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最終章 狂酔編
第262話 カケララ戦‐護神中立国③
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どうやら紅い狂気が人を狂気に染めるやり方は二通りあるようだ。
一つは精神に干渉し、その人に内在する狂気を無理矢理に呼び起こす方法。
そしてもう一つは、肉体的および精神的に過剰なストレスを加えて心を破壊し、思考回路を狂わせる方法。
前者は紅い狂気の特殊技能を行使することでしかありえない狂人の作り方だが、後者は紅い狂気が存在しなかった場合にも人が狂乱し得る、いわば自然発生的な狂人の作り方だ。
そして、狂人となるまでにより辛い思いをするのは、当然ながら後者だ。
過度な肉体への痛み、残酷な魂の汚染、それらを経て廃人となり、さらにいたぶられ弄ばれつづけた先に狂人が待っている。
「もう……」
レイジー・デントはずっと首を絞められつづけていた。
ほとんど息ができずに苦しみつづけて数時間。涙はとうに枯れていた。
「あらら、さっきまでは『まだ……』だったのに、言葉が変わったわね。どうにか搾り出した声で何を言いたいの? 言ってごらんなさいよ」
レイジーの首がいっそう絞めつけられる。
言葉を発することもできない。
レイジーは後悔していた。
いろんなことを後悔していた。
まず、エアが世界に攻撃をした動機を知ったとき、彼女に賛同するべきだった。
あのときはこんな地獄が待っているとは想像できなかった。
サンディアをアンジュとエンジュの応援に向かわせるべきではなかった。
目の前にいるカケララは身が一つであり、能力も一つだけ。
カケララ自身からはレイジーが攻撃を受け、念動力からはセクレが攻撃を受け、蹂躙されている。もしサンディアを残していたら、カケララを妨害する人員になっていたかもしれない。カケララと戦うには三人目の人員が必須だった。
レイジー・デントは判断を間違えた。この二つの過ちはとてつもなく大きい。そしてこの二つの選択ミスにつながる判断すべてを呪った。
これまでの人生では常に最善を選択してきたはずなのに、なぜこうなったのか。
自分が悪いのか?
ゲス・エストのせいか?
それとも最初から運命として決まっていたのか?
「……死にたい。もう、許して……」
苦しい。とにかく苦しい。ひたすら苦しい。
楽になりたい。もうそれしか考えられない。
そんなレイジーの心は、言葉として聞くまでもなくカケララには分かっていることだった。
「死にたいの? なんで?」
カケララが意地悪に笑う。まともに息ができずに苦しいのに、もっと喋らせようとする。どうせそれを聞いたところで望みを聞き入れないくせに。
レイジーがカケララに直接首を絞められている一方で、セクレは体を操られ、苦痛を与えられつづけていた。
四肢、胴、首、その他あらゆる間接を、捻られ、捻じられ、圧迫され、押し曲げられていた。
痛い。とにかく痛い。
全身の何箇所もの骨が折れ、それが肉に刺さる。
しかし死にはしない。死なせてはもらえない。
しかし、もし死なせてもらえるとしても、どんなに死にたかろうと死ぬわけにはいかない。なぜなら、セクレが魔法を止めるとレイジーがもっと苦しむことになるからだ。
実はセクレはインクをレイジーの喉、それも気管のほうに忍ばせていた。
それはレイジーがカケララに首を絞められはじめてから、カケララに気づかれないように少しずつ送り込んだものだ。レイジーの苦しみを少しでも和らげるため、セクレはレイジーの気管を内側から広げようと液体を操作していた。
自分の体の痛みで何度も意識が飛びそうになるが、意識を失わないよう絶妙かつ正確に加減しているのはカケララなので、セクレは自分が痛みに耐えかねて魔法を止めるようなことがないよう集中するだけだった。
セクレにとってレイジーは恩人だった。
かつてのセクレは魔法のセンスがない落ちこぼれとして同級生にいじめられていた。それを救ったのが生徒会長のレイジーだったのだ。
レイジーは直接介入するのではなく、セクレに魔法を使いこなす方法を教え、自力で相手を見返せるように育てた。
セクレは自力でイジメに対抗し、苦境を脱することができた。
セクレはレイジーの恩に報いたいという気持ちと、学校を道徳観や倫理感を重んじる校風に変えたいという気持ちから生徒会に入り、そして実際に学校の環境改善に尽力してきた。
その結果として、魔導学院は特に風紀の遵守に力を入れるようになり、風紀委員には強き者がそろっていった。
ただ、今度は風紀委員が力を持ちすぎてしまうという事態に陥った。一部の風紀委員が肩書きを盾に幅を利かせるようになったのだ。
そんな中でセクレがスカウトしたのがサンディアだった。
サンディアは真面目で誠実で、そして何より優しい。彼女を引き入れたことによって、それを慕う同類の後輩が風紀委員に入り、学院の雰囲気はいくらか柔和になった。
(サンディアがいてくれたら、状況は変わっていたのかな……)
セクレもまた、サンディアをアンジュとエンジュの助っ人に出したことは間違いだったと後悔した。
だがサンディアがいたとして、現状がどう変わっていたかは分からない。サンディアの魔法自体は砂の操作型という非常に強力なものなのだが、サンディア自身の魔法を使う能力はそんなに高くはない。
サンディアがいたとして、両手両脚を折られて目を潰されて放置されるだけだったかもしれない。カケララの言うとおり、状況は何も変わらなかったかもしれない。
でも、どうしてもサンディアがいてくれたらと考えてしまう。それほどに、全身の内部が破壊される痛みが辛い。
レイジーを守らなければという想いと、楽になりたいという想いが激しく葛藤している。
いっそのこと、操作している液体をレイジーの喉に詰まらせて楽にしてあげて、その後に自分のことも窒息させて自殺したい。
しかしそれはすべての仲間への裏切りだ。本当は勝てたかもしれない戦いが自分のせいで負けるかもしれない。そんなことはできない。
(でも、苦しいよぉ……)
枯れたはずなのに、また涙が出てきた。ネットリしていて、レイジーを見つめる視界が赤く滲む。
これは、血の涙だろうか。自分も狂気に呑まれてしまうのだろうか。
そんなのに負けてたまるか。
でも、呑まれてしまったほうが楽なのだろうか……。
…………。
「セクレ、いま楽にしてあげるね」
セクレの体にかけられていた見えない力がフッと消えた。
全身を砂が這いまわる感覚がする。そして、砂が自分の体を動かす。捻じれを解き、歪みを正し、元のあるべき姿勢を取り戻していく。
そして顔を覗き込んで優しく微笑んだのは、白いオーラをまとったサンディア・グレインだった。
「サンディア……」
セクレの目に涙が浮かぶ。今度はネットリしていないし、目も痛くない。
全身にはいまだ激痛が残るが、さっきまでに比べたらだいぶ楽になった。
「さあ、会長を助けるよ!」
「もちろんです! でも、肩を貸すです」
レイジーのほうには、アンジュとエンジュが駆けつけていた。
カケララの左手にはアンジュが、右手にはエンジュがしがみつき、レイジーから剥がそうと懸命にひっぱっている。
非力な二人の力ではカケララの腕はビクともしない……かに思えたが、それは違った。
アンジュとエンジュからあふれ出る白いオーラが、カケララの表情を曇らせている。水を吸った紙みたいに、しなしなっと力が抜けて、カケララはレイジーの首から手を離した。
「サンディア、いまの見たですか?」
「ええ、アンジュとエンジュが会長を助けたわ。二人の成長が頼もしい」
「いや、そうじゃなくて」
白いオーラは魔法を強める効果があるが、肉体を強化する効果はない。つまり、アンジュとエンジュの腕力が増したのではなく、カケララが弱体化したのだ。セクレはそれに気づいた。
カケララは白いオーラが弱点なのだ。
ただし、白いオーラはいかなる干渉も受けつけないため、白いオーラをカケララに触れさせるには白いオーラを発する者がカケララに密着しなければならない。
「アタイたちは弱いけれど、想いだけは誰にも負けないんだから」
アンジュとエンジュ、二人は弱いからこそ特大の勇気を振り絞った。二人から噴き出す白いオーラがカケララの動きを鈍らせている。
だが、それが限界だ。カケララは腕を封じられたが、ただそれだけのこと。少し気分が悪いくらいで、二人を蹴り殺すことは造作もない。
「じゃあいいわ。あなたたちのことは諦めて殺してあげる」
「させない!」
セクレとサンディアがカケララの脚にしがみついて完全に動きを封じた。
これでカケララは四肢を四人に封じられた。彼女たちの発する白いオーラがカケララをますます弱らせる。身動きが取れないだけでなく、念動力すら使えないほどに。
「膠着状態に持ち込めたのは上等ね。でも、ここまでだわ。たしかに私は白いオーラに弱いけれど、オーラに触れるだけではダメージにはならない。それに、白いオーラを出すほどの強い気持ちは長くは続かないものよ」
「いいや、十分だよ」
仰向けに倒れているレイジー・デントもまた、白いオーラをまとっていた。狂気が感染するように、勇気も伝播する。
永遠とも思える地獄を脱する唯一無二のこの機会を決して逃すわけにはいかない。レイジーは気力を振り絞り、カケララの胸の中央部に両手を重ねて押し当てた。
「発狂寸前の廃人が強がるな! 狂気に堕ちろ!」
カケララの紅いオーラがレイジーの腕にまとわりつくが、レイジーの内側から放出される白いオーラはそれを弾くように消し飛ばした。
「ここに結束した五つの想いは絶対に曲がらない。狂気がどんなに暴虐を尽くそうとも!」
レイジーの手から極太の光線が迸った。
もちろん、それは白いオーラによって強化された魔法だ。
白い光が上空へと走り去った後、カケララの胸にはどでかい風穴が開いていた。
「そんな馬鹿な……」
カケララの口と胸から真紅の血がドロッと流れ落ちた。
五人の白いオーラに全身を包まれていて、土に染み込む雪のように、カケララは白いオーラの中へ溶けて消えた。
一つは精神に干渉し、その人に内在する狂気を無理矢理に呼び起こす方法。
そしてもう一つは、肉体的および精神的に過剰なストレスを加えて心を破壊し、思考回路を狂わせる方法。
前者は紅い狂気の特殊技能を行使することでしかありえない狂人の作り方だが、後者は紅い狂気が存在しなかった場合にも人が狂乱し得る、いわば自然発生的な狂人の作り方だ。
そして、狂人となるまでにより辛い思いをするのは、当然ながら後者だ。
過度な肉体への痛み、残酷な魂の汚染、それらを経て廃人となり、さらにいたぶられ弄ばれつづけた先に狂人が待っている。
「もう……」
レイジー・デントはずっと首を絞められつづけていた。
ほとんど息ができずに苦しみつづけて数時間。涙はとうに枯れていた。
「あらら、さっきまでは『まだ……』だったのに、言葉が変わったわね。どうにか搾り出した声で何を言いたいの? 言ってごらんなさいよ」
レイジーの首がいっそう絞めつけられる。
言葉を発することもできない。
レイジーは後悔していた。
いろんなことを後悔していた。
まず、エアが世界に攻撃をした動機を知ったとき、彼女に賛同するべきだった。
あのときはこんな地獄が待っているとは想像できなかった。
サンディアをアンジュとエンジュの応援に向かわせるべきではなかった。
目の前にいるカケララは身が一つであり、能力も一つだけ。
カケララ自身からはレイジーが攻撃を受け、念動力からはセクレが攻撃を受け、蹂躙されている。もしサンディアを残していたら、カケララを妨害する人員になっていたかもしれない。カケララと戦うには三人目の人員が必須だった。
レイジー・デントは判断を間違えた。この二つの過ちはとてつもなく大きい。そしてこの二つの選択ミスにつながる判断すべてを呪った。
これまでの人生では常に最善を選択してきたはずなのに、なぜこうなったのか。
自分が悪いのか?
ゲス・エストのせいか?
それとも最初から運命として決まっていたのか?
「……死にたい。もう、許して……」
苦しい。とにかく苦しい。ひたすら苦しい。
楽になりたい。もうそれしか考えられない。
そんなレイジーの心は、言葉として聞くまでもなくカケララには分かっていることだった。
「死にたいの? なんで?」
カケララが意地悪に笑う。まともに息ができずに苦しいのに、もっと喋らせようとする。どうせそれを聞いたところで望みを聞き入れないくせに。
レイジーがカケララに直接首を絞められている一方で、セクレは体を操られ、苦痛を与えられつづけていた。
四肢、胴、首、その他あらゆる間接を、捻られ、捻じられ、圧迫され、押し曲げられていた。
痛い。とにかく痛い。
全身の何箇所もの骨が折れ、それが肉に刺さる。
しかし死にはしない。死なせてはもらえない。
しかし、もし死なせてもらえるとしても、どんなに死にたかろうと死ぬわけにはいかない。なぜなら、セクレが魔法を止めるとレイジーがもっと苦しむことになるからだ。
実はセクレはインクをレイジーの喉、それも気管のほうに忍ばせていた。
それはレイジーがカケララに首を絞められはじめてから、カケララに気づかれないように少しずつ送り込んだものだ。レイジーの苦しみを少しでも和らげるため、セクレはレイジーの気管を内側から広げようと液体を操作していた。
自分の体の痛みで何度も意識が飛びそうになるが、意識を失わないよう絶妙かつ正確に加減しているのはカケララなので、セクレは自分が痛みに耐えかねて魔法を止めるようなことがないよう集中するだけだった。
セクレにとってレイジーは恩人だった。
かつてのセクレは魔法のセンスがない落ちこぼれとして同級生にいじめられていた。それを救ったのが生徒会長のレイジーだったのだ。
レイジーは直接介入するのではなく、セクレに魔法を使いこなす方法を教え、自力で相手を見返せるように育てた。
セクレは自力でイジメに対抗し、苦境を脱することができた。
セクレはレイジーの恩に報いたいという気持ちと、学校を道徳観や倫理感を重んじる校風に変えたいという気持ちから生徒会に入り、そして実際に学校の環境改善に尽力してきた。
その結果として、魔導学院は特に風紀の遵守に力を入れるようになり、風紀委員には強き者がそろっていった。
ただ、今度は風紀委員が力を持ちすぎてしまうという事態に陥った。一部の風紀委員が肩書きを盾に幅を利かせるようになったのだ。
そんな中でセクレがスカウトしたのがサンディアだった。
サンディアは真面目で誠実で、そして何より優しい。彼女を引き入れたことによって、それを慕う同類の後輩が風紀委員に入り、学院の雰囲気はいくらか柔和になった。
(サンディアがいてくれたら、状況は変わっていたのかな……)
セクレもまた、サンディアをアンジュとエンジュの助っ人に出したことは間違いだったと後悔した。
だがサンディアがいたとして、現状がどう変わっていたかは分からない。サンディアの魔法自体は砂の操作型という非常に強力なものなのだが、サンディア自身の魔法を使う能力はそんなに高くはない。
サンディアがいたとして、両手両脚を折られて目を潰されて放置されるだけだったかもしれない。カケララの言うとおり、状況は何も変わらなかったかもしれない。
でも、どうしてもサンディアがいてくれたらと考えてしまう。それほどに、全身の内部が破壊される痛みが辛い。
レイジーを守らなければという想いと、楽になりたいという想いが激しく葛藤している。
いっそのこと、操作している液体をレイジーの喉に詰まらせて楽にしてあげて、その後に自分のことも窒息させて自殺したい。
しかしそれはすべての仲間への裏切りだ。本当は勝てたかもしれない戦いが自分のせいで負けるかもしれない。そんなことはできない。
(でも、苦しいよぉ……)
枯れたはずなのに、また涙が出てきた。ネットリしていて、レイジーを見つめる視界が赤く滲む。
これは、血の涙だろうか。自分も狂気に呑まれてしまうのだろうか。
そんなのに負けてたまるか。
でも、呑まれてしまったほうが楽なのだろうか……。
…………。
「セクレ、いま楽にしてあげるね」
セクレの体にかけられていた見えない力がフッと消えた。
全身を砂が這いまわる感覚がする。そして、砂が自分の体を動かす。捻じれを解き、歪みを正し、元のあるべき姿勢を取り戻していく。
そして顔を覗き込んで優しく微笑んだのは、白いオーラをまとったサンディア・グレインだった。
「サンディア……」
セクレの目に涙が浮かぶ。今度はネットリしていないし、目も痛くない。
全身にはいまだ激痛が残るが、さっきまでに比べたらだいぶ楽になった。
「さあ、会長を助けるよ!」
「もちろんです! でも、肩を貸すです」
レイジーのほうには、アンジュとエンジュが駆けつけていた。
カケララの左手にはアンジュが、右手にはエンジュがしがみつき、レイジーから剥がそうと懸命にひっぱっている。
非力な二人の力ではカケララの腕はビクともしない……かに思えたが、それは違った。
アンジュとエンジュからあふれ出る白いオーラが、カケララの表情を曇らせている。水を吸った紙みたいに、しなしなっと力が抜けて、カケララはレイジーの首から手を離した。
「サンディア、いまの見たですか?」
「ええ、アンジュとエンジュが会長を助けたわ。二人の成長が頼もしい」
「いや、そうじゃなくて」
白いオーラは魔法を強める効果があるが、肉体を強化する効果はない。つまり、アンジュとエンジュの腕力が増したのではなく、カケララが弱体化したのだ。セクレはそれに気づいた。
カケララは白いオーラが弱点なのだ。
ただし、白いオーラはいかなる干渉も受けつけないため、白いオーラをカケララに触れさせるには白いオーラを発する者がカケララに密着しなければならない。
「アタイたちは弱いけれど、想いだけは誰にも負けないんだから」
アンジュとエンジュ、二人は弱いからこそ特大の勇気を振り絞った。二人から噴き出す白いオーラがカケララの動きを鈍らせている。
だが、それが限界だ。カケララは腕を封じられたが、ただそれだけのこと。少し気分が悪いくらいで、二人を蹴り殺すことは造作もない。
「じゃあいいわ。あなたたちのことは諦めて殺してあげる」
「させない!」
セクレとサンディアがカケララの脚にしがみついて完全に動きを封じた。
これでカケララは四肢を四人に封じられた。彼女たちの発する白いオーラがカケララをますます弱らせる。身動きが取れないだけでなく、念動力すら使えないほどに。
「膠着状態に持ち込めたのは上等ね。でも、ここまでだわ。たしかに私は白いオーラに弱いけれど、オーラに触れるだけではダメージにはならない。それに、白いオーラを出すほどの強い気持ちは長くは続かないものよ」
「いいや、十分だよ」
仰向けに倒れているレイジー・デントもまた、白いオーラをまとっていた。狂気が感染するように、勇気も伝播する。
永遠とも思える地獄を脱する唯一無二のこの機会を決して逃すわけにはいかない。レイジーは気力を振り絞り、カケララの胸の中央部に両手を重ねて押し当てた。
「発狂寸前の廃人が強がるな! 狂気に堕ちろ!」
カケララの紅いオーラがレイジーの腕にまとわりつくが、レイジーの内側から放出される白いオーラはそれを弾くように消し飛ばした。
「ここに結束した五つの想いは絶対に曲がらない。狂気がどんなに暴虐を尽くそうとも!」
レイジーの手から極太の光線が迸った。
もちろん、それは白いオーラによって強化された魔法だ。
白い光が上空へと走り去った後、カケララの胸にはどでかい風穴が開いていた。
「そんな馬鹿な……」
カケララの口と胸から真紅の血がドロッと流れ落ちた。
五人の白いオーラに全身を包まれていて、土に染み込む雪のように、カケララは白いオーラの中へ溶けて消えた。
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