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第28話 我輩 VS. 無限成長する戦闘民族
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我城に来訪者が現れている。
二人いたが、一人は金魚の糞だったので下水送りにして掃除した。
そして、もう一人のほう。
スキンヘッドと太い眉に鋭い吊り目が似合う引き締まった筋肉の男。黒い戦闘スーツを着た戦闘大好き戦闘民族。
我輩と戦うこと自体が目的で来訪したこちらさんが今日の本命である。
「我輩は《全知全能最強無敵絶対優位なる者》だ。それでも戦いたいのか?」
「もちろんだ。そのために来た。俺っちは強い奴と戦ってもっと強くなりてぇ。そしてすべての強者を越えて最強になりてぇ」
こいつは生粋の戦闘狂だ。
転生前の時点で生粋の戦闘民族だったが、転生後には女神のギフト《何でも一つだけ願いを叶えられる力》で《超再生能力を持ち無限成長する不死身なる者》になった。
「いいだろう。我輩も少し余興を楽しみたいから、我輩のペットと戦わせてやる。それに勝てたら我輩が相手をしてやるぞ」
「それはいいな。よろしく頼むぜ」
我輩は膝の上に丸まっていたモフを前方に放り投げ、そのモフに強化を施した。
モフは巨大化した。
腕と脚が伸びて太くなり、毛むくじゃらの怪物となった。
二足立ちしたモフが熊のように両手を広げて咆哮を轟かせる。
体毛が白いのでシロクマのようだ。
「いくぜッ!」
戦闘民族は拳を構え、トントンと爪先で二度跳ねる。
その直後、刹那の間にモフへと肉迫し、白い腹部へ拳を三発お見舞いした。
戦闘民族はすぐさまバク転で距離を開けたが、その際にモフの爪が腹部をかすめて戦闘スーツを切り裂いた。
「なるほど、ふさふさの体毛が俺っちのパンチの衝撃を和らげているのか。しかも反撃が速い。高い防御力と、さらに速さと攻撃力も兼ね備えている。これは手ごわいぜ」
戦闘スーツはナノマシンで作られていて、破れた部分を別の部分から補って自己修復した。
「でも、これならどうだい!」
再び戦闘民族がモフに肉迫した。
両手で円を描くような動作から正拳突きを素早く繰り出し、モフの腹に拳を刺した状態で静止する。
モフは反撃に出ない。
戦闘民族が後方に跳んで離れると、モフは膝を着き、前のめりに倒れた。
「これは貫衝拳だ。すべての力を一撃の拳に込め、そして拳を打ち込んだ少し先の位置に全衝撃を与える」
「まだモフとの戦いを続けてもらうよ。モフは倒されるごとに回復して進化する」
白い毛の山がのっそり起き上がり、上を向いて咆哮をあげた。
すると白い毛がバッと引っ込んでクリーム色の地肌が丸出しになる。
全身の毛穴から液体が分泌され、それが皮膚をコーティングし、そうしてモフはテカテカの筋肉モンスターへと姿を変えた。
「おぉ!? これは巨人種のボディービルダーみたいだぜ。でも俺っちは負けねぇ!」
防御力の要であった毛はもうないが、進化したからにはモフが前より強くなっていることは必定。
だから戦闘民族は様子見なしでいきなり貫衝拳を繰り出した。
「はぁっ!」
モフの腹が戦闘民族の拳を受け止め、金属を叩いたような音が響いた。いくら表面が硬くても貫衝拳は相手の内部に衝撃を発生させる。
しかし、モフの体は体内から床へと衝撃を受け流した。
「グガアッ!」
モフが唸り声とともに拳を放つ。
貫衝拳は打った後に硬直してしまうため、戦闘民族はモフの拳をかわせなかった。
顔面に直撃し、頭部が潰れた。
その勢いでバタリと背中から倒れたが、風船が膨らむように頭部が戻り、そして戦闘民族は目を覚ました。
不死身なので死なず、潰れた頭は超再生能力により元に戻ったのだ。
「やられたぜぇ。けど、俺っちもさっきより強くなってっから、次は勝つ!」
戦闘民族がまたモフへと急接近する。
飛んでくる拳をかわしてモフの懐に潜り込むと、腰をひねって勢いをつけ、腹を真上へと蹴り上げた。
モフは衝撃を床に受け流すが、そのまま力を加えられて宙に浮いた。
そこへ戦闘民族の上向きに放った貫衝拳が刺さる。
「ガッ――」
床に接触していないため、モフは衝撃を受け流すことができない。
戦闘民族が天へと突き上げた拳の上でモフは力尽きた。両腕両脚がダランと垂れている。
そんなモフの体からシューッという奇妙な音が聞こえてきたので、戦闘民族は反射的にモフの体を投げ飛ばした。
床に転がったモフの体が白い煙を上げながら縮んでいく。そして数秒後に変化が止まった。
立ち上がって構えたモフは、ほっそりと痩せ、皮膚上のテカテカコーティングが消えてクリーム色の地肌が露出していた。
「第四ラウンドか。望むところだぜ!」
モフの第三形態を見た戦闘民族は、モフの戦闘スタイルがどう変わったのかをおおよそ察し、さっきまでとは動きを変えた。
ここはさすが戦闘民族だ。
じりじりとモフににじり寄り、間合いに入った瞬間に鍛え抜かれた両手両足で高速の連撃を繰り出した。
モフはそれをすべてかわした。そして反撃。
戦闘民族も巧みにかわす。常人には目で捉えられないスピードでの拳や蹴りによる応酬。どちらも疲れ知らず。
しかしだんだんと相手の動きに合わせて互いの攻撃がかするようになり、しまいには直撃も入りはじめた。
連撃ゆえに一撃の重みは小さいが、ダメージは確実に蓄積していった。
「えいやぁっ!」
「グガアッ!」
そして、二人は同時に気合を入れた拳を放つ。
戦闘民族の拳はモフのみぞおちに、モフの拳は戦闘民族の頬に、両者もろに入った。
戦闘民族は背中側に倒れ、モフはうずくまるように前に倒れた。
やがて二人とも立ち上がる。
戦闘民族は見た目こそ変わらないが、無限成長により筋力やスタミナなど、もろもろの要素が強化されている。
モフはまた体から白い煙を上げた。
煙が治まると、そこには液状化した二足歩行の生物が立っていた。
「おっと、第五ラウンドはキツそうだぜ!」
戦闘民族は死に値するダメージを負うと大幅に成長するが、何もなくただ生きている状態でも常に成長を続けている。
そして、強者と相対して覚悟をしたときは大幅な成長をする。
戦闘民族の全身から湯気が出はじめた。
まるでモフの進化みたいだが、こちらは熱を帯びており、陽炎すらも引き起こしていた。
戦闘民族がモフとの距離をゆっくり詰める。
そして、明らかに打撃が効かないであろうモフに空間を抉り取らんばかりの拳を放った。
「渾身会心拳!」
モフは一瞬判断が遅れたことで、一歩後退することしかできなかった。
戦闘民族の必殺の拳を腹部にまともに受けた。およそ丹田の位置から津波のような衝撃が全身へと伝播し、モフの液状の体は弾け飛んで消滅した。
「はぁ……はぁ……。勝ったぜぇ」
精魂尽き果てた戦闘民族はバタリと倒れた。
しばらくした後、超再生により回復して立ち上がった。今回の回復はいままででいちばん時間がかかった。
「いいだろう。我輩が相手になってやる」
我輩はモフを元のかわいらしい姿で復活させ、玉座の隣に置いた。
「ついに現最強様のお出ましだな。俺っちがおめぇさんに勝って、真の最強になるぜ!」
戦闘民族は戦闘狂で、強者と戦うのが楽しくて仕方がない。
こいつは自身が強いこともあり、無限成長ですぐに追いつけないほどの者には会ったことがなかった。
しかし、我輩が現れてしまったことで、こいつの命運は尽きた。
戦闘民族はモフより強いであろう我輩に対し、最大の警戒をしながら隙のないステップで近づいてくる。
そして様子見の超高速ジャブを一発繰り出す。
高い打点から降ってくるその拳を我輩が指先で弾くと、拳どころか全身が弾け飛んで、天井や壁に赤黒いシミを作った。
戦闘民族はその状態からでも再生した。塵ほど細かく砕かれた細胞たちが、磁石に引き寄せられる砂鉄のように集まって再生した。さすがにかなりの時間を要したが。
「ヤバッ! おめぇさん、ヤバイな! でも、俺っちは諦めねぇぜ!」
戦闘民族は精神的にかつてないほど疲労しているが、それでも強者と戦えるワクワクが表情からにじみ出している。
「おまえ、どんなに頑張っても我輩には勝てないぞ」
「そんなことはない! 俺っちは不死身だし無限成長するから、挑み続ける限りいずれは必ず勝てる!」
まあ、普通はそう考えるだろう。
我輩はそんな凡人脳の彼に、気まぐれの親切で事実を教えてやる。
「我輩は頂点に達しているからこれ以上の成長はない。それに対しておまえは無限に強くなり続けるが、おまえが強くなり続ける以上は成長幅があるということ。それが無限に続くということは、永遠に我輩の立ち位置まで辿り着けないということだ。分かるか?」
「無限に成長できるんだから、成長の止まったおめぇさんをいつか追い越せるだろ」
「違う違う。我輩とおまえを別のレールに乗せるな。同じレールだ。我輩はおまえがどんなに成長を続けても永遠にたどり着けない高みにいるんだよ。あと、我輩は成長が止まったのではない。我輩は最初から頂点なのだ。だからそもそも成長などないのだ」
こいつの強さは時間さえあれば無限大になれるが、我輩はその向こう側にいるのだ。最強という概念であり、定義でもある。最強はたった一つの存在以外は決してなれない。
ちなみに絶対優位が付いているから、同率として二人目の最強も絶対に存在しない。我輩こそが真の最強なのだ。
「脳筋には理解できなかったな。ま、そうなることすら知っていたのだが」
戦闘民族が次の攻撃をしかけようと一歩踏み出す。その瞬間に止まった。
無限成長により危機感が研ぎ澄まされ、次の一歩でまた死ぬことを直感したのだ。恐怖が生まれ、くじけそうになる。
しかし、無限成長は精神すらも成長させる。
戦闘民族の脳内では過去の記憶が駆け巡っている。
自分は強くなったが、守れなかったものもある。あのとき、もっと強ければ。
もっと強くなりたいと願ったのは、戦闘力だけでなく心も同じだ。
ここでまた成長し、覚醒ともいえる大幅な強化が起こった。
「もうこれ以上、仲間を失いたくないんだ! うぉおおおおおお!」
それに対する我輩のアンサー。
「依存してるだけだろうが。自立しろや!」
我輩の掌打が戦闘民族の頬を捉えた。
その掌打は消打でもあった。戦闘民族の全身の細胞が高速で分解していき、分子になり、原子になり、そして最後にはその原子の存在自体が消滅した。
「ふぅ。終わった終わった」
けっこうスッキリした。そしてけっこう楽しめた。
我輩は打ち上げとばかりに、戦闘民族の転生先だったZ国に、国の形をした高さ二十キロメートルの黒い塊たるモノリスを落としたのだった。
二人いたが、一人は金魚の糞だったので下水送りにして掃除した。
そして、もう一人のほう。
スキンヘッドと太い眉に鋭い吊り目が似合う引き締まった筋肉の男。黒い戦闘スーツを着た戦闘大好き戦闘民族。
我輩と戦うこと自体が目的で来訪したこちらさんが今日の本命である。
「我輩は《全知全能最強無敵絶対優位なる者》だ。それでも戦いたいのか?」
「もちろんだ。そのために来た。俺っちは強い奴と戦ってもっと強くなりてぇ。そしてすべての強者を越えて最強になりてぇ」
こいつは生粋の戦闘狂だ。
転生前の時点で生粋の戦闘民族だったが、転生後には女神のギフト《何でも一つだけ願いを叶えられる力》で《超再生能力を持ち無限成長する不死身なる者》になった。
「いいだろう。我輩も少し余興を楽しみたいから、我輩のペットと戦わせてやる。それに勝てたら我輩が相手をしてやるぞ」
「それはいいな。よろしく頼むぜ」
我輩は膝の上に丸まっていたモフを前方に放り投げ、そのモフに強化を施した。
モフは巨大化した。
腕と脚が伸びて太くなり、毛むくじゃらの怪物となった。
二足立ちしたモフが熊のように両手を広げて咆哮を轟かせる。
体毛が白いのでシロクマのようだ。
「いくぜッ!」
戦闘民族は拳を構え、トントンと爪先で二度跳ねる。
その直後、刹那の間にモフへと肉迫し、白い腹部へ拳を三発お見舞いした。
戦闘民族はすぐさまバク転で距離を開けたが、その際にモフの爪が腹部をかすめて戦闘スーツを切り裂いた。
「なるほど、ふさふさの体毛が俺っちのパンチの衝撃を和らげているのか。しかも反撃が速い。高い防御力と、さらに速さと攻撃力も兼ね備えている。これは手ごわいぜ」
戦闘スーツはナノマシンで作られていて、破れた部分を別の部分から補って自己修復した。
「でも、これならどうだい!」
再び戦闘民族がモフに肉迫した。
両手で円を描くような動作から正拳突きを素早く繰り出し、モフの腹に拳を刺した状態で静止する。
モフは反撃に出ない。
戦闘民族が後方に跳んで離れると、モフは膝を着き、前のめりに倒れた。
「これは貫衝拳だ。すべての力を一撃の拳に込め、そして拳を打ち込んだ少し先の位置に全衝撃を与える」
「まだモフとの戦いを続けてもらうよ。モフは倒されるごとに回復して進化する」
白い毛の山がのっそり起き上がり、上を向いて咆哮をあげた。
すると白い毛がバッと引っ込んでクリーム色の地肌が丸出しになる。
全身の毛穴から液体が分泌され、それが皮膚をコーティングし、そうしてモフはテカテカの筋肉モンスターへと姿を変えた。
「おぉ!? これは巨人種のボディービルダーみたいだぜ。でも俺っちは負けねぇ!」
防御力の要であった毛はもうないが、進化したからにはモフが前より強くなっていることは必定。
だから戦闘民族は様子見なしでいきなり貫衝拳を繰り出した。
「はぁっ!」
モフの腹が戦闘民族の拳を受け止め、金属を叩いたような音が響いた。いくら表面が硬くても貫衝拳は相手の内部に衝撃を発生させる。
しかし、モフの体は体内から床へと衝撃を受け流した。
「グガアッ!」
モフが唸り声とともに拳を放つ。
貫衝拳は打った後に硬直してしまうため、戦闘民族はモフの拳をかわせなかった。
顔面に直撃し、頭部が潰れた。
その勢いでバタリと背中から倒れたが、風船が膨らむように頭部が戻り、そして戦闘民族は目を覚ました。
不死身なので死なず、潰れた頭は超再生能力により元に戻ったのだ。
「やられたぜぇ。けど、俺っちもさっきより強くなってっから、次は勝つ!」
戦闘民族がまたモフへと急接近する。
飛んでくる拳をかわしてモフの懐に潜り込むと、腰をひねって勢いをつけ、腹を真上へと蹴り上げた。
モフは衝撃を床に受け流すが、そのまま力を加えられて宙に浮いた。
そこへ戦闘民族の上向きに放った貫衝拳が刺さる。
「ガッ――」
床に接触していないため、モフは衝撃を受け流すことができない。
戦闘民族が天へと突き上げた拳の上でモフは力尽きた。両腕両脚がダランと垂れている。
そんなモフの体からシューッという奇妙な音が聞こえてきたので、戦闘民族は反射的にモフの体を投げ飛ばした。
床に転がったモフの体が白い煙を上げながら縮んでいく。そして数秒後に変化が止まった。
立ち上がって構えたモフは、ほっそりと痩せ、皮膚上のテカテカコーティングが消えてクリーム色の地肌が露出していた。
「第四ラウンドか。望むところだぜ!」
モフの第三形態を見た戦闘民族は、モフの戦闘スタイルがどう変わったのかをおおよそ察し、さっきまでとは動きを変えた。
ここはさすが戦闘民族だ。
じりじりとモフににじり寄り、間合いに入った瞬間に鍛え抜かれた両手両足で高速の連撃を繰り出した。
モフはそれをすべてかわした。そして反撃。
戦闘民族も巧みにかわす。常人には目で捉えられないスピードでの拳や蹴りによる応酬。どちらも疲れ知らず。
しかしだんだんと相手の動きに合わせて互いの攻撃がかするようになり、しまいには直撃も入りはじめた。
連撃ゆえに一撃の重みは小さいが、ダメージは確実に蓄積していった。
「えいやぁっ!」
「グガアッ!」
そして、二人は同時に気合を入れた拳を放つ。
戦闘民族の拳はモフのみぞおちに、モフの拳は戦闘民族の頬に、両者もろに入った。
戦闘民族は背中側に倒れ、モフはうずくまるように前に倒れた。
やがて二人とも立ち上がる。
戦闘民族は見た目こそ変わらないが、無限成長により筋力やスタミナなど、もろもろの要素が強化されている。
モフはまた体から白い煙を上げた。
煙が治まると、そこには液状化した二足歩行の生物が立っていた。
「おっと、第五ラウンドはキツそうだぜ!」
戦闘民族は死に値するダメージを負うと大幅に成長するが、何もなくただ生きている状態でも常に成長を続けている。
そして、強者と相対して覚悟をしたときは大幅な成長をする。
戦闘民族の全身から湯気が出はじめた。
まるでモフの進化みたいだが、こちらは熱を帯びており、陽炎すらも引き起こしていた。
戦闘民族がモフとの距離をゆっくり詰める。
そして、明らかに打撃が効かないであろうモフに空間を抉り取らんばかりの拳を放った。
「渾身会心拳!」
モフは一瞬判断が遅れたことで、一歩後退することしかできなかった。
戦闘民族の必殺の拳を腹部にまともに受けた。およそ丹田の位置から津波のような衝撃が全身へと伝播し、モフの液状の体は弾け飛んで消滅した。
「はぁ……はぁ……。勝ったぜぇ」
精魂尽き果てた戦闘民族はバタリと倒れた。
しばらくした後、超再生により回復して立ち上がった。今回の回復はいままででいちばん時間がかかった。
「いいだろう。我輩が相手になってやる」
我輩はモフを元のかわいらしい姿で復活させ、玉座の隣に置いた。
「ついに現最強様のお出ましだな。俺っちがおめぇさんに勝って、真の最強になるぜ!」
戦闘民族は戦闘狂で、強者と戦うのが楽しくて仕方がない。
こいつは自身が強いこともあり、無限成長ですぐに追いつけないほどの者には会ったことがなかった。
しかし、我輩が現れてしまったことで、こいつの命運は尽きた。
戦闘民族はモフより強いであろう我輩に対し、最大の警戒をしながら隙のないステップで近づいてくる。
そして様子見の超高速ジャブを一発繰り出す。
高い打点から降ってくるその拳を我輩が指先で弾くと、拳どころか全身が弾け飛んで、天井や壁に赤黒いシミを作った。
戦闘民族はその状態からでも再生した。塵ほど細かく砕かれた細胞たちが、磁石に引き寄せられる砂鉄のように集まって再生した。さすがにかなりの時間を要したが。
「ヤバッ! おめぇさん、ヤバイな! でも、俺っちは諦めねぇぜ!」
戦闘民族は精神的にかつてないほど疲労しているが、それでも強者と戦えるワクワクが表情からにじみ出している。
「おまえ、どんなに頑張っても我輩には勝てないぞ」
「そんなことはない! 俺っちは不死身だし無限成長するから、挑み続ける限りいずれは必ず勝てる!」
まあ、普通はそう考えるだろう。
我輩はそんな凡人脳の彼に、気まぐれの親切で事実を教えてやる。
「我輩は頂点に達しているからこれ以上の成長はない。それに対しておまえは無限に強くなり続けるが、おまえが強くなり続ける以上は成長幅があるということ。それが無限に続くということは、永遠に我輩の立ち位置まで辿り着けないということだ。分かるか?」
「無限に成長できるんだから、成長の止まったおめぇさんをいつか追い越せるだろ」
「違う違う。我輩とおまえを別のレールに乗せるな。同じレールだ。我輩はおまえがどんなに成長を続けても永遠にたどり着けない高みにいるんだよ。あと、我輩は成長が止まったのではない。我輩は最初から頂点なのだ。だからそもそも成長などないのだ」
こいつの強さは時間さえあれば無限大になれるが、我輩はその向こう側にいるのだ。最強という概念であり、定義でもある。最強はたった一つの存在以外は決してなれない。
ちなみに絶対優位が付いているから、同率として二人目の最強も絶対に存在しない。我輩こそが真の最強なのだ。
「脳筋には理解できなかったな。ま、そうなることすら知っていたのだが」
戦闘民族が次の攻撃をしかけようと一歩踏み出す。その瞬間に止まった。
無限成長により危機感が研ぎ澄まされ、次の一歩でまた死ぬことを直感したのだ。恐怖が生まれ、くじけそうになる。
しかし、無限成長は精神すらも成長させる。
戦闘民族の脳内では過去の記憶が駆け巡っている。
自分は強くなったが、守れなかったものもある。あのとき、もっと強ければ。
もっと強くなりたいと願ったのは、戦闘力だけでなく心も同じだ。
ここでまた成長し、覚醒ともいえる大幅な強化が起こった。
「もうこれ以上、仲間を失いたくないんだ! うぉおおおおおお!」
それに対する我輩のアンサー。
「依存してるだけだろうが。自立しろや!」
我輩の掌打が戦闘民族の頬を捉えた。
その掌打は消打でもあった。戦闘民族の全身の細胞が高速で分解していき、分子になり、原子になり、そして最後にはその原子の存在自体が消滅した。
「ふぅ。終わった終わった」
けっこうスッキリした。そしてけっこう楽しめた。
我輩は打ち上げとばかりに、戦闘民族の転生先だったZ国に、国の形をした高さ二十キロメートルの黒い塊たるモノリスを落としたのだった。
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