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第五章 王国編
第195話 誰しも自分の人生という物語の主人公は自分
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白いオーラ。愛や勇気などのプラスの感情が極限まで高まったときにわき出てくるもので、黒いオーラと同様に実体がなく物理的に干渉することはできない。
この白いオーラには自分の魔法を強める効果がある。相性を覆すほど魔法は強力なものへと昇華するのだ。
だが、僕はこの状況をむしろ幸いだと思った。
黒いオーラが消えたのなら、僕の魔法がミューイに届く。これがチャンスでなくて何だというんだ。
僕はミューイを魔法の対象とすべく彼女に焦点を合わせる。
「こっち」
僕の右耳に囁き声が聞こえた。ミューイの魔法かもしれない。いや、十中八九そうだ。
だけど僕は振り向かざるを得なかった。その言葉には僕の行動を強制する力はない。しかし、不安で仕方がない声音で囁きかけられたら、そちらを確認せざるを得ない。不安を解消しなければ集中力が散ってまともに魔法も使えないからだ。
僕は仕方なく右を向いた。
案の定、そこには何もなかった。
「違う、こっち」
今度は左側から声が聞こえた。僕はすぐさまそちらを確認する。
やはり何もない。そうなることは分かっていた。
僕はすぐに正面に向き直ったが、すでにミューイと老人の姿が消えていた。生垣の陰に隠れたのだ。
彼女は白いオーラの発生源だから、おおよその位置は見当がついている。
「隠れるのはいいけど、僕のことは見えているのかい? 相手が見えなければ、魔法で攻撃することもできないだろう?」
僕の言ったことは正しい。生垣は分厚く、僕からミューイが見えないのだから、ミューイからも僕は見えない。
***
私はコータから見えない所にガーディーとともに身を隠した。
生垣に近い私からコータの姿が見えないのだから、コータからは私の姿は確実に見えない。だからコータは私に位置の魔法をかけられない。
相手に直接魔法が使えないのは私も同じ、と思ったら大間違いだ。私はコータを見る必要がない。
私はキューカのサポートを受けることで、音波による探査、探知をすることができる。つまり、直接見えていなくても広範囲の空間を把握できるということだ。
魔法というのは基本的に目で見えるものに対してしか使えないが、それは位置や形状の把握が必要なためであり、直接見えなくても位置や形状が把握できれば魔法は使える。
身を潜めたままの私でも、音波探知によって王城の敷地内くらいであれば自在に魔法を使うことができる。
E3の三人もそれぞれのやり方で似たようなことができるらしい。
私が一人でE3みたいな技術を使うことは難しいが、キューカがサポートしてくれれば、いとも簡単に空間把握の境地に至ることができるのだ。
「ガーディー、私、絶対に負けないからね」
私はまだ意識がないガーディーにそう囁いた。
私が負けたら私だけでなくガーディーも殺される。だから絶対に負けられない。
まずは敵の情報を掴むことが重要。これは世界王様からの受け売りだ。
私はさまざまな攻撃音をコータに聞かせた。刃が空を切る音、銃撃音、炎が燃え盛る音、電気がバチバチする音、金属の塊がぶつかる音、岩が砕ける音。それをいろいろな方角からコータに聞かせる。
「どれも音だけで偽物の攻撃だけれど、油断はしないよ。音だけに見せかけて、本当の攻撃を混ぜてくるつもりだろう?」
私の目的は、コータが瞬間移動で逃げる位置の法則を掴むこと。
音の魔法は大きな攻撃力を持たないから、準備に時間を要する大技を出すしかない。それを確実に当てるために絶対に必要な情報が、コータの移動パターンなのだ。
コータは本物の攻撃を警戒してすべての音に瞬間移動で反応する。
それを空間探知で観察する中で、私はようやく一つの法則を見つけた。それは、考える暇もなくとっさに回避する場合、五メートルほど真上に瞬間移動するということだ。
大技の準備が整った。そしてそこへ誘導するため、コータに二つの攻撃音を同時に聞かせる。それも近接攻撃型の音を。
「お?」
コータが真上に移動した。私の狙いどおりだ。
そして、その瞬間に合わせて私の必殺技が炸裂する。
私の攻撃は、コータを囲む全方位から音波をぶつけ、コータの位置で共振させて攻撃力を数倍に跳ね上げるものだった。しかも、白いオーラによって魔法が強化されている。
「あがぁっ!」
完全に決まった。
コータは白眼を剥いて地上に落下する。垣根にぶつかり、横に転がった。
「倒した……。私が、勝ったわ!」
私の頬を濡らしていた筋を喜びの涙がなぞった。
ガーディーを、王城を、王国を、私が護ったのだ。
私が涙を拭うと、横で何かが光っていることに気がついた。
光っているのは九官鳥だ。黒い艶のある羽が、白く眩い光を放っている。
「キューカ?」
私は吸い込まれるように指先をキューカのクチバシに触れさせた。
すると、ひときわ強く光った後にキューカの光が治まり、その場所には一匹の鳥ではなく一人の人間がいた。
黒いローブを着た女性。鮮やかなオレンジのウィッグが入った黒髪、切れ長の目。
キューカの面影を残しつつも、まったく別の存在へと変貌していた。
「ミューイ、ありがとうなのよ。あなたのおかげで人成することができたのよ」
この白いオーラには自分の魔法を強める効果がある。相性を覆すほど魔法は強力なものへと昇華するのだ。
だが、僕はこの状況をむしろ幸いだと思った。
黒いオーラが消えたのなら、僕の魔法がミューイに届く。これがチャンスでなくて何だというんだ。
僕はミューイを魔法の対象とすべく彼女に焦点を合わせる。
「こっち」
僕の右耳に囁き声が聞こえた。ミューイの魔法かもしれない。いや、十中八九そうだ。
だけど僕は振り向かざるを得なかった。その言葉には僕の行動を強制する力はない。しかし、不安で仕方がない声音で囁きかけられたら、そちらを確認せざるを得ない。不安を解消しなければ集中力が散ってまともに魔法も使えないからだ。
僕は仕方なく右を向いた。
案の定、そこには何もなかった。
「違う、こっち」
今度は左側から声が聞こえた。僕はすぐさまそちらを確認する。
やはり何もない。そうなることは分かっていた。
僕はすぐに正面に向き直ったが、すでにミューイと老人の姿が消えていた。生垣の陰に隠れたのだ。
彼女は白いオーラの発生源だから、おおよその位置は見当がついている。
「隠れるのはいいけど、僕のことは見えているのかい? 相手が見えなければ、魔法で攻撃することもできないだろう?」
僕の言ったことは正しい。生垣は分厚く、僕からミューイが見えないのだから、ミューイからも僕は見えない。
***
私はコータから見えない所にガーディーとともに身を隠した。
生垣に近い私からコータの姿が見えないのだから、コータからは私の姿は確実に見えない。だからコータは私に位置の魔法をかけられない。
相手に直接魔法が使えないのは私も同じ、と思ったら大間違いだ。私はコータを見る必要がない。
私はキューカのサポートを受けることで、音波による探査、探知をすることができる。つまり、直接見えていなくても広範囲の空間を把握できるということだ。
魔法というのは基本的に目で見えるものに対してしか使えないが、それは位置や形状の把握が必要なためであり、直接見えなくても位置や形状が把握できれば魔法は使える。
身を潜めたままの私でも、音波探知によって王城の敷地内くらいであれば自在に魔法を使うことができる。
E3の三人もそれぞれのやり方で似たようなことができるらしい。
私が一人でE3みたいな技術を使うことは難しいが、キューカがサポートしてくれれば、いとも簡単に空間把握の境地に至ることができるのだ。
「ガーディー、私、絶対に負けないからね」
私はまだ意識がないガーディーにそう囁いた。
私が負けたら私だけでなくガーディーも殺される。だから絶対に負けられない。
まずは敵の情報を掴むことが重要。これは世界王様からの受け売りだ。
私はさまざまな攻撃音をコータに聞かせた。刃が空を切る音、銃撃音、炎が燃え盛る音、電気がバチバチする音、金属の塊がぶつかる音、岩が砕ける音。それをいろいろな方角からコータに聞かせる。
「どれも音だけで偽物の攻撃だけれど、油断はしないよ。音だけに見せかけて、本当の攻撃を混ぜてくるつもりだろう?」
私の目的は、コータが瞬間移動で逃げる位置の法則を掴むこと。
音の魔法は大きな攻撃力を持たないから、準備に時間を要する大技を出すしかない。それを確実に当てるために絶対に必要な情報が、コータの移動パターンなのだ。
コータは本物の攻撃を警戒してすべての音に瞬間移動で反応する。
それを空間探知で観察する中で、私はようやく一つの法則を見つけた。それは、考える暇もなくとっさに回避する場合、五メートルほど真上に瞬間移動するということだ。
大技の準備が整った。そしてそこへ誘導するため、コータに二つの攻撃音を同時に聞かせる。それも近接攻撃型の音を。
「お?」
コータが真上に移動した。私の狙いどおりだ。
そして、その瞬間に合わせて私の必殺技が炸裂する。
私の攻撃は、コータを囲む全方位から音波をぶつけ、コータの位置で共振させて攻撃力を数倍に跳ね上げるものだった。しかも、白いオーラによって魔法が強化されている。
「あがぁっ!」
完全に決まった。
コータは白眼を剥いて地上に落下する。垣根にぶつかり、横に転がった。
「倒した……。私が、勝ったわ!」
私の頬を濡らしていた筋を喜びの涙がなぞった。
ガーディーを、王城を、王国を、私が護ったのだ。
私が涙を拭うと、横で何かが光っていることに気がついた。
光っているのは九官鳥だ。黒い艶のある羽が、白く眩い光を放っている。
「キューカ?」
私は吸い込まれるように指先をキューカのクチバシに触れさせた。
すると、ひときわ強く光った後にキューカの光が治まり、その場所には一匹の鳥ではなく一人の人間がいた。
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