2 / 14
最後の2時間
しおりを挟む
しとしとと雨の降る夜、私は車を走らせていた。
助手席には愛おしい人が眠っている。
まだ起きそうにない彼は、私の息子であり、最愛の人だ。
ずっと、触りたくて、でも、出来なくて、こんな方法しか選べなかった。
彼は、美しい人だ。長い睫毛に彩られた深緑の瞳は、今は私のネクタイで目隠しされていて見ることが叶わない。
彼は、いつの間にか私の背を追い越していた。
婚約者を連れてきて、来月入籍するから、なんて、ぶっきらぼうに告げた。
別れた妻のもとにいて、普段は会えない彼と、そんな風に会話したのは何年ぶりだったろう。
ずっと、愛していたのに、伝えられなかった。
だから、これは、最後の機会。
彼が結婚する前に、二人で会いたいと呼び出した。
一緒に飲んだワインに、睡眠薬を落とした。
大きくなった君を車に運ぶのは、大変だったよ。
「うぅん……。俺、どうして? 親父? そこにいるのか? どうして? 」
目覚めた君は、両手を後ろ手に縛られていて、目隠しされていることに気付いた。
責めるでもなく、ただ、ひたすら困惑しているようだ。
私は、海の見える小高い丘に、車を停めた。
シートベルトをそっと外して、彼の唇に、最初で最後のキスをした。
乾いた唇。彼とのキスは、背徳の味がした。
「親父……」
私は、彼の首に鎖をかけた。ゴールドの指輪を通したネックレス。
「親父、目隠しを外せよ! 手も、外してくれよ」
「お前の家につくまで、そのままでいてくれ。お前に軽蔑の瞳を向けられたら、私はきっと、お前を殺して、私も、後を追うだろう」
「親父、何を言っているんだ? 」
「お前を愛しているんだ。ずっと愛していた。だが、お前は私の息子だ。だから、一度だけ、私の我儘を許してほしい。その指輪を、貰ってほしい。私とお揃いの指輪なんだ。売っても捨てても構わない。ただ、今だけ、今日だけ、それを着けていてほしい。指につけなくてもいいから。この車の中にいる間だけは、それを着けていてくれ」
「……わかったから、外してくれよ。目隠し。親父、顔が見たいんだ」
「まだ、待ってくれ。車を動かすから。お前の家に着くまでだけ、待って……」
彼は、重い溜息を吐いて、黙ってしまった。
私も無言で車を走らせた。
たった二時間だけの、最愛の人と過ごす最後の時間。
彼が何を思っていたのかは分からない。だが、私には、どうしても必要な時間だったのだ。
来週結婚する君を、父として祝福するために。
永い間抱えてきた片想いのけじめをつけるために、どうしても必要な時間だったのだ。
白いチャペルに彼女と並んだ君は、幸せそうに微笑んでいた。
どこまでも青い空が、君たちの門出を祝福しているようで、私の胸は切なさに少しだけ痛んだ。
助手席には愛おしい人が眠っている。
まだ起きそうにない彼は、私の息子であり、最愛の人だ。
ずっと、触りたくて、でも、出来なくて、こんな方法しか選べなかった。
彼は、美しい人だ。長い睫毛に彩られた深緑の瞳は、今は私のネクタイで目隠しされていて見ることが叶わない。
彼は、いつの間にか私の背を追い越していた。
婚約者を連れてきて、来月入籍するから、なんて、ぶっきらぼうに告げた。
別れた妻のもとにいて、普段は会えない彼と、そんな風に会話したのは何年ぶりだったろう。
ずっと、愛していたのに、伝えられなかった。
だから、これは、最後の機会。
彼が結婚する前に、二人で会いたいと呼び出した。
一緒に飲んだワインに、睡眠薬を落とした。
大きくなった君を車に運ぶのは、大変だったよ。
「うぅん……。俺、どうして? 親父? そこにいるのか? どうして? 」
目覚めた君は、両手を後ろ手に縛られていて、目隠しされていることに気付いた。
責めるでもなく、ただ、ひたすら困惑しているようだ。
私は、海の見える小高い丘に、車を停めた。
シートベルトをそっと外して、彼の唇に、最初で最後のキスをした。
乾いた唇。彼とのキスは、背徳の味がした。
「親父……」
私は、彼の首に鎖をかけた。ゴールドの指輪を通したネックレス。
「親父、目隠しを外せよ! 手も、外してくれよ」
「お前の家につくまで、そのままでいてくれ。お前に軽蔑の瞳を向けられたら、私はきっと、お前を殺して、私も、後を追うだろう」
「親父、何を言っているんだ? 」
「お前を愛しているんだ。ずっと愛していた。だが、お前は私の息子だ。だから、一度だけ、私の我儘を許してほしい。その指輪を、貰ってほしい。私とお揃いの指輪なんだ。売っても捨てても構わない。ただ、今だけ、今日だけ、それを着けていてほしい。指につけなくてもいいから。この車の中にいる間だけは、それを着けていてくれ」
「……わかったから、外してくれよ。目隠し。親父、顔が見たいんだ」
「まだ、待ってくれ。車を動かすから。お前の家に着くまでだけ、待って……」
彼は、重い溜息を吐いて、黙ってしまった。
私も無言で車を走らせた。
たった二時間だけの、最愛の人と過ごす最後の時間。
彼が何を思っていたのかは分からない。だが、私には、どうしても必要な時間だったのだ。
来週結婚する君を、父として祝福するために。
永い間抱えてきた片想いのけじめをつけるために、どうしても必要な時間だったのだ。
白いチャペルに彼女と並んだ君は、幸せそうに微笑んでいた。
どこまでも青い空が、君たちの門出を祝福しているようで、私の胸は切なさに少しだけ痛んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる