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第15話 我輩 VS. AIを搭載した古代兵器のマスター
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我城に来訪者が現れた。
今回は正直、気分が乗らない。おもしろみがないからだ。
来訪者はいままででいちばん無能な転生者。自分では何もしない他力本願野郎だ。
「アイ、俺たちのターゲットはアレか?」
「はい、マスター。間違いありません」
白いロングコートのポケットに両手を突っ込んだ青年が話している相手は、彼の顔の横で浮遊している銀色のキューブ。
中央に赤く光る玉がはめ込まれている。
キューブの大きさは拳二つ分くらい。
声はどこかの受付嬢のような成人女性を想起させるもので、機械的な喋り方だが滑らかに発話する。
この青年は女神のギフト《何でも一つだけ願いを叶えられる力》で《絶対にミスや裏切りをしない完璧な相棒》を得た。
それがこのAIを搭載した古代兵器である。
「AIの名前をアイにする安直なセンス、我輩は嫌いだなー」
我輩が肘置きに肘を立て、頬杖をついてそう言うと、古代兵器のマスターは戸惑った。
何か話しかけられたわけではないが、自分のことを独り言として聞かせられたのだ。どう反応していいか分からないでいる。
そんな中、我輩は続けて独り言をこぼす。
「古代兵器なのに近未来的な優秀AIを搭載しているあたり、女神も大概ナンセンスだよな」
この転生者が極めて曖昧な願いをするものだから、女神がそれを形にしたのだった。
本来、女神のギフトが誰かに授けられたら、それによって叶えられる願いに女神が関与することはない。
ただ、今回のように曖昧な願いの場合は、一度女神に差し戻されて女神が具体化しているのである。
いちおう、古代期に文明は超高度に発展していたが、それも昔に滅んでしまっており、古代の遺物として残ったものがこの古代兵器という設定が付けられている。
それは本当に取って付けた設定でしかなく、実際にはこの古代兵器はつい先日その場で生み出したものでしかない。
「おい、女神様のことを悪く言うなよ!」
「おまえ、女神のこと慕ってんのかよ。我輩、おまえ自体も嫌いだわ」
全知で情報を仕入れたところによると、暴虐の限りを尽くす我輩を生み出してしまったことを反省し、女神は転生者への態度を改めていた。
もっとも、神という彼女より上位の存在からのヘイトはマックスで、もう手遅れであるが。
「アイ、あいつを倒せ! 手段は任せる」
古代兵器のマスターはいきなり殺意を高めた。
図星を突かれて恥ずかしくなり、早くこの状況を変えたいだけのくせに、一丁前に使命感に駆り立てられたような目で我輩を睨んでいる。
「マスター、その命令は遂行できません。標的に通用する攻撃手段が見つかりません」
「何!? どういうことだ!」
「標的は《全知全能最強無敵絶対優位なる者》です。いかなる者のいかなる攻撃も標的には通用しません」
我輩のことを知っているのは、女神がAIに我輩の情報をインプットしておいたからだ。
女神にもそれくらいのことしかできなかった。女神ももう我輩を討伐することを半ば諦めているのだ。
「そんなことある!? じゃあどうすればいいんだよ!」
「マスター、どうしようもありません。どうしますか? 命令してください」
「いや、だから俺が訊いているんだよ。どうすればいいか教えてくれよ」
そこで我輩が舌打ち音を室内に響かせた。
古代兵器とそのマスターの視線が我輩の方を向く。
「ねえ、もうおまえらのこと消していいかな? 何かするなら早くしてくんない? 我輩は敵意を持つ相手を前にしてもなお、こうして待ってあげているんだけど」
焦っているせいで、古代兵器のマスターは我輩を無視する形になりながら古代兵器に問いかける。声をうわずらせながら。
「アイ、それじゃあ逃げられる確率は?」
「マスター、それは不明です。標的に確認しなければ算出不能です。標的が逃がさないと言った場合、逃げられる確率はゼロパーセントです」
古代兵器のマスターが我輩の方へチラと視線を向けた。
この失礼極まりない奴に答えてやる義理はないのだが、あえて答えてやる。
「逃がさないよ。絶対に」
古代兵器のマスターはまたしても我輩に返事をせず、すぐに古代兵器との話を再開した。
「アイ、駄目元で攻撃できない?」
「はい、マスター。攻撃することは可能です」
「その隙に逃げることは?」
「マスター、それは不可能です」
「ワンチャン倒せたりしない?」
「マスター、それは不可能です」
「攻撃しなければ優しくしてもらえたりする?」
「マスター、すでに攻撃の意思は相手に伝わっています。自分の身かわいさにその意思変更を伝えても結果は変わらない可能性が高いです」
古代兵器のマスターはしばし黙考してから決断を下した。
「ええい! アイ、全火力でターゲットを集中砲火しろ!」
「はい、マスター」
N国の荒れ地部分、その地下から巨大なロボが這い出てきた。
そして、胸の装甲版を変形させて内側から砲筒を押し出すと、そこから超高密度のエネルギービームを発射した。
その場所から少し離れた場所で、地面を覆っていた扉が開いた。
中から二つの核ミサイルが発射された。
さらに、我城のはるか上空、空を越えて星の衛星軌道上にある兵器から、極太のレーザー光線が発射された。
「はぁ……」
やっぱこいつ、嫌い。
我輩はすべての攻撃をワープホールで受け止め、そしてすべて我城のこの部屋、玉座の間にワープさせた。
常軌を逸した光、熱、音によって古代兵器のアイとそのマスターは消し飛ばされた。
もちろん、我輩とペットのモフはバリアで守ったから無傷だった。
部屋自体も破壊不能状態にしているから、我輩以外の何者がどんな強力な攻撃を加えようと傷一つ付けることはできない。
我輩のいまの気分としては、風情を期待して花火大会に行ったのに、事故で花火がすべて同時に発射されて肩透かしを食らったような感じだ。
その後、我輩は古代兵器のマスターの出身国であるN国に、国の形をした高さ二十キロメートルの黒い塊たるモノリスを落としておいた。
今回は正直、気分が乗らない。おもしろみがないからだ。
来訪者はいままででいちばん無能な転生者。自分では何もしない他力本願野郎だ。
「アイ、俺たちのターゲットはアレか?」
「はい、マスター。間違いありません」
白いロングコートのポケットに両手を突っ込んだ青年が話している相手は、彼の顔の横で浮遊している銀色のキューブ。
中央に赤く光る玉がはめ込まれている。
キューブの大きさは拳二つ分くらい。
声はどこかの受付嬢のような成人女性を想起させるもので、機械的な喋り方だが滑らかに発話する。
この青年は女神のギフト《何でも一つだけ願いを叶えられる力》で《絶対にミスや裏切りをしない完璧な相棒》を得た。
それがこのAIを搭載した古代兵器である。
「AIの名前をアイにする安直なセンス、我輩は嫌いだなー」
我輩が肘置きに肘を立て、頬杖をついてそう言うと、古代兵器のマスターは戸惑った。
何か話しかけられたわけではないが、自分のことを独り言として聞かせられたのだ。どう反応していいか分からないでいる。
そんな中、我輩は続けて独り言をこぼす。
「古代兵器なのに近未来的な優秀AIを搭載しているあたり、女神も大概ナンセンスだよな」
この転生者が極めて曖昧な願いをするものだから、女神がそれを形にしたのだった。
本来、女神のギフトが誰かに授けられたら、それによって叶えられる願いに女神が関与することはない。
ただ、今回のように曖昧な願いの場合は、一度女神に差し戻されて女神が具体化しているのである。
いちおう、古代期に文明は超高度に発展していたが、それも昔に滅んでしまっており、古代の遺物として残ったものがこの古代兵器という設定が付けられている。
それは本当に取って付けた設定でしかなく、実際にはこの古代兵器はつい先日その場で生み出したものでしかない。
「おい、女神様のことを悪く言うなよ!」
「おまえ、女神のこと慕ってんのかよ。我輩、おまえ自体も嫌いだわ」
全知で情報を仕入れたところによると、暴虐の限りを尽くす我輩を生み出してしまったことを反省し、女神は転生者への態度を改めていた。
もっとも、神という彼女より上位の存在からのヘイトはマックスで、もう手遅れであるが。
「アイ、あいつを倒せ! 手段は任せる」
古代兵器のマスターはいきなり殺意を高めた。
図星を突かれて恥ずかしくなり、早くこの状況を変えたいだけのくせに、一丁前に使命感に駆り立てられたような目で我輩を睨んでいる。
「マスター、その命令は遂行できません。標的に通用する攻撃手段が見つかりません」
「何!? どういうことだ!」
「標的は《全知全能最強無敵絶対優位なる者》です。いかなる者のいかなる攻撃も標的には通用しません」
我輩のことを知っているのは、女神がAIに我輩の情報をインプットしておいたからだ。
女神にもそれくらいのことしかできなかった。女神ももう我輩を討伐することを半ば諦めているのだ。
「そんなことある!? じゃあどうすればいいんだよ!」
「マスター、どうしようもありません。どうしますか? 命令してください」
「いや、だから俺が訊いているんだよ。どうすればいいか教えてくれよ」
そこで我輩が舌打ち音を室内に響かせた。
古代兵器とそのマスターの視線が我輩の方を向く。
「ねえ、もうおまえらのこと消していいかな? 何かするなら早くしてくんない? 我輩は敵意を持つ相手を前にしてもなお、こうして待ってあげているんだけど」
焦っているせいで、古代兵器のマスターは我輩を無視する形になりながら古代兵器に問いかける。声をうわずらせながら。
「アイ、それじゃあ逃げられる確率は?」
「マスター、それは不明です。標的に確認しなければ算出不能です。標的が逃がさないと言った場合、逃げられる確率はゼロパーセントです」
古代兵器のマスターが我輩の方へチラと視線を向けた。
この失礼極まりない奴に答えてやる義理はないのだが、あえて答えてやる。
「逃がさないよ。絶対に」
古代兵器のマスターはまたしても我輩に返事をせず、すぐに古代兵器との話を再開した。
「アイ、駄目元で攻撃できない?」
「はい、マスター。攻撃することは可能です」
「その隙に逃げることは?」
「マスター、それは不可能です」
「ワンチャン倒せたりしない?」
「マスター、それは不可能です」
「攻撃しなければ優しくしてもらえたりする?」
「マスター、すでに攻撃の意思は相手に伝わっています。自分の身かわいさにその意思変更を伝えても結果は変わらない可能性が高いです」
古代兵器のマスターはしばし黙考してから決断を下した。
「ええい! アイ、全火力でターゲットを集中砲火しろ!」
「はい、マスター」
N国の荒れ地部分、その地下から巨大なロボが這い出てきた。
そして、胸の装甲版を変形させて内側から砲筒を押し出すと、そこから超高密度のエネルギービームを発射した。
その場所から少し離れた場所で、地面を覆っていた扉が開いた。
中から二つの核ミサイルが発射された。
さらに、我城のはるか上空、空を越えて星の衛星軌道上にある兵器から、極太のレーザー光線が発射された。
「はぁ……」
やっぱこいつ、嫌い。
我輩はすべての攻撃をワープホールで受け止め、そしてすべて我城のこの部屋、玉座の間にワープさせた。
常軌を逸した光、熱、音によって古代兵器のアイとそのマスターは消し飛ばされた。
もちろん、我輩とペットのモフはバリアで守ったから無傷だった。
部屋自体も破壊不能状態にしているから、我輩以外の何者がどんな強力な攻撃を加えようと傷一つ付けることはできない。
我輩のいまの気分としては、風情を期待して花火大会に行ったのに、事故で花火がすべて同時に発射されて肩透かしを食らったような感じだ。
その後、我輩は古代兵器のマスターの出身国であるN国に、国の形をした高さ二十キロメートルの黒い塊たるモノリスを落としておいた。
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