐藤先生だとわかったあの日にすぐ、鈴葉様は門をくぐって隠世に行ってしまったから。
 佐藤先生は、こちらの様子を伺っている二人をちらりと見て私の耳元に顔を寄せた。

「……友達と裏山に行ったって言ってたわよね? もしかして烈央くんと星守くん? 結花ちゃんったら、モテモテねぇ」
「──へぁ!? い、一緒には行きましたけど、モテてるとかじゃないですっ!」

 慌てふためく私を見てころころと笑い、佐藤先生は保健室へ戻っていった。

 モテモテねぇ、って……!
 そんなんじゃないのに!
 二人は、私が巻きこむ形で裏山にやってきたと言うか……!
 なんて言い訳を考えても、もう佐藤先生はこの場にいない。
 はぁ、と脱力してその場にしゃがみこむ。

「──結花ちゃん、話は終わったかい?」
「なにぼさっとしてんの結花。置いてくよ~」
「あ、待ってよ二人とも!」

  
 人とあやかし。
 人と神様。
 交わりそうで、絶対に交わらないその二つは本当に違う存在なのかな。
 もしも佐藤先生に鈴葉様の姿が見えていたら、隠世へ行ってしまう前に鈴葉様とお話ができたのに、とか。
 そんな考えがぐるぐると頭の中でめぐる。
 考えたって仕方のないことだとはわかっているけど、そう思わずにはいられなかった。

 人である佐藤先生と、神様の鈴葉様。
 人の私と、あやかしである烈央くんと星守くん。
 不思議なえにしというのは、どこで絡みあって引き寄せられるのかわからないものなんだ。

 人とあやかし。
 人と神様。
 誰かを思って涙して、笑うのはどちらも同じなんだと私は思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1、ブザービートからはじまる恋〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※第15回童話・児童書大賞用作品のため、アルファポリス様のみで掲載中。→noichigoさんに転載。

小さな王子さまのお話

佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』…… **あらすじ** 昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。 珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。 王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。 なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。 「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。 ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…? 『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』―― 亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。 全年齢の童話風ファンタジーになります。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

妖精の風の吹くまま~家を追われた元伯爵令嬢は行き倒れたわけあり青年貴族を拾いました~

狭山ひびき@バカふり200万部突破
児童書・童話
妖精女王の逆鱗に触れた人間が妖精を見ることができなくなって久しい。 そんな中、妖精が見える「妖精に愛されし」少女エマは、仲良しの妖精アーサーとポリーとともに友人を探す旅の途中、行き倒れの青年貴族ユーインを拾う。彼は病に倒れた友人を助けるために、万能薬(パナセア)を探して旅をしているらしい。「友人のために」というユーインのことが放っておけなくなったエマは、「おいエマ、やめとけって!」というアーサーの制止を振り切り、ユーインの薬探しを手伝うことにする。昔から妖精が見えることを人から気味悪がられるエマは、ユーインにはそのことを告げなかったが、伝説の万能薬に代わる特別な妖精の秘薬があるのだ。その薬なら、ユーインの友人の病気も治せるかもしれない。エマは薬の手掛かりを持っている妖精女王に会いに行くことに決める。穏やかで優しく、そしてちょっと抜けているユーインに、次第に心惹かれていくエマ。けれども、妖精女王に会いに行った山で、ついにユーインにエマの妖精が見える体質のことを知られてしまう。 「……わたしは、妖精が見えるの」 気味悪がられることを覚悟で告げたエマに、ユーインは―― 心に傷を抱える妖精が見える少女エマと、心優しくもちょっとした秘密を抱えた青年貴族ユーイン、それからにぎやかな妖精たちのラブコメディです。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...