上 下
224 / 302
第六章 試練編

第223話 第二試練の報酬

しおりを挟む
 俺とエアはネアに会うために護神中立国へと来ていた。
 第二試練をクリアしたのが昨日のことで、いまは二人とも天使のミトンを使って全快している。二十四時間のクールタイムのせいでもう陽が暮れかけている。

 俺たちはいくつもの鳥居をくぐり、拝殿へと辿り着いた。
 前回来たときは賽銭箱さいせんばこのような箱の中央のくぼみに鍵玉をはめ込んで本殿へとワープしたが、いまは鍵玉がない。

「まさか、これを使うのか?」

 鍵玉がない代わりに、鍵玉と同じ形状のものをいまの俺は持っている。

 藍玉。

 それは第一試練をクリアした報酬であり、機工巨人を呼び出すための神器である。

「それが使えたとして、まさか使い捨てにならないわよね?」

 そうだと信じたい。いや、もしそうなったらネアに徹底的に抗議してやる。二人とも死にかけながら、やっとの思いでクリアした試練の報酬なのだ。

「ほかにないからな。やるしかない。ええい!」

 思いきって藍玉を窪みにはめ込むと、俺たちは本殿へとワープした。
 俺の胸元には、藍玉が宙に浮いた状態で静止している。それを手に取ると、ずしりと重量を取り戻して俺の手に収まった。

「よかった。戻ってきたね」

「ああ。今後はこれが鍵として使えそうだな」

 俺とエアが本殿を見上げると、扉が勝手に開いた。
 白い光とともにネアが姿を現す。白いシャツに白いスラックスだ。
 最初に会ったときは白いはかまを履いていた気がするが、色が白ければ形にはこだわらないのかもしれない。

「ようこそ。さあ入って」

 俺たちはネアに導かれ、白い世界へと足を踏み入れた。
 真っ白な世界にポンッと白い円形テーブルが現われ、続いてポポンと椅子が現われた。

「どうぞ」

 俺とエアが椅子に腰掛けると、ポンッポポンッと茶と茶菓子が現われ、ネアも席に着いた。

「第一の試練と第二の試練のクリア、おめでとう」

「おめでとう、じゃないだろ。第二の試練の報酬はどうなってんだよ」

 俺はとにかくこのことを詰問きつもんするためにネアに会いに来たのだ。第三の試練会場がここだという話は聞いているが、そんなのは二の次だ。
 第二の試練ではエアが本当に絶命寸前にまでなった。それでいて報酬をもらっていないことに俺はいきどおりを感じていた。

「君はもう報酬を受け取っているよ」

 ネアは俺をなだめるでもなく、淡白にそう述べた。

「受け取っている? どういうことだ? 俺は何も受け取っていないぞ」

「第二試練の報酬は魔法の概念化だ。第二試練は海底都市があるあの空間から脱出したところでクリアになり報酬が与えられる。だけど、この試練をクリアするまでの過程において自力で魔法の概念化に達するのが理想的だ。第二試練はそういう試練だったんだ。実際、君は海底神殿を脱出して海底都市で魚たちに囲まれたときに魔法が概念化している」

 そういえば俺が海底神殿を出たとき、俺は大量の石魚たちに取り囲まれたが、なぜか石魚たちは攻撃せずに方々へと散っていった。
 それがなぜなのかそのときはまったく分からなかったが、石魚たちが散ったのは俺の魔法が概念化してその効果を発揮したからなのかもしれない。

「で、魔法が概念化したらどうなるんだ? 俺は何ができる?」

「空気に関することは何でもできるよ。空気の発生型みたいに空気を生み出すこともできる。特に概念種的な使い方をするのなら、空気という言葉を含む慣用句を実現させることがそれに近いだろう」

 なるほど。たしかにあのとき、俺は石魚たちに「空気読めよ」と言った。石魚たちは空気を読んで俺への攻撃を中断したのだ。
 もしあのときに魔法が概念化しなかったら、俺たちは試練をクリアできていなかったし、エアも死んでいただろう。

 魔法が概念化する条件は、自分の操るエレメントを完璧に理解し、その魔法を完全にマスターしなければならない。
 俺みたいにこの世界の外の科学知識がなければ、魔法の概念化なんてまず不可能だ。
 そう考えると、第二試練は恐ろしい難易度だった。

「さて、次は第三試練だ。ゲス・エスト、君は真実を知って挫折を味わったが、第一試練と第二試練をクリアすることでそれを克服し、自分を見つめなおした。あとは紅い狂気へと挑む覚悟を試させてもらう」

「ちょっと待て」

 いちおう第二試練の報酬については納得した。だが俺はその件を主目的としてここを訪れたので、第三試練の準備はできていない。もちろん、心構えも含めて。

「天使のミトンの使用回数がまだ回復していない。もう一日待ってくれ」

「その要望は無意味だよ。この空間では神器は使えない。使ってもいいけれど、藍玉はただの石だし、ムニキスはただの刀だし、ミトンはただのミトンでしかないからね」

 第一、第二の試練はいずれも神器を駆使してどうにかクリアできたというのに、それ以上の難易度であるはずの第三の試練で神器が使えないというのか。
 そんなものクリアできるはずが……。
 いや、それ前提の難易度になっているのか?
 いやいや、第一、第二の試練だって神器がない前提での難易度だったのではないか?
 いうなれば、いままでズルをしていたけれど今回はズルを禁止された、みたいな。

「それにしたって……」

 俺はいつになく動揺していた。そしてそのこと自体にも動揺した。
 こんなの、俺らしくないではないか。
 そんな俺の心境を見透かしたように、ネアは強制的に試練を進行する。

「心の準備ができていない、とでも言いたげだね。でも何度出直しても同じだよ。第三の試練はそういう奴が相手なんだ。心の準備なんかさせてくれない。その名を聞けば、君なら理解するだろう。いでよ、テリブルドラゴン!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

帝国の第一皇女に転生しましたが3日で誘拐されました

山田うちう
ファンタジー
帝国の皇女に転生するも、生後3日で誘拐されてしまう。 犯人を追ってくれた騎士により命は助かるが、隣国で一人置き去りに。 たまたま通りかかった、隣国の伯爵に拾われ、伯爵家の一人娘ルセルとして育つ。 何不自由なく育ったルセルだが、5歳の時に受けた教会の洗礼式で真名を与えられ、背中に大きな太陽のアザが浮かび上がる。。。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...