シロナガスクジラとクラゲの王様

木野葉ゆる

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大人味

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 目の前に「大人味」と書かれた箱がある。

「なんだ? この箱? 」
 俺は部屋の隅に置かれた見慣れない箱に目を留めた。先週、ここに来た時は見かけなかった箱である。
「おとなあじ? おとなみ? 」
 茶色いダンボールの箱に、マジックで「大人味」と書いてあるだけ。中身の想像が付かない。箱の大きさはゆうパックの60サイズ位?
 大人の味……。なんだかいけない想像をしてしまう。
 俺は使ったことがないし、海斗さんも使わないけれど、もしかして、そういう道具だったりするのだろうか?

 俺は白永克也。海斗さんはシロ君と呼ぶ。俺と海斗さんはいわゆる、恋人同士だ。海斗さんはちょっと歳上で、高校教師をしている。俺の通う高校の先生ではないけどな。
 週末は、試験前とか以外は、海斗さんの部屋で過ごす。
 土曜の朝に部屋へ来て、おうちデートをしたり、たまに、映画を観にいったりする。そして、一晩泊まって、昼過ぎに自分の家に帰宅する。そんなルーティンが出来上がっていた。

 もちろん、俺たちはそういうこともする。恋人同士なのだ。当たり前だと思っている。今まで、ノーマルセックスしかしたことはないけれど、海斗さんは、アブノーマルなエッチをしたくなったのだろうか?
 実は海斗さんはちょっとSっ気がある、と思う。
 あの箱の中に、鞭とかが入っていたらどうしよう……。
 想像して、ちょっと青ざめて、なのに、おれの中心が芯を持つのはどういうことだ?
 俺にはMっ気なんかない……と思うのに……。

   その時、ガチャリと玄関の鍵が開く音がした。

「ただいま、シロ君。どうしたの? そんな泣きそうな顔して? 」
 コンビニに出かけていた海斗さんが、レジ袋をテーブルに置いて、俺に話しかけてくる。
 俺は何でもないと、首を横に振るのだけれど、視線が箱から逸らせない。
「この箱がどうかした? あ、いけない想像しちゃった? 」
 近くに寄ってきた海斗さんは、俺のそこを見咎めて、面白そうな声を出した。
「これって、何が入っているんですか? 」
「開けてもよかったのに」
 そう言って海斗さんが見せてくれた箱の中身は、ジュースだった。
 オレンジみたいな果物の写真と大人味の文字のパッケージ。
「これ、甘くなくて好みなんだ。シロ君、残念だった? 」
「海斗さんのいじわる……」
 俺は恨みがましい目を向けることしか出来なかった。

 ちなみに、ジュースは本当に美味しかった。
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