23 / 53
第三章 小さな神様の、探し人
23話
しおりを挟む
「そうねぇ……。結花ちゃんと同じ、小学生五年生くらいの時かしら? 同じクラスに理人くんって男の子がいたの。私、その理人くんのことが大好きで仕方なくてある日、裏山の祠の神様にお祈りに行ったの。そうしたら次の日、たまたま理人くんと一緒に下校できたわ。二人きりでよ? もうすっごく嬉しかったのをいまでも覚えてるの」
「……すごいですね! 好きな子と二人きりで一緒に帰るなんて、私ならドキドキして心臓がもたないかも」
私の言葉に佐藤先生は「あははっ!」と笑って、目尻の涙を指でぬぐう。
「私も、すっごくドキドキしちゃってね? これはあの祠の神様が、私を応援してくれてるんだって思ったわ。何日かそういうことが続いたある日、勇気を出して告白したの。理人くんに」
──きた!
告白して、どうなったのか。
鈴葉様が隠世に行く前に、どうしても知りたかった心残り。
私も鈴葉様も、ごくりとツバをのみこんで佐藤先生の言葉を待った。
「好きです、付き合ってくださいって。──でも結局、ふられちゃったわ。それはもう、あっけなくね」
『なん、じゃと?』
「そんな……!」
鈴葉様は、あの時の女の子……佐藤先生の幸せを願っていたのに。
失恋していたなんて悲しすぎる。
ちらりと鈴葉様を見れば、頬を大粒の涙が伝っていきポトポトと机の上に落ちていった。
『妾に恋愛成就の力があれば……。すまなかったのぉ、すまなかったのぉ』
「鈴葉様……」
ポツリとこぼれた私の声に、佐藤先生が不思議な顔をする。
なんでもありませんっ、と手をふってごまかした。
「あ、でもね? この話には続きがあって。……実はふられた後、一人でいた私を慰めてくれた男の子がいたの。その後も、なんだかんだ同じ中学、高校……大学まで同じだったのよ? その子──翔太さんは、いまは私の旦那さん。結婚して二十年以上になるわ」
私と鈴葉様はバッと顔を見合わせる。
鈴葉様は、ふにゃあと泣き笑い。
私もつられて、涙をぬぐう。
「結花ちゃん? あらまぁ、どうしたの」
佐藤先生がティッシュ箱を持ってきて、私の涙を拭いてくれた。
「それはっ、すごい縁ですね。よかった……よかったですっ」
「泣いて喜んでくれるなんて、結花ちゃんは優しい子ね。ふふ、ありがとう。──いまとなっては運命の人は、理人くんじゃなく翔太さんだったんだって思ってるわ」
ニコリと幸せそうに笑う佐藤先生。
見ているこっちまで、自然と笑顔になった。
──鈴葉様?
ぐいっと涙を服の袖で拭いた鈴葉様は、ふわりと宙に浮いた。
そのままスゥと佐藤先生に近づく。
とても優しい眼差しで佐藤先生を見つめた。
『……共に人生を歩む伴侶ができてよかったの和香子』
和香子は佐藤先生の下の名前だったはず。
──あ、だからか!
ずっと鈴葉様は、私たちが呼ぶ「佐藤先生」という名前にピンときてなかった。
理由は簡単。
佐藤先生は結婚したから、苗字がかわっていたんだ。
だから鈴葉様がピンと来てなかったのも、納得できる。
鈴葉様は佐藤先生のおでこに、ちゅと優しくキスをした。
愛おしそうに佐藤先生を見る鈴葉様に、またチクリと胸が痛くなる。
だって……だって、こんなにも喜んでいる鈴葉様の姿が、佐藤先生には見えていない。
もしも見えていたらと、思わずにはいられないよっ……!
「っ、佐藤先生──」
──キーンコーンカーンコーン。
私の声をかき消すように、チャイムが鳴る。
……これは授業が終わる合図でもあり、いまこの時間が終わる合図でもあった。
「六時間目が終わったわね。結花ちゃん、体調は大丈夫? 歩いて帰れそうかしら」
「……は、はい、大丈夫です。ありがとうございました」
最後にティッシュでスピッと鼻水をかんで、立ち上がる。
「失礼しました」
「気をつけてね。……なんだか、結花ちゃんとお話しして、今日はとてもなつかしいことを思いだしたわ。ありがとう」
鈴葉様を肩に乗せて保健室を出ると、壁にもたれかかりながら烈央くんと星守くんが待っていた。
「おかえり結花ちゃん、鈴葉様。無事に探していた子が見つかってよかったね、鈴葉様」
『あぁ、協力してくれてありがとのぅ三人とも。これで安心して隠世に行けるのじゃ』
ふわりと浮いた鈴葉様は、烈央くんの肩に着地する。
その様子を見て、私は星守くんのそばに行き小声でとある提案をした。
「ねぇ星守くん。……佐藤先生に、鈴葉様が見えるようにできるお札とか術とかあったりしない?」
「え?」
星守くんは一度だけ視線を鈴葉様に向けて、目を伏せた。
「結花……。人とあやかしは本来、交わってはいけないんだ。人間はあやかしが見えないし声も聞こえない、触れない。そういうもの。……鈴葉は土地神だからなおさら、一人の人間と関係を持つなんてできないよ」
「そんな……」
「ボクたちと結花のことだって、本当はすごくイレギュラーなことだし。結花が人間の中でも特別で、あやかしが見えるからこそ繋がった縁なんだよ」
佐藤先生はあやかしが見えない。
そこを無理やり見えるようにしても、佐藤先生に悪い影響が出るかもしれないって星守くんは言う。
たった一言だけでも、鈴葉様がどれだけ佐藤先生の幸せを願っていたか伝えたいのに。
……はじめて、もどかしいって思った。
「……すごいですね! 好きな子と二人きりで一緒に帰るなんて、私ならドキドキして心臓がもたないかも」
私の言葉に佐藤先生は「あははっ!」と笑って、目尻の涙を指でぬぐう。
「私も、すっごくドキドキしちゃってね? これはあの祠の神様が、私を応援してくれてるんだって思ったわ。何日かそういうことが続いたある日、勇気を出して告白したの。理人くんに」
──きた!
告白して、どうなったのか。
鈴葉様が隠世に行く前に、どうしても知りたかった心残り。
私も鈴葉様も、ごくりとツバをのみこんで佐藤先生の言葉を待った。
「好きです、付き合ってくださいって。──でも結局、ふられちゃったわ。それはもう、あっけなくね」
『なん、じゃと?』
「そんな……!」
鈴葉様は、あの時の女の子……佐藤先生の幸せを願っていたのに。
失恋していたなんて悲しすぎる。
ちらりと鈴葉様を見れば、頬を大粒の涙が伝っていきポトポトと机の上に落ちていった。
『妾に恋愛成就の力があれば……。すまなかったのぉ、すまなかったのぉ』
「鈴葉様……」
ポツリとこぼれた私の声に、佐藤先生が不思議な顔をする。
なんでもありませんっ、と手をふってごまかした。
「あ、でもね? この話には続きがあって。……実はふられた後、一人でいた私を慰めてくれた男の子がいたの。その後も、なんだかんだ同じ中学、高校……大学まで同じだったのよ? その子──翔太さんは、いまは私の旦那さん。結婚して二十年以上になるわ」
私と鈴葉様はバッと顔を見合わせる。
鈴葉様は、ふにゃあと泣き笑い。
私もつられて、涙をぬぐう。
「結花ちゃん? あらまぁ、どうしたの」
佐藤先生がティッシュ箱を持ってきて、私の涙を拭いてくれた。
「それはっ、すごい縁ですね。よかった……よかったですっ」
「泣いて喜んでくれるなんて、結花ちゃんは優しい子ね。ふふ、ありがとう。──いまとなっては運命の人は、理人くんじゃなく翔太さんだったんだって思ってるわ」
ニコリと幸せそうに笑う佐藤先生。
見ているこっちまで、自然と笑顔になった。
──鈴葉様?
ぐいっと涙を服の袖で拭いた鈴葉様は、ふわりと宙に浮いた。
そのままスゥと佐藤先生に近づく。
とても優しい眼差しで佐藤先生を見つめた。
『……共に人生を歩む伴侶ができてよかったの和香子』
和香子は佐藤先生の下の名前だったはず。
──あ、だからか!
ずっと鈴葉様は、私たちが呼ぶ「佐藤先生」という名前にピンときてなかった。
理由は簡単。
佐藤先生は結婚したから、苗字がかわっていたんだ。
だから鈴葉様がピンと来てなかったのも、納得できる。
鈴葉様は佐藤先生のおでこに、ちゅと優しくキスをした。
愛おしそうに佐藤先生を見る鈴葉様に、またチクリと胸が痛くなる。
だって……だって、こんなにも喜んでいる鈴葉様の姿が、佐藤先生には見えていない。
もしも見えていたらと、思わずにはいられないよっ……!
「っ、佐藤先生──」
──キーンコーンカーンコーン。
私の声をかき消すように、チャイムが鳴る。
……これは授業が終わる合図でもあり、いまこの時間が終わる合図でもあった。
「六時間目が終わったわね。結花ちゃん、体調は大丈夫? 歩いて帰れそうかしら」
「……は、はい、大丈夫です。ありがとうございました」
最後にティッシュでスピッと鼻水をかんで、立ち上がる。
「失礼しました」
「気をつけてね。……なんだか、結花ちゃんとお話しして、今日はとてもなつかしいことを思いだしたわ。ありがとう」
鈴葉様を肩に乗せて保健室を出ると、壁にもたれかかりながら烈央くんと星守くんが待っていた。
「おかえり結花ちゃん、鈴葉様。無事に探していた子が見つかってよかったね、鈴葉様」
『あぁ、協力してくれてありがとのぅ三人とも。これで安心して隠世に行けるのじゃ』
ふわりと浮いた鈴葉様は、烈央くんの肩に着地する。
その様子を見て、私は星守くんのそばに行き小声でとある提案をした。
「ねぇ星守くん。……佐藤先生に、鈴葉様が見えるようにできるお札とか術とかあったりしない?」
「え?」
星守くんは一度だけ視線を鈴葉様に向けて、目を伏せた。
「結花……。人とあやかしは本来、交わってはいけないんだ。人間はあやかしが見えないし声も聞こえない、触れない。そういうもの。……鈴葉は土地神だからなおさら、一人の人間と関係を持つなんてできないよ」
「そんな……」
「ボクたちと結花のことだって、本当はすごくイレギュラーなことだし。結花が人間の中でも特別で、あやかしが見えるからこそ繋がった縁なんだよ」
佐藤先生はあやかしが見えない。
そこを無理やり見えるようにしても、佐藤先生に悪い影響が出るかもしれないって星守くんは言う。
たった一言だけでも、鈴葉様がどれだけ佐藤先生の幸せを願っていたか伝えたいのに。
……はじめて、もどかしいって思った。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。
桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。
山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。
そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。
するとその人は優しい声で言いました。
「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」
その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。
(この作品はほぼ毎日更新です)

四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~
めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。
いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている.
気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。
途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。
「ドラゴンがお姉さんになった?」
「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」
変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。
・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。
左左左右右左左 ~いらないモノ、売ります~
菱沼あゆ
児童書・童話
菜乃たちの通う中学校にはあるウワサがあった。
『しとしとと雨が降る十三日の金曜日。
旧校舎の地下にヒミツの購買部があらわれる』
大富豪で負けた菜乃は、ひとりで旧校舎の地下に下りるはめになるが――。
守護霊のお仕事なんて出来ません!
柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。
死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。
そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。
助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。
・守護霊代行の仕事を手伝うか。
・死亡手続きを進められるか。
究極の選択を迫られた未蘭。
守護霊代行の仕事を引き受けることに。
人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。
「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」
話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎
ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?
待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。
けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た!
……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね?
何もかも、私の勘違いだよね?
信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?!
【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!

ぬらりひょんと私
四宮 あか
児童書・童話
私の部屋で私の漫画を私より先に読んでいるやつがいた。
俺こういうものです。
差し出されたタブレットに開かれていたのはwiki……
自己紹介、タブレットでwiki開くの?
私の部屋でくつろいでる変な奴は妖怪ぬらりひょんだったのだ。
ぬらりひょんの術を破った私は大変なことに巻き込まれた……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる