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最終章 狂酔編
第253話 カケラ戦‐魔術の再現
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ひとまず時間操作はなくなった。
いざというときはシャイルを解放して使ってくるだろうが、そのときは大きく戦況が変わっているだろうから、そのときのことはいま考えることではない。
「ダース、各地のメンバーの様子を定期的に確認しろ。カケララとの戦いが終わっているグループは連れ戻せ」
「他は皆まだ戦っているよ」
「そうか……」
いまはキューカとシャイルが完全に無力化されて、こちらの戦力は俺、エア、ドクター・シータ、ダース・ホーク、リーン・リッヒ、盲目のゲンの六人だけだ。
カケラの強力な能力を二つ封じたと見なせば、差し引きプラスといえるかもしれないが、まだカケラは本領を発揮していない様子だし、決してこちらが優勢になったとはいえない。
「おい、カケラ! なぜ記憶の扉や永続時間停止を俺に使わない? おまえにいちばん有効打を与えられる俺を潰してしまわない理由は何だ?」
「さっき言ったじゃない。これを戦いだと思っているのはあなたたちだけだって。私はあなたたちを狂気に染めようとしているだけ。私はただ単にその作業をしているの。ゲス・エスト、あなたを残しているのはね、あなたの精神がいちばんタフだからよ。こうやって世界が変わる過程をじっくり見せることが、あなたを狂気で煮込むための下ごしらえになるの」
だったら本気にさせてやる、と言いたいところだが、俺たちの目的は戦いを楽しむことじゃない。いかにしてカケラという脅威を排除するかなのだ。
相手がこちらを舐めてくれているのなら、それに越したことはない。
「ドクター・シータ! 手が足りん!」
「ウィッヒッヒ。手を貸してほしいのなら、ちゃんとそう言いたまえよ」
「そんなことを言っている場合じゃないだろ。キューカの感覚共鳴が封じられているいま、最小限の言葉で最大限に汲み取れ」
「私は貴様が最適な言葉を選ぶべきだと思うがね」
言い争いをしていられる状況でないことはドクター・シータも承知している。
憎まれ口を叩きながらも、機工巨人の間接やら穴から餅のように白くしなやかな体が抜け出てきた。そして一つの白い塊になった後、五つの塊に分裂して五体の白い人形になった。五体はすべて同じ姿をしていて、両手両足が剣になっている。
「分かっていると思うがね、増やせるのは手数だけだ。目くらましにしかならんぞ」
「それでいい」
五体の白い人形が同時にカケラへ襲いかかる。
その中の少なくとも一体はドクター・シータの本体だろうに、果敢なことだ。一体だけ残っても本体がバレるのが早まるからだろうか。
人形の強襲に合わせてほかの皆も同時に攻撃をしかける。
盲目のゲンが無数の水の槍を飛ばし、リーン・リッヒが刀を振って振動する空気の刃を飛ばす。
ダースはカケラの影から四本の黒い腕を伸ばし、動きを封じようとカケラの両手両足にまとわりつかせた。
「エア!」
俺が呼びかけると、エアはすぐに頷いた。
機工巨人を一度戻してカケラの背後へと再出現させ、カケラの前方では俺とエアが並ぶ。
エアが砲筒を作り、俺が空気の砲弾とそれを発射するための圧縮空気を作る。
二人がかりで作るから完成までの速さが二倍だ。
「エグゾーストッ」
「バーストォオオオオッ!」
発射された瞬間に空気の砲弾を絶対化する。
みんなの攻撃でカケラの動きを封じ、機工巨人の胸板と俺の絶対化空気の弾で挟む作戦だ。
「ふふ……」
水の槍と空気の刃が迫る中、カケラにまとわりついていた黒い腕がカケラの背中に集まって黒い円板を形作った。カケラがそこへ沈む。
それはワープゲートとなっており、リーン・リッヒの真正面に姿を現した。
リーンはカケラをワープゲートに押し戻そうと鋭い太刀筋で斬りかかるが、カケラがそれを手の甲で弾くと、リーンの剣が根元から折れて刃が彼方へと飛んでいった。
「あなたに譲るわ」
カケラがリーンの手首を掴んで引いたと思ったら、そのままワープゲートへと放り込んだ。
みんなの攻撃が集中する場所へと放り出されたリーンは、すぐさまワープゲートへ飛び込もうとするが、その前にワープゲートが閉じてしまった。
「くっ!」
リーンは柄だけの剣を捨て、とっさに両手を広げて振動空気による三重バリアを張った。
「駄目だ!」
俺と盲目のゲンは空間把握でいち早く事態を察知して魔法を止めた。
ドクター・シータは五体を同時に制御している都合で反応が遅れ、リーンのバリアを一枚破壊したところで止まった。
しかし、リーンの魔法は発生型なので、技を放った後に止めることはできない。振動する空気の刃がリーンのバリアを二枚破壊した。
どうにかリーンは危機を乗り越えたかに見えたが、彼女の影から一匹の黒い蛇が出てきて彼女の首に巻きつき、絞め上げはじめた。
だがリーンへの追撃があると予測していた俺は、すでにリーンのすぐ近くまで移動している。
神器・ムニキスで黒い蛇を斬ると、蛇は光に溶けるように消えていった。
「助かりました」
「チッ、ダースが操られるのは厄介だ」
さっき操られていたエアは自分の意思で喋ることができていたが、いまのダースはそれすらも許されていない。瞳を紅くしてニヤリと笑っている。
これはおそらく、エアとダースの抵抗力の差などではなく、カケラがどこまで対象を支配するか、彼女のさじ加減で決めているのだろう。
しかもリーンの刀が折られてしまった。
リーンは世界一の剣士である。
彼女をE3の一人たらしめているのは、彼女の振動の発生型魔法が強力なだけでなく、剣の御業と合わせることで破格の攻撃力と防御力を実現できるからなのだ。
「リーン・リッヒ、こいつを使え」
そう言って俺はリーンに神器・ムニキスを鞘ごと渡した。
リーンはそれを受け取り、刀を抜いてその刀身をまじまじと見つめる。
「それは神器・ムニキス。魔法のリンクを斬る力があるが、その能力は俺にしか使えない。だが、神器ゆえに絶対に壊れることはない。俺が魔法を切る道具として使うより、あんたが絶対に壊れない刀として使ったほうがいいだろう」
「分かった。使わせていただく」
リーンは再び刀をカケラへと向けて構えた。
操られているダース以外のみんなも気を取り直して身構えた。
しかし、誰しもがカケラへの攻撃を躊躇していた。
一回攻撃するだけでも命がけだ。誰が狙われるかも分からない。
さっきのリーンを見て皆が肝を冷やしたし、決して他人事ではない。
「やっぱりキューカが封じられているのは辛いな……」
俺がつぶやくと、俺の隣へと飛んできたエアが耳元でボソリとつぶやく。
「私なら再現できるかも……」
「なにっ、どういうことだ? おまえの記憶再現は魔法だけで、魔術は再現できないんじゃないのか?」
「空気の概念化を使う。『空気の流れ』を意識して、それを『漂う空気』で広範囲に存在するよう拡散する。拡散された空気の流れは『空気を読む』ことで認識することができる。それをみんなに強制的にやらせるために『そういう空気になる』を使う」
「言っている意味をすぐに理解するのは難しいが、おまえができるって言うなら俺はそれを信じる。本当にやれるんだな?」
「精度はキューカの魔術に劣るし、私はこれに専念しなければならなくなる。いまから実行するから、採用するかは体験してみて決めればいい」
エアは学院の屋上に仰向けに寝そべって目を閉じた。手を祈る形に握って腹の上に置いた。
彼女は完全に無防備になる。俺が護ってやらなければならない。
だが、そのロスを補って余りあることを俺は直感した。
皆が何を考えているか、どう動くのか、それを知ることはできない。しかし、俺が動けば皆がついてくるという確信があるし、なんとなく次に自分がどう動けばいいかが分かる気がする。
「これが、そういうことなのか。決めた。これでいくぞ、エア!」
俺はとりあえず空へと飛んだ。
カケラはずっと空を飛んでいるから、それを見上げるのは疲れるのだ。少しでも負担は軽いほうがいいから、カケラを見下ろす体勢になるために空へと上がる。
そんな俺の右横に白い人形が並んだ。
論理的な人間であるドクター・シータの思考は俺に近い。ということは、いま横にいる人形がドクター・シータの本体ということか。
「ん?」
俺の左横にも白い人形が並んだ。背後にも、前にも。
俺を護ろうとしている?
いや、味方の視界を狭めるような馬鹿を奴がするはずがない。
俺は空気のバリアを張り、防御体勢を取った。瞬間、四方向から剣の腕が俺の胸部を狙って飛び出してきた。絶対化空気のバリアは破られない。
「今度はドクター・シータを操ったか」
次から次へと操る対象を変えられるのは厄介だが、エアのおかげで少しでも違和感を抱けば怪しむことができる。
「ふーん。やっぱりあの娘、邪魔ねぇ。ねえ、ゲス・エスト。私はね、あなたを狂気に墜とすためなら、一人くらい妥協してもいいと思っているわ」
妥協? カケラにとっての妥協とは何だ?
彼女は元々、一人も殺さず全員を狂気に染めると言っていた。絶対に誰も死なせないだのと、正義のヒーローじみた言葉を、希望とは正反対の絶望的な意味で使う奴だ。そんな奴の妥協とは?
「おい、まさか……」
すごく嫌な予感がする。
「あーあ、やっちゃったねぇ、ゲス・エスト!」
まだ何もやっていない。
ときおり見せる未来の返事か?
俺にやらせる気か?
「くっ!」
俺は体の自由が利かなくなった。
意識はある。言葉は発せない。体が勝手に動く。
俺の右手が手刀を作り、その先に空気の鋭い板を形成する。
おい、駄目だ! やめろぉおおおおおお!
いざというときはシャイルを解放して使ってくるだろうが、そのときは大きく戦況が変わっているだろうから、そのときのことはいま考えることではない。
「ダース、各地のメンバーの様子を定期的に確認しろ。カケララとの戦いが終わっているグループは連れ戻せ」
「他は皆まだ戦っているよ」
「そうか……」
いまはキューカとシャイルが完全に無力化されて、こちらの戦力は俺、エア、ドクター・シータ、ダース・ホーク、リーン・リッヒ、盲目のゲンの六人だけだ。
カケラの強力な能力を二つ封じたと見なせば、差し引きプラスといえるかもしれないが、まだカケラは本領を発揮していない様子だし、決してこちらが優勢になったとはいえない。
「おい、カケラ! なぜ記憶の扉や永続時間停止を俺に使わない? おまえにいちばん有効打を与えられる俺を潰してしまわない理由は何だ?」
「さっき言ったじゃない。これを戦いだと思っているのはあなたたちだけだって。私はあなたたちを狂気に染めようとしているだけ。私はただ単にその作業をしているの。ゲス・エスト、あなたを残しているのはね、あなたの精神がいちばんタフだからよ。こうやって世界が変わる過程をじっくり見せることが、あなたを狂気で煮込むための下ごしらえになるの」
だったら本気にさせてやる、と言いたいところだが、俺たちの目的は戦いを楽しむことじゃない。いかにしてカケラという脅威を排除するかなのだ。
相手がこちらを舐めてくれているのなら、それに越したことはない。
「ドクター・シータ! 手が足りん!」
「ウィッヒッヒ。手を貸してほしいのなら、ちゃんとそう言いたまえよ」
「そんなことを言っている場合じゃないだろ。キューカの感覚共鳴が封じられているいま、最小限の言葉で最大限に汲み取れ」
「私は貴様が最適な言葉を選ぶべきだと思うがね」
言い争いをしていられる状況でないことはドクター・シータも承知している。
憎まれ口を叩きながらも、機工巨人の間接やら穴から餅のように白くしなやかな体が抜け出てきた。そして一つの白い塊になった後、五つの塊に分裂して五体の白い人形になった。五体はすべて同じ姿をしていて、両手両足が剣になっている。
「分かっていると思うがね、増やせるのは手数だけだ。目くらましにしかならんぞ」
「それでいい」
五体の白い人形が同時にカケラへ襲いかかる。
その中の少なくとも一体はドクター・シータの本体だろうに、果敢なことだ。一体だけ残っても本体がバレるのが早まるからだろうか。
人形の強襲に合わせてほかの皆も同時に攻撃をしかける。
盲目のゲンが無数の水の槍を飛ばし、リーン・リッヒが刀を振って振動する空気の刃を飛ばす。
ダースはカケラの影から四本の黒い腕を伸ばし、動きを封じようとカケラの両手両足にまとわりつかせた。
「エア!」
俺が呼びかけると、エアはすぐに頷いた。
機工巨人を一度戻してカケラの背後へと再出現させ、カケラの前方では俺とエアが並ぶ。
エアが砲筒を作り、俺が空気の砲弾とそれを発射するための圧縮空気を作る。
二人がかりで作るから完成までの速さが二倍だ。
「エグゾーストッ」
「バーストォオオオオッ!」
発射された瞬間に空気の砲弾を絶対化する。
みんなの攻撃でカケラの動きを封じ、機工巨人の胸板と俺の絶対化空気の弾で挟む作戦だ。
「ふふ……」
水の槍と空気の刃が迫る中、カケラにまとわりついていた黒い腕がカケラの背中に集まって黒い円板を形作った。カケラがそこへ沈む。
それはワープゲートとなっており、リーン・リッヒの真正面に姿を現した。
リーンはカケラをワープゲートに押し戻そうと鋭い太刀筋で斬りかかるが、カケラがそれを手の甲で弾くと、リーンの剣が根元から折れて刃が彼方へと飛んでいった。
「あなたに譲るわ」
カケラがリーンの手首を掴んで引いたと思ったら、そのままワープゲートへと放り込んだ。
みんなの攻撃が集中する場所へと放り出されたリーンは、すぐさまワープゲートへ飛び込もうとするが、その前にワープゲートが閉じてしまった。
「くっ!」
リーンは柄だけの剣を捨て、とっさに両手を広げて振動空気による三重バリアを張った。
「駄目だ!」
俺と盲目のゲンは空間把握でいち早く事態を察知して魔法を止めた。
ドクター・シータは五体を同時に制御している都合で反応が遅れ、リーンのバリアを一枚破壊したところで止まった。
しかし、リーンの魔法は発生型なので、技を放った後に止めることはできない。振動する空気の刃がリーンのバリアを二枚破壊した。
どうにかリーンは危機を乗り越えたかに見えたが、彼女の影から一匹の黒い蛇が出てきて彼女の首に巻きつき、絞め上げはじめた。
だがリーンへの追撃があると予測していた俺は、すでにリーンのすぐ近くまで移動している。
神器・ムニキスで黒い蛇を斬ると、蛇は光に溶けるように消えていった。
「助かりました」
「チッ、ダースが操られるのは厄介だ」
さっき操られていたエアは自分の意思で喋ることができていたが、いまのダースはそれすらも許されていない。瞳を紅くしてニヤリと笑っている。
これはおそらく、エアとダースの抵抗力の差などではなく、カケラがどこまで対象を支配するか、彼女のさじ加減で決めているのだろう。
しかもリーンの刀が折られてしまった。
リーンは世界一の剣士である。
彼女をE3の一人たらしめているのは、彼女の振動の発生型魔法が強力なだけでなく、剣の御業と合わせることで破格の攻撃力と防御力を実現できるからなのだ。
「リーン・リッヒ、こいつを使え」
そう言って俺はリーンに神器・ムニキスを鞘ごと渡した。
リーンはそれを受け取り、刀を抜いてその刀身をまじまじと見つめる。
「それは神器・ムニキス。魔法のリンクを斬る力があるが、その能力は俺にしか使えない。だが、神器ゆえに絶対に壊れることはない。俺が魔法を切る道具として使うより、あんたが絶対に壊れない刀として使ったほうがいいだろう」
「分かった。使わせていただく」
リーンは再び刀をカケラへと向けて構えた。
操られているダース以外のみんなも気を取り直して身構えた。
しかし、誰しもがカケラへの攻撃を躊躇していた。
一回攻撃するだけでも命がけだ。誰が狙われるかも分からない。
さっきのリーンを見て皆が肝を冷やしたし、決して他人事ではない。
「やっぱりキューカが封じられているのは辛いな……」
俺がつぶやくと、俺の隣へと飛んできたエアが耳元でボソリとつぶやく。
「私なら再現できるかも……」
「なにっ、どういうことだ? おまえの記憶再現は魔法だけで、魔術は再現できないんじゃないのか?」
「空気の概念化を使う。『空気の流れ』を意識して、それを『漂う空気』で広範囲に存在するよう拡散する。拡散された空気の流れは『空気を読む』ことで認識することができる。それをみんなに強制的にやらせるために『そういう空気になる』を使う」
「言っている意味をすぐに理解するのは難しいが、おまえができるって言うなら俺はそれを信じる。本当にやれるんだな?」
「精度はキューカの魔術に劣るし、私はこれに専念しなければならなくなる。いまから実行するから、採用するかは体験してみて決めればいい」
エアは学院の屋上に仰向けに寝そべって目を閉じた。手を祈る形に握って腹の上に置いた。
彼女は完全に無防備になる。俺が護ってやらなければならない。
だが、そのロスを補って余りあることを俺は直感した。
皆が何を考えているか、どう動くのか、それを知ることはできない。しかし、俺が動けば皆がついてくるという確信があるし、なんとなく次に自分がどう動けばいいかが分かる気がする。
「これが、そういうことなのか。決めた。これでいくぞ、エア!」
俺はとりあえず空へと飛んだ。
カケラはずっと空を飛んでいるから、それを見上げるのは疲れるのだ。少しでも負担は軽いほうがいいから、カケラを見下ろす体勢になるために空へと上がる。
そんな俺の右横に白い人形が並んだ。
論理的な人間であるドクター・シータの思考は俺に近い。ということは、いま横にいる人形がドクター・シータの本体ということか。
「ん?」
俺の左横にも白い人形が並んだ。背後にも、前にも。
俺を護ろうとしている?
いや、味方の視界を狭めるような馬鹿を奴がするはずがない。
俺は空気のバリアを張り、防御体勢を取った。瞬間、四方向から剣の腕が俺の胸部を狙って飛び出してきた。絶対化空気のバリアは破られない。
「今度はドクター・シータを操ったか」
次から次へと操る対象を変えられるのは厄介だが、エアのおかげで少しでも違和感を抱けば怪しむことができる。
「ふーん。やっぱりあの娘、邪魔ねぇ。ねえ、ゲス・エスト。私はね、あなたを狂気に墜とすためなら、一人くらい妥協してもいいと思っているわ」
妥協? カケラにとっての妥協とは何だ?
彼女は元々、一人も殺さず全員を狂気に染めると言っていた。絶対に誰も死なせないだのと、正義のヒーローじみた言葉を、希望とは正反対の絶望的な意味で使う奴だ。そんな奴の妥協とは?
「おい、まさか……」
すごく嫌な予感がする。
「あーあ、やっちゃったねぇ、ゲス・エスト!」
まだ何もやっていない。
ときおり見せる未来の返事か?
俺にやらせる気か?
「くっ!」
俺は体の自由が利かなくなった。
意識はある。言葉は発せない。体が勝手に動く。
俺の右手が手刀を作り、その先に空気の鋭い板を形成する。
おい、駄目だ! やめろぉおおおおおお!
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