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第06話 我輩 VS. スローライフ勇者
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我城にまた来訪者が現れない。まただ。
新しい転生勇者が、本来の自分の役目を放棄して自分勝手に生きている。
それの何が悪いかって?
こいつらは人類を侵略する魔王を倒すことを条件に、死んだところを転生させてもらい、女神からギフト《何でも一つだけ願いを叶えられる力》を与えられているのだ。
つまり、大恩を無視して約束を一方的に破っているということだ。
我輩も好き勝手やってはいるが、少なくとも当時の魔王は倒した。我輩はもう使命を果たしたと言える。
ただその後に我輩が魔王と似たような行動を取っているだけのこと。
我輩が奴らを見下す何よりもの要因は、奴らは使命を放棄しているくせに善人ぶっているところだ。
我輩はしっかりと悪と自覚して人類を滅ぼそうとしている。
我輩はこのサボり勇者も殺すことにする。
もっとも、その理由は勇者が使命を放棄したからではない。我輩が気に食わないからだ。
我輩は悪であって、正義のために他人を処罰することなどない。
「モフ、おまえは留守番な」
我輩はE国に出向いた。E国の上空に瞬間移動し、そこから地上を見下ろす。
新しい勇者はのどかな農村にいた。旅の途中で立ち寄ったのではない。この村に住み着いているのである。
我輩は畑を眺めている勇者の後ろに降り立った。
「ほうほう。ここの土地は潤っとんなぁ」
「そうだろう? 僕の自慢の畑さ」
「そうかぁ……って、なに勇者の使命を投げ出しとんねん! 正しい役目で働かんかい!」
我輩は勇者の頭をバシンと叩いた。あくまで軽くだが。
「イテッ、何すんだ!」
「なーにが自慢だ。おまえは何もしてねーじゃねえか。全部手下にやらせてからに」
畑で作業しているのは勇者自身ではなく、勇者がテイムしたモンスター、つまり手懐け、飼い慣らしたモンスターたちだった。
ゴブリンという小鬼や、木偶魔人という動く木の魔物たちが畑を耕し、それからスライムが土の水分調整をしている。
この勇者が女神のギフト《何でも一つだけ願いを叶えられる力》で望んだのは、《万能コミュニケーション力》である。
この能力により、あらゆる生命と会話でき、そして仲良くなることができる。
簡単に言うと、この勇者は植物、動物、魔物とどんな生命でもテイムすることができるのだ。《万能》とはそういうことである。
ただ、こいつは国王とはほとんど直接の会話ができなかったために、国王からの信頼があまり得られなかった。
コミュ力が取り柄の勇者ということで、国王からあまり期待されず粗末な扱いを受けたため、拗ねて使命を放棄したのである。身勝手だよねぇ。
「彼らは僕がテイムしたモンスターたちだ。彼らの仕事は僕の仕事に等しい。だから畑仕事に関して文句を言われるいわれはないよ」
「能力でテイムしたんだから、洗脳して奴隷にした奴らに働かせているのと同じなんだけど、それを自慢されたら普通は気分が悪くなるだろ」
そもそも、この勇者が自分の称号を勇者に設定しているところが気に食わない。使命を放棄したこいつは、もはや勇者でも何でもない。ただの農家だ。
こいつの持つシステムでは称号を設定できる。
勇者の称号を獲得したときにはすぐに称号を勇者に設定したくせに、農家の称号を獲得しても称号を変更しなかった。
「だいたい、あんたは何なんだ?」
見ているだけのくせに一丁前に農夫の格好をしている勇者は、顔をしかめて我輩を睨んできた。
「我輩はおまえが倒すべき存在だ。つまり、魔王に取って代わった者だ」
「へぇ、それはそれは。その新魔王様がこんな辺境の地まで何をしに?」
「おまえを殺しに来たに決まってんだろ!」
我輩が親切に殺気を飛ばしてやると、ようやく事態を把握した勇者は警戒心をあらわにしてモンスターたちを呼び寄せた。
「おまえが手下を使うなら、我輩も手下を使おうかな」
モンスターたちが耕していた畑の隣の畑から、ニンジンが魔物化してはい出てきた。他の畑からも、ダイコン、カブ、ゴボウが次々に魔物化して出てきた。
野菜の魔物たちは根を足にして走ってきて、我輩の前に整列した。
「手下って、まさか……」
「おまえの畑に埋まっていた野菜どもだ。我輩が魔物化して手下にした」
「そんな馬鹿な! おい、みんな! ニンジン、ダイコン、カブ、ゴボウ! 僕が愛情を込めて育てた野菜たち、僕との絆を思い出してくれ!」
勇者が魔物野菜たちに熱く語りかける。
しかし魔物野菜は無反応だ。当然だ。我輩の手下が我輩に逆らうわけがない。
「愛情を込めて育てただ? 馬鹿なの? どうせ食ったり売ったりするんだろうが。そんな奴との間に絆なんてあるわけないだろ。そもそも育てたのはおまえじゃなくてモンスターたちだけどな」
「くっ、仕方ない。だが戦力はこちらも十分にある。僕は負けないぞ」
ゴブリン、木偶魔人、スライムが勇者の前に並んだ。その後ろで勇者が我輩に敵意をむき出しにしている。
このまま勇者のモンスターと魔物野菜を戦わせてもいいのだが、この勇者はテイムドモンスターが味方についているから、まだ優位に立っている気でいる。気に食わないなぁ。
「モンスターたちよ、我輩のしもべとなれ」
我輩の声を聞いた三種のモンスターたちは、我輩の前に移動して魔物野菜たちと並んで勇者に対して構えた。
「なっ!? そんな馬鹿な!」
「じゃあそろそろ……」
魔物野菜とモンスターたちが勇者へとにじり寄っていく。
勇者は一歩、二歩と後退するしかない。
「待って、待ってくれ! 話をしよう」
「おいおい、どの立場で物を申しているんだぁ?」
「は、話を、させてください……。お願いします……」
勇者はおずおずと頭を下げた。
我輩が冷ややかに見下ろしていると、さらに腰も曲げた。
「はぁ。少しくらい時間を取ってやってもいいが、おまえの能力で我輩と仲良くはなれんぞ」
顔を上げた勇者は仰け反りながら目を見開いた。
「何なんだ、あんたは。何でも知っているし、何でもできる。まるで神様みたいじゃないか。あんたはいったい何者なんだ」
「我輩は《全知全能最強無敵絶対優位なる者》だ。だからおまえに勝ち目はない。生き残るすべもない」
「全知全能!? そんな馬鹿な! そんなのが存在するはずないじゃないか。だったら……、だったらあんたは自分よりも強い存在を生み出せるのか? 全能なんだろ?」
こういう理屈っぽい性質は万能なコミュニケーション能力ゆえか。
いいだろう。それにも少し乗ってやろう。
「なるほど。パラドックスね。もし我輩がおまえの言葉どおりに我輩より強いとされる全知全能最強無敵絶対優位の存在を生み出したとしたら、この世界に矛盾が発生してしまう。我輩の性質が嘘になってしまうのだからな。その場合、どうなると思う? 答えは、その原因が消滅するのだ。我輩が先に存在していて、我輩より後に出てきたものが原因となるのだから、後に出てきたほうの存在が消滅する」
「じゃあ後から生まれても消滅しないものは生み出せないのか? それだと全能ではないということにならないか?」
「その場合、そのきっかけを作った存在が消滅し、そういう事態が起こらないことになる。つまり、そのときに消えるのはおまえの存在だ。試してみるか?」
勇者は言葉を詰まらせた。迂闊なことを言えば自分が消滅するのだから、無闇に言葉を発することすら恐ろしいのだ。
そんな農民勇者に与える時間はもう十分だろう。
さっさと終わらせよう。
「あのな、我輩は全知だし、絶対優位なの。おまえがどんなにコミュ力が高かろうが、どんな頭脳で理論武装しようが、我輩には絶対に勝てないの。もう消えろ」
消えろと言ったが、パッと消すわけではない。我輩は魔物野菜とモンスターたちに勇者を襲わせた。
会話力しか取り柄のない勇者は、自分が絆を結んでいたと勝手に思い込んでいたモンスターや野菜たちに水分を吸われたり肉を食われたりして、最後には骨をガシガシとかじられた。
我城に戻った我輩は、E国をかたどった二十キロの高さを有する黒色物体たるモノリスをE国に落とした。
新しい転生勇者が、本来の自分の役目を放棄して自分勝手に生きている。
それの何が悪いかって?
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つまり、大恩を無視して約束を一方的に破っているということだ。
我輩も好き勝手やってはいるが、少なくとも当時の魔王は倒した。我輩はもう使命を果たしたと言える。
ただその後に我輩が魔王と似たような行動を取っているだけのこと。
我輩が奴らを見下す何よりもの要因は、奴らは使命を放棄しているくせに善人ぶっているところだ。
我輩はしっかりと悪と自覚して人類を滅ぼそうとしている。
我輩はこのサボり勇者も殺すことにする。
もっとも、その理由は勇者が使命を放棄したからではない。我輩が気に食わないからだ。
我輩は悪であって、正義のために他人を処罰することなどない。
「モフ、おまえは留守番な」
我輩はE国に出向いた。E国の上空に瞬間移動し、そこから地上を見下ろす。
新しい勇者はのどかな農村にいた。旅の途中で立ち寄ったのではない。この村に住み着いているのである。
我輩は畑を眺めている勇者の後ろに降り立った。
「ほうほう。ここの土地は潤っとんなぁ」
「そうだろう? 僕の自慢の畑さ」
「そうかぁ……って、なに勇者の使命を投げ出しとんねん! 正しい役目で働かんかい!」
我輩は勇者の頭をバシンと叩いた。あくまで軽くだが。
「イテッ、何すんだ!」
「なーにが自慢だ。おまえは何もしてねーじゃねえか。全部手下にやらせてからに」
畑で作業しているのは勇者自身ではなく、勇者がテイムしたモンスター、つまり手懐け、飼い慣らしたモンスターたちだった。
ゴブリンという小鬼や、木偶魔人という動く木の魔物たちが畑を耕し、それからスライムが土の水分調整をしている。
この勇者が女神のギフト《何でも一つだけ願いを叶えられる力》で望んだのは、《万能コミュニケーション力》である。
この能力により、あらゆる生命と会話でき、そして仲良くなることができる。
簡単に言うと、この勇者は植物、動物、魔物とどんな生命でもテイムすることができるのだ。《万能》とはそういうことである。
ただ、こいつは国王とはほとんど直接の会話ができなかったために、国王からの信頼があまり得られなかった。
コミュ力が取り柄の勇者ということで、国王からあまり期待されず粗末な扱いを受けたため、拗ねて使命を放棄したのである。身勝手だよねぇ。
「彼らは僕がテイムしたモンスターたちだ。彼らの仕事は僕の仕事に等しい。だから畑仕事に関して文句を言われるいわれはないよ」
「能力でテイムしたんだから、洗脳して奴隷にした奴らに働かせているのと同じなんだけど、それを自慢されたら普通は気分が悪くなるだろ」
そもそも、この勇者が自分の称号を勇者に設定しているところが気に食わない。使命を放棄したこいつは、もはや勇者でも何でもない。ただの農家だ。
こいつの持つシステムでは称号を設定できる。
勇者の称号を獲得したときにはすぐに称号を勇者に設定したくせに、農家の称号を獲得しても称号を変更しなかった。
「だいたい、あんたは何なんだ?」
見ているだけのくせに一丁前に農夫の格好をしている勇者は、顔をしかめて我輩を睨んできた。
「我輩はおまえが倒すべき存在だ。つまり、魔王に取って代わった者だ」
「へぇ、それはそれは。その新魔王様がこんな辺境の地まで何をしに?」
「おまえを殺しに来たに決まってんだろ!」
我輩が親切に殺気を飛ばしてやると、ようやく事態を把握した勇者は警戒心をあらわにしてモンスターたちを呼び寄せた。
「おまえが手下を使うなら、我輩も手下を使おうかな」
モンスターたちが耕していた畑の隣の畑から、ニンジンが魔物化してはい出てきた。他の畑からも、ダイコン、カブ、ゴボウが次々に魔物化して出てきた。
野菜の魔物たちは根を足にして走ってきて、我輩の前に整列した。
「手下って、まさか……」
「おまえの畑に埋まっていた野菜どもだ。我輩が魔物化して手下にした」
「そんな馬鹿な! おい、みんな! ニンジン、ダイコン、カブ、ゴボウ! 僕が愛情を込めて育てた野菜たち、僕との絆を思い出してくれ!」
勇者が魔物野菜たちに熱く語りかける。
しかし魔物野菜は無反応だ。当然だ。我輩の手下が我輩に逆らうわけがない。
「愛情を込めて育てただ? 馬鹿なの? どうせ食ったり売ったりするんだろうが。そんな奴との間に絆なんてあるわけないだろ。そもそも育てたのはおまえじゃなくてモンスターたちだけどな」
「くっ、仕方ない。だが戦力はこちらも十分にある。僕は負けないぞ」
ゴブリン、木偶魔人、スライムが勇者の前に並んだ。その後ろで勇者が我輩に敵意をむき出しにしている。
このまま勇者のモンスターと魔物野菜を戦わせてもいいのだが、この勇者はテイムドモンスターが味方についているから、まだ優位に立っている気でいる。気に食わないなぁ。
「モンスターたちよ、我輩のしもべとなれ」
我輩の声を聞いた三種のモンスターたちは、我輩の前に移動して魔物野菜たちと並んで勇者に対して構えた。
「なっ!? そんな馬鹿な!」
「じゃあそろそろ……」
魔物野菜とモンスターたちが勇者へとにじり寄っていく。
勇者は一歩、二歩と後退するしかない。
「待って、待ってくれ! 話をしよう」
「おいおい、どの立場で物を申しているんだぁ?」
「は、話を、させてください……。お願いします……」
勇者はおずおずと頭を下げた。
我輩が冷ややかに見下ろしていると、さらに腰も曲げた。
「はぁ。少しくらい時間を取ってやってもいいが、おまえの能力で我輩と仲良くはなれんぞ」
顔を上げた勇者は仰け反りながら目を見開いた。
「何なんだ、あんたは。何でも知っているし、何でもできる。まるで神様みたいじゃないか。あんたはいったい何者なんだ」
「我輩は《全知全能最強無敵絶対優位なる者》だ。だからおまえに勝ち目はない。生き残るすべもない」
「全知全能!? そんな馬鹿な! そんなのが存在するはずないじゃないか。だったら……、だったらあんたは自分よりも強い存在を生み出せるのか? 全能なんだろ?」
こういう理屈っぽい性質は万能なコミュニケーション能力ゆえか。
いいだろう。それにも少し乗ってやろう。
「なるほど。パラドックスね。もし我輩がおまえの言葉どおりに我輩より強いとされる全知全能最強無敵絶対優位の存在を生み出したとしたら、この世界に矛盾が発生してしまう。我輩の性質が嘘になってしまうのだからな。その場合、どうなると思う? 答えは、その原因が消滅するのだ。我輩が先に存在していて、我輩より後に出てきたものが原因となるのだから、後に出てきたほうの存在が消滅する」
「じゃあ後から生まれても消滅しないものは生み出せないのか? それだと全能ではないということにならないか?」
「その場合、そのきっかけを作った存在が消滅し、そういう事態が起こらないことになる。つまり、そのときに消えるのはおまえの存在だ。試してみるか?」
勇者は言葉を詰まらせた。迂闊なことを言えば自分が消滅するのだから、無闇に言葉を発することすら恐ろしいのだ。
そんな農民勇者に与える時間はもう十分だろう。
さっさと終わらせよう。
「あのな、我輩は全知だし、絶対優位なの。おまえがどんなにコミュ力が高かろうが、どんな頭脳で理論武装しようが、我輩には絶対に勝てないの。もう消えろ」
消えろと言ったが、パッと消すわけではない。我輩は魔物野菜とモンスターたちに勇者を襲わせた。
会話力しか取り柄のない勇者は、自分が絆を結んでいたと勝手に思い込んでいたモンスターや野菜たちに水分を吸われたり肉を食われたりして、最後には骨をガシガシとかじられた。
我城に戻った我輩は、E国をかたどった二十キロの高さを有する黒色物体たるモノリスをE国に落とした。
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