桃の花が咲く頃、俺たちは恋を知る

木野葉ゆる

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本気の恋愛

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 陸は考える。
 聡一のことが好きだ。
 聡一も多分、陸を好きでいてくれてる。
 遊び人だったって言っても、今じゃない。過去のことだと割り切ればいい。
 本当に遊び人だったら、わざわざ自分のような面倒くさい生徒を相手にはしないはずだ。
 卒業まで手を出さない……、初めて電話した時のことを思い出す。聡一はどんな想いで陸にそう告げたのだろうか。
「結局、俺に魅力がないことが問題なんだよな」
 陸は小さく呟いた。考え過ぎると、独り言を漏らしてしまうのは陸の癖だった。
「聡一は、俺のどこがいいんだろ?……勉強以外に得意なことなんかないし、顔もせいぜい十人並みがいいとこだし……体なわけないし……」
 指を折って数えても、自分の魅力なんて見つからなかった。
「あ~ぁ、もう考えるのやめた!」
 陸は両手でパチンと両頬をたたくと、机の上のスマホを手に取った。

「会いたい」そうメッセージを打つ。
 陸だって分かっている。友達の様に簡単に会うことが出来ないことは、分かっていても、こんな時は辛いと感じてしまう。
 聡一は仕事中だ。返事は夜になるだろうか?
「早く卒業出来たらいいのに……」
 まだまるまる2年、その間に、聡一が陸に飽きてしまうかもしれない。悪い想像は、時々、悪夢となって陸を悩ませた。
 
 不意に、手に持ったスマホが振動して、陸の心臓が跳ねた。
「俺も会いたい。明日、数学準備室に12時半、来れたら来て欲しい。陸、好きだよ」
 聡一からのメッセージに、陸は了解とスタンプを送る。
「明日、聡一に会えるんだ……」
 陸は洗面所に急いだ。泣き腫らした目元を冷たい水でバシャバシャと洗って冷やす。明日までに元に戻れと念じながら。

 翌日、冷たい雨が降る中、陸は学校へと急いだ。
 校舎の中はしんとしている。制服姿の陸は、誰かとすれ違うこともなく数学準備室に辿り着いた。コンコンとノックして、失礼しますと扉を開けた。
「……陸、来てくれて良かった……。愛想を尽かされたかと気が気じゃなかった」
 普段は落ち着いた雰囲気の聡一が、心底安堵した様子で、陸を真剣な眼差しで見つめてくる。
 お昼だというのに、カーテンの引かれた狭い部屋の中は薄暗い。
「聡一……」
 名前を呼んで、そうしたら胸の中を何かがこみ上げてきて、何を言えばいいのか分からなくなって、陸は立ち尽くした。
 ゆっくりと近づいてきた聡一が、そっと、その腕の中に陸を閉じ込めた。

「陸、愛してる。こんな気持ちは初めてなんだ。陸……、今まで俺は遊びの恋愛しかしてこなかった。でも、この気持ちは本気だと分かる。陸、好きだよ。だから、泣かないで……」
 聡一は陸に言い聞かせる様に優しく囁いた。
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