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ラムネ
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好きだなんて言った覚えはないけれども、課長はしばしばラムネをくれる。丸いパステルカラーのラムネ。可愛らしくて、甘くて、口の中で溶ける。その感触が、気付いたら癖になっていて、課長のくれるラムネが大好きになった。
水色、ピンク色、オレンジ色、見ているだけで気持ちがふわふわして、幸せになってしまう。ラムネは、課長の優しさを形にしたみたいで、食べるのがもったいなく感じるほどだ。
「幸せそうに食べるね」
佐々木さんが、やれやれって顔をしてこちらを見ている。
「ラムネ、美味しいですよ。佐々木さんもいかがですか? 」
「遠慮しとく。見ているだけでむねやけしそうだから」
紅一点の事務員、佐々木さんはときどき辛らつだ。
課長と俺が付き合っていて、間に挟まれている佐々木さんは、うんざりすることもあるのだろう。ちょっとだけ申し訳ないと思う。
「コーヒー、入れましょうか? 」
普段は佐々木さんが入れてくれるけれど、今日は課長もいないし、一番新入りの俺が入れたっていいだろう。
「ありがとう。お願いするわ」
椅子に座ったまま背を伸ばして、佐々木さんは首を回した。経理の締めが近くて、忙しいのだ。ずっとパソコンに向き合って、肩も首も凝っているのだろう。
「今日は、お客さんも少ないし、課長もいないし、真田君もパソコンで契約書を作っておいたら。新しい物件用の契約書、まだ出来ていなかったでしょう? 」
「そうですね。佐々木さん、お砂糖なしでいいですか? 」
「うん。ありがとう」
俺も自分の分のコーヒーを机に置いて、パソコンの画面に向き合った。
課長はたまに事務所を留守にする。そういう日は、なんだか時間がゆっくりと過ぎていく気がする。業務が終わったら、課長から電話がある。課長の電話を、とても待ち遠しく思う。
『お疲れ様、真田、今日はどうだった? 困った客は来なかったか? 』
課長はいつも俺を気遣ってくれる。
「お疲れ様です。大丈夫ですよ。今日は新しいお客様はいらっしゃらなかったので、□□物件の契約書を作っておきました。佐々木さんの経理の書類も、後は課長の判子を貰うだけだって言っていましたよ」
『そうか。ありがとう。明日は事務所に顔を出せるから、また明日。あき、愛しているよ』
耳元で甘く響く課長の声に、俺の体温は急上昇する。
「課長、不意打ちは卑怯です」
『そうか? あきも言ってくれよ』
「幸也さん、大好きです。俺も、愛していますよ。また明日」
バカップル? 上等だ。俺は年上の上司で恋人の幸也さんを幸せにするためなら、何だってする。電話で愛を囁くくらい、息をするよりも簡単だ。
ラムネのように、いや、ラムネよりも、課長の声の方が甘い、なんて、佐々木さんに言ったら、きっと嫌な顔をされるのだろうな。想像して、少し笑った。
水色、ピンク色、オレンジ色、見ているだけで気持ちがふわふわして、幸せになってしまう。ラムネは、課長の優しさを形にしたみたいで、食べるのがもったいなく感じるほどだ。
「幸せそうに食べるね」
佐々木さんが、やれやれって顔をしてこちらを見ている。
「ラムネ、美味しいですよ。佐々木さんもいかがですか? 」
「遠慮しとく。見ているだけでむねやけしそうだから」
紅一点の事務員、佐々木さんはときどき辛らつだ。
課長と俺が付き合っていて、間に挟まれている佐々木さんは、うんざりすることもあるのだろう。ちょっとだけ申し訳ないと思う。
「コーヒー、入れましょうか? 」
普段は佐々木さんが入れてくれるけれど、今日は課長もいないし、一番新入りの俺が入れたっていいだろう。
「ありがとう。お願いするわ」
椅子に座ったまま背を伸ばして、佐々木さんは首を回した。経理の締めが近くて、忙しいのだ。ずっとパソコンに向き合って、肩も首も凝っているのだろう。
「今日は、お客さんも少ないし、課長もいないし、真田君もパソコンで契約書を作っておいたら。新しい物件用の契約書、まだ出来ていなかったでしょう? 」
「そうですね。佐々木さん、お砂糖なしでいいですか? 」
「うん。ありがとう」
俺も自分の分のコーヒーを机に置いて、パソコンの画面に向き合った。
課長はたまに事務所を留守にする。そういう日は、なんだか時間がゆっくりと過ぎていく気がする。業務が終わったら、課長から電話がある。課長の電話を、とても待ち遠しく思う。
『お疲れ様、真田、今日はどうだった? 困った客は来なかったか? 』
課長はいつも俺を気遣ってくれる。
「お疲れ様です。大丈夫ですよ。今日は新しいお客様はいらっしゃらなかったので、□□物件の契約書を作っておきました。佐々木さんの経理の書類も、後は課長の判子を貰うだけだって言っていましたよ」
『そうか。ありがとう。明日は事務所に顔を出せるから、また明日。あき、愛しているよ』
耳元で甘く響く課長の声に、俺の体温は急上昇する。
「課長、不意打ちは卑怯です」
『そうか? あきも言ってくれよ』
「幸也さん、大好きです。俺も、愛していますよ。また明日」
バカップル? 上等だ。俺は年上の上司で恋人の幸也さんを幸せにするためなら、何だってする。電話で愛を囁くくらい、息をするよりも簡単だ。
ラムネのように、いや、ラムネよりも、課長の声の方が甘い、なんて、佐々木さんに言ったら、きっと嫌な顔をされるのだろうな。想像して、少し笑った。
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