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第三章 小さな神様の、探し人
22話
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──コンコン。
「失礼します」
学校の中でも独特の匂いがする空間──保健室。
授業中ということもあって保健室には佐藤先生以外、誰もいなかった。
「まぁ、いらっしゃい結花ちゃん。どうしたの」
保健室の奥にある椅子に座っていた佐藤先生は、ふり向いて私を見る。
「ちょっと気分がすぐれなくて……」
おでこに手を当てられて「熱はないわね」と、確認された。
「とりあえず、そこに座ってちょうだい」
すすめられた椅子に座り、私は少し落ち着かない様子で、向かい側に座る佐藤先生を見た。
烈央くんと星守くんの二人は保健室の外で待っていて、私と私の肩に乗っている鈴葉様の二人だけで保健室にやってきている。
鈴葉様が探していた女の子。
それは保健室の先生──佐藤先生のことだ。
五十代の佐藤先生は昔、封鬼小学校に通っていたから、鈴葉様の言う四十年前と年代は合っている。
佐藤先生は普段、老眼鏡をかけていてわかりずらいけど、左目の涙袋には小さなホクロが一つあるのだ。
それに佐藤先生はとっても優しい。
笑うと目尻にシワがよって、可愛らしい先生。
いまの髪型はショートだけど……、チラリと鈴葉様を見れば目をキラキラさせながら、佐藤先生を見つめていた。
『おぉこの子じゃ! なつかしいのぉ、元気にしておったか? あの理人とかいう子とは、付き合えたのかえ?』
ピョンと机に飛び乗った鈴葉様は、一生懸命佐藤先生を見上げながらたくさん話しかけている。
……けれど佐藤先生には、鈴葉様の声は聞こえていないし、姿も見えていない。
それでも、名簿に私の名前を記入している佐藤先生の姿を鈴葉様はニコニコと楽しげに眺めていた。
──ちくり。
なんだかとても寂しい光景のように思えて、胸が痛い。
「……結花ちゃん、どこか痛い?」
胸を押さえた私に、佐藤先生は心配そうに声をかけてくれる。
大丈夫ですと言うと、まだ目に心配の色を残しながら佐藤先生は名簿を棚に戻しに行った。
佐藤先生がこっちを向いていない間も、鈴葉様は空白の四十年を埋めるように、楽しげに話しかけていて……。
もしこの声が佐藤先生に聞こえていたら「まあ、あの時の神様なの?」って、驚いてくれるはずなのに。
せっかくまた会えたのに言葉を交わせないなんて、そんなの……悲しすぎるよ。
「──あのっ! 佐藤先生は裏山にある祠のこと、知ってますかっ?」
ちょっと不自然だったかもしれないけど、私は佐藤先生に祠のことをたずねる。
急に祠の話をした私に佐藤先生は、パチパチとまばたきをしてふふっと笑った。
「なつかしいわぁ……あの小さな祠ね? 子供の頃以来一度も行っていないけれど一時期、毎日のように通っていたのよ。もう四十年くらい前の話になるかしら。結花ちゃん、一人であの祠に行ったの?」
「い、いえっ! ……友達と三人で行き、ました……」
裏山は行ってはいけない場所。
普段、先生たちに口をすっぱくして言われている。
罪悪感と怒られるかもしれない気持ちで、声がだんだん小さくなっていった。
「そう……。私が言うのもあれだけど、裏山に一人で行ってはダメよ? 迷子になったら危ないんだから、気をつけなさいね」
「……も、もう行っちゃダメって、言わないんですか?」
怒られると思っていた私がそう聞き返すと、佐藤先生はきょとんとした顔になった。
「……ふふっ。私も子供の頃、先生たちには『裏山には入るなー』って言われてたけど、どうしても行かなきゃいけない用事があって行ってたもの。絶対に行くなって言える立場じゃないわ。でも必ず、一人では行かないこと。これだけは譲れないから先生との約束ね?」
「はい……!」
佐藤先生はふわりと笑う。
そこからしばらく、保健室に静かな時間が流れた。
と言っても、居心地が悪いわけじゃない。
先生は当時のことを思いだしているのか、目を細めて遠くを見ている。
そんな佐藤先生を愛おしそうに眺める鈴葉様。
鈴葉様はさっきの私たちの会話に、静かに耳をかたむけていた。
……佐藤先生には祠のことだけじゃなくて、もう一つ大事なことを聞かないとだよね。
「佐藤先生、あと一つだけ質問してもいいですか?」
「あら、いいわよ。なにかしら」
「えっと……佐藤先生の、初恋の相手って誰ですか」
「初恋の相手?」
佐藤先生は、目をまんまるにして驚いた。
「失礼します」
学校の中でも独特の匂いがする空間──保健室。
授業中ということもあって保健室には佐藤先生以外、誰もいなかった。
「まぁ、いらっしゃい結花ちゃん。どうしたの」
保健室の奥にある椅子に座っていた佐藤先生は、ふり向いて私を見る。
「ちょっと気分がすぐれなくて……」
おでこに手を当てられて「熱はないわね」と、確認された。
「とりあえず、そこに座ってちょうだい」
すすめられた椅子に座り、私は少し落ち着かない様子で、向かい側に座る佐藤先生を見た。
烈央くんと星守くんの二人は保健室の外で待っていて、私と私の肩に乗っている鈴葉様の二人だけで保健室にやってきている。
鈴葉様が探していた女の子。
それは保健室の先生──佐藤先生のことだ。
五十代の佐藤先生は昔、封鬼小学校に通っていたから、鈴葉様の言う四十年前と年代は合っている。
佐藤先生は普段、老眼鏡をかけていてわかりずらいけど、左目の涙袋には小さなホクロが一つあるのだ。
それに佐藤先生はとっても優しい。
笑うと目尻にシワがよって、可愛らしい先生。
いまの髪型はショートだけど……、チラリと鈴葉様を見れば目をキラキラさせながら、佐藤先生を見つめていた。
『おぉこの子じゃ! なつかしいのぉ、元気にしておったか? あの理人とかいう子とは、付き合えたのかえ?』
ピョンと机に飛び乗った鈴葉様は、一生懸命佐藤先生を見上げながらたくさん話しかけている。
……けれど佐藤先生には、鈴葉様の声は聞こえていないし、姿も見えていない。
それでも、名簿に私の名前を記入している佐藤先生の姿を鈴葉様はニコニコと楽しげに眺めていた。
──ちくり。
なんだかとても寂しい光景のように思えて、胸が痛い。
「……結花ちゃん、どこか痛い?」
胸を押さえた私に、佐藤先生は心配そうに声をかけてくれる。
大丈夫ですと言うと、まだ目に心配の色を残しながら佐藤先生は名簿を棚に戻しに行った。
佐藤先生がこっちを向いていない間も、鈴葉様は空白の四十年を埋めるように、楽しげに話しかけていて……。
もしこの声が佐藤先生に聞こえていたら「まあ、あの時の神様なの?」って、驚いてくれるはずなのに。
せっかくまた会えたのに言葉を交わせないなんて、そんなの……悲しすぎるよ。
「──あのっ! 佐藤先生は裏山にある祠のこと、知ってますかっ?」
ちょっと不自然だったかもしれないけど、私は佐藤先生に祠のことをたずねる。
急に祠の話をした私に佐藤先生は、パチパチとまばたきをしてふふっと笑った。
「なつかしいわぁ……あの小さな祠ね? 子供の頃以来一度も行っていないけれど一時期、毎日のように通っていたのよ。もう四十年くらい前の話になるかしら。結花ちゃん、一人であの祠に行ったの?」
「い、いえっ! ……友達と三人で行き、ました……」
裏山は行ってはいけない場所。
普段、先生たちに口をすっぱくして言われている。
罪悪感と怒られるかもしれない気持ちで、声がだんだん小さくなっていった。
「そう……。私が言うのもあれだけど、裏山に一人で行ってはダメよ? 迷子になったら危ないんだから、気をつけなさいね」
「……も、もう行っちゃダメって、言わないんですか?」
怒られると思っていた私がそう聞き返すと、佐藤先生はきょとんとした顔になった。
「……ふふっ。私も子供の頃、先生たちには『裏山には入るなー』って言われてたけど、どうしても行かなきゃいけない用事があって行ってたもの。絶対に行くなって言える立場じゃないわ。でも必ず、一人では行かないこと。これだけは譲れないから先生との約束ね?」
「はい……!」
佐藤先生はふわりと笑う。
そこからしばらく、保健室に静かな時間が流れた。
と言っても、居心地が悪いわけじゃない。
先生は当時のことを思いだしているのか、目を細めて遠くを見ている。
そんな佐藤先生を愛おしそうに眺める鈴葉様。
鈴葉様はさっきの私たちの会話に、静かに耳をかたむけていた。
……佐藤先生には祠のことだけじゃなくて、もう一つ大事なことを聞かないとだよね。
「佐藤先生、あと一つだけ質問してもいいですか?」
「あら、いいわよ。なにかしら」
「えっと……佐藤先生の、初恋の相手って誰ですか」
「初恋の相手?」
佐藤先生は、目をまんまるにして驚いた。
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