あやかし達の送り屋をやっています! 〜正反対な狐のあやかし双子との出会い〜

巴藍

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第三章 小さな神様の、探し人

23話

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「そうねぇ……。結花ちゃんと同じ、小学生五年生くらいの時かしら? 同じクラスに理人りひとくんって男の子がいたの。私、その理人くんのことが大好きで仕方なくてある日、裏山の祠の神様にお祈りに行ったの。そうしたら次の日、たまたま理人くんと一緒に下校できたわ。二人きりでよ? もうすっごく嬉しかったのをいまでも覚えてるの」
「……すごいですね! 好きな子と二人きりで一緒に帰るなんて、私ならドキドキして心臓がもたないかも」

 私の言葉に佐藤先生は「あははっ!」と笑って、目尻の涙を指でぬぐう。

「私も、すっごくドキドキしちゃってね? これはあの祠の神様が、私を応援してくれてるんだって思ったわ。何日かそういうことが続いたある日、勇気を出して告白したの。理人くんに」

 ──きた!
 告白して、どうなったのか。
 鈴葉すずは様が隠世に行く前に、どうしても知りたかった心残り。
 私も鈴葉様も、ごくりとツバをのみこんで佐藤先生の言葉を待った。

「好きです、付き合ってくださいって。──でも結局、ふられちゃったわ。それはもう、あっけなくね」
『なん、じゃと?』
「そんな……!」

 鈴葉様は、あの時の女の子……佐藤先生の幸せを願っていたのに。
 失恋していたなんて悲しすぎる。
 ちらりと鈴葉様を見れば、頬を大粒の涙が伝っていきポトポトと机の上に落ちていった。

『妾に恋愛成就の力があれば……。すまなかったのぉ、すまなかったのぉ』
「鈴葉様……」

 ポツリとこぼれた私の声に、佐藤先生が不思議な顔をする。
 なんでもありませんっ、と手をふってごまかした。

「あ、でもね? この話には続きがあって。……実はふられた後、一人でいた私を慰めてくれた男の子がいたの。その後も、なんだかんだ同じ中学、高校……大学まで同じだったのよ? その子──翔太さんは、いまは私の旦那さん。結婚して二十年以上になるわ」

 私と鈴葉様はバッと顔を見合わせる。
 鈴葉様は、ふにゃあと泣き笑い。
 私もつられて、涙をぬぐう。

「結花ちゃん? あらまぁ、どうしたの」

 佐藤先生がティッシュ箱を持ってきて、私の涙を拭いてくれた。

「それはっ、すごいえんですね。よかった……よかったですっ」
「泣いて喜んでくれるなんて、結花ちゃんは優しい子ね。ふふ、ありがとう。──いまとなっては運命の人は、理人くんじゃなく翔太さんだったんだって思ってるわ」

 ニコリと幸せそうに笑う佐藤先生。
 見ているこっちまで、自然と笑顔になった。
 
 ──鈴葉様?
 ぐいっと涙を服の袖で拭いた鈴葉様は、ふわりと宙に浮いた。
 そのままスゥと佐藤先生に近づく。
 とても優しい眼差しで佐藤先生を見つめた。

『……共に人生を歩む伴侶ができてよかったの

 和香子わかこは佐藤先生の下の名前だったはず。
 ──あ、だからか!
 ずっと鈴葉様は、私たちが呼ぶ「佐藤先生」という名前にピンときてなかった。
 理由は簡単。
 佐藤先生は結婚したから、苗字がかわっていたんだ。
 だから鈴葉様がピンと来てなかったのも、納得できる。

 鈴葉様は佐藤先生のおでこに、ちゅと優しくキスをした。
 愛おしそうに佐藤先生を見る鈴葉様に、またチクリと胸が痛くなる。
 だって……だって、こんなにも喜んでいる鈴葉様の姿が、佐藤先生には見えていない。

 もしも見えていたらと、思わずにはいられないよっ……!

「っ、佐藤先生──」

 ──キーンコーンカーンコーン。
 私の声をかき消すように、チャイムが鳴る。
 ……これは授業が終わる合図でもあり、いまこの時間が終わる合図でもあった。

「六時間目が終わったわね。結花ちゃん、体調は大丈夫? 歩いて帰れそうかしら」
「……は、はい、大丈夫です。ありがとうございました」

 最後にティッシュでスピッと鼻水をかんで、立ち上がる。

「失礼しました」
「気をつけてね。……なんだか、結花ちゃんとお話しして、今日はとてもなつかしいことを思いだしたわ。ありがとう」


 鈴葉様を肩に乗せて保健室を出ると、壁にもたれかかりながら烈央くんと星守くんが待っていた。

「おかえり結花ちゃん、鈴葉様。無事に探していた子が見つかってよかったね、鈴葉様」
『あぁ、協力してくれてありがとのぅ三人とも。これで安心して隠世かくりよに行けるのじゃ』

 ふわりと浮いた鈴葉様は、烈央くんの肩に着地する。
 その様子を見て、私は星守くんのそばに行き小声でとある提案をした。

「ねぇ星守くん。……佐藤先生に、鈴葉様が見えるようにできるお札とか術とかあったりしない?」
「え?」

 星守くんは一度だけ視線を鈴葉様に向けて、目を伏せた。

「結花……。人とあやかしは本来、交わってはいけないんだ。人間はあやかしが見えないし声も聞こえない、触れない。そういうもの。……鈴葉は土地神だからなおさら、一人の人間と関係を持つなんてできないよ」
「そんな……」
「ボクたちと結花のことだって、本当はすごくイレギュラーなことだし。結花が人間の中でも特別で、あやかしが見えるからこそ繋がったえにしなんだよ」

 佐藤先生はあやかしが見えない。
 そこを無理やり見えるようにしても、佐藤先生に悪い影響が出るかもしれないって星守くんは言う。

 たった一言だけでも、鈴葉様がどれだけ佐藤先生の幸せを願っていたか伝えたいのに。
 ……はじめて、もどかしいって思った。
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