スライム・ハンターと馬鹿にされた男。世界を唯一救える存在となりハーレムを作る

藤浪

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07 暴れるシャングリラ。ローリング騎士団の三剣士が立ち向かう

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 セール王国トロスト。
 城壁に囲まれた街はいつもと違って人がいない。活気がある温泉街も、物音一つ立てずに静かな時間が流れている。

 誰一人として、街を歩く住民は見当たらない。

 シャングリラ討伐の失敗は各地に伝達され、次なる討伐舞台はトロストに決定した。深い理由はないが、強いて言えば、アーノルドの発言に国王が耳を傾けたからである。


 メーヘル平原での戦いで手も足も出なかった怪物。さらには国家最強のエイコウ軍が為す術もなく敗れた事実。

 官僚達は絶望した。
 そんな中、ほんの少しだけ、与太話と揶揄される予言書だけが希望となった。アーノルドは未来を見る事はできない。しかし、彼は予言書を読み解くことで未来が分かる。その絶対的で自信のある発言は、国王の意思を揺さぶるには十分だった。

 予言書通りならトロストで奇跡が起こる。何の根拠もない滅茶苦茶な発言だが、酷く悲観的となった国王達に少しの希望を与えたのだ。

 本当にトロストで奇跡が起こるのか?
 官僚達は僅かにしか信じていないが、事ここに至っては、藁にもすがる思いで方針を決定したのである。




 城郭都市トロスト。
 城壁の前には草原が広がる。そこにはローリング騎士団が整列をして一点を見つめている。

 隊員は全部で27名。緊迫しながらも、妙に静かな空気が流れている。


「エイコウさんが手も足も出ないだなんて」
 重苦しい雰囲気の中、やる気のなさそうなギースがぽつりと呟く。
「予想はしてただろうよ」
 隣に立つアレクサンドラが返答する

「一点集中で額を狙っても無傷だったようですよ」
「アイツは正攻法にこだわり過ぎなんだよ。鱗が硬いなら目を狙えば良いものを」
「でも結局、目も再生するんじゃないですか」
「けっ。どの道わざわざ勝率を下げる必要はねえ」

「……俺達は、勝てますかね」
「さあな。援軍は来るらしい。最低でもそれまで持ち堪えねえと」
「ははは。アレク、珍しく自信がないようだな」
 大きな声で笑うサンドロス。いつものアレクであれば、事が起こる前に絶対的な自信がある。勝利を確信してるかのような言葉を呟くが、相手がシャングリラとなれば、見越すことはできずにいた

 サンドロスの笑い声が響き渡り、場が和みかけた

 その時だった

「お出ましだ」

 遠くから巨大な龍が地響きを鳴らしながら接近してくる。四足歩行で歩く姿は、同じ世界に住んでいるとは思えないほど、大きく禍々しい。


「ありゃ、とてつもない大きさですね」
「のんびり歩いてきやがって」

 ゆっくりと近づいてくる。急ぐ様子もなく、ただ真っ直ぐと進んでいる。エイコウ軍が立ち向かった時は、じわじわと接近をしていたが、この時は違ったのだ


 地鳴りが激しくなり、大地が揺らめく。


ドシドシ、ドシドシドシドシドシドシ

 その場にいた誰もが一定速度で進行する思っていた。しかし、シャングリラは巨体を俊敏に、大きく揺らしながら走っている。


 迫りくる巨龍。
 犬のように走るその光景を見れば、一目散に逃げ出したくなるであろう。規格外の大きさで疾走するその姿は、気味悪さも感じるほどだ。


「ほら、アレクさんがのんびりとか言うから」
「……」
 何とも言えぬ表情で黙り込むアレク。口を一文字に結んで、少し目を細めている。そして僅かに責任を感じているような、微妙な雰囲気を出している。


「――クソ! これじゃ作戦が台無しだ。お前ら一旦退くぞ!」
 急いで指示を出すサンドロス。しかし、アレクは別の行動を取ろうとしていた。
「街に入れるわけにはいかねえ。ここでぶった切る」
 何とも言えぬ表情だったアレクがキリッと元の引き締まった顔に戻る。迫りくるシャングリラを切り裂こうと、右手はすでに刀に添えている。

 正面から一刀両断する、そんな意気込みを感じる構えだ。しかし、その様子を見てサンドロスが叫んだ。

「よせアレク! ここで無理はするな!!」
 猛突進してくる巨大な龍。いかにアレクに実力があろうとも、正面からでは太刀打ちできないと判断したのだ。

 騎士団長のサンドロスは、攻撃の開始は猛突進が終わった後だと、直感的に感じていた。


「チッ、仕方ねえ」
 少しバツの悪そうな顔で刀から手を離し、退くアレク。
 騎士団は、それぞれ散った。


「グオオォォ!!」

 シャングリラの勢いは止まらず、城壁を突き破って街へと侵入する。その巨体を振り回し、立ち並ぶ建物が硝子のように粉々に砕け散っていく。長年かけて増えていった建物は次々と壊されていく。

 住民達は街の外れにある避難所にいる。土魔法でシェルターのような場所が設けられたが、シャングリラの気まぐれでいとも簡単に壊されてしまうだろう。幸い、まだ避難所とシャングリラの距離は遠い

「グオオォォ!」

 狂ったように街中で暴れる。真っ直ぐと突き進んでいただけであったが、今では回るように方向を変え、街を破壊している。

 騎士団も唖然としている。
 どんな物にも目もくれずに突き進んでいたシャングリラが、故意的に街を破壊しているのだ


「――黙って見てる訳にはいかねえんだよ!」

 横からアレクの一閃が右後ろ脚を切り落とす。続いてギース、サンドロスは左の前脚、後ろ脚を切り落とした。


「切れるもんだなぁ」
 刀を肩に担ぎながら少し広角と顎を上げる。想像より刃が通った。その手応えに少しだけアレクは天狗となる

「アレクさん、もう再生してますよ」

 切り落としてもすぐさま3本の脚は再生した。大きな一撃を与えるためには、刀身に魔力を込める時間が必要である。その一撃を放つまでの時間より、再生速度の方が上回っている。


「ゴゴゴォォ」

 怒り狂って二本の脚で立つシャングリラ。これまで四足歩行だったのもあり、立ち姿は天にも届きそうなほど高く、威圧感が増す。

 巨体を一回転させて尻尾を使った攻撃を仕掛けてくる。サンドロス達はかろうじて躱すことが出来たが、その一撃が当たった建物は一瞬で砕け散り、破片は遥か遠くまで吹き飛んでいった。

 当たれば即死。
 張り詰めた空気に包まれる戦場。だが退く訳にもいかない。再び刀身に魔力を込めて、一閃を放つ。

 二本の脚は切り落とされて、地面に伏すシャングリラ。

「――今だ!」

 騎士団の魔法使い二人が切り口に火魔法を放つ。大きな火玉だ。

 事前の打ち合わせで、再生を阻止するには焼くのが有効だと予想を立てた。効果はあるか分からないが、たった今実行に移したのだ。

……

 願い虚しく、脚は再生した。
 ただ、切り口を焼くことで再生速度は遅くなった。火力がもっとあれば、再生はしなかったであろう。再生を阻止するためには、火は有効である。


「グルォォォ」


シュウウウ

 何かが濃縮するような音が鳴り響く。シャングリラは目を赤く光らせ、怒り心頭の様子だ。


「――くるぞ!! 爆発の前にぶった斬れ!!」

 事前の情報で爆発するまでの動作は聞いていた。すでに対策は立てている。

 サンドロス、アレク、ギースは縦に並ぶ。そして一人ずつ順番に、同じ角度から斬りつける。脚ならともかく、胴体を一人で切り落とすには力が足りない。そこで三人で、三連続で一太刀を浴びせて胴体を切り裂くという作戦だ。


 成功である

 シャングリラの胴体は横から真っ二つ切れた。


シュウウウウ


 しかし、胴体は真っ二つとなっても、濃縮する音は続く。

 予想は外れた。胴体を切り離しても、爆発は阻止できない。まるで離れた胴体同士がくっついて共鳴しているような雰囲気だ。


 ――なにかに気づいたアレクが叫ぶ


「爆炎を浴びせろ!!」

 慌てて火魔法を放つ部隊。その炎が当たった瞬間に、爆発が起きた。規模はエイコウ達の時より20倍ほど小さい。

 アレクの判断は正しかった。
 爆発は魔力を濃縮させる時間と規模が比例する。チャージの時間が長いほど威力も上がり、広範囲となる。真っ二つにしても変わりはない。そこで、敢えて早めに火を浴びせることで着火させ、規模を小さくしたのだ。

 とはいえ、巨体から放たれる爆発に人間は耐えられない。本来であればサンドロス達も骸となっていただろう。

 だが、無傷だ。
 サンドロス、アレク、ギースの周りには結界が張られていた。その結界で彼らは守られたのだ。

「ふぅ、間に合って良かったわ」

 やや遠くに立っていたのは、黄金に輝く髪の女だ。丸めの輪郭に大きな蒼眼。横髪の一部は元気良く跳ね上がっていて、少し幼い顔つきながら、大人な雰囲気を醸し出している。彼女はメイ。やや遠くの街の騎士団長である。


「あ、メイ姉さん」
 嬉しそうにメイに視線を送るギース。

「感心してないで早くやっつけなさい!」
 メイとローリング騎士団が会うのは久しぶりだが、その再会を喜ぶ暇はなかった。

 シャングリラの攻撃は結界でかろうじて防げる。その防いでいる間に、刀身に魔力を溜めて大きな斬撃を浴びせる。

 連携によって戦況は変わった。安定的に、何度も手足や首を切り落とす。シャングリラの再生能力には限度がある。何度もダメージを与えれば、いずれは再生しなくなる。彼らには再生能力が尽きる限界が分からないが、いつかは再生しなくなると手応えを感じていた。ひたすらに切っては、焼くを繰り返す。




◇ ◇ ◇




「うーむ。さすがはローリング騎士団。それとあれはメイちゃんだねえ。うーん、中々やるねえ」
「へへっ。頑張って貰わなきゃ困りますよね」

 遠くの建物の上から、シャングリラと騎士団の攻防を観戦する二人がいる。

 クレイブとドルドである。
 望遠鏡を使って、安全な場所から高みの見物をしている。

「そうだねえ。せっかくこの街で楽園を築いたんだ。滅んでは困るよねえ」
 クレイブは騎士団を遠くから応援していた。レイプギルドという楽園を守るために。

「騎士団がやられたらどうします?」
「それは逃げるに決まってるよ。娘がいるからねえ」

 だが、負ければそれまで。
 余裕のある表情かつ楽観的な雰囲気で答える。

「そうですか。さすがですね」
「それに、私は常日頃から冒険者達に言い聞かせている。身の丈にあった仕事をしなさいとね」

「ほう、つまり?」
「シャングリラ討伐など、私の身の丈には合わないという事だよ」
「ヘヘっ。さすがですね」
「そうだろう? 私はギルドマスター。ここがなくなっても、またどこかで楽園を作れば良いだけさ」
「お見事です!」

 戦う意志は一切ない。そんな会話の途中、クレイブの眉間がピクリと動いた。

「うん?」
 顔をしかめながらレンズを覗くクレイブ。

 望遠鏡は一つしかない。隣に立つトルドはクレイブの呟きを聞きながら形勢を把握している。


「――あ!! まずいまずい! ブレスが飛んで来るよ!」

 慌てて望遠鏡を投げる。遠くではシャングリラのブレスを避ける騎士団が映っていた。悪魔のようなブレスは、こちらに向かって一直線に飛んでくる。その様子を見て狼狽える。

 トルドは実際の光景こそ見ていないが、つられて大慌てする。

「フ、フライ!」
「フフ、フライ!!」

 フライ。
 全身を魔力で包み、その風圧で空を飛ぶ魔法である。フライを使える者はとても珍しい。剣士であるエイコウ、サンドロス、アレク、ギースは使うことが出来ない。ただ、努力すればいつかは出来るであろう。しかし、フライ習得には膨大な時間がかかる。

 剣士達は己の剣技を磨くことに集中しているため、フライ習得に時間は割かない。そのため使える者は極めて少ないのだ。


 ともあれ、クレイブとドルドは慌てるあまり滑稽に飛びながらも、窮地を脱したのである。
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