甘々悪魔と恋に堕ちたら罪!? 〜天使の監視つきです〜

巴藍

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第一章 隣のキミは悪魔と天使

6話 右も左も眩しすぎる

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「はぁ……」

 私は大きなため息をつく。
 魔央くんと天内くんの、衝撃的な事実がわかって一日がたった。
 あのあと、私は家に帰ってからも頭の整理がつかなかった。
 おかげで今日はちょっと寝不足だ。

 魔央くん……、柚瑠くんや界李くんも悪魔だった。
 悪魔が悪さをしないように、監視する天使の天内くん。
 人間の私は、悪魔の魔央くんたちへ恋に『堕ち』たら罪になるみたい。

「はぁー……」

 私はまた、大きなため息をつく。
 ……悩んでても仕方がないよね?
 気持ちを切り替えなくちゃ。
 私は靴のつま先を床にトントンとしてから、玄関を開けた。


「なんで天内が一華の迎えにくるわけ?」
「神城さんも僕の監視対象だからだ。黒羽こそ、神城さんを誘惑するのをやめたらどうだ?」

 ──バタンッ!
 私は勢いよく玄関を閉める。
 昨日は魔央くん一人だったのに、……ねぇ、なんで二人に増えてるの!?
    

 二階のベランダから、ロープで外に出ようか、なんて考えていたらピンポーン、とインターホンを押されて、しかたなく玄関をあける。
 朝から眩しいほどの笑顔の魔央くんと、キリリとしている天内くんがいた。

「おはよう、一華。今日もいい天気だね」
「おはよう神城さん」
「お、おはよう……魔央くん、天内くん」


 なぜか、魔央くんと天内くんと三人で登校している私。
 右と左、どっちを見ても、キラキラと輝いていて眩しい。
 昨日もそうだけど、ぼっちだった私には考えられない朝だ。
 誰かと一緒に学校に行くのなんて、昨日が久しぶりだったから。

 今日はもう一人、天内くんまでいる。
 ちょっと、贅沢すぎる気もするけれど、恥ずかしさの方が勝った。

 ……そうだ。
 昨日の夜、考えに考えて、二人に聞いてみたい事があったのを思い出す。

「あのね、疑問に思ったんだけど、なんで魔央くんたちは紅魔こうま中学に? 悪魔や天使も、学校に行くの?」

 私の質問に、魔央くんと天内くんは顔を見合わせた。先に答えてくれたのは魔央くんだ。

「風習だよ。人間界で暮らしている悪魔は、適齢期になると、学校に通うんだ」
「へぇ、そうなんだ!」
「そして、その悪魔たちを監視するために、僕たち天使が最低一人は同じ学校に入学する。今回は僕が選ばれたんだ」
「歳が近いからってね。……本当、天使がいると不便なことが多いから嫌なんだ。攻撃の術を使っちゃいけないとか」
「あたり前だろう! 人間に危害を加えたら即、天界へと連れてくぞ!」
「俺が人間に使うわけないでしょ?」


 ──チリンッ。

 二人が言い合いをはじめたその時。
 うしろから自転車のベルの音がした。振り向こうとしたら、足が絡んで体勢を崩してしまった。

 倒れそうになる体に、あれ、似たようなことが入学式の日もあったような……と謎の既視感が。

 というか、こんなイケメン二人の前で、ぺシャッと転んじゃうとか恥ずかしすぎるよ……!
 足っ、私の足踏ん張れーー!

 ……いや、ダメそう!
 このまま地面とキスコース──、

「神城さんっ!」

 を、どうやら回避できたみたいだ。
 隣にいた天内くんが、私を支えてくれた。

「大丈夫?」
「うん……、大丈夫! また天内くんに、助けられちゃったね」
「また?」
「入学式の日、廊下で倒れそうになった時も支えてくれたでしょ?」
「あぁ……、あれは当然のことをしたまでだが……」

 首を傾げている天内くん。
 正義感が強いのは、天使だからかな?

「私はすごく嬉しかったよ。ありがとう!」
「……そんなに言われると、少し照れるな」

 天内くんは、口元を手で隠した。
 でも、ほっぺが真っ赤だから照れてるってバレバレ。
 ふふっ、可愛いところもあるんだね、天内くん。   

 なんて思っていると、トントン、と肩を叩かれた。
 疑うことなく、私は振り向く。

「っ!?」

 おでこに、少し残る感触。

「一華、怪我はない?」

 いっ、いま、私のおでこに魔央くんの唇がっ……!?

「ごめんね、俺が助けてあげられなくて」

 魔央くんは、しゅんとした顔で、私の体に怪我がないかを確認している。

「そんな、大丈夫だよ? 天内くんが支えてくれたから」

 そう言えば、もっとしゅんとした顔をする魔央くん。
 なんだかワンちゃんみたい、と思った。
  
「え、えっと……気にしないで? 魔央くん」

 少し背伸びをして、ポンポン、と頭を撫でてあげる。これは元気がないとき、いつもお父さんが私にしてくれるもの。
 これをされると、不思議と元気が出てくるんだ。

 目を見開いた魔央くんを見て、私は正気に戻った。
 ……いや、私ったら魔央くんに何してるの!?

「~~!」

 自分でしたことだけど、恥ずかしさをごまかすように私は走り出した。

「待って、一華!」
「(そんなこと言われても無理~~!)」

 でも運動が苦手な私が、魔央くんに勝てるわけもなく。
 あっけなく捕まってしまった。

「捕まえた」

 追いかけてきた魔央くんに、うしろからぎゅっと抱きしめられる。

「もう逃げられないね?」

 するりと右手を握られて、いわゆる……恋人繋ぎ。

 て、手汗とか大丈夫かな、と余計なことが頭をよぎる。
 意識すればするほど、ジトッと汗をかいてきたような気がした……!
 というか、恋人繋ぎなんてしたことないもん!

 手の平から伝わる魔央くんの体温に、なんだか恥ずかしくなり、とにかく、はやく手を離してもらおうと抗議する。

「ま、魔央くん、手を……!」
「ん? 手が……どうかしたの?」
 
 魔央くんはゆっくりとした動きで、繋いでいる手を口元へ持っていく。
 不思議と、ひきつけられるような魅力が魔央くんにはあった。
 ぼーっと見ていれば、魔央くんは私の手の甲に「ちゅ」とキスをした。

 からの、上目づかい。
 
「……っ!?」

 声にならない悲鳴が、私の口の中で暴れた。心臓がありえないくらい、バクバク言っている。

「──僕の前で、神城さんを誘惑するとはいい度胸だな黒羽っ」

 不機嫌そうな顔の天内くんに、左手を取られれた。なぜか天内くんも、恋人繋ぎをしてくる。

「──神城さん、すまない」

 なんで謝るのと思ったその時。
 天内くんが、私の左手の甲にキスをした。

 
「なっ!?」
「……消毒だと思ってくれ。他意はないんだっ」

 さっきとは比べ物にならないくらい、真っ赤な顔の天内くん。

 ……一言。
 一言、私に言わせて欲しい。

 右には、悪魔の魔央くん。
 左には、天使の天内くん。

 ──朝から刺激が強すぎませんか!?


◇◇◆◇◇


 刺激的な登校を体験しつつ、学校についた頃にはなぜか息が切れて、疲れている私。

 教室に入って一番はじめに、魔央くんは柚瑠くんへ自分たちが、「悪魔」だと私にバレたことを報告していた。

「え……、イチカに言っちゃったの?」

 柚瑠くんが、まんまるな目を見開いて私を見てきた。

「ついでに、天内が天使だってことも一華は知ってるよ」

 魔央くんから聞いて、なにやら、あごに手をあて考えこむ柚瑠くん。

 ──顔を上げたかと思えば、ギランとした瞳を私に向けて、親指を首の前で横切った。

「……やっちゃう?」
「ひえぇっ!?」
「こら、柚瑠。一華を怖がらせないの」
「ちぇー」

 口をとがらせる柚瑠くん。
 いまの、まさかほっ、本気じゃなかったよね……!?
 
「一華ちゃん……」
「どうしたの? 界李くん」
「俺たちの正体を知ってる人は……、一華ちゃんだけ。……だから、よろしく」

 やわらかく微笑んだ界李くん。
 私は目を見開いた。
 だって、か、界李くんがたくさん喋ってる!

「うん! まかせて──」
「俺が寝てて……、先生に怒られそうになった時は助けて」
「──へ?」

 よろしくって、助けて欲しいって意味だったの?
 私の感動を返して欲しいんですが、界李くん?

「瀬尾くん、それはいけない。ちゃんと授業はうけないと」

 天内くんの正論に、「ううっ。天内くんが厳しい……」とうなだれる界李くん。

「ミカド、カイリをいじめたの?」
「柊くん……、僕がそんなことするわけないだろ?」

 柚瑠くんは、天内くんのことを「ミカド」って呼ぶらしい。
 三人の、天内くんの呼び方で関係性がわかってくる気がした。

 柚瑠くんと界李くん、天内くんの三人は、普通に友達って感で、魔央くんと天内くんは、……仲があんまり良くない気がする。

 どうやったら二人は仲良くなれるのかな。
 うーん、と考え込む。
 天内くんと魔央くんが、考え込んでいる私に気づいた。

「どうした? 神城さん」
「あのね、天内くんと魔央くんが、もっと仲良くなるには──」

「「それはない」」

「そこで声を揃えなくてもいいじゃん!」
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