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最終章 狂酔編
第299話 神
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約束の時がきた。
護神中立国内にある神社の本殿で、ネアの出迎えを受け、俺とエアはその中へ入る。
中は前回と同じ真っ白な世界だが、ネアがパンッと一度手を叩くと、風景がガラリと変わった。
その様子はさながら日本庭園。
石で縁取られた池にししおどしがあり、その周囲には流線型の模様に砂利が敷き詰められている。
少し離れた所には青々とした芝があり、木製の円形テーブルと椅子が四脚。
そして庭園を満開の桜の木が取り囲んでいる。
「願い事は考えてきたかい?」
「ああ、まあな」
「座ってくれ。じゃあ神を呼ぼう」
俺とエアが並んで椅子に座ると、ネアは天を仰いで目を閉じた。
その数秒のうちにネアの横で眩い光が発せられたかと思うと、そこにネアそっくりな少年が姿を現した。
神と思しきその存在は、格好がネアと同じで白いシャツに黒いスラックスという出で立ちだった。
顔もネアそっくりだったが、ネアよりも少し垂れ目気味だった。
しかし、その存在感はかつて感じたことのない重厚さがあり、近くにいるだけで者ではないことを感じさせる。
「はじめまして。僕が神だよ」
座っていたエアは立ち上がり、深々とお辞儀をした。
俺はどう対応するか迷ったが、いちおう立って軽く会釈をした。
「まあ座ってくれ」
円形テーブルには椅子が等間隔に並んでいるので、俺の右手にエア、左手にネア、正面に神が座る形となった。
「さて、ゲス・エスト。僕に聞きたいことはもうないだろう? すべてネアに聞いたはずだからね。だから君の願いを聞こうじゃないか」
神が降臨したとき、このチャンスを逃さずいろいろ聞かなければという気になったが、よくよく考えれば俺は気になっていたことをすべてネアに聞いている。
ネアが神に続いて俺に発言を促してきた。
「さあ、エスト、神への願いは何だい? 君が望むなら、君の記憶にある元の世界を創造して君をその世界に送ることもできるよ。君が空気の操作型魔法を持ったままでそれを叶えることも可能だ」
「候補はいくつか考えてきたが、そうだな……」
俺はこの世界に来たばかりのとき、俺は元の世界に激しい恨みがあった。
当時の俺なら、いまネアが言ったことをそのまま願っていただろう。そして唯一魔法が使える最強最悪の存在として世界を蹂躙したに違いない。
神、ネア、エアの三人の視線が俺に集まっている。
「元の世界はもうどうでもいい。実在しないものに執着してもしょうがない。願いを言う前に、願いを叶えられる範囲というのを確認しておきたい。例えば、俺が神の世界に行くということは可能なのか?」
願いの候補を口にすると、エアが少し驚いたような表情をしたが、神とネアは予想の範囲内という態度を示した。
俺の質問にはネアが答えた。
「それは可能だよ。ただし一方通行だ。こっちの世界に戻るには、また神の力を使わなければならない。君のためにそこまではしてやれない。それに君の性格上、神の世界に行っても喧嘩をふっかけまくるだろう? それでは君はそう長くは生きていられないと思うよ」
「ちなみに、いまの俺の強さは神の世界ではどれくらいになる?」
「中の上、といったところだね」
「そうか……」
神の世界に行く。この願いについても本気で考えはしたが、これを願うつもりはなかった。
これを願うと俺は一人になってしまう。仮にエアを連れていけたとしても、ほかの仲間、つまりキーラやシャイル、リーズ、マーリンたちと離れ離れになってしまう。それは嫌だ。
「エスト……」
エアが俺の手を握り、不安そうな視線を送ってくる。
俺はエアの手に自分の手を重ねた。
「大丈夫だ、エア。そんなことは願わない。俺はこの世界を好きになっちまったんだ。エアだけじゃない。キーラも、シャイルも、リーズも、マーリンも、ほかの奴らも、みんな好きになってしまったから、関係を切り捨てたりなんかできない」
俺の言葉に反応し、ネアが表情を変えずに訊いてくる。
「じゃあ願いは〝なし〟かい?」
「いいや、願いは一つだけある。神、あんたと闘いたい」
護神中立国内にある神社の本殿で、ネアの出迎えを受け、俺とエアはその中へ入る。
中は前回と同じ真っ白な世界だが、ネアがパンッと一度手を叩くと、風景がガラリと変わった。
その様子はさながら日本庭園。
石で縁取られた池にししおどしがあり、その周囲には流線型の模様に砂利が敷き詰められている。
少し離れた所には青々とした芝があり、木製の円形テーブルと椅子が四脚。
そして庭園を満開の桜の木が取り囲んでいる。
「願い事は考えてきたかい?」
「ああ、まあな」
「座ってくれ。じゃあ神を呼ぼう」
俺とエアが並んで椅子に座ると、ネアは天を仰いで目を閉じた。
その数秒のうちにネアの横で眩い光が発せられたかと思うと、そこにネアそっくりな少年が姿を現した。
神と思しきその存在は、格好がネアと同じで白いシャツに黒いスラックスという出で立ちだった。
顔もネアそっくりだったが、ネアよりも少し垂れ目気味だった。
しかし、その存在感はかつて感じたことのない重厚さがあり、近くにいるだけで者ではないことを感じさせる。
「はじめまして。僕が神だよ」
座っていたエアは立ち上がり、深々とお辞儀をした。
俺はどう対応するか迷ったが、いちおう立って軽く会釈をした。
「まあ座ってくれ」
円形テーブルには椅子が等間隔に並んでいるので、俺の右手にエア、左手にネア、正面に神が座る形となった。
「さて、ゲス・エスト。僕に聞きたいことはもうないだろう? すべてネアに聞いたはずだからね。だから君の願いを聞こうじゃないか」
神が降臨したとき、このチャンスを逃さずいろいろ聞かなければという気になったが、よくよく考えれば俺は気になっていたことをすべてネアに聞いている。
ネアが神に続いて俺に発言を促してきた。
「さあ、エスト、神への願いは何だい? 君が望むなら、君の記憶にある元の世界を創造して君をその世界に送ることもできるよ。君が空気の操作型魔法を持ったままでそれを叶えることも可能だ」
「候補はいくつか考えてきたが、そうだな……」
俺はこの世界に来たばかりのとき、俺は元の世界に激しい恨みがあった。
当時の俺なら、いまネアが言ったことをそのまま願っていただろう。そして唯一魔法が使える最強最悪の存在として世界を蹂躙したに違いない。
神、ネア、エアの三人の視線が俺に集まっている。
「元の世界はもうどうでもいい。実在しないものに執着してもしょうがない。願いを言う前に、願いを叶えられる範囲というのを確認しておきたい。例えば、俺が神の世界に行くということは可能なのか?」
願いの候補を口にすると、エアが少し驚いたような表情をしたが、神とネアは予想の範囲内という態度を示した。
俺の質問にはネアが答えた。
「それは可能だよ。ただし一方通行だ。こっちの世界に戻るには、また神の力を使わなければならない。君のためにそこまではしてやれない。それに君の性格上、神の世界に行っても喧嘩をふっかけまくるだろう? それでは君はそう長くは生きていられないと思うよ」
「ちなみに、いまの俺の強さは神の世界ではどれくらいになる?」
「中の上、といったところだね」
「そうか……」
神の世界に行く。この願いについても本気で考えはしたが、これを願うつもりはなかった。
これを願うと俺は一人になってしまう。仮にエアを連れていけたとしても、ほかの仲間、つまりキーラやシャイル、リーズ、マーリンたちと離れ離れになってしまう。それは嫌だ。
「エスト……」
エアが俺の手を握り、不安そうな視線を送ってくる。
俺はエアの手に自分の手を重ねた。
「大丈夫だ、エア。そんなことは願わない。俺はこの世界を好きになっちまったんだ。エアだけじゃない。キーラも、シャイルも、リーズも、マーリンも、ほかの奴らも、みんな好きになってしまったから、関係を切り捨てたりなんかできない」
俺の言葉に反応し、ネアが表情を変えずに訊いてくる。
「じゃあ願いは〝なし〟かい?」
「いいや、願いは一つだけある。神、あんたと闘いたい」
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