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第24話 我輩 VS. 傾国を建て直した王
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我城に来訪者が現れた。
今回はなんと、W国の王が自らやってきた。
高級生地の白いベストに赤いマントを羽織り、金の王冠を頭に載せた、王様然とした華やかな格好をした男。
しかしこの男、十八と若い。
黒髪でタレ目なところは年齢相応の幼さがある。
彼はW国の王であるが、元々はW国の人間ではなく異世界から転生した人間だ。
転生というか、W国の人間の体を乗っ取って、そいつに成り代わった者だ。
「わたくしはW国の王を務める者です。このたびは魔界の覇者に相まみえることができて光栄に存じます。勝手に御城に足を踏み入れた無礼をなにとぞお許しください」
そう言ってW国の王は我輩の前で片膝を着き、頭を下げた。
「気に食わんな。なんで無礼なことだと分かっていて勝手に入城したの?」
「それは、何度呼びかけても応答がなかったので、致し方なく……」
W国の王は片膝を着いたまま、頭だけを上げて答えた。
「だったら普通は帰るよね」
「しかし、どうしてもあなた様に用がありましたゆえ」
「おまえさあ、転生前のことを想像してごらんよ。例えば学校の担任に用事があって家を訪れたとして、けど応答がなかったら勝手に家に上がり込むの?」
「…………」
こいつ、沈黙が最善か、などと考えて返答を放棄している。無礼な奴だな。
もっとも、何を言っても倍になって返ってくるか我輩の反感を買うのがオチなので、それがいちばんマシな選択なのは確かだ。
「気に食わないんだよなぁ、おまえ。さっきの謙虚な挨拶も本心じゃないじゃん。一国の王がこれだけかしこまったら我輩の機嫌も取れるはずっていう打算しかないじゃん。全部筒抜けなんだよね」
この男は女神のギフト《何でも一つだけ願いを叶えられる力》で《最善の選択肢が分かる能力》を得た。
だからW国の未来、というよりは自分の未来のために、最善となる行動として我城を訪れたのだ。
たしかにこいつが我城を訪れなければ我輩のほうからW国に出向いていたし、そのときの我輩はいまより容赦がなくなることになる。
「ねえ、おまえ、なんで王なの?」
「なんで……? それは……」
我輩が漠然とした訊き方をしたものだから、どういう趣旨で尋ねたのかを最善の選択肢を探すことによって特定しようとしている。
我輩が親切にも返答を待ってやった結果、W国の王は一つの回答を出してきた。
「それは、W国の国民たちに推挙されたからです」
「違うよな。そう誘導したんだよな」
我輩はそう指摘したが、もしこいつがそれを正直に言っていたら、それはそれで責められるから結果は変わらない。
「しかし、W国の国民たちはわたくしが導く必要があるのです。W国は国家存亡の危機にありました。そこへ転生してきたのがわたくしで、《最善の選択肢が分かる能力》をもってしてW国を建て直したのです」
「建国シミュレーションゲームはさぞや楽しかっただろうな。W国って馬鹿ばっかだもんな。その日暮らしで消費していた水や食料を蓄えることを覚えさせたり、テコの原理で効率よく作業させたりと、普通ならちょっと考えれば分かることをドヤ顔で教えて尊敬の眼差しを集めていただけだもんな」
「まるでわたくしが邪悪のようにおっしゃいますが、発達の遅れた国民たちを教育するのは良事ではございませんか?」
「おまえ、王様としてチヤホヤされたかっただけだろ。おまえが王になってからのW国って半ば鎖国してたじゃん。商人は通すけど、他国からの移住は認めなかった。W国の国民は知能が低いからおまえでも王の座に居座れたけど、常識的な知能を持つ人間が入ってきたら、国民たちに身近な分、そいつがすごいって祭り上げられることになる。そしたらおまえ以外にも王の候補が出てくることになるもんな」
我輩がそれを指摘したところで、W国の王に葛藤が生まれた。
最善の選択肢は我輩の指摘を全面的に認め、平謝りすること。
しかしW国の王はそれをしたくない。プライドが許さない。
なぜ関係のない赤の他人にそんなことを言われなくてはいけないのか。
動機がどうあれ、傾いていた国を建て直した功績の大きさは変わらないではないか。
そういうふうに、W国の王は自分の能力と口論するかのように葛藤をしている。
しかし残念なことに、それはすべて我輩に筒抜けになっている。
どんなに最善の選択肢が選べるとしても、それを選ぶ過程での思考や本心は隠せないのだ。
あれこれ考えないという最善策は、分かっていてもできるものではない。
我輩はW国の王の葛藤が終わらぬうちに、さらなる口撃を加える。
「おまえみたいなのを〝お山の大将〟って言うんだよ。程度の低いグループでも、トップを張って天狗になるのはさぞかし気分がよかったろうな。誰でも思いつくような知恵を出しただけで賛辞を贈られ羨望の眼差しを向けられて。おまえがやりたいのは、お遊戯会かな?」
そこまで言ったところで、ついにW国の王が折れた。
ずっと片膝を着いていたW国の王だが、おもむろに立ち上がって膝の皿を手ではたいた。
ちなみに床には塵一つ落ちていないのだが。
「もういいです。あなたは何なんですか? なんで僕の考えていたことが分かるんですか? 仮にあなたに人の心が読める能力があったとしても、さっきの指摘は過去のことだから、いまの僕の思考には入ってなくて知りようがないと思うんですけど」
訊かれたから答えるが、我輩はべつに訊かれ待ちをしていたわけではないぞ。こいつとは違うのだ。
「我輩は《全知全能最強無敵絶対優位なる者》だ。それだけ言ったら分かるな?」
「全知全能!? 最強無敵!? 嘘でしょ!?」
「本当だ」
やはりこいつは凡人だ。知将などでは決してない。
我輩の要素で最も重要なのは全知全能でも最強無敵でもなく絶対優位なのだから。
それに気づかないW国の王は凡人。所詮は普通の人。
まあべつに凡人は悪いことではないよ。あくまでそれが普通であって、世の中の大半の人がそれなのだから。
だけど、それが王様ってのはおこがましいよね。凡人を自覚して謙虚にする王ならまだしも。
「じゃあ僕はどうすればいいんですか?」
最善の選択肢を知る能力があるくせに、こいつ、とうとう我輩に解答を求めてきやがった。
これは滑稽。滑稽は滑稽でも皮肉的で愉快な滑稽だ。シニカルではなくアイロニカル。
いまの質問は間違いなく最善の選択だ。
こいつは能力で選んだのではなく、天然で訊いてきた。
それがよかったのだ。
「我輩に対しては何をしても無駄だ。つまり最善を尽くしたところで死しか待っていないのだ。だが、いまの我輩は気分がいい。一回だけチャンスをやろう。そのチャンスというのは……」
「チャンスというのは……?」
我輩とW国の王の間で視線が交錯する。
W国の王が焦らされてドギマギしている。
「おまえか、W国の国民全員か、どちらか片方だけを助けてやろう。どちらを助けるかはおまえに選ばせてやる。さあ、どちらを助けてほしい?」
与えられたのは命の天秤。
片方は自分の命。
ごく普通の若い命。
いや、《最善の選択肢が分かる能力》を持つという点だけは優れた、傍から見れば才覚のある命。
もう片方は大勢の他人の命。
自分がいなければ何世代か後には絶滅しかねない知能の低い大量の人たちの命。
W国の王はまたしても激しく葛藤しだした。
(どうする、どうする!? W国の国民なんて自分たちだけでは生きていけない人間の集まりだ。王たる自分がいなければ元も子もない。いや、それは建前だ。あんな奴らのためにこの僕が命を落とすなんて割に合わない。やっぱり助かるのは僕自身だ! いや、待てよ。これはテストなんじゃ……? もし僕が『自分を助けてください』なんて言ったら、『やはりおまえに王の資格はない。生きる資格もない』と言われて殺されるかもしれない。逆に『W国の国民たちを助けてください』って言ったら、『そうか、やはりおまえには生きる価値がある』と言って僕のほうを助けてくれるかもしれない。それどころか『王として励め』と両方助けてくれるかもしれない。でも、もし……。もしも『あっそ。じゃあそうするわ』とそのままに受け取られる可能性もあるんだよな。どうすれば、どうすれば……。あ、そうだ! あるじゃないか、最善の選択が! 僕には《最善の選択肢が分かる能力》があるんだ。それで最善の選択をすればいいんだ! よし、最善の選択肢は……)
「はい、そこまで!」
「え……?」
一時の静寂が玉座の間を包み込んだ。W国の王が目を見開いた状態で固まっている。
「我輩はおまえに選べと言ったのだ。能力を使うということは、選択を神に委ねるということ。ラーメン屋に例えると、替玉は自由としか言われていないのに、拡大解釈して勝手にチャーシューまで持ち去るようなものだ。よって、両方に死を与える」
「そんなぁ!」
W国の王は両手両膝を床に着いてうな垂れた。
しかし、バッと頭を上げると早口で質問を投げてきた。
「あ、最後にこれだけは教えてください! もし能力を使わずに自分自身で答えていたら、僕の言ったとおりのほうを助けてくれたんですか?」
「そうだ。おまえが『自分を助けて』と言っていたらおまえを助けていたし、『国民を助けて』と言っていたらW国の国民を助けていた」
「そっかぁ。馬鹿みたいに深読みしなければよかった。これじゃあ僕は本当に馬鹿みたいじゃないか」
「馬鹿みたいじゃなくて、実際に馬鹿だぞ。開き直って《最善の選択肢が分かる能力》を使わなくなる時点でな。それと、全知の我輩にはこういう展開になることも分かっていた」
「え……」
W国の王はそれ以上の言葉を発することができなかった。
W国の王の首が電動ドライバーのようにグルグルグルッと捻じ切れたからだ。
それから我輩は、頭と体が離れたW国の王の骸を消し去り、W国に国の形をした高さ二十キロメートルの黒い塊たるモノリスを落とした。
今回はなんと、W国の王が自らやってきた。
高級生地の白いベストに赤いマントを羽織り、金の王冠を頭に載せた、王様然とした華やかな格好をした男。
しかしこの男、十八と若い。
黒髪でタレ目なところは年齢相応の幼さがある。
彼はW国の王であるが、元々はW国の人間ではなく異世界から転生した人間だ。
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「わたくしはW国の王を務める者です。このたびは魔界の覇者に相まみえることができて光栄に存じます。勝手に御城に足を踏み入れた無礼をなにとぞお許しください」
そう言ってW国の王は我輩の前で片膝を着き、頭を下げた。
「気に食わんな。なんで無礼なことだと分かっていて勝手に入城したの?」
「それは、何度呼びかけても応答がなかったので、致し方なく……」
W国の王は片膝を着いたまま、頭だけを上げて答えた。
「だったら普通は帰るよね」
「しかし、どうしてもあなた様に用がありましたゆえ」
「おまえさあ、転生前のことを想像してごらんよ。例えば学校の担任に用事があって家を訪れたとして、けど応答がなかったら勝手に家に上がり込むの?」
「…………」
こいつ、沈黙が最善か、などと考えて返答を放棄している。無礼な奴だな。
もっとも、何を言っても倍になって返ってくるか我輩の反感を買うのがオチなので、それがいちばんマシな選択なのは確かだ。
「気に食わないんだよなぁ、おまえ。さっきの謙虚な挨拶も本心じゃないじゃん。一国の王がこれだけかしこまったら我輩の機嫌も取れるはずっていう打算しかないじゃん。全部筒抜けなんだよね」
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たしかにこいつが我城を訪れなければ我輩のほうからW国に出向いていたし、そのときの我輩はいまより容赦がなくなることになる。
「ねえ、おまえ、なんで王なの?」
「なんで……? それは……」
我輩が漠然とした訊き方をしたものだから、どういう趣旨で尋ねたのかを最善の選択肢を探すことによって特定しようとしている。
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「それは、W国の国民たちに推挙されたからです」
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我輩はそう指摘したが、もしこいつがそれを正直に言っていたら、それはそれで責められるから結果は変わらない。
「しかし、W国の国民たちはわたくしが導く必要があるのです。W国は国家存亡の危機にありました。そこへ転生してきたのがわたくしで、《最善の選択肢が分かる能力》をもってしてW国を建て直したのです」
「建国シミュレーションゲームはさぞや楽しかっただろうな。W国って馬鹿ばっかだもんな。その日暮らしで消費していた水や食料を蓄えることを覚えさせたり、テコの原理で効率よく作業させたりと、普通ならちょっと考えれば分かることをドヤ顔で教えて尊敬の眼差しを集めていただけだもんな」
「まるでわたくしが邪悪のようにおっしゃいますが、発達の遅れた国民たちを教育するのは良事ではございませんか?」
「おまえ、王様としてチヤホヤされたかっただけだろ。おまえが王になってからのW国って半ば鎖国してたじゃん。商人は通すけど、他国からの移住は認めなかった。W国の国民は知能が低いからおまえでも王の座に居座れたけど、常識的な知能を持つ人間が入ってきたら、国民たちに身近な分、そいつがすごいって祭り上げられることになる。そしたらおまえ以外にも王の候補が出てくることになるもんな」
我輩がそれを指摘したところで、W国の王に葛藤が生まれた。
最善の選択肢は我輩の指摘を全面的に認め、平謝りすること。
しかしW国の王はそれをしたくない。プライドが許さない。
なぜ関係のない赤の他人にそんなことを言われなくてはいけないのか。
動機がどうあれ、傾いていた国を建て直した功績の大きさは変わらないではないか。
そういうふうに、W国の王は自分の能力と口論するかのように葛藤をしている。
しかし残念なことに、それはすべて我輩に筒抜けになっている。
どんなに最善の選択肢が選べるとしても、それを選ぶ過程での思考や本心は隠せないのだ。
あれこれ考えないという最善策は、分かっていてもできるものではない。
我輩はW国の王の葛藤が終わらぬうちに、さらなる口撃を加える。
「おまえみたいなのを〝お山の大将〟って言うんだよ。程度の低いグループでも、トップを張って天狗になるのはさぞかし気分がよかったろうな。誰でも思いつくような知恵を出しただけで賛辞を贈られ羨望の眼差しを向けられて。おまえがやりたいのは、お遊戯会かな?」
そこまで言ったところで、ついにW国の王が折れた。
ずっと片膝を着いていたW国の王だが、おもむろに立ち上がって膝の皿を手ではたいた。
ちなみに床には塵一つ落ちていないのだが。
「もういいです。あなたは何なんですか? なんで僕の考えていたことが分かるんですか? 仮にあなたに人の心が読める能力があったとしても、さっきの指摘は過去のことだから、いまの僕の思考には入ってなくて知りようがないと思うんですけど」
訊かれたから答えるが、我輩はべつに訊かれ待ちをしていたわけではないぞ。こいつとは違うのだ。
「我輩は《全知全能最強無敵絶対優位なる者》だ。それだけ言ったら分かるな?」
「全知全能!? 最強無敵!? 嘘でしょ!?」
「本当だ」
やはりこいつは凡人だ。知将などでは決してない。
我輩の要素で最も重要なのは全知全能でも最強無敵でもなく絶対優位なのだから。
それに気づかないW国の王は凡人。所詮は普通の人。
まあべつに凡人は悪いことではないよ。あくまでそれが普通であって、世の中の大半の人がそれなのだから。
だけど、それが王様ってのはおこがましいよね。凡人を自覚して謙虚にする王ならまだしも。
「じゃあ僕はどうすればいいんですか?」
最善の選択肢を知る能力があるくせに、こいつ、とうとう我輩に解答を求めてきやがった。
これは滑稽。滑稽は滑稽でも皮肉的で愉快な滑稽だ。シニカルではなくアイロニカル。
いまの質問は間違いなく最善の選択だ。
こいつは能力で選んだのではなく、天然で訊いてきた。
それがよかったのだ。
「我輩に対しては何をしても無駄だ。つまり最善を尽くしたところで死しか待っていないのだ。だが、いまの我輩は気分がいい。一回だけチャンスをやろう。そのチャンスというのは……」
「チャンスというのは……?」
我輩とW国の王の間で視線が交錯する。
W国の王が焦らされてドギマギしている。
「おまえか、W国の国民全員か、どちらか片方だけを助けてやろう。どちらを助けるかはおまえに選ばせてやる。さあ、どちらを助けてほしい?」
与えられたのは命の天秤。
片方は自分の命。
ごく普通の若い命。
いや、《最善の選択肢が分かる能力》を持つという点だけは優れた、傍から見れば才覚のある命。
もう片方は大勢の他人の命。
自分がいなければ何世代か後には絶滅しかねない知能の低い大量の人たちの命。
W国の王はまたしても激しく葛藤しだした。
(どうする、どうする!? W国の国民なんて自分たちだけでは生きていけない人間の集まりだ。王たる自分がいなければ元も子もない。いや、それは建前だ。あんな奴らのためにこの僕が命を落とすなんて割に合わない。やっぱり助かるのは僕自身だ! いや、待てよ。これはテストなんじゃ……? もし僕が『自分を助けてください』なんて言ったら、『やはりおまえに王の資格はない。生きる資格もない』と言われて殺されるかもしれない。逆に『W国の国民たちを助けてください』って言ったら、『そうか、やはりおまえには生きる価値がある』と言って僕のほうを助けてくれるかもしれない。それどころか『王として励め』と両方助けてくれるかもしれない。でも、もし……。もしも『あっそ。じゃあそうするわ』とそのままに受け取られる可能性もあるんだよな。どうすれば、どうすれば……。あ、そうだ! あるじゃないか、最善の選択が! 僕には《最善の選択肢が分かる能力》があるんだ。それで最善の選択をすればいいんだ! よし、最善の選択肢は……)
「はい、そこまで!」
「え……?」
一時の静寂が玉座の間を包み込んだ。W国の王が目を見開いた状態で固まっている。
「我輩はおまえに選べと言ったのだ。能力を使うということは、選択を神に委ねるということ。ラーメン屋に例えると、替玉は自由としか言われていないのに、拡大解釈して勝手にチャーシューまで持ち去るようなものだ。よって、両方に死を与える」
「そんなぁ!」
W国の王は両手両膝を床に着いてうな垂れた。
しかし、バッと頭を上げると早口で質問を投げてきた。
「あ、最後にこれだけは教えてください! もし能力を使わずに自分自身で答えていたら、僕の言ったとおりのほうを助けてくれたんですか?」
「そうだ。おまえが『自分を助けて』と言っていたらおまえを助けていたし、『国民を助けて』と言っていたらW国の国民を助けていた」
「そっかぁ。馬鹿みたいに深読みしなければよかった。これじゃあ僕は本当に馬鹿みたいじゃないか」
「馬鹿みたいじゃなくて、実際に馬鹿だぞ。開き直って《最善の選択肢が分かる能力》を使わなくなる時点でな。それと、全知の我輩にはこういう展開になることも分かっていた」
「え……」
W国の王はそれ以上の言葉を発することができなかった。
W国の王の首が電動ドライバーのようにグルグルグルッと捻じ切れたからだ。
それから我輩は、頭と体が離れたW国の王の骸を消し去り、W国に国の形をした高さ二十キロメートルの黒い塊たるモノリスを落とした。
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