残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

文字の大きさ
上 下
223 / 302
第六章 試練編

第222話 海底神殿からの脱出

しおりを挟む
 魔術神官を倒すと、大部屋の天井の中央部分がゴロゴロと音を立てて開いた。煙突のような垂直の狭い通路になっていて、天空遺跡の小部屋へと通ずる道と同じように周囲の四面を白いパネルが覆っている。

「エア!」

 俺は機工巨人を解除して、空気で包んだエアを引き寄せ、同時に俺もエアの方へと飛んだ。

 エアは相変わらず意識がないが、どんどん弱ってきているのは分かった。
 俺はエアを抱えて飛んだ。白いパネルの細い通路を抜けると、海底神殿の中央から出た。

「――ッ!!」

 海底神殿の周囲を白い石魚たちが取り囲んでいた。全方位、隙間なく白で埋め尽くされていて、いっせいに俺たちの方へと突撃してくる。
 もはや突破方法なんて思いつかない。どんどん弱っていくエアのことで頭がいっぱいで気が気でないのだ。

「空気読めよ、くそがっ!!」

 俺はただそう叫ぶしかなかった。

 だがその瞬間、石魚たちは方々へと散っていった。
 俺には何が起こったのか分からなかったが、とにかく海底都市の出口へと急いだ。

 海溝からこの海底都市へと続く洞窟の中は真っ暗だが、一直線だったことは覚えている。俺とエアを包む空気の塊が、洞窟の岩肌を削りながら軌道を修正して出口を目指した。

 洞窟を抜けた先も暗い。そこは水深十キロの海溝最深部なのだ。海上の光も届かない。

「エア、もう少し頑張れ。絶対に助けてやるからな!」

 俺は海上を目指して高速で飛んだ。
 五分ほど飛ぶと、俺たちは海面から大きな水しぶきを上げて飛び出していた。久しぶりの陽光が俺の眼をくらませる。

 エアを回復させるためには癒しの泉にいく必要がある。シミアン王国の東部にあるほこらの中にあるが、かなり遠い。最高速度で飛んでもだいぶ時間がかかる。

 エアの顔が青く白く染まっていく。エアの鼓動が弱くなりはじめていた。

「くそっ、間に合わない。どうあがいても不可能だ……」

 あと何分、いや、何秒もつかも分からない。

「エア、死ぬな、エアッ! エアーッ!!」 

 もう駄目だ。

 そう思ったとき、突如として俺の視界が黒く染まった。
 そしてその次に目にした光景は、青やだいだいの光がかすかに明滅する薄暗い空間だった。

「エスト、空気の魔法を解除して」

 それはダースの声だった。
 俺とエアはいま、シミアン王国の祠の中、癒しの泉にいた。ここはかつて、俺がエアに敗れたときに傷を癒した場所でもある。

 俺は空気の魔法を解除してエアを泉に浮かべた。
 エアの血色がもどって表情も和らいだ。どうやら間に合ったらしい。

「ダース、おまえなのか?」

「うん、そうだよ」

 姿はない。どこかの影を闇のワープホールにして声を届かせているのだろう。
 俺はダースから事情を聞いた。

 まず、海底に潜る際に空気の鮮度を維持するための闇魔法は、エアではなくダースによるものだった。
 これは万が一にもエアが死んでしまったときに、俺の空気供給が止まらないようにと、エアがダースに頼んでいたということだった。

 ダースは俺たちが海溝から洞窟に入った時点で位置を見失ったが、海面から飛び出して海底神殿の海域上空にワープホール化している影が戻ったことを感知し、俺とエアの存在を再捕捉したのだった。
 さらに、俺の叫び声でエアの窮地きゅうちを察知してワープさせたということだ。

「すまん、助かった」

「無事でよかったよ」

「もう大丈夫だ。悪いが消えてくれ。俺も休みたい」

「はいはい」

 俺とエアに寄り添っていた闇の穴は消失した。

 ここは精霊の聖地でもあり、精霊がときおり俺たちのことを覗き込み、すぐに去っていく。
 彼らは契約者を探しているのだ。俺は魔導師、エアは魔術師で、俺たちは彼らの契約の対象にはならない。

「エス……ト……」

「気がついたか、エア!」

 泉に浮かぶエアはまっすぐ上を向いていた。顔を傾けたら沈んでしまうことを知っているからだろう。

「ごめんなさい。私、たぶんエストの足をひっぱったよね……」

「そんなことないさ。おまえがいたから俺は頑張れた」

 エアは無表情だが、目尻から涙がこぼれ落ちた。
 泉に小さな波紋が生まれるも、一瞬のうちに消えた。

「もし私が邪魔だったら、私を見捨ててもいいから。エストは世界を守らなければならないんだから」

「見捨てねーよ。おまえがいなきゃ、奴には勝てねえしな」

 俺はそう言ってから、言い方が悪かったと少し後悔した。これでは紅い狂気に勝つために見捨てないと言っているみたいではないか。そうではなく、俺はエアを絶対に失いたくないのだ。

 俺は泉に浮かぶエアの肩に手を回し、自分の頭をエアの頭に近づけて寄り添った。

「エア、おまえが地獄に落ちるときは俺もついていくし、俺が天国に昇るときはおまえも連れていってやる」

「私が地獄であなたが天国? それは逆じゃないかしら?」

 おっと、ここで反論がくるとは思いも寄らなかった。

「じゃあ言い直そう。おまえが天国に昇るときはついていくし、俺が地獄に落ちるときはおまえも連れていってやる」

「へー。それはとんだゲスの所業だわ」

「ま、そうなるよな」

 もっといい言いまわしで言いなおそうかと思ったが、エアが笑ったのでやめた。

 癒しの泉の水はとても心地良い。
 俺はここに来るのは二度目だが、初めて来たときよりも数倍心地良いと感じている。
 それは間違いなく、俺の腕の中にエアがいるからだ。

 俺は第二試練を通して、エアへの想いを再認識した。
 俺は心の底からエアのことが好きだ。俺は無感情なんかじゃない。
 俺はゲス野郎だが、人を愛する心を持っている。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...