顧問と俺の出来心

木野葉ゆる

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我慢と成果

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「要先輩、なんかいいことありました?」
 
 俺より頭一つ以上背が高い後輩、中田右京が首を傾げながら問いかけてくる。右京は変なところで勘が鋭い。

「なんもねぇよ」

 土曜日、午前中の部活を終えて、俺達、弱小卓球部員の面々はマクドでシェイクを飲んでいた。

「要は最近ますます可愛くなったって、クラスの女子が話してたぞ」
「そうそう、I組の四条たちだろ。本田が要に振られてもずっとファンですって言ったのは本当かって、俺にまで聞いてきてたぞ」

 三年の先輩たちは遠慮なくつっこんでくる。
 俺は自分でほっぺたを軽くつねってみた。そんなに表情にでているだろうか?

「やっぱり何かあったんですね。聞かないでいてあげますから、俺のシェイク代奢ってくださいね」

 可愛くない方の後輩、イケメンな佐伯翔太がちゃっかりとそんなことを言うので、俺はパシリと翔太の形のいい頭を叩いてやった。

「お前に奢るくらいなら、右京に奢ってやる方がマシだよ」
「差別だ」
「いーや、要の言うのは正しい。右京の方が可愛い」
「は? 俺、可愛いとか言われたことないっすよ」
「そういうとこだよ。お前は性格が可愛いの。顔は可愛くねぇから安心しろ」

 いつも通り、漫才みたいな会話を楽しみながらも、俺の背中には冷たい汗が流れた。
 たまにしか顔を出さない不真面目な顧問である谷澤と、俺が付き合っているなんて、バレたら終わりだ。谷澤はクビになるかもしれない。俺も高校中退とか、笑えない事態になるだろう。




『なぁ、やっぱり付き合うの止めねぇ? バレたら終わりだろ。俺もあんたも』
 
 俺は思い悩んで谷澤にメッセージを送った。
 俺が悪いのだろう。隠しきれる自信がなかったのだ。まだ付き合い始めてひと月しか経っていない。デートだって、先週が初めてだった。観覧車の頂上でキスはしたけれど、俺からは谷澤に何も言わなかった。
 
『電話で話しましょう。八時にかけます』

 俺は自分の部屋で、スマホを握りしめてベッドに寝転がった。
 俺ってちょろいな。一度抱かれて、1か月余りのあいだ毎日メッセージをやり取りして、一度デートして、たったそれだけで、もう、谷澤と離れがたく思っている。好きとかはちょっとまだ分からないけど、お試し期間が楽しかったんだ。



「泣いてないですか?」

 電話が鳴って、直ぐに出た俺に、谷澤はいつもの調子で声をかけてきた。

「泣いてねぇよ」

 俺は鼻水をズズッとすすって、ぶっきらぼうに答えた。

「春まで待っていてくれませんか? 内緒ですけど、友人の事業に誘われているんです。だから、私が龍堂君の先生でいるのは、三月までなんです」
「……先生辞めて、大丈夫なのかよ?」
「安心してください。今より給料は上がりますから」
「俺のせい?」
「違います。龍堂君と一緒にいたいというのはもちろんですが、私も大人なので、恋愛感情だけで動いたりしませんよ」
「メッセージも、もう止める?」
「止めたら、龍堂君は泣くんでしょう?」
「泣いてねぇってば」
「止めるのはデートだけにしときましょう。私が耐えられそうにないです」
「わかった」
「ええ、私が目を離したすきに、誰かに龍堂君をとられるのは嫌ですからね」

 

 それから、顧問はますます不真面目になって、ほとんど部活に顔を出さなくなった。三年生も引退して、俺と右京と翔太の三人は、真面目に卓球したり、不真面目に遊んだりしながら日々を過ごした。
 谷澤とは、毎日メッセージのやり取りをしてる。
 進学校だから、そこそこテスト勉強やら受験勉強にも力を入れて取り組んだ。



「進級おめでとう」
「谷澤も、退職おめでとう。なんか、スーツ着てるあんたって不思議な感じだな。いつもくたびれたジャージばっかりだったのに」
「IT企業のサラリーマンですからね。一応。ところで、一年早いですが、私と本格的にお付き合いしてみませんか?」
「お試し期間終わりってこと?」
「ええ、龍堂君は、私を好きになってくれていると、自惚うぬぼれているんですが、間違いでしょうか?」
「……間違ってねぇよ。わかった。俺の負け。あんたのことまんまと好きになっちゃったよ」
「ありがとうございます。では、今日は泊まると家に連絡をどうぞ」
「ん? 待てよ。まさか、部屋をとってあるとか言わないよな?」

 谷澤に呼び出されていたのは一流ホテルのレストランだ。美味しいイタリアンに舌鼓をうっていたが、部屋までとっているとは思っていなかった。高校生男子には過ぎた贅沢だ。

「進級祝いですよ。そして、本格的なお付き合い開始の記念です。たまにはこんな贅沢もいいでしょう」

 やっぱり、なんだかんだ言っても谷澤は大人なんだな。俺は変なところで感心していた。



 別段、スイートルームとかとは違う、普通のツインルーム。それでも、さすが一流ホテル、設備もアメニティもちゃんとしていた。壁も薄くないらしい。

 大きくて寝心地のいいベッドの上で、俺は谷澤に啼かされていた。

 シャワールームでも散々に恥ずかしい目にあわされて、俺のライフはもうゼロだって言うのに、谷澤は容赦なく俺を追い込んでくる。

「もう、胸を弄るのやめろって。……っん。もう。変な声でるからっ……ひぅっ」
 
 俺の胸の尖りを齧られて、みっともない声を出してしまう。谷澤の手は俺の息子をやわやわと愛撫している。時折、先端をくじられて、その刺激にたらたらと先走りの雫が零れた。

「やざわぁ、もう、俺の触るのやめて……。あんたの触らしてよ」

「構いませんが、怖くないですか? 私の」
 
 確かに、俺の息子より立派だけど、別に怖くはない。初めてってわけでもないし。って言っても二度目だけどな。
 そっと手で触れると、びくりと震えた。俺の体なんかでちゃんと勃つんだから、健気な奴だと可愛く思う。
 
「ここ、気持ちいい?」
 
 俺は根元から裏側を撫で上げて、双球をやさしく揉んだ。恐る恐る、唇を近づけて、ベロリと先端を舐めてみた。

「……ちょっとしょっぱい?」

 硬さと大きさを増したそれを咥えてみる。そうして、谷澤は気持ちいいのかと上目遣いで顔を見れば、ギラギラとした雄の瞳が俺を見ていた。

「龍堂君、優しく出来なくなるから、そろそろ離してください。こんな風に煽って、痛い思いをしたくないでしょう?」

 両肩を痛いくらいに掴まれて、体を起こされた。それからぎゅっと痛いくらいに抱きしめられた。

「谷澤、俺がドキドキしてるのわかる?」
「わかりますよ。私の心臓もうるさいくらいです」

「龍堂君、優しくさせてください。君を傷つけたくない」

「うん。わかった。キスして、誠さん」

「……言ってるそばから、君はもう」

 噛みつくように口付けられて、乱暴に唇を割って入って来た舌が、俺の舌を絡めとった。

 丁寧な愛撫と、熱い楔で、俺は谷澤に目いっぱい愛されて、心から満足してしまった。



 それから、俺の卒業までは、メッセージのやり取りの他は、デートらしいデートは出来なかった。お互い、忙しかったし、俺の受験勉強もあった。それでも、俺は他の人間に惹かれたりしなかったし、谷澤も浮気はしていないらしい。

 兄達には猛烈に反対されたけれど、春から、俺は谷澤と一緒に住んでいる。第一希望に受かったらと言う約束を両親には取り付けていたから、強行突破だ。


「お帰りなさい」
「ただいま」

 そんなたわいもない挨拶を掛け合えることが、今はたまらなく幸せなんだ。
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