境界の人

日和崎よしな

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解説――後読感を破壊する蛇足

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 もし作品の余韻に浸りたい(世界観を考察したい)のであれば、この解説は読まないほうがいいかもしれません。


●2つの世界について

 この世界には、「現実世界」と「狂気世界」が存在します。
 これら2つの世界はパラレルワールドになっていて、生命の在り方や物質の座標が微妙に異なります。

 主人公を含む現実世界の人間は、狂気世界の存在を知りません。
 一方、狂気世界の人間は現実世界の存在を知っています。

 主人公は鏡を中途半端に覗き込むことで、現実世界から狂気世界へのトンネルを途中で抜けたため、二つの世界の境界に存在してしまいました。
 それはすなわち、主人公が現実世界と狂気世界の両方に同時に存在する状態になったということです。
 そんな状態が存在することは、狂気世界の人間も知りませんでした。

 この境界にいる状態のときに連続でまばたきをすると、少しずつトンネルを進むことになります。
 つまり、少しずつ現実世界から狂気世界へと移っていくことになります。

 主人公は二つの世界の光景が同時に見えてしまっていたので、狂気世界にしか存在しない店に入ってしまいました。

 入店の際には、「チリンチリン」という現実世界の鈴の音と、「カランカラン」という狂気世界の鐘の音が同時に鳴りました。
 現実世界にある店の鈴と、狂気世界の店の鐘とは位置が少しズレていますが、主人公が境界にいたために影響を及ぼして、二つともが鳴ったのです。

 主人公は最後、鏡を見て完全に狂気世界に移動しました。
 現実世界の人間は狂気世界の中ではバケモノの姿をしています。主人公は狂気世界に移動して完全なバケモノとなり目が濁ってしまったため、もう鏡で自分の瞳を見ても瞳に鏡が反射して映らなくなりました。
 よって、もうパラレルワールドを移動することはできなくなったのでした。
 もっとも、瞳に鏡が映ったとしても、狂気世界から現実世界へ移動できたかは不明です。


●主人公に対する周囲の反応について

 主人公の友人たちが気持ち悪いと言ったのは、主人公の顔がただれて見え、自分の目がおかしいと思ったからです。
 このときはまだ連続で瞬きをする前であり、主人公も狂気世界への移動初期段階だったため、主人公の姿は皮膚が軽い火傷をした程度に見える状態でした。

 なお、狂気世界への移動が完了すると、現実世界の人間には存在そのものが見えなくなります。
 狂気世界の人間にとっても、現実世界にいる人間は見えません。
 しかし、主人公のような境界に存在する人は、どちらの世界の人からも見えます。主人公も両方の世界の人が見えます。

 また、狂気世界の人間はどちらの世界においても普通の人間の姿をしているため、主人公の瞬きによって店員さんの見た目は変化しませんでした。
 店員さんは「互いに人間の体質も見た目もまったく異なります」と言っていますが、それは過去に迷い込んできた現実世界の人間が狂気世界の人間の不気味さを大袈裟に騒いだせいで、店員さんがそう思っただけです。

 通常、狂気世界の人間は現実世界の人間というバケモノの姿は知っていますが、人間の姿が変化していく現象を見ることはまずありません。
 そんな中で、主人公が連続で瞬きをするにつれ世界を移動していき、店員さんから見た主人公の姿もだんだんと変化していきます。それを見るのが初めての店員さんは、主人公が現実世界の人だと確信が持てなかったため、「もしかして、あちら側の人でいらっしゃいますか?」と尋ねたのでした。
 補足ですが、狂気世界の人から見ても、現実世界の人間は現実世界にいる限りは通常の人間の姿をしています。ただし、それはもし見えるとしたらの話で、実際には狂気世界の人には現実世界にいる人間は見えません。


●作風について

 読者がどんな性質の人でも感情移入をしやすくするため、主人公の性別を不明にし、一人称を私にしました。
 私という一人称は、社会人であれば男女ともに使う可能性が高く、さらに社会人であることを強く印象づけるために語調を敬語にしました。
 また、主人公はもちろん、誰にも名前を付けませんでした。
 すべては主人公に感情移入できる読者の範囲を広げるためです。

 また、終始一貫すべてを敬語にする珍しい形式にすることで不気味さを演出しました。
 ただ、何が起こっても敬語を貫いたせいで、主人公自身が不気味になってしまい、逆に感情移入しにくくなってしまったかもしれません。
 しかも、ただ不気味なだけで、そう怖くはない作品となってしまいました……よね?


●最後に

 実はこの作品、まだ終わっていません。
 最後にあなたにやっていただくことがあります。
 そうです。あなたも鏡の中を覗き込んでください。
 鏡の中の瞳の中の鏡の中を覗き込んでください。
 あなた自身の目でこの物語がフィクションであることを確かめることによって、本作は『小説』となるのです。
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