あやかし達の送り屋をやっています! 〜正反対な狐のあやかし双子との出会い〜

巴藍

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第二章 ウワサの"のっぺらぼう"を捕まえろ!

12話

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「──よっと!」

 混乱している私をよそに星守くんは大きく跳躍すると、のっぺらぼうを飛び越えて私と烈央くんのそばに華麗に着地する。

「やーい。ボクの顔が欲しかったら、こっちまでおいでー」
「れれ星守くん!? なんでのっぺらぼうをあおってるの!」
「君が欲しい結花ちゃんは、俺たちがもらったよ」
「って、烈央くんまで!」

 星守くんは、ベーっと舌を出してのっぺらぼうを挑発してから走り出す。
 さっきまで私が居た、物置教室の方向だ。

 なんで走り出したのかわからなくてアワアワしていると、烈央くんが「ちょっとごめんね」と言う。
 次の瞬間、ふわりと持ち上げられて……また私はお姫様だっこをされていた。
 いや本物の烈央くんにされるのは初めてだ。
 
 すこしだけ、のっべらぼうがよぎったけど本物の烈央くんは不思議と安心感があって、私の方からぎゅっとしがみついた。

「絶対に落とさないから。そのままでいてね」

 やさしい声でそうささやかれて、きゅんと胸が高鳴る。
 こくこく、と二回うなずけば烈央くんも走り出した。

「烈央っ、準備はちゃんとしてるの?」
「もちろん。ぬかりはないよ」

 物置教室の手前には、手洗い場がある。
 手洗い場は校舎の各階に二か所あって、三階にある一つが物置教室の近くだ。

 手洗い場の正面には横長の鏡が設置されているけど、いまは大きな黒い布でおおわれていた。
 さっきも鏡の前を通ったはずなのに、のっぺらぼうへの恐怖で気づかなかったみたい。

 布でおおわれた鏡の前で、星守くんと烈央くんは立ち止まる。
 後ろから追ってきていたのっぺらぼうも立ち止まり、私たちに鋭い視線を送ってきた。
 星守くんはツンとあごをあげて、のっぺらぼうを挑発的に見る。

「人の顔を奪ったりしてさ、なりすますことになんの意味があるわけ?」
『うるさい。お前らに……お前らなんかにオレの気持ちが理解できるはずがない! 顔があって、があるお前らにっ!!』

 のっぺらぼうが急に感情的になって、声を荒げた。
 頭に血がのぼっているのか、なにもない顔は赤くなっている。

「あぁ理解できないよ。俺は君ではないし、君も俺じゃない」

 烈央くんが落ち着いた声で言う。
 ──私は私。
 自分じゃない相手の思っていることが、全部わかるはずもなくて。
 ……だからこそ、私も悲しい思いをした事がある。
 
『っ、そうだ! お前はオレじゃない! オレがどう思ってるか、一ミリだってわかるもんか!』
「だからと言って、その誰かのになりすます必要はない。誰かじゃなくて、自分自身になればいいんだ」
『うるさいうるさいうるさいっ……うるさいんだよオマエら!!』

 ガシガシと頭をかきむしり、ぐぅぅと苦しげな声を出すのっぺらぼう。
 顔を上げたのっぺらぼうに、ギッとにらまれた……気がした。
 顔に目はないけど、それでもたしかな怒りを向けられたような気がする。

『お前らの顔をはぎとってやる!』

 私たちに向かって、のっぺらぼうが飛びかかってきた!

「──ちゃんと、自分自身を見つめなよね」

 星守くんはそう言うと、手洗い場の鏡をおおっていた布をバッ! と引っ張った。
 あらわになった鏡には、私と烈央くんと星守くん、そしてのっぺらぼうが映っている。

『なっ──ひぃぃぃぃぃっ!!』

 のっぺらぼうは鏡に映っている自分の姿を見ると、悲鳴をあげて後ずさった。

「いまだ! 星守!」
「わかってる!」

 星守くんの両手にはいつの間にか、忍者が使っているクナイのようなものが四本握られていた。
 そのクナイを時計の十二時、三時、六時、九時の方向に、のっぺらほうを囲うように投げて床に突き刺す。

『なんだコレはっ!?』

 驚いたのっぺらぼうが、囲われた中から出ようとしている。
 でもそれより先に、床に刺さったクナイからボウッと炎が吹き出した!

 炎は隣のクナイへと床を伝って伸びていき、ぐるりと一周して綺麗な円になる。まるで魔法陣みたいだ。
 そして四本のクナイから炎が縄のように伸びていき、のっぺらぼうの両手足に巻きついた!

『ぐっ!!』

 のっぺらぼうは縄を引きちぎろうと暴れたけど、炎でできた縄は簡単には千切れなかった。
 それに始めは赤かった炎が、だんだんとドス黒くなっていく。

 初めて見る光景に、私はただ黙って見ていることしかできなかった。

「こっちはオッケー。……烈央!」
「あぁ、わかってるよ」

 私をお姫様抱っこしていた烈央くんは、ゆっくりと私を床に下ろした。
 
「ここを動かないでね、結花ちゃん」
「わ、わかった! ……烈央くん」
「うん?」
「大丈夫、だよね」

 これから危険なことが起こるんじゃないかって……そんな不安が胸をよぎる。
 後ろ向きな考えの私とは違い、烈央くんはいつも通りの笑みを浮かべた。

「大丈夫。ふふ、心配してくれてありがとう」

 そう言うと烈央くんは、のっぺらぼうと向き合う。
 烈央くんは左手を自分の腰の横に、そして右手をそこへ構えた。
 まるで刀を抜く前の侍のようだ。

「──来い、烈火れっか

 烈央くんがそう唱えると、なにもなかった腰のあたりに一本の刀が現れた。
 黒い鞘には、ゆらめく青い炎が描かれている。

「あれはなに……?」

 私の呟きを拾った星守くんが、得意げな顔をしたあと耳元に顔を寄せてきてささやく。

「見てて結花。烈央はね──すごく強いんだ」
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