残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

文字の大きさ
上 下
272 / 302
最終章 狂酔編

第271話 カケラ戦‐合流

しおりを挟む
 魔の森には無数の魔獣が生息していたが、私とネリスにとってはウサギやリスが森を駆け回っているのと相違なかった。

 難なく森を抜けた先。私達にとっては、こちらの方が難関だった。

「シェダールより訪れし半魔の子等よ。そなた達は、リーファスに災いをもたらす者か?」

 私とネリスの前には、見上げるほどに巨大な虎。白い毛並みのその体は、神々しく光を放っている。

「聖獣」白虎(びゃっこ)。魔の森のリーファス側を見張る四体の聖獣「四聖獣」の中の一体である。

「偉大なる聖獣白虎様。私達は、リーファスに災いをもたらしはしません。魔人によって奴隷として使役されていた者でございます。救いを求めて、この国へ来ました。私の父は人間。母は魔人でした。私の名前はアリエッタ。彼はネリス。私達には、魔人である母の血が流れています。父も母も、シェダールの奴隷制度に反対し、処刑されました。白虎様、どうぞ私達の入国を、お許し下さい」

 私とネリスはひざまずき、祈るように白虎を見つめた。聖獣に嘘は通じない。その為、真実を隠しつつ本当の事のみを話すように心がけた。じんわりと汗が滲む。

「ふむ......」

 白虎は魂をも見通してしまうかのような瞳で、私達をじっと見た。

「嘘は言っていないようだな。アリエッタとネリスよ。そなたらの入国を認めよう。だが、もしもこの国で邪(よこしま)な行いをしようものなら、たちまち我が喰い殺す。肝に銘じておくが良いぞ」

「ありがとうございます、白虎様。今後も、清く正しくありたいと思っています」

 私はそう言って立ち上がり、ネリスを促す。ネリスも慌てて立ち上がり、私に倣ってお辞儀をした。

「うむ、それが良い。ではな、半魔の子等」

 白虎はそう言って踵を返す。そして巨体にも関わらず足音を立てずに、風のように去っていった。

「ふぅ、さすがアリエッタ。うまく切り抜けたね」

 ネリスがほっとしたように、胸を撫で下ろす。

「うん、母の話が役に立ったみたい。子供の頃に聞いた聖女の伝説でね、聖獣が出てくるの。実は聖女は小さな罪を犯していたんだけど、言わなくてもいい事は言うべきではない。って、悟るの。そして聖獣に喰い殺されずに済んだって話。それを実践してみたって訳」

 私はそう言って、彼に微笑んだ。

「そっか。お母さんのお陰だね。ところで聖獣へのさっきの話し方だと、僕とアリエッタは姉弟って事になるんだよね」

「ふふっ、そうだね。こんなに中のいい姉弟、珍しいけど」

 私はそう言ってネリスに抱きつき、彼を見つめる。彼は微笑しながら、私にキスをする。

「確かにね。じゃあ聖獣に出会った時は、姉弟の振りをするって事でいいかな?」

「うん。そうだね。それ以外の時は、こんな風に愛し合う恋人だよ」

 私はそう言って、またネリスにキスをねだった。

 ひとしきりキスを楽しんだ後、私達は近くの村まで徒歩で移動を開始した。魔術で空を飛んでいく事は可能だが、悪目立ちしてしまう。聖獣や憲兵隊に目をつけられるのはまずい。今はなるべく目立たずに王都を目指すべきだろう。

「この景色、なんだか見覚えがある」

 街道沿いに建物はないが、所々に樹木が生えている。しばらく歩いていると、ネリスが懐かしそうに周囲を見回した。

「ああ、やっぱりそうだ! あの木の形! 子供の頃、木登りをして遊んだんだ!」

 ネリスは駆け出し、近くの木によじ登った。その木は二股に分かれており、登りやすそうな形をしていた。

「この景色、ちっとも変わってない! ほら見てアリエッタ! あそこにある村が、僕の住んでいたコロンドルだよ!」

 ネリスは子供のようにはしゃいで、遠くを指さした。彼の指差す方向に、確かに建物が見える。

「ほんとだ。あそこがネリスの住んでいた村なんだね。だけどネリス、あなたとシエラを売った両親の事、許せるの?」

 そうネリスに尋ねながら、私だったら許せないかも知れない、と思った。

「そうだね......売られてすぐの頃は、僕も姉さんも両親を恨んだよ。だけどすぐに思い直したんだ。僕等は生きてる。父さんと母さんも、僕達を売って生き延びた。家族四人が野垂れ死ぬよりはずっとマシだったってね」

 ネリスはそう言うと、木の上から飛び降りた。着地した彼の表情は爽やかだった。

「だから許そうと思うんだ。これから父さんと母さんに会いに行く。そしてアリエッタの事を紹介するよ。売られたお陰で出会えたってね!」

 ネリスは微笑んで、私に右手を差し出した。

「さぁ行こうアリエッタ! 僕の村で結婚式を挙げるんだ!」

「ネリス......! 嬉しい!」

 私はネリスの手を取り、彼に抱きついてキスをした。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『俺だけが知っている「隠しクラス」で無双した結果、女神に愛され続けた!』

ソコニ
ファンタジー
勇者パーティから「役立たず」として追放された冒険者レオン・グレイ。彼のクラスは「一般職」――この世界で最も弱く、平凡なクラスだった。 絶望の淵で彼が出会ったのは、青い髪を持つ美しき女神アステリア。彼女は驚くべき事実を告げる。 かつて「役立たず」と蔑まれた青年が、隠されたクラスの力で世界を救う英雄へと成長する物語。そして彼を導く女神の心には、ある特別な感情が芽生え始めていた……。 爽快バトル、秘められた世界の真実、そして禁断の恋。すべてが詰まった本格ファンタジー小説、ここに開幕!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...