234 / 302
第六章 試練編
第233話 成果のまとめ
しおりを挟む
紅い狂気との決戦への備えは万全に整った。
ここはひとつ、おさらいをしようではないか。
俺とエアは神の使いであるネアから三つの試練を与えられ、それらをすべてクリアした。
第一の試練では神器・藍玉を獲得したことで、機工巨人を使役できるようになった。
これは俺とエアのうち藍玉を持っているほうが使うことができる。
第二の試練では魔法の概念化を修得した。
概念化は空気を概念種の魔法として使うことができるが、その使い方は端的に言えば空気にまつわる慣用句を現実化する能力といえる。
概念種としての空気魔法はエアの記憶再現魔術でも使うことができるので、実質的に二人ともが空気魔法の概念化を修得したことになる。
第三の試練では空気の操作型魔法の絶対化を得た。
これは全種類の魔法を使えるようになるか、空気の操作型魔法を絶対化するかの二択で後者を選んだのだ。
長期的に見れば当然ながら全種類の魔法を使えたほうが強いのだが、紅い狂気との決戦を目前に控えた現状では、熟練度の高い空気操作の魔法を極限まで強化したほうが有効だと判断した。
この絶対化は俺の魔法のみで、エアの再現した空気魔法は絶対化されない。
第三の試練の報酬だけは、俺とエアで別々に与えられた。
エアにもすべての魔術が使用可能になることと、記憶再現魔術の拡張の二つの選択肢が与えられたが、エアは後者を選んだ。
これも全魔術が使えたほうが当然強いのだが、残念なことに紅い狂気に魔術が効かないので、後者を選ばざるを得なかった。
試練は紅い狂気に対する勝率を上げるために受けたものであり、どれだけほかの人間に無双できても意味がないのだ。
それから、ネアに闇道具を引き渡すことによって、報酬として神器を授かった。
神器・ムニキスは日本刀形状の武器で、闇道具・細剣ムニキスに代わるものだ。
ムニキスで魔法を斬れば、その魔法と魔導師のリンクを切断することができる。発生型の魔法に対してはあまり有効ではないが、操作型や概念種の魔法に対しては魔法の力を失わせることができるため非常に強力だ。
闇道具としてのムニキスには、リンクを切った魔法の力をすべて蓄積して、どこかのタイミングですべて所持者に対し解放するというが呪いがあったが、神器には呪いなんかないため存分に振るうことができる。
神器・封魂の箱は銀色のラメが入った白木の箱で、立方体形状をしている。
闇道具としての封魂の箱は白木の表面で黄色と緑色の渦巻きが絡み合った模様をしていたが、能力に変化はなく、箱の所有者が意識を失わせた者に蓋を開けて箱をかざすと、その魂を箱の中に封じ込めることができる。
元に戻す場合は、「返還」と言って魂の所有者の名前を呼べば魂が肉体へと帰っていく。
神器・天使のミトンは白地に緑色のチェック模様をしたミトンで、闇道具・ミコスリハンを破壊した報酬である。
ミコスリハンは見た目は髑髏形状を模したただのタワシなので、三つの神器の中では唯一見た目がまったく異なっている。
ミコスリハンが体をこすると地獄のような苦痛を与えて三こすり半以内に絶命するのに対し、天使のミトンは体をさすると傷を癒やす効果がある。
五さすりすれば全快するが、効果が出るのは一人に対しては一日あたり五さすり分までという制限があり、最後にさすってから二十四時間経てば五さすり分のストックが回復する。
制限があるのは同一人物に対してであり、何人に対しても平等に五さすり分のストックが与えられる。
これら三つの神器は悪用されないよう俺しか使えないようになっている。
紅い狂気との決戦に備えて俺とエアはかなり強化されたが、それでも俺とエアだけでは紅い狂気にはとうてい及ばない。
だから一緒に戦う仲間の強化も必要だった。
魔導学院は従来のカリキュラムを変更して魔法の修練を重点的に指導し、生徒たちを魔導師として強化することに専念した。
特にキーラとリーズは新四天魔に選ばれるまでに強くなった。
もちろん、旧四天魔のルーレ・リッヒもかなり強いし、彼女も修練を積んでいて俺と戦ったころよりもさらに強くなっているようだ。
生徒会長のレイジー・デントはいわずもがな、生徒会メンバーを筆頭に学院には優秀な魔導師がたくさんいる。
特にサンディア・グレイン、ハーティ・スタック、イル・マリルには期待できそうだ。
リオン帝国には護五臣という強力な魔導師、魔術師のリーダーたちがいた。
だが残念なことに、かつて俺たちが乗り込んだ際に護五臣のうちの三枠が空いてしまった。現在はその三枠に魔導師でも魔術師でもない通常の人間で、リーダー・シップを取れる人材を起用しているらしい。
よってリオン帝国の戦力は、近衛騎士団、軍事区域の護五臣であるロイン・リオン大将および彼が率いる帝国軍、それから工業区域の護五臣であるスモッグ・モック工場長ということになる。
ジーヌ共和国にはかつては守護四師という強力な戦力があったが、それはマジックイーターの頭目であるエース大統領の私兵と成り下がっていたため、いまは残っていない。
それ以降に新設された共和国軍と大統領親衛部隊が共和国の戦力であるが、守護四師の代わりの戦力としては心許無い。
自国だけでも守ってくれれば御の字というところだろう。
シミアン王国は女王のミューイ・シミアンと、その契約精霊だったキューカが心強い戦力だ。
特にキューカの感覚共鳴の魔術は決戦で間違いなくカギとなるだろう。
それからリオン帝国にも引けを取らない軍隊もある。魔法は使えないが数が多い王国騎士、魔導師からなる上級王国騎士、少数精鋭の王立魔導騎士団、その頂点にいるのが王立魔導騎士団長のメルブラン・エンテルトだ。
彼の魔法は付与の概念種という強力なもので、もし俺が使えば空気の操作型魔法よりも早く世界制覇できたかもしれない。
軍隊の人数だけでいえばシミアン王国のほうが多いが、それでいてリオン帝国が一強の軍事大国と呼ばれるのは、戦車などの近代兵器を使うからだ。
シミアン王国の乗り物といえば馬であり、いくら魔導師が多かろうと、精鋭が少数しかいなければ中世レベルと近代レベルでは勝負にならない。
そんなこの世界において、一人でリオン帝国だろうがシミアン王国だろうが制圧できるほどの強力な魔導師がいる。
それがE3だ。
エラーとは規格外という意味で、エラーと称されるほどの強い魔導師が三人もいるのである。
一人はリオン帝国の現皇帝、リーン・リッヒ。
振動の発生型魔導師で、彼女の魔法は空気の魔法リンクを斬るほどの力を有していた。
E3の二人目は盲目のゲン。水の操作型魔導師の老人である。
魔法の使い方としては俺と酷似している。彼は盲目だが水の魔法で空気中の水分を感知し、俺の空間把握モードと同様の技を常に使っているので人よりよっぽど周囲の景色が視えているだろう。
三人目はダース・ホーク。四天魔のナンバーワンでもある、闇の概念種の魔導師だ。
エアが空気の次に彼の魔法を多用しているほど、その魔法は使い勝手がいい。
かつてはE3が最強の三人の魔導師と言われ、その優劣をつけることを条約によって禁止するほどであったが、それはもう過去の話。
最強の魔導師はこの俺、ゲス・エストだ。
最強といえば、最強の魔術師と最強のイーターも決戦で力を貸してくれる。
最強の魔術師は言わずもがな、俺の相棒エアだ。
記憶再現の魔術により、記憶の中から魔法をひっぱりだして使うことができる。
最強のイーターは、かつてはただの人間だったシータ・イユン、つまりドクター・シータだ。
彼は取り込んだイーターの能力を得ることができ、体積を変えたり擬態したり変身したり分裂したり毒を吐いたりと、非常に多彩な攻撃方法を持っている上に、自身の命すら増やせる。
魔導師と魔術師とイーターは三竦みの関係と言われているが、俺はドクター・シータにもエアにも勝利したため、真に最強の存在となった。
ただし、この世界では、という条件がつく。
この世界の外から紛れ込んだ存在、狂気の支配者の種たる紅い狂気。彼女はこの世界の戦力総出で挑んでも勝てるかどうか分からない。
敵であるが、紅い狂気の情報もまとめよう。
紅い狂気はいまシャイル・マーンに憑依しているが、本来の紅い狂気はシャイル以上に幼い少女に見える。
光を通すような白い肌と、そこに光る紅の目を見れば、それが世界における圧倒的な異物であると、ひと目で分かるのだ。
そんな彼女の能力は『動の支配』というらしい。厳密にはその劣化版のようだ。
それは魔法でもなく、魔術でもない。世界の理から外れた規格外の能力で、ゲーム用語でいうところの完全なチートだ。
動の支配は動の概念種の魔法と言い換えるのが近いかもしれない。
人だろうが物だろうが何でも思うままに動かすことができる。
心が動くという考え方がある以上、心も動の支配の対象となってしまい、考えていることを読み取ることもできるし、支配して思うがままに操ることすらできる。
さらには時間は流れるものだと解釈できるので時間も支配の対象となる。時間を止めたり巻き戻したりすることすら可能なのだ。
ただし、そういった能力は一つの能力を同時に一人の相手にしか使うことができないらしい。
そうはいっても同時に複数の能力を使うことができるのだから、理不尽としか言いようがない。
その能力は最強に凶悪なのだが、彼女の最も厄介なところは、その能力以上に性質、つまり性格だろう。
彼女にかかれば人類を一人残らず抹殺することなどたやすいだろうが、彼女はそんなことはしない。
むしろ死ねないようにしてから永遠の苦痛を与えつづけ、この世を本物の地獄に変えてしまう。
紅い狂気というのはそういう恐ろしい存在なのだ。
決戦は三日以内に始まる。
俺は三つの試練をすべてクリアし、神器・藍玉、魔法の概念化、魔法の絶対化を得たし、神からネアを通して神器・ムニキス、神器・封魂の箱、神器・天使のミトンを授かった。
そして、仲間の戦力は世界すべて。
これらのすべては紅い狂気に勝つためだけに準備したこと。
準備は整った。あとは決戦に備えて寝るだけだ。
俺はベッドに潜り込み、夜に身を溶かすように眠りについた。
「…………」
だんだんと意識が薄れていって思考回路が完全に閉じる瞬間に、意識の端の方で、集中しなければ聞こえないくらいの小さな声が囁きかけてきた。
「ふふふふ。おやすみなさい。そして、永遠におはよう」
俺にはその言葉を拾うことはできなかった。
ここはひとつ、おさらいをしようではないか。
俺とエアは神の使いであるネアから三つの試練を与えられ、それらをすべてクリアした。
第一の試練では神器・藍玉を獲得したことで、機工巨人を使役できるようになった。
これは俺とエアのうち藍玉を持っているほうが使うことができる。
第二の試練では魔法の概念化を修得した。
概念化は空気を概念種の魔法として使うことができるが、その使い方は端的に言えば空気にまつわる慣用句を現実化する能力といえる。
概念種としての空気魔法はエアの記憶再現魔術でも使うことができるので、実質的に二人ともが空気魔法の概念化を修得したことになる。
第三の試練では空気の操作型魔法の絶対化を得た。
これは全種類の魔法を使えるようになるか、空気の操作型魔法を絶対化するかの二択で後者を選んだのだ。
長期的に見れば当然ながら全種類の魔法を使えたほうが強いのだが、紅い狂気との決戦を目前に控えた現状では、熟練度の高い空気操作の魔法を極限まで強化したほうが有効だと判断した。
この絶対化は俺の魔法のみで、エアの再現した空気魔法は絶対化されない。
第三の試練の報酬だけは、俺とエアで別々に与えられた。
エアにもすべての魔術が使用可能になることと、記憶再現魔術の拡張の二つの選択肢が与えられたが、エアは後者を選んだ。
これも全魔術が使えたほうが当然強いのだが、残念なことに紅い狂気に魔術が効かないので、後者を選ばざるを得なかった。
試練は紅い狂気に対する勝率を上げるために受けたものであり、どれだけほかの人間に無双できても意味がないのだ。
それから、ネアに闇道具を引き渡すことによって、報酬として神器を授かった。
神器・ムニキスは日本刀形状の武器で、闇道具・細剣ムニキスに代わるものだ。
ムニキスで魔法を斬れば、その魔法と魔導師のリンクを切断することができる。発生型の魔法に対してはあまり有効ではないが、操作型や概念種の魔法に対しては魔法の力を失わせることができるため非常に強力だ。
闇道具としてのムニキスには、リンクを切った魔法の力をすべて蓄積して、どこかのタイミングですべて所持者に対し解放するというが呪いがあったが、神器には呪いなんかないため存分に振るうことができる。
神器・封魂の箱は銀色のラメが入った白木の箱で、立方体形状をしている。
闇道具としての封魂の箱は白木の表面で黄色と緑色の渦巻きが絡み合った模様をしていたが、能力に変化はなく、箱の所有者が意識を失わせた者に蓋を開けて箱をかざすと、その魂を箱の中に封じ込めることができる。
元に戻す場合は、「返還」と言って魂の所有者の名前を呼べば魂が肉体へと帰っていく。
神器・天使のミトンは白地に緑色のチェック模様をしたミトンで、闇道具・ミコスリハンを破壊した報酬である。
ミコスリハンは見た目は髑髏形状を模したただのタワシなので、三つの神器の中では唯一見た目がまったく異なっている。
ミコスリハンが体をこすると地獄のような苦痛を与えて三こすり半以内に絶命するのに対し、天使のミトンは体をさすると傷を癒やす効果がある。
五さすりすれば全快するが、効果が出るのは一人に対しては一日あたり五さすり分までという制限があり、最後にさすってから二十四時間経てば五さすり分のストックが回復する。
制限があるのは同一人物に対してであり、何人に対しても平等に五さすり分のストックが与えられる。
これら三つの神器は悪用されないよう俺しか使えないようになっている。
紅い狂気との決戦に備えて俺とエアはかなり強化されたが、それでも俺とエアだけでは紅い狂気にはとうてい及ばない。
だから一緒に戦う仲間の強化も必要だった。
魔導学院は従来のカリキュラムを変更して魔法の修練を重点的に指導し、生徒たちを魔導師として強化することに専念した。
特にキーラとリーズは新四天魔に選ばれるまでに強くなった。
もちろん、旧四天魔のルーレ・リッヒもかなり強いし、彼女も修練を積んでいて俺と戦ったころよりもさらに強くなっているようだ。
生徒会長のレイジー・デントはいわずもがな、生徒会メンバーを筆頭に学院には優秀な魔導師がたくさんいる。
特にサンディア・グレイン、ハーティ・スタック、イル・マリルには期待できそうだ。
リオン帝国には護五臣という強力な魔導師、魔術師のリーダーたちがいた。
だが残念なことに、かつて俺たちが乗り込んだ際に護五臣のうちの三枠が空いてしまった。現在はその三枠に魔導師でも魔術師でもない通常の人間で、リーダー・シップを取れる人材を起用しているらしい。
よってリオン帝国の戦力は、近衛騎士団、軍事区域の護五臣であるロイン・リオン大将および彼が率いる帝国軍、それから工業区域の護五臣であるスモッグ・モック工場長ということになる。
ジーヌ共和国にはかつては守護四師という強力な戦力があったが、それはマジックイーターの頭目であるエース大統領の私兵と成り下がっていたため、いまは残っていない。
それ以降に新設された共和国軍と大統領親衛部隊が共和国の戦力であるが、守護四師の代わりの戦力としては心許無い。
自国だけでも守ってくれれば御の字というところだろう。
シミアン王国は女王のミューイ・シミアンと、その契約精霊だったキューカが心強い戦力だ。
特にキューカの感覚共鳴の魔術は決戦で間違いなくカギとなるだろう。
それからリオン帝国にも引けを取らない軍隊もある。魔法は使えないが数が多い王国騎士、魔導師からなる上級王国騎士、少数精鋭の王立魔導騎士団、その頂点にいるのが王立魔導騎士団長のメルブラン・エンテルトだ。
彼の魔法は付与の概念種という強力なもので、もし俺が使えば空気の操作型魔法よりも早く世界制覇できたかもしれない。
軍隊の人数だけでいえばシミアン王国のほうが多いが、それでいてリオン帝国が一強の軍事大国と呼ばれるのは、戦車などの近代兵器を使うからだ。
シミアン王国の乗り物といえば馬であり、いくら魔導師が多かろうと、精鋭が少数しかいなければ中世レベルと近代レベルでは勝負にならない。
そんなこの世界において、一人でリオン帝国だろうがシミアン王国だろうが制圧できるほどの強力な魔導師がいる。
それがE3だ。
エラーとは規格外という意味で、エラーと称されるほどの強い魔導師が三人もいるのである。
一人はリオン帝国の現皇帝、リーン・リッヒ。
振動の発生型魔導師で、彼女の魔法は空気の魔法リンクを斬るほどの力を有していた。
E3の二人目は盲目のゲン。水の操作型魔導師の老人である。
魔法の使い方としては俺と酷似している。彼は盲目だが水の魔法で空気中の水分を感知し、俺の空間把握モードと同様の技を常に使っているので人よりよっぽど周囲の景色が視えているだろう。
三人目はダース・ホーク。四天魔のナンバーワンでもある、闇の概念種の魔導師だ。
エアが空気の次に彼の魔法を多用しているほど、その魔法は使い勝手がいい。
かつてはE3が最強の三人の魔導師と言われ、その優劣をつけることを条約によって禁止するほどであったが、それはもう過去の話。
最強の魔導師はこの俺、ゲス・エストだ。
最強といえば、最強の魔術師と最強のイーターも決戦で力を貸してくれる。
最強の魔術師は言わずもがな、俺の相棒エアだ。
記憶再現の魔術により、記憶の中から魔法をひっぱりだして使うことができる。
最強のイーターは、かつてはただの人間だったシータ・イユン、つまりドクター・シータだ。
彼は取り込んだイーターの能力を得ることができ、体積を変えたり擬態したり変身したり分裂したり毒を吐いたりと、非常に多彩な攻撃方法を持っている上に、自身の命すら増やせる。
魔導師と魔術師とイーターは三竦みの関係と言われているが、俺はドクター・シータにもエアにも勝利したため、真に最強の存在となった。
ただし、この世界では、という条件がつく。
この世界の外から紛れ込んだ存在、狂気の支配者の種たる紅い狂気。彼女はこの世界の戦力総出で挑んでも勝てるかどうか分からない。
敵であるが、紅い狂気の情報もまとめよう。
紅い狂気はいまシャイル・マーンに憑依しているが、本来の紅い狂気はシャイル以上に幼い少女に見える。
光を通すような白い肌と、そこに光る紅の目を見れば、それが世界における圧倒的な異物であると、ひと目で分かるのだ。
そんな彼女の能力は『動の支配』というらしい。厳密にはその劣化版のようだ。
それは魔法でもなく、魔術でもない。世界の理から外れた規格外の能力で、ゲーム用語でいうところの完全なチートだ。
動の支配は動の概念種の魔法と言い換えるのが近いかもしれない。
人だろうが物だろうが何でも思うままに動かすことができる。
心が動くという考え方がある以上、心も動の支配の対象となってしまい、考えていることを読み取ることもできるし、支配して思うがままに操ることすらできる。
さらには時間は流れるものだと解釈できるので時間も支配の対象となる。時間を止めたり巻き戻したりすることすら可能なのだ。
ただし、そういった能力は一つの能力を同時に一人の相手にしか使うことができないらしい。
そうはいっても同時に複数の能力を使うことができるのだから、理不尽としか言いようがない。
その能力は最強に凶悪なのだが、彼女の最も厄介なところは、その能力以上に性質、つまり性格だろう。
彼女にかかれば人類を一人残らず抹殺することなどたやすいだろうが、彼女はそんなことはしない。
むしろ死ねないようにしてから永遠の苦痛を与えつづけ、この世を本物の地獄に変えてしまう。
紅い狂気というのはそういう恐ろしい存在なのだ。
決戦は三日以内に始まる。
俺は三つの試練をすべてクリアし、神器・藍玉、魔法の概念化、魔法の絶対化を得たし、神からネアを通して神器・ムニキス、神器・封魂の箱、神器・天使のミトンを授かった。
そして、仲間の戦力は世界すべて。
これらのすべては紅い狂気に勝つためだけに準備したこと。
準備は整った。あとは決戦に備えて寝るだけだ。
俺はベッドに潜り込み、夜に身を溶かすように眠りについた。
「…………」
だんだんと意識が薄れていって思考回路が完全に閉じる瞬間に、意識の端の方で、集中しなければ聞こえないくらいの小さな声が囁きかけてきた。
「ふふふふ。おやすみなさい。そして、永遠におはよう」
俺にはその言葉を拾うことはできなかった。
0
お気に入りに追加
195
あなたにおすすめの小説
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。
夜兎ましろ
ファンタジー
高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。
ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。
バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。


明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる