あやかし達の送り屋をやっています! 〜正反対な狐のあやかし双子との出会い〜

巴藍

文字の大きさ
上 下
11 / 53
第二章 ウワサの"のっぺらぼう"を捕まえろ!

11話

しおりを挟む
「ほら、舌を噛むといけないから。しー、だよ」

 あぁ、もう! どうしたらいいの?
 どうにかして、烈央くんから離れる方法はないかと視線をめぐらせれば、いつの間にか階段の所まで来ていた。
 このままじゃ本当に星守くんを置いて帰ってしまう!

「烈央く……」
『──待て!』

 私は烈央くんの顔を見上げる。
 さっきまでやわらかい笑みを浮かべていたのに、なぜか表情がストンと抜け落ちていて。
 怖い、と思うくらい無表情の烈央くん。

 さっきの声は聞き……間違えだと思った。
 だって私と烈央くんのから、の声が聞こえたから。
 いま喋ったのは本当に、私をお姫様抱っこしている烈央くんのものだったのだろうか?

「れ、おくん?」

 無表情のまま私を見下ろした烈央くんは、くるりと体の向きを変えた。
 向いたのは、さっき声がした方向。
 廊下に立っている人物を見て、私は息をのんだ。
 だって──

「烈央くんが、二人……!?」

 もう一人の烈央くんが廊下に立っていた。
 私たちから離れた場所にいる烈央くんは、上履きを履いている。
 さらにぴょこんと、狐の耳としっぽが出ていた。
 怒っているのか、ふわふわのはずのしっぽは逆立っている。

 あやかし姿の烈央くんは、私を見て目を細めた。
 そして視線をずらして、私をお姫様抱っこしている烈央くんをにらむ。

「……結花ちゃんを離せ、ニセモノ」
「このオレがニセモノだって? ふふっ、面白いことを言う。ねぇ、ちゃん?」

 そう問いかけてくる烈央くんの声は、ひやりと冷たい。
 間違いない……この烈央くんはニセモノだ!

「いやっ、離して!」
『おっと。急に暴れたら危ないだろう? ユカちゃん』

 ニセモノの烈央くんの声が急に、ぐわんと反響して聞こえる。
 身体をひねって抜け出そうとするけど、ぎゅうっと強い力で拘束されておりられない。

 どうしよう!
 どうやって逃げたらいいの!?
 
 ──そうだ、お守り!
 私はお守りを服の上から握りしめて、「どっかに行って!」と念じる。
 これで、私からのっぺらぼうは離れるはず!

「……どうしてっ? なんで、なにも起きないの!?」
『ふふっ、あはははっ!!』

 急に笑い出したニセモノの烈央くん。
 それが怖くて、ひぃと声をもらせばグッと顔を近づけられた。
 こてん、と首を傾げるニセモノの烈央くん。

『怯えてるの?』
「いやぁっ……」
『……ああ可愛いね、ユカちゃん。美味しそうだ』

 ──どろり。
 ニセモノの烈央くんの顔が溶けていく。
 そして顔のパーツがひとつもない、のっぺりとした顔になった。

 ……のっぺらぼうが正体をあらわした!

 いまでさえ近いのに、さらに顔が近づいてくる。
 まるで私の顔にその、のっべりとした顔を重ねるように……。

「結花から離れろ! のっぺらぼう!」

 ──ドンッ!!

 強い衝撃と共に、私の体が宙を舞う。
 すぐさま本物の烈央くんが、私をキャッチしてくれた。
 解放された安心感で涙が出そうになる。
 でもそんな場合じゃないと、我慢。

 さっき聞こえた声は、烈央くんのものじゃなかった。
 ニセモノの烈央くん……いや『のっぺらぼう』に後ろから体当たりをしたのは──星守くんだ!

 助けに来てくれた星守くんもキツネの耳としっぽが出ていて、本来のあやかし姿になっていた。
 いま私たちの位置関係は私と烈央くん、そして星守くんで、のっぺらぼうを挟みこむような形になっている。

 吹き飛ばされたのっぺらぼうは、ゆらりと立ち上がった。
 手足に力が入っていなくて、両腕がぶらぶらと揺れている。
 その姿はまるでホラー映画の幽霊みたいで、見るだけでゾワリと鳥肌が立つ。

『痛ったいなぁ。……なにしてくれるんだよ、セラ』
「はぁ? ボクの方が肩が痛いんだけど。あとさ、勝手に名前を呼ばないでくれる? ニセモノ」
『ふふっ。反抗期かい?』
「その腹の立つ言い方は烈央そっくりだね。そこだけは、褒めてあげるー」

 口がないのに、のっぺらぼうはどうやって喋っているんだろう?
 と、場違いな疑問が浮かんでいると、それがわかったのか星守くんが私の方を見てビシッと指を突きつけた。

「まったく。のっぺらぼうなんかに捕まってんじゃないよ、おバカ結花!」
「ひぇ! ご、ごめんなさいっ!」

 星守くんのあまりの怖さに、反射的に謝る。
 ……って、なんで私が星守くんに謝ってるの!?
 たしかに捕まっちゃったけど、でもそれには事情があって……!
 んん? あれ、私が悪いのかな?

 わからなくなってきちゃったっ……!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

こわモテ男子と激あま婚!? 〜2人を繋ぐ1on1、ブザービートからはじまる恋〜

おうぎまちこ(あきたこまち)
児童書・童話
 お母さんを失くし、ひとりぼっちになってしまったワケアリ女子高生の百合(ゆり)。  とある事情で百合が一緒に住むことになったのは、学校で一番人気、百合の推しに似ているんだけど偉そうで怖いイケメン・瀬戸先輩だった。  最初は怖くて仕方がなかったけれど、「好きなものは好きでいて良い」って言って励ましてくれたり、困った時には優しいし、「俺から離れるなよ」って、いつも一緒にいてくれる先輩から段々目が離せなくなっていって……。    先輩、毎日バスケをするくせに「バスケが嫌い」だっていうのは、どうして――?    推しによく似た こわモテ不良イケメン御曹司×真面目なワケアリ貧乏女子高生との、大豪邸で繰り広げられる溺愛同居生活開幕! ※じれじれ? ※ヒーローは第2話から登場。 ※5万字前後で完結予定。 ※1日1話更新。 ※第15回童話・児童書大賞用作品のため、アルファポリス様のみで掲載中。→noichigoさんに転載。

小さな王子さまのお話

佐宗
児童書・童話
『これだけは覚えていて。あなたの命にはわたしたちの祈りがこめられているの』…… **あらすじ** 昔むかし、あるところに小さな王子さまがいました。 珠のようにかわいらしい黒髪の王子さまです。 王子さまの住む国は、生きた人間には決してたどりつけません。 なぜなら、その国は……、人間たちが恐れている、三途の河の向こう側にあるからです。 「あの世の国」の小さな王子さまにはお母さまはいませんが、お父さまや家臣たちとたのしく暮らしていました。 ある日、狩りの最中に、一行からはぐれてやんちゃな友達と冒険することに…? 『そなたはこの世で唯一の、何物にも代えがたい宝』―― 亡き母の想い、父神の愛。くらがりの世界に生きる小さな王子さまの家族愛と成長。 全年齢の童話風ファンタジーになります。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

妖精の風の吹くまま~家を追われた元伯爵令嬢は行き倒れたわけあり青年貴族を拾いました~

狭山ひびき@バカふり200万部突破
児童書・童話
妖精女王の逆鱗に触れた人間が妖精を見ることができなくなって久しい。 そんな中、妖精が見える「妖精に愛されし」少女エマは、仲良しの妖精アーサーとポリーとともに友人を探す旅の途中、行き倒れの青年貴族ユーインを拾う。彼は病に倒れた友人を助けるために、万能薬(パナセア)を探して旅をしているらしい。「友人のために」というユーインのことが放っておけなくなったエマは、「おいエマ、やめとけって!」というアーサーの制止を振り切り、ユーインの薬探しを手伝うことにする。昔から妖精が見えることを人から気味悪がられるエマは、ユーインにはそのことを告げなかったが、伝説の万能薬に代わる特別な妖精の秘薬があるのだ。その薬なら、ユーインの友人の病気も治せるかもしれない。エマは薬の手掛かりを持っている妖精女王に会いに行くことに決める。穏やかで優しく、そしてちょっと抜けているユーインに、次第に心惹かれていくエマ。けれども、妖精女王に会いに行った山で、ついにユーインにエマの妖精が見える体質のことを知られてしまう。 「……わたしは、妖精が見えるの」 気味悪がられることを覚悟で告げたエマに、ユーインは―― 心に傷を抱える妖精が見える少女エマと、心優しくもちょっとした秘密を抱えた青年貴族ユーイン、それからにぎやかな妖精たちのラブコメディです。

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...