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第一章 この私がそこに至るまでの経緯
第19話
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船が淡々と波をかき分けている間、この私が船橋理を海の藻屑へと変える機会はついぞ訪れなかった。
ときどきトイレを口実に席を立ち、あるいは入浴時間に美咲と別行動を取ることを利用し、船橋の姿を探して船内を歩きまわったが、奴の姿はどこにも見つけることができなかった。
二等寝台に移ってからも、美咲が寝静まったのを見計らって船橋を探し彷徨ったが、やはり奴の姿は見つからなかった。さすがに二等寝台を一つひとつ開けて確かめるわけにはいかない。
翌朝、この私は船橋殺害をひとまず諦めた。寝起きの身では、とてもじゃないが人を殺せるような気分にはなれない。
どうせ船橋は見つからないのだろう。変装でもしているに相違ない。
ところで、この私は重要なことを思い出した。船橋殺害に気を取られていたせいか、美咲に逃走経路の予定変更を伝え忘れていたのだ。
とにかくこの私は美咲に変更経路を伝えることにした。
当初は北九州でフェリーを降りる予定だったが、北九州へ到達する前に寄港する徳島で降り、陸路で愛媛まで行ってから再びフェリーに乗り、大分から九州入りする。
この徳島から愛媛までを移動する間に船橋理をまかなければならない。
美咲は了承してくれた。
この私を見上げる岬美咲の張り詰めた表情を見ていると心が痛む。
この私が寝台から降りたときには、美咲は洗面も化粧もすべて済ましてピカピカの状態だった。彼女は今日もきらめいている。
これが単なる旅行であったなら、どれほど楽しかったことか。隣にあるのはきっと、見る者を幸福に誘う美しい笑顔だったであろう。
まったく、この私は何をやっているのだ。
この日の午前中、この私と美咲はフェリーの平凡な乗客であった。
この私が進路変更を伝えたことで、美咲は敵が船に乗っている可能性について強く意識しているはずである。
だが我々は物騒な話を一つもしなかった。考えすぎると気が滅入るだろうからと、美咲はこの私に気を使っているのであろう。
「あ、そろそろ着くみたい」
涼やかなメロディが船内放送に乗って流れてきた。もうすぐ到着するので下船準備をしてくださいという合図である。
時刻は早くも13時である。
この私は美咲とともに車に乗り込んだ。
乗り込む前に車体に発信器が取りつけられていないか確認したが、そのようなものはどこにもなかった。
車に乗り込んだ後、とりあえずカーナビに目的地の八幡浜港を入力しようとする。しかし、美咲に止められた。
「追っ手がどこからか見ているかもしれないわ。目的地の入力はしばらくデタラメに走行して、きっちり追っ手をまいてからにしましょう」
「うむ、そうだな」
さすがは美咲。頭が回る。
いかに上格者たるこの私でも些細な可能性を見落とすことくらいはあるが、彼女がいれば、もはやこの私に死角はない。最高のパートナーだ。
我々は誘導に従い車をフェリーから出した。
空は澄み渡っていて、屈託のない陽光に歓迎された。道路に出ても、しばらくの間はフェリーの乗客で列をなしていた。まるでケーキを目指して縦列を組む蟻にでもなった気分だ。
道路にチラホラと枝道が出てきてコンビニも見えるようになると、列をなす車たちは、フェロモンを見失った蟻のごとく、少しずつ右へ左へと散っていった。
さあて、まいてやるぞ。この私はそう意気込んでいたところだが、船橋の姿はどこにも見当たらなかった。
船を出て、公道に出ても、前にも後ろにも横にも、船橋理の姿は見当たらなかった。
用心深く抜け目のないこの私は、バイクだけでなく歩く人物や車の運転手にも注意したが、どこにも船橋らしき人物はいなかった。
「追ってきてはいないようだ。もうカーナビに目的地を入力しても問題なかろう」
「そうね。私が入力するわ」
「すまぬ」
しかし、どういうつもりなのだ、船橋。なぜ追ってこない。
わざわざ四国まで追いかけてきておいて、言いたいことを言ったから引き返したとでもいうのか?
まさかあのフェリーに乗ったままなのか? あのまま九州へ行くというのか?
そうだとしたら、我々が福岡へ向かっていることを知ってのことか、あるいは我々が四国で降りたことに気づいていないのか。
いずれにしろ、それはこの私にとっては好都合なことだ。
一度離れたら、この私がこのまま福岡へ向かったとしても鉢合わせすることなどなかろう。予定どおり福岡でカノンと合流し、カノンに船橋の抹殺を任せればよい。
手伝えなどと言っていた気がするが、この私はもう奴、船橋理とは関わりたくない。報酬を増してカノンにすべてを任せてしまおう。
さて、おまえさんたちには当惑を強いるかもしれぬが、ここで時を飛ばす。
時を飛ばすといっても、この私に時間を操る特殊能力があるとか、そういう話ではない。おまえさんたちやおまえたち諸君に聞かせる話に中略を挟むということだ。
というのも、我々が福岡に着くまでの間に特筆すべき事態が何も起こらなかったのだ。船橋理の気配もなく、岬美咲との関係においての進退もない。
この平々凡々たる時間は逃亡中の身でさえなければ望ましいものではあるのだが。
とにもかくにも、船橋理を完全にまいたのであれば、これ以上の逃亡の必要もないように感じられた。
だがカノンは船橋理の暗殺にこの私の手がいると言うし、計画を中断するわけにはいくまい。
八幡浜へ向かう高速道中でパーキングエリアに立ち寄ったとき、この私はカノンに連絡を取った。
「船橋はまいた。もう近くにはいない。他愛ない。この私にかかれば造作もないことだ」
「油断はするな。船橋理は一筋縄ではいかない男だ」
たしかにこれまで船橋の尾行に気づいたのは、ほとんどが船橋自身による接触があったからだった。
奴が本気で本当の尾行というものをやっているとしたら、この私がそれに気づいていないだけなのかもしれぬ。
カノンの言うとおり、船橋がまだついてきている可能性を視野に入れて行動したほうがよさそうだ。
「ああ、分かっている。用心深いこの私にその忠告は杞憂というものだ。それよりも、この私からあんたに提案がある」
この私はカノンに対する提案――提案という体裁に則った要求――をさせてもらった。
その提案の一つ目は、美咲を船橋の暗殺現場に同行させることである。
カノンの返答は快いものではなかったが、この私が美咲の有能性について語り、巧みな話術で説得することによって、どうにかあのカノンの合意を得ることができた。
ただし、カノンにとっての最低限の条件をつけた上での合意であった。
「その岬美咲とやらの命は保証しない。素人がしゃしゃり出て窮地に陥っても、この私は関与しない」
「つまり、助けないということか。べつに構わない。万が一にもそういう事態が起これば、この私が自ら美咲を救い出す。あんたが悪意をもって意図的に美咲を殺しさえしなければよいという話だ」
そして、もう一つ。
この私はカノンのことを探偵として美咲に紹介することの是非について確認を取った。
これについては容易に承諾を得られた。
ただし、こちらにも条件がつけ加えられた。
「俺が自らを探偵であると口裏を合わせるのは構わないが、俺は船橋を殺した後、奴の死体から親指を切り取っていくぞ。俺の正体が探偵でないことはすぐに知れるだろう。それでも構わんのだな?」
「構わぬ。メディアを騒がせる殺人鬼、サム。そいつの表の顔が探偵だったということにすればよいだけの話だ」
「あんたとあんたのガールフレンドとの関係は俺の感知するところではない。俺の正体のことで関係がこじれたとしても、あんた自身の責任として納得できるな?」
「心配は無用だ。そんな事態にはなりえない。美咲は純粋で誠実な女だ。この私が断じれば疑いはせぬ。もしこの私の言葉を信用しないのであれば、美咲はその程度の女だったということだ」
カノンはこの私がそう断言したことで、返す言葉を失ったらしい。電話の向こう側からは無言という返事が返ってきた。
きっとこの私に対し、過剰な心配をよこしたことを悔いているに相違ない。
あるいは、嫉妬か。
その後、順調に我々の逃亡劇は進行していく。
八幡浜からフェリーに乗って、優美な展望室――スカイラウンジ――にて海を渡った。スカイラウンジは大海原を想起させる青い絨毯と、それを映し出す鏡張りの天井が印象的であったが、優雅なる上格者のこの私に最も似つかわしいオブジェは、この私の隣を許された岬美咲にほかならなかった。
我々は別府で船を降りた。
船橋の気配は微塵も感じられなかったため、念のために用意しておいた《車で乗船したのに徒歩客として下船し車を置き去りにする》という船橋をまく戦略を、幸いにも行使せずに済んだ。
……本当に幸いだ。
この日はビジネスホテルでツインの部屋を取り、翌朝から南の最終目的地へ向かった。
かくして、この私と岬美咲は現在、福岡空港に臨んでいる。
車は最寄のコンビニの隅に駐車した。長期に渡り放置することを想定してのことだ。
次の目的地は札幌である。札幌よ、この私が訪れることに感激するとともに感謝するがよい。
ときどきトイレを口実に席を立ち、あるいは入浴時間に美咲と別行動を取ることを利用し、船橋の姿を探して船内を歩きまわったが、奴の姿はどこにも見つけることができなかった。
二等寝台に移ってからも、美咲が寝静まったのを見計らって船橋を探し彷徨ったが、やはり奴の姿は見つからなかった。さすがに二等寝台を一つひとつ開けて確かめるわけにはいかない。
翌朝、この私は船橋殺害をひとまず諦めた。寝起きの身では、とてもじゃないが人を殺せるような気分にはなれない。
どうせ船橋は見つからないのだろう。変装でもしているに相違ない。
ところで、この私は重要なことを思い出した。船橋殺害に気を取られていたせいか、美咲に逃走経路の予定変更を伝え忘れていたのだ。
とにかくこの私は美咲に変更経路を伝えることにした。
当初は北九州でフェリーを降りる予定だったが、北九州へ到達する前に寄港する徳島で降り、陸路で愛媛まで行ってから再びフェリーに乗り、大分から九州入りする。
この徳島から愛媛までを移動する間に船橋理をまかなければならない。
美咲は了承してくれた。
この私を見上げる岬美咲の張り詰めた表情を見ていると心が痛む。
この私が寝台から降りたときには、美咲は洗面も化粧もすべて済ましてピカピカの状態だった。彼女は今日もきらめいている。
これが単なる旅行であったなら、どれほど楽しかったことか。隣にあるのはきっと、見る者を幸福に誘う美しい笑顔だったであろう。
まったく、この私は何をやっているのだ。
この日の午前中、この私と美咲はフェリーの平凡な乗客であった。
この私が進路変更を伝えたことで、美咲は敵が船に乗っている可能性について強く意識しているはずである。
だが我々は物騒な話を一つもしなかった。考えすぎると気が滅入るだろうからと、美咲はこの私に気を使っているのであろう。
「あ、そろそろ着くみたい」
涼やかなメロディが船内放送に乗って流れてきた。もうすぐ到着するので下船準備をしてくださいという合図である。
時刻は早くも13時である。
この私は美咲とともに車に乗り込んだ。
乗り込む前に車体に発信器が取りつけられていないか確認したが、そのようなものはどこにもなかった。
車に乗り込んだ後、とりあえずカーナビに目的地の八幡浜港を入力しようとする。しかし、美咲に止められた。
「追っ手がどこからか見ているかもしれないわ。目的地の入力はしばらくデタラメに走行して、きっちり追っ手をまいてからにしましょう」
「うむ、そうだな」
さすがは美咲。頭が回る。
いかに上格者たるこの私でも些細な可能性を見落とすことくらいはあるが、彼女がいれば、もはやこの私に死角はない。最高のパートナーだ。
我々は誘導に従い車をフェリーから出した。
空は澄み渡っていて、屈託のない陽光に歓迎された。道路に出ても、しばらくの間はフェリーの乗客で列をなしていた。まるでケーキを目指して縦列を組む蟻にでもなった気分だ。
道路にチラホラと枝道が出てきてコンビニも見えるようになると、列をなす車たちは、フェロモンを見失った蟻のごとく、少しずつ右へ左へと散っていった。
さあて、まいてやるぞ。この私はそう意気込んでいたところだが、船橋の姿はどこにも見当たらなかった。
船を出て、公道に出ても、前にも後ろにも横にも、船橋理の姿は見当たらなかった。
用心深く抜け目のないこの私は、バイクだけでなく歩く人物や車の運転手にも注意したが、どこにも船橋らしき人物はいなかった。
「追ってきてはいないようだ。もうカーナビに目的地を入力しても問題なかろう」
「そうね。私が入力するわ」
「すまぬ」
しかし、どういうつもりなのだ、船橋。なぜ追ってこない。
わざわざ四国まで追いかけてきておいて、言いたいことを言ったから引き返したとでもいうのか?
まさかあのフェリーに乗ったままなのか? あのまま九州へ行くというのか?
そうだとしたら、我々が福岡へ向かっていることを知ってのことか、あるいは我々が四国で降りたことに気づいていないのか。
いずれにしろ、それはこの私にとっては好都合なことだ。
一度離れたら、この私がこのまま福岡へ向かったとしても鉢合わせすることなどなかろう。予定どおり福岡でカノンと合流し、カノンに船橋の抹殺を任せればよい。
手伝えなどと言っていた気がするが、この私はもう奴、船橋理とは関わりたくない。報酬を増してカノンにすべてを任せてしまおう。
さて、おまえさんたちには当惑を強いるかもしれぬが、ここで時を飛ばす。
時を飛ばすといっても、この私に時間を操る特殊能力があるとか、そういう話ではない。おまえさんたちやおまえたち諸君に聞かせる話に中略を挟むということだ。
というのも、我々が福岡に着くまでの間に特筆すべき事態が何も起こらなかったのだ。船橋理の気配もなく、岬美咲との関係においての進退もない。
この平々凡々たる時間は逃亡中の身でさえなければ望ましいものではあるのだが。
とにもかくにも、船橋理を完全にまいたのであれば、これ以上の逃亡の必要もないように感じられた。
だがカノンは船橋理の暗殺にこの私の手がいると言うし、計画を中断するわけにはいくまい。
八幡浜へ向かう高速道中でパーキングエリアに立ち寄ったとき、この私はカノンに連絡を取った。
「船橋はまいた。もう近くにはいない。他愛ない。この私にかかれば造作もないことだ」
「油断はするな。船橋理は一筋縄ではいかない男だ」
たしかにこれまで船橋の尾行に気づいたのは、ほとんどが船橋自身による接触があったからだった。
奴が本気で本当の尾行というものをやっているとしたら、この私がそれに気づいていないだけなのかもしれぬ。
カノンの言うとおり、船橋がまだついてきている可能性を視野に入れて行動したほうがよさそうだ。
「ああ、分かっている。用心深いこの私にその忠告は杞憂というものだ。それよりも、この私からあんたに提案がある」
この私はカノンに対する提案――提案という体裁に則った要求――をさせてもらった。
その提案の一つ目は、美咲を船橋の暗殺現場に同行させることである。
カノンの返答は快いものではなかったが、この私が美咲の有能性について語り、巧みな話術で説得することによって、どうにかあのカノンの合意を得ることができた。
ただし、カノンにとっての最低限の条件をつけた上での合意であった。
「その岬美咲とやらの命は保証しない。素人がしゃしゃり出て窮地に陥っても、この私は関与しない」
「つまり、助けないということか。べつに構わない。万が一にもそういう事態が起これば、この私が自ら美咲を救い出す。あんたが悪意をもって意図的に美咲を殺しさえしなければよいという話だ」
そして、もう一つ。
この私はカノンのことを探偵として美咲に紹介することの是非について確認を取った。
これについては容易に承諾を得られた。
ただし、こちらにも条件がつけ加えられた。
「俺が自らを探偵であると口裏を合わせるのは構わないが、俺は船橋を殺した後、奴の死体から親指を切り取っていくぞ。俺の正体が探偵でないことはすぐに知れるだろう。それでも構わんのだな?」
「構わぬ。メディアを騒がせる殺人鬼、サム。そいつの表の顔が探偵だったということにすればよいだけの話だ」
「あんたとあんたのガールフレンドとの関係は俺の感知するところではない。俺の正体のことで関係がこじれたとしても、あんた自身の責任として納得できるな?」
「心配は無用だ。そんな事態にはなりえない。美咲は純粋で誠実な女だ。この私が断じれば疑いはせぬ。もしこの私の言葉を信用しないのであれば、美咲はその程度の女だったということだ」
カノンはこの私がそう断言したことで、返す言葉を失ったらしい。電話の向こう側からは無言という返事が返ってきた。
きっとこの私に対し、過剰な心配をよこしたことを悔いているに相違ない。
あるいは、嫉妬か。
その後、順調に我々の逃亡劇は進行していく。
八幡浜からフェリーに乗って、優美な展望室――スカイラウンジ――にて海を渡った。スカイラウンジは大海原を想起させる青い絨毯と、それを映し出す鏡張りの天井が印象的であったが、優雅なる上格者のこの私に最も似つかわしいオブジェは、この私の隣を許された岬美咲にほかならなかった。
我々は別府で船を降りた。
船橋の気配は微塵も感じられなかったため、念のために用意しておいた《車で乗船したのに徒歩客として下船し車を置き去りにする》という船橋をまく戦略を、幸いにも行使せずに済んだ。
……本当に幸いだ。
この日はビジネスホテルでツインの部屋を取り、翌朝から南の最終目的地へ向かった。
かくして、この私と岬美咲は現在、福岡空港に臨んでいる。
車は最寄のコンビニの隅に駐車した。長期に渡り放置することを想定してのことだ。
次の目的地は札幌である。札幌よ、この私が訪れることに感激するとともに感謝するがよい。
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