年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる

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年上の恋人は優しい上司

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 朝八時、出勤時間まであと三十分。俺は慌てて家を出て、自転車に飛び乗った。自慢のクロスバイクは、上司からの誕生日プレゼントである。なんで上司がそんな高価なプレゼントをくれるのかって? ただの上司じゃなくて、俺の恋人兼上司だからだよ。

「おはようございます! 」
 道路沿いのマンションの一階、ガラス張りの小さな事務所。そこが俺の職場である。
「早いな、真田。寝癖がついている。また夜更かししたんじゃないか? 」
 俺の頭を撫でて、心配そうに顔を覗き込んでくるのは、上司兼恋人の七森課長である。
「……課長、頭撫でないで……」
 顔に血が集まるのが分かる。俺は課長の大きな手が好きだ。触れられるとつい、二人きりの夜を思い出してしまう。
「七森課長、真田君真っ赤ですよ。そういうことはプライベートな時間にどうぞ」
 事務員の紅一点、佐々木さんが箒を片手に呆れた声を出す。俺はますます顔が上げられなくなった。
「佐々木さん、動じなくなったね」
「三年も同じような光景を見せつけられたら、誰でも慣れますって。あぁ、私も年上彼氏欲しいなぁ」
「あれ、この前の彼氏は? 指輪貰ったんじゃなかった? 」
「あいつ、浮気していたんですよ! 女子大生と! 引っ叩いて振ってやりましたよ」
「佐々木さん強い……」
 思わず零した呟きに、佐々木さんは手に持った箒で俺の尻をはたく。
「真田君、そろそろ仕事しようか」
 にっこりと怖い笑顔で佐々木さんが促してくる。
 俺の仕事は賃貸専門の不動産屋さんの営業だ。アットホームな小さな事務所は居心地がいい。明るく楽しく、仕事はきっちり、それが課長のモットーであり、この事務所の方針だ。

「すみません、部屋を探しているんですが……」
 不安そうに事務所の扉を開けたのは、まだ若い青年だった。高校生かもしれない。きっと春からの大学生活で、初めての一人暮らしというところだろうか。
「いらっしゃいませ」
 今日も俺は接客に精を出す。
 
「今日もお疲れ様」
 午後六時、今日の業務が終わる時間、佐々木さんに手を振って、事務所には俺と課長の二人になった。
「真田、今夜は泊っていくだろ? 晩飯、何食いたい? 」
「課長、俺、天ぷら食いたいです」
「課長はやめろよ。もう業務時間終わっただろ」
 七森課長が俺の耳元に吹き込むように言う。イケボに、腰が砕けそうになる。
「……幸也さん……」
 名前を呼ぶと、ご褒美だと、額にキスを落とされた。
 
 金曜日の夜、俺達のプライベートタイムは、そんな風に始まった。
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