残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

文字の大きさ
上 下
274 / 302
最終章 狂酔編

第273話 カケラ戦‐総力戦②

しおりを挟む
鬱陶うっとうしい」

 カケラがつぶやき、エアが動いた。
 手のひらに火球を生み出し、それをキーラへ放つ。
 メルブランが《炎消去》を付与したチェーンソードでキーラの前に移動し火球を斬る。
 火球はチェーンソードに触れた瞬間に消失したが、エアの攻撃はそれで終わらなかった。
 地上の土が浮き上がり、球状に固まって無数の弾丸へと変わった。それがメルブランとキーラへ飛ぶ。

「なっ!」

 土の弾丸はとんでもない速度だった。決して目で捉えられる速さではない。
 土の操作はジーヌ共和国の守護四師のアカの魔法で、超高速はスカラーの概念種であるアオの魔法だ。
 幸い致命傷は受けていないが、チェーンソードをかいくぐったいくつかの弾がヒットしてメルブランは大ダメージを負った。
 キーラはメルブランの陰にいたおかげで無傷だった。

 エアの攻撃はまだ続く。土弾第二段がエアの周囲に再び浮かんでいる。
 今度はメルブランにチェーンソードで防御する余力はない。

「防ぎます!」

 土弾はメルブランへと飛ぶ前に弾けて砕けた。
 それをやったのはサンディア・グレイン。砂の操作型魔法でエアが砂から土を作る前に操作リンクを張り、土弾を飛ばす前に内部から破壊したのだ。

 エアがサンディアの方を指差す。
 直感的に光線を放ってくると分かったので、コータの位置魔法でサンディアを瞬間移動させる。

 ミューイが音波でエアを無力化しようとするが、エアを中心に空気の振動がブワッと全方位に広がり、音波をかき消してしまう。
 これは空気の操作というより振動魔法を使ったのだろう。

「私が触れられれば記憶を消して無力化できる。コータ君、私を彼女の近くへ転移させてくれないか」

 申し出たのはミスト・エイリー教頭だった。
 コータがうなずき、教頭を上空にいるエアの背後に瞬間移動させて位置を固定する。
 そして教頭がエアの頭に手を触れようとした瞬間、エアは消えた。彼女もまた位置の魔法で瞬間移動したのだ。

「私も触れれば無力化できる。私も飛ばしてくれる?」

 ハーティ・スタックも名乗りをあげた。
 恒温動物である人間は体温をほんの数度上げてやれば簡単に無力化できるのだが、熱の発生型魔導師である彼女にはそれをたやすく実行することができるのだ。

「分かった」

 コータは二人を連続でエアの元へ瞬間移動させる。
 しかしエアはことごとく彼らを避け、しまいには自分の近くに出現することを逆手に取ってカウンターをお見舞いしてきた。
 ジム・アクティの魔法だった身体強化でスピードとパワーを増したエアの拳が教頭とハーティの腹に決まる。

「六人がかりでも抑えられないか……」

 いまのエアに勝てるのは俺くらいしかいないが、俺がカケラの相手を放り出すわけにはいかない。当然ながらエアを操るカケラのほうが圧倒的に強いのだから。

「ふふふ、だいぶエアのほうに戦力を取られているじゃない、ゲス・エスト。あらぁ? あなたの頭の中にはこっち側の戦力が見えるけれど、アンジュちゃんとエンジュちゃんは一度も使わないのかしら? もしかして、足手まといだと思っているのかしらねぇ」

 アンジュとエンジュ。それぞれ静電気の発生型と湿度の操作型の魔導師だ。
 たしかに使いどころが難しい。
 というか、無理に全員を使う必要はない。

「そいつらも貴重な戦力だ。二人に限らず、最適な場面でそれぞれの魔法を使う。ただそれだけだ。意味のない場面で意味のない魔法を使わないのは当たり前だろうが」

「じゃあ最初から最後まで一度も使わなければ、ここにいる意味がない人間ということになるわね」

「そんな精神攻撃は無駄だ。俺の本心は感覚共鳴で二人にも伝わっている!」

 俺の言ったことはすべて本心なのだが、こうしてわざわざフォローする状況を作られるというのは俺に精神的な疲労を蓄積させる。
 カケラが火のついたマッチ棒を投げ散らかすから、俺はそれをバケツの水で消そうとあちこち奔走ほんそうしなければならない。

 それに、エアに人員をくのは無駄ではない。エアを動かしているのはカケラなのだから、カケラの思考リソースをそちらに割かせることにつながる。
 もちろん、カケラへの攻撃も続ける。

 リーンが空を飛びまわってカケラに斬りつけ、カケラが鋭利な爪でそれを弾いたところへドクター・シータの分身体が複数で同時に飛びかかる。
 カケラが切り裂いたドクター・シータの分身体は腐って崩れ落ち、ドクター・シータの体へ戻ることを許さない。

「準備できたぜ!」

 時間がかかったが、スモッグ・モック工場長が世界中から有害な塵を集めてきて、それを盲目のゲンが作った水のドリルへと投入する。
 E3エラースリーの操作する強靭な水でカケラを傷つけ、その傷口から数多の種類の毒を体内へ侵入させようという算段だ。
 もしこれを受ければ、さすがのカケラもひとたまりもないだろう。

 さらに同時に強烈な竜巻がカケラを取り囲む。
 イル・マリルとリーズ・リッヒ。それぞれ風の発生型と操作型の魔法で竜巻を際限なく強めていく。だがカケラにはこれが俺の絶対化空気か仲間の風魔法か判別がつきにくい。
 感覚共鳴で全員がつながっているせいで、俺以外の者が攻撃してもそれはエストの攻撃意思でもあるからだ。
 もし絶対化空気だったら絶対に避けなければならない。

「捉えた!」

 どちらの魔法もカケラは回避するには逃げ道は一つしかない。上空で待ち構えていた空気のネットがカケラを絡め取る。
 カケラに触れてから絶対化するので、もうカケラを拘束した状態から動くことはない。

 これを脱するためには俺を殺すか、シャイルを時間停止から解放して時間を巻き戻すしかない。
 その二択ならカケラは時間を巻き戻すだろう。カケラに時間巻き戻しの空間範囲を好きに選択させないよう、間髪入れずに追撃する。
 毒水ドリルと竜巻がカケラへと迫る。

 迫った。が、離れていく。
 カケラへと近づいていた毒水や竜巻が元の位置へ戻っていく。
 ついに時間操作を使ったのだ。これでシャイルが解放された。
 この瞬間、勝機が見えた。

 カケラが時間を巻き戻し終えた瞬間、その両サイドから巨大な鋼鉄の手がガンッと閉じてカケラを押し潰した。

 操作したのは俺ではなくエアだ。
 記憶をそのままに時間が巻き戻ったことで、俺たちもエアの瞬間移動先を知ることができ、そこで教頭による記憶への干渉でエアを取り戻したのだ。
 カケラはずっと俺の心を視ていたようだが、エアの心は視ていなかったため、彼女の操る機工巨人に反応できなかったのだった。

「勝った……?」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

処理中です...