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柳に抱かれて眠る狼 ⑸
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体を重ねたからと言って、何かが変わったわけでもない。ロウはそう思う。
ただ、体が軽いなという実感はある。性欲の発散に柳井との行為は最適なのだ。だから、柳井から誘われたら、断ることなく抱かれたし、時には、自分から誘うこともあった。
体調は良かった。夢を見ることもなく、眠りは深い。呼吸とともに体内に蓄えられていく魔力も、ほぼ思惑通りだった。
季節は過ぎて、すでに秋も終わろうとしている。ロウがこの地に落ちてきて、九か月が経っていた。
「あと三月か……」
ロウの零した呟きに呼応するかのように、空間に歪みが生じた。
「……見つかったか」
ロウを連れ戻しに、魔法使いがやってくる日も近い。すでに空間は繋がってしまった。
無骨な手で食器を洗いながら、ロウは何処でもない世界と呼ばれる場所にいる一人の魔法使いのことを思い出していた。
クラウンのジンと呼ばれる男、彼はロウに負けず劣らず異質な魔法使いであった。
いつもクラウンの仮面を被っている。
誰も素顔は知らない。けれど、とても永い時を生きていて、そして、とても優れた能力を持っていることは誰もが知るところであった。
クラウンのジンは、ロウを恐れない。嫌悪することもない。
彼は、くだらないことはよく喋るが、肝心のことは感心するくらい口が重い。
ロウも永い時を生きているが、ジンはロウよりも遥かに永く生きているのではないかと思う。
もし迎えが来るとしたら、ジンが来るだろう。ロウはそう確信に近い思いを持っていた。
「もし、ロウが変質したら、僕が殺してあげる」
いつだったか、とっくに忘れてしまったが、ジンはそう言ってふふふと笑った。
「その時が来るのを楽しみにしているよ」
ロウには意味がわからなかった。けれど、ジンがこの命を刈り取るのならば、それもまた悪くはないと、頷いていた。彼がこの命を終わらせるのならば、それでもいい。そう考えるほどに、その時のロウは生きることに飽いていた。
だが、今、もしジンがこの命を奪うと言ったならば、素直に命を差し出すことは難しいと思う。ロウは、柳井とともにいる今を惜しいと感じていた。
「なぁ、あんたは俺がいなくなったらどうする?」
ざっくりとしたセーターを脱いで、アンダーシャツ一枚になった柳井に、裸のロウが問いかけた。
「……もともと、君は帰る場所があるんだろう? 覚悟はしているよ」
「……そうか」
引き留める気はなさそうな柳井に、それも当然かとロウは思う。大切にされているし、憎からず想われていることも知っている。しかし、柳井は諦めることに慣れているのだろう。
ロウ自身も、他人と永く想いを交わし続けたことなどないのだ。いつも手の平から零れ落ちる砂のように、時間も人も過ぎ去っていく。肌を重ねた女達も、すぐに歳を取り、ロウの前から消えていった。
柳井と過ごした九か月余りの日々も、ロウの生きてきた時間からすると瞬きする間の時間なのだ。それなのに、柳井と過ごした一秒一秒を、ひどく鮮明に覚えている自分に、ロウは少なからず動揺していた。
「ほら、考え事は止めてこっちに集中して」
柳井はロウの耳たぶを食んだ。
何度も体を重ねた柳井に、ロウの弱いところは全て知られている。
柳井の指がカリッと赤く主張している胸の尖りをつま弾いた。
「……ぁああっ♡」
ロウは我知らず、媚びを含んだ甘い喘ぎを漏らしていた。
「ロウのここ、ふっくらして、とても淫らだ。俺に舐めて欲しいって言っているみたいだ」
柳井の視線と言葉に、ロウの鼓動は跳ねる。柳井の愛撫に慣らされた体は、心よりも先にその手に、指に、唇に、熱く蕩かされていく。
夜明け近くまで執拗に求められて、体力のあるロウもさすがに疲れ果てていた。
それでも二人でシャワーを浴びて、少しの時間でも一緒にいたいと思っていたのは、予感があったからだろうか。
もうすぐ来るであろう別れの時の……。
ただ、体が軽いなという実感はある。性欲の発散に柳井との行為は最適なのだ。だから、柳井から誘われたら、断ることなく抱かれたし、時には、自分から誘うこともあった。
体調は良かった。夢を見ることもなく、眠りは深い。呼吸とともに体内に蓄えられていく魔力も、ほぼ思惑通りだった。
季節は過ぎて、すでに秋も終わろうとしている。ロウがこの地に落ちてきて、九か月が経っていた。
「あと三月か……」
ロウの零した呟きに呼応するかのように、空間に歪みが生じた。
「……見つかったか」
ロウを連れ戻しに、魔法使いがやってくる日も近い。すでに空間は繋がってしまった。
無骨な手で食器を洗いながら、ロウは何処でもない世界と呼ばれる場所にいる一人の魔法使いのことを思い出していた。
クラウンのジンと呼ばれる男、彼はロウに負けず劣らず異質な魔法使いであった。
いつもクラウンの仮面を被っている。
誰も素顔は知らない。けれど、とても永い時を生きていて、そして、とても優れた能力を持っていることは誰もが知るところであった。
クラウンのジンは、ロウを恐れない。嫌悪することもない。
彼は、くだらないことはよく喋るが、肝心のことは感心するくらい口が重い。
ロウも永い時を生きているが、ジンはロウよりも遥かに永く生きているのではないかと思う。
もし迎えが来るとしたら、ジンが来るだろう。ロウはそう確信に近い思いを持っていた。
「もし、ロウが変質したら、僕が殺してあげる」
いつだったか、とっくに忘れてしまったが、ジンはそう言ってふふふと笑った。
「その時が来るのを楽しみにしているよ」
ロウには意味がわからなかった。けれど、ジンがこの命を刈り取るのならば、それもまた悪くはないと、頷いていた。彼がこの命を終わらせるのならば、それでもいい。そう考えるほどに、その時のロウは生きることに飽いていた。
だが、今、もしジンがこの命を奪うと言ったならば、素直に命を差し出すことは難しいと思う。ロウは、柳井とともにいる今を惜しいと感じていた。
「なぁ、あんたは俺がいなくなったらどうする?」
ざっくりとしたセーターを脱いで、アンダーシャツ一枚になった柳井に、裸のロウが問いかけた。
「……もともと、君は帰る場所があるんだろう? 覚悟はしているよ」
「……そうか」
引き留める気はなさそうな柳井に、それも当然かとロウは思う。大切にされているし、憎からず想われていることも知っている。しかし、柳井は諦めることに慣れているのだろう。
ロウ自身も、他人と永く想いを交わし続けたことなどないのだ。いつも手の平から零れ落ちる砂のように、時間も人も過ぎ去っていく。肌を重ねた女達も、すぐに歳を取り、ロウの前から消えていった。
柳井と過ごした九か月余りの日々も、ロウの生きてきた時間からすると瞬きする間の時間なのだ。それなのに、柳井と過ごした一秒一秒を、ひどく鮮明に覚えている自分に、ロウは少なからず動揺していた。
「ほら、考え事は止めてこっちに集中して」
柳井はロウの耳たぶを食んだ。
何度も体を重ねた柳井に、ロウの弱いところは全て知られている。
柳井の指がカリッと赤く主張している胸の尖りをつま弾いた。
「……ぁああっ♡」
ロウは我知らず、媚びを含んだ甘い喘ぎを漏らしていた。
「ロウのここ、ふっくらして、とても淫らだ。俺に舐めて欲しいって言っているみたいだ」
柳井の視線と言葉に、ロウの鼓動は跳ねる。柳井の愛撫に慣らされた体は、心よりも先にその手に、指に、唇に、熱く蕩かされていく。
夜明け近くまで執拗に求められて、体力のあるロウもさすがに疲れ果てていた。
それでも二人でシャワーを浴びて、少しの時間でも一緒にいたいと思っていたのは、予感があったからだろうか。
もうすぐ来るであろう別れの時の……。
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