12 / 53
第二章 ウワサの"のっぺらぼう"を捕まえろ!
12話
しおりを挟む
「──よっと!」
混乱している私をよそに星守くんは大きく跳躍すると、のっぺらぼうを飛び越えて私と烈央くんのそばに華麗に着地する。
「やーい。ボクの顔が欲しかったら、こっちまでおいでー」
「れれ星守くん!? なんでのっぺらぼうをあおってるの!」
「君が欲しい結花ちゃんは、俺たちがもらったよ」
「って、烈央くんまで!」
星守くんは、ベーっと舌を出してのっぺらぼうを挑発してから走り出す。
さっきまで私が居た、物置教室の方向だ。
なんで走り出したのかわからなくてアワアワしていると、烈央くんが「ちょっとごめんね」と言う。
次の瞬間、ふわりと持ち上げられて……また私はお姫様だっこをされていた。
いや本物の烈央くんにされるのは初めてだ。
すこしだけ、のっべらぼうがよぎったけど本物の烈央くんは不思議と安心感があって、私の方からぎゅっとしがみついた。
「絶対に落とさないから。そのままでいてね」
やさしい声でそうささやかれて、きゅんと胸が高鳴る。
こくこく、と二回うなずけば烈央くんも走り出した。
「烈央っ、準備はちゃんとしてるの?」
「もちろん。ぬかりはないよ」
物置教室の手前には、手洗い場がある。
手洗い場は校舎の各階に二か所あって、三階にある一つが物置教室の近くだ。
手洗い場の正面には横長の鏡が設置されているけど、いまは大きな黒い布でおおわれていた。
さっきも鏡の前を通ったはずなのに、のっぺらぼうへの恐怖で気づかなかったみたい。
布でおおわれた鏡の前で、星守くんと烈央くんは立ち止まる。
後ろから追ってきていたのっぺらぼうも立ち止まり、私たちに鋭い視線を送ってきた。
星守くんはツンとあごをあげて、のっぺらぼうを挑発的に見る。
「人の顔を奪ったりしてさ、なりすますことになんの意味があるわけ?」
『うるさい。お前らに……お前らなんかにオレの気持ちが理解できるはずがない! 顔があって、自分があるお前らにっ!!』
のっぺらぼうが急に感情的になって、声を荒げた。
頭に血がのぼっているのか、なにもない顔は赤くなっている。
「あぁ理解できないよ。俺は君ではないし、君も俺じゃない」
烈央くんが落ち着いた声で言う。
──私は私。
自分じゃない相手の思っていることが、全部わかるはずもなくて。
……だからこそ、私も悲しい思いをした事がある。
『っ、そうだ! お前はオレじゃない! オレがどう思ってるか、一ミリだってわかるもんか!』
「だからと言って、その誰かの自分になりすます必要はない。誰かじゃなくて、自分自身になればいいんだ」
『うるさいうるさいうるさいっ……うるさいんだよオマエら!!』
ガシガシと頭をかきむしり、ぐぅぅと苦しげな声を出すのっぺらぼう。
顔を上げたのっぺらぼうに、ギッとにらまれた……気がした。
顔に目はないけど、それでもたしかな怒りを向けられたような気がする。
『お前らの顔をはぎとってやる!』
私たちに向かって、のっぺらぼうが飛びかかってきた!
「──ちゃんと、自分自身を見つめなよね」
星守くんはそう言うと、手洗い場の鏡をおおっていた布をバッ! と引っ張った。
あらわになった鏡には、私と烈央くんと星守くん、そしてのっぺらぼうが映っている。
『なっ──ひぃぃぃぃぃっ!!』
のっぺらぼうは鏡に映っている自分の姿を見ると、悲鳴をあげて後ずさった。
「いまだ! 星守!」
「わかってる!」
星守くんの両手にはいつの間にか、忍者が使っているクナイのようなものが四本握られていた。
そのクナイを時計の十二時、三時、六時、九時の方向に、のっぺらほうを囲うように投げて床に突き刺す。
『なんだコレはっ!?』
驚いたのっぺらぼうが、囲われた中から出ようとしている。
でもそれより先に、床に刺さったクナイからボウッと炎が吹き出した!
炎は隣のクナイへと床を伝って伸びていき、ぐるりと一周して綺麗な円になる。まるで魔法陣みたいだ。
そして四本のクナイから炎が縄のように伸びていき、のっぺらぼうの両手足に巻きついた!
『ぐっ!!』
のっぺらぼうは縄を引きちぎろうと暴れたけど、炎でできた縄は簡単には千切れなかった。
それに始めは赤かった炎が、だんだんとドス黒くなっていく。
初めて見る光景に、私はただ黙って見ていることしかできなかった。
「こっちはオッケー。……烈央!」
「あぁ、わかってるよ」
私をお姫様抱っこしていた烈央くんは、ゆっくりと私を床に下ろした。
「ここを動かないでね、結花ちゃん」
「わ、わかった! ……烈央くん」
「うん?」
「大丈夫、だよね」
これから危険なことが起こるんじゃないかって……そんな不安が胸をよぎる。
後ろ向きな考えの私とは違い、烈央くんはいつも通りの笑みを浮かべた。
「大丈夫。ふふ、心配してくれてありがとう」
そう言うと烈央くんは、のっぺらぼうと向き合う。
烈央くんは左手を自分の腰の横に、そして右手をそこへ構えた。
まるで刀を抜く前の侍のようだ。
「──来い、烈火」
烈央くんがそう唱えると、なにもなかった腰のあたりに一本の刀が現れた。
黒い鞘には、ゆらめく青い炎が描かれている。
「あれはなに……?」
私の呟きを拾った星守くんが、得意げな顔をしたあと耳元に顔を寄せてきてささやく。
「見てて結花。烈央はね──すごく強いんだ」
混乱している私をよそに星守くんは大きく跳躍すると、のっぺらぼうを飛び越えて私と烈央くんのそばに華麗に着地する。
「やーい。ボクの顔が欲しかったら、こっちまでおいでー」
「れれ星守くん!? なんでのっぺらぼうをあおってるの!」
「君が欲しい結花ちゃんは、俺たちがもらったよ」
「って、烈央くんまで!」
星守くんは、ベーっと舌を出してのっぺらぼうを挑発してから走り出す。
さっきまで私が居た、物置教室の方向だ。
なんで走り出したのかわからなくてアワアワしていると、烈央くんが「ちょっとごめんね」と言う。
次の瞬間、ふわりと持ち上げられて……また私はお姫様だっこをされていた。
いや本物の烈央くんにされるのは初めてだ。
すこしだけ、のっべらぼうがよぎったけど本物の烈央くんは不思議と安心感があって、私の方からぎゅっとしがみついた。
「絶対に落とさないから。そのままでいてね」
やさしい声でそうささやかれて、きゅんと胸が高鳴る。
こくこく、と二回うなずけば烈央くんも走り出した。
「烈央っ、準備はちゃんとしてるの?」
「もちろん。ぬかりはないよ」
物置教室の手前には、手洗い場がある。
手洗い場は校舎の各階に二か所あって、三階にある一つが物置教室の近くだ。
手洗い場の正面には横長の鏡が設置されているけど、いまは大きな黒い布でおおわれていた。
さっきも鏡の前を通ったはずなのに、のっぺらぼうへの恐怖で気づかなかったみたい。
布でおおわれた鏡の前で、星守くんと烈央くんは立ち止まる。
後ろから追ってきていたのっぺらぼうも立ち止まり、私たちに鋭い視線を送ってきた。
星守くんはツンとあごをあげて、のっぺらぼうを挑発的に見る。
「人の顔を奪ったりしてさ、なりすますことになんの意味があるわけ?」
『うるさい。お前らに……お前らなんかにオレの気持ちが理解できるはずがない! 顔があって、自分があるお前らにっ!!』
のっぺらぼうが急に感情的になって、声を荒げた。
頭に血がのぼっているのか、なにもない顔は赤くなっている。
「あぁ理解できないよ。俺は君ではないし、君も俺じゃない」
烈央くんが落ち着いた声で言う。
──私は私。
自分じゃない相手の思っていることが、全部わかるはずもなくて。
……だからこそ、私も悲しい思いをした事がある。
『っ、そうだ! お前はオレじゃない! オレがどう思ってるか、一ミリだってわかるもんか!』
「だからと言って、その誰かの自分になりすます必要はない。誰かじゃなくて、自分自身になればいいんだ」
『うるさいうるさいうるさいっ……うるさいんだよオマエら!!』
ガシガシと頭をかきむしり、ぐぅぅと苦しげな声を出すのっぺらぼう。
顔を上げたのっぺらぼうに、ギッとにらまれた……気がした。
顔に目はないけど、それでもたしかな怒りを向けられたような気がする。
『お前らの顔をはぎとってやる!』
私たちに向かって、のっぺらぼうが飛びかかってきた!
「──ちゃんと、自分自身を見つめなよね」
星守くんはそう言うと、手洗い場の鏡をおおっていた布をバッ! と引っ張った。
あらわになった鏡には、私と烈央くんと星守くん、そしてのっぺらぼうが映っている。
『なっ──ひぃぃぃぃぃっ!!』
のっぺらぼうは鏡に映っている自分の姿を見ると、悲鳴をあげて後ずさった。
「いまだ! 星守!」
「わかってる!」
星守くんの両手にはいつの間にか、忍者が使っているクナイのようなものが四本握られていた。
そのクナイを時計の十二時、三時、六時、九時の方向に、のっぺらほうを囲うように投げて床に突き刺す。
『なんだコレはっ!?』
驚いたのっぺらぼうが、囲われた中から出ようとしている。
でもそれより先に、床に刺さったクナイからボウッと炎が吹き出した!
炎は隣のクナイへと床を伝って伸びていき、ぐるりと一周して綺麗な円になる。まるで魔法陣みたいだ。
そして四本のクナイから炎が縄のように伸びていき、のっぺらぼうの両手足に巻きついた!
『ぐっ!!』
のっぺらぼうは縄を引きちぎろうと暴れたけど、炎でできた縄は簡単には千切れなかった。
それに始めは赤かった炎が、だんだんとドス黒くなっていく。
初めて見る光景に、私はただ黙って見ていることしかできなかった。
「こっちはオッケー。……烈央!」
「あぁ、わかってるよ」
私をお姫様抱っこしていた烈央くんは、ゆっくりと私を床に下ろした。
「ここを動かないでね、結花ちゃん」
「わ、わかった! ……烈央くん」
「うん?」
「大丈夫、だよね」
これから危険なことが起こるんじゃないかって……そんな不安が胸をよぎる。
後ろ向きな考えの私とは違い、烈央くんはいつも通りの笑みを浮かべた。
「大丈夫。ふふ、心配してくれてありがとう」
そう言うと烈央くんは、のっぺらぼうと向き合う。
烈央くんは左手を自分の腰の横に、そして右手をそこへ構えた。
まるで刀を抜く前の侍のようだ。
「──来い、烈火」
烈央くんがそう唱えると、なにもなかった腰のあたりに一本の刀が現れた。
黒い鞘には、ゆらめく青い炎が描かれている。
「あれはなに……?」
私の呟きを拾った星守くんが、得意げな顔をしたあと耳元に顔を寄せてきてささやく。
「見てて結花。烈央はね──すごく強いんだ」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
瑠璃の姫君と鉄黒の騎士
石河 翠
児童書・童話
可愛いフェリシアはひとりぼっち。部屋の中に閉じ込められ、放置されています。彼女の楽しみは、窓の隙間から空を眺めながら歌うことだけ。
そんなある日フェリシアは、貧しい身なりの男の子にさらわれてしまいました。彼は本来自分が受け取るべきだった幸せを、フェリシアが台無しにしたのだと責め立てます。
突然のことに困惑しつつも、男の子のためにできることはないかと悩んだあげく、彼女は一本の羽を渡すことに決めました。
大好きな友達に似た男の子に笑ってほしい、ただその一心で。けれどそれは、彼女の命を削る行為で……。
記憶を失くしたヒロインと、幸せになりたいヒーローの物語。ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:249286)をお借りしています。

こちら第二編集部!
月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、
いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。
生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。
そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。
第一編集部が発行している「パンダ通信」
第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」
片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、
主に女生徒たちから絶大な支持をえている。
片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには
熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。
編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。
この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。
それは――
廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。
これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、
取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
氷鬼司のあやかし退治
桜桃-サクランボ-
児童書・童話
日々、あやかしに追いかけられてしまう女子中学生、神崎詩織(かんざきしおり)。
氷鬼家の跡取りであり、天才と周りが認めているほどの実力がある男子中学生の氷鬼司(ひょうきつかさ)は、まだ、詩織が小さかった頃、あやかしに追いかけられていた時、顔に狐の面をつけ助けた。
これからは僕が君を守るよと、その時に約束する。
二人は一年くらいで別れることになってしまったが、二人が中学生になり再開。だが、詩織は自身を助けてくれた男の子が司とは知らない。
それでも、司はあやかしに追いかけられ続けている詩織を守る。
そんな時、カラス天狗が現れ、二人は命の危険にさらされてしまった。
狐面を付けた司を見た詩織は、過去の男の子の面影と重なる。
過去の約束は、二人をつなぎ止める素敵な約束。この約束が果たされた時、二人の想いはきっとつながる。
一人ぼっちだった詩織と、他人に興味なく冷たいと言われている司が繰り広げる、和風現代ファンタジーここに開幕!!
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
少年騎士
克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる