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招かれざる客
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ピンポーンっと、インターホンが間抜けな音をたてたのは、土曜日の午後だった。
「宅配便とかかな? 谷澤、心当たりある?」
ダイニングテーブルにノートパソコンを置いて持ち帰った仕事をしていた谷澤が首を横に振る。
「なんだろな」
俺は玄関に向かった。
「要先輩!!」
扉を開けたら、弱小卓球部の時の背の高い後輩、中田右京と、もう一人、相変わらずイケメンな後輩、佐伯翔太がいた。
「な、なんで、お前ら、ここを知ってるんだ?」
右京や翔に住所を教えた覚えはない。なんせ、谷澤と同棲中なんだ、ちょっとばかし、やましい。
「要先輩のお宅に電話したら、教えてくれました」
俺は舌打ちした。兄達に口止めするのを忘れていた。
「で、何の用だよ?」
こいつらを家に入れるわけにはいかない。と思ったが、今更か。
「要先輩、谷澤と一緒に住んでるって本当ですか?」
「要先輩、谷澤と出来てたんですか?」
右京と翔が口々に聞いてくるから、「お前ら、黙れ」と俺は一発ずつ腹にグーぱんをお見舞いしてやった。
「玄関先でうるさくすんな。近所迷惑だ」
仕方なく、二人を家の中に入れてやった。
「谷澤だ! マジでいる」
「久しぶりです」
目を丸くしている右京と、ぺこりと頭を下げた翔。
「何の用ですか?」
谷澤も歓迎はしていないという態度を見せる。
「別に、谷澤に用があるわけじゃないっす」
「進路のことで、要先輩に相談に乗ってもらおうと思って……」
翔は珍しく言い淀んでいる。
「翔のバカが、大学進学じゃなくて、俺と同じ専門学校に行くって言うんだ。そんなの絶対ダメだって、俺が言っても聞かないんだ」
右京が顔を歪めている。
「お前ら、やっぱり付き合ってるんだな?」
薄々は分かっていたが、取り立てて聞いたりはしなかったが、やはり二人は恋人同士ってやつだった。
「右京、晩飯作るの手伝え。それから、翔、お前は谷澤と待ってろ」
俺は右京を台所へ押し込んだ。右京は料理が上手い。材料と調理道具を渡すと、手際よく作ってくれた。
「なぁ、なんで翔に大学に行かせたいんだ?」
「翔は勉強できるし、別に、俺と同じ夢を持っているわけじゃない」
「右京の夢って?」
「俺は理学療法士になりたいんです」
「理学療法士って、リハビリとかの?」
「そう。だから医療系の専門学校に行くって決めてたんだけど、翔は、進路はどうでもいいって。俺と一緒にいたいから同じ進路にするって言うんだ」
「ふーん」
出来上がった料理を右京に運ばせて、俺は翔を手招きした。
「お茶がないから、コンビニに付き合え。荷物持ちだ」
翔は素直についてきた。
「なぁ、谷澤と話したか?」
「はぁ……」
「谷澤、なんて言ってた?」
「ずっと一緒にいたら飽きるので、ちょっとくらい距離がある方が長続きしますよって」
「ふーん。俺はさ、谷澤におんぶにだっこされるのはイヤだし、谷澤に四六時中付きまとわれるのもイヤだ。それぞれだけどさ、適度な距離感ってあると思う」
「……」
「お前、勉強できるしさ、医者とか目指したらいいんじゃねぇの? そしたら、一緒に働けるかもしれないしさ」
「右京の方が先に社会人になる。それがイヤなんだ」
「あのさ、目を離したからって右京が誰かに取られたりする心配はしなくていいって。お互いに忙しくてもさ、ちゃんとメッセとかやり取りしてたら、想いは伝わるし、会えない時間もお互いに思いあってたら、ずっと繋がってられるって思うよ」
パンと背中を押してやる。翔が右京を好きなのは、二人が一年の時から知っていた。恋愛感情かどうかはともかく、翔は、右京に一途だった。どうやら、右京は翔の想いを受け入れたらしいから、そんな簡単にダメになるような二人ではないと思った。
「進路はさ、大事だよ。ずっと一緒にいたいなら、もっとちゃんと自分の人生を考えてみてもいいんじゃねぇ?」
「……了解です。再考します」
四人で右京の作った晩飯を食べて、谷澤の車で二人を送っていった。
二人なりに、ちゃんと話し合って納得できる進路を探すだろう。俺は帰りに谷澤と二人でドライブがてら夜の海辺に寄った。
「せっかくの土曜日だったのに、招かれざる客でしたね」
「まぁ、かわいい後輩だからさ、そう言うなって」
「私は薄情なのでね、要君以外はどうでもいいのですよ」
「ふはっ、あんたらしいな」
俺は、月明かりの下でそっと谷澤にキスをした。
「帰って続きしよ」
「そうですね」
車に乗り込んで、俺達は帰りを急いだ。
「宅配便とかかな? 谷澤、心当たりある?」
ダイニングテーブルにノートパソコンを置いて持ち帰った仕事をしていた谷澤が首を横に振る。
「なんだろな」
俺は玄関に向かった。
「要先輩!!」
扉を開けたら、弱小卓球部の時の背の高い後輩、中田右京と、もう一人、相変わらずイケメンな後輩、佐伯翔太がいた。
「な、なんで、お前ら、ここを知ってるんだ?」
右京や翔に住所を教えた覚えはない。なんせ、谷澤と同棲中なんだ、ちょっとばかし、やましい。
「要先輩のお宅に電話したら、教えてくれました」
俺は舌打ちした。兄達に口止めするのを忘れていた。
「で、何の用だよ?」
こいつらを家に入れるわけにはいかない。と思ったが、今更か。
「要先輩、谷澤と一緒に住んでるって本当ですか?」
「要先輩、谷澤と出来てたんですか?」
右京と翔が口々に聞いてくるから、「お前ら、黙れ」と俺は一発ずつ腹にグーぱんをお見舞いしてやった。
「玄関先でうるさくすんな。近所迷惑だ」
仕方なく、二人を家の中に入れてやった。
「谷澤だ! マジでいる」
「久しぶりです」
目を丸くしている右京と、ぺこりと頭を下げた翔。
「何の用ですか?」
谷澤も歓迎はしていないという態度を見せる。
「別に、谷澤に用があるわけじゃないっす」
「進路のことで、要先輩に相談に乗ってもらおうと思って……」
翔は珍しく言い淀んでいる。
「翔のバカが、大学進学じゃなくて、俺と同じ専門学校に行くって言うんだ。そんなの絶対ダメだって、俺が言っても聞かないんだ」
右京が顔を歪めている。
「お前ら、やっぱり付き合ってるんだな?」
薄々は分かっていたが、取り立てて聞いたりはしなかったが、やはり二人は恋人同士ってやつだった。
「右京、晩飯作るの手伝え。それから、翔、お前は谷澤と待ってろ」
俺は右京を台所へ押し込んだ。右京は料理が上手い。材料と調理道具を渡すと、手際よく作ってくれた。
「なぁ、なんで翔に大学に行かせたいんだ?」
「翔は勉強できるし、別に、俺と同じ夢を持っているわけじゃない」
「右京の夢って?」
「俺は理学療法士になりたいんです」
「理学療法士って、リハビリとかの?」
「そう。だから医療系の専門学校に行くって決めてたんだけど、翔は、進路はどうでもいいって。俺と一緒にいたいから同じ進路にするって言うんだ」
「ふーん」
出来上がった料理を右京に運ばせて、俺は翔を手招きした。
「お茶がないから、コンビニに付き合え。荷物持ちだ」
翔は素直についてきた。
「なぁ、谷澤と話したか?」
「はぁ……」
「谷澤、なんて言ってた?」
「ずっと一緒にいたら飽きるので、ちょっとくらい距離がある方が長続きしますよって」
「ふーん。俺はさ、谷澤におんぶにだっこされるのはイヤだし、谷澤に四六時中付きまとわれるのもイヤだ。それぞれだけどさ、適度な距離感ってあると思う」
「……」
「お前、勉強できるしさ、医者とか目指したらいいんじゃねぇの? そしたら、一緒に働けるかもしれないしさ」
「右京の方が先に社会人になる。それがイヤなんだ」
「あのさ、目を離したからって右京が誰かに取られたりする心配はしなくていいって。お互いに忙しくてもさ、ちゃんとメッセとかやり取りしてたら、想いは伝わるし、会えない時間もお互いに思いあってたら、ずっと繋がってられるって思うよ」
パンと背中を押してやる。翔が右京を好きなのは、二人が一年の時から知っていた。恋愛感情かどうかはともかく、翔は、右京に一途だった。どうやら、右京は翔の想いを受け入れたらしいから、そんな簡単にダメになるような二人ではないと思った。
「進路はさ、大事だよ。ずっと一緒にいたいなら、もっとちゃんと自分の人生を考えてみてもいいんじゃねぇ?」
「……了解です。再考します」
四人で右京の作った晩飯を食べて、谷澤の車で二人を送っていった。
二人なりに、ちゃんと話し合って納得できる進路を探すだろう。俺は帰りに谷澤と二人でドライブがてら夜の海辺に寄った。
「せっかくの土曜日だったのに、招かれざる客でしたね」
「まぁ、かわいい後輩だからさ、そう言うなって」
「私は薄情なのでね、要君以外はどうでもいいのですよ」
「ふはっ、あんたらしいな」
俺は、月明かりの下でそっと谷澤にキスをした。
「帰って続きしよ」
「そうですね」
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