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第四章 最強編

第167話 果たし状

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 俺は未開の大陸へと飛び、エアに会いに行った。

 彼女の居場所は彼女自身よりも俺のほうがよく把握している。
 彼女は目隠しをされた状態で、いまだに俺が空気の層で保護、もとい拘束しているのだ。

 未開の大陸にはほぼ隙間なく木がい茂り、島全体が森になっている。そんな大陸の中央に、少しだけ開けた場所があった。
 黒い土の上に、平たい巨大岩が寝そべっている。それは十中八九イーターの寝床だった。
 エアはそこにいた。
 巨大岩の上に、空気で包んだまま仰向けに寝かせている。

 俺は巨大岩の横に立ち、エアを正面に立たせた。
 まだ目隠しは取らない。この目隠しは俺の死に直結する安全装置なのだ。

「エスト。ドクター・シータには勝ったのね。次は私を断罪しに来たの?」

 彼女を空気で動かしたことで、エアはそばにいる人の気配が俺だということはすぐに分かっただろう。
 精霊のときから変わらず純白のワンピースを身にまとい、そこから伸びる白くか細い腕や脚からは、彼女の強さなんて想像もつかない。

「いいや、迎えに来た」

「私を解放すれば、私はあなたを殺す。どうするつもり?」

 彼女は己が意志を隠匿することなく、まっすぐ伝えてくる。
 それは単に嘘をつくということを学んでいないからだろうか。いや、俺の精霊だったエアがだますという行為を知らないはずがない。
 エアは俺が彼女を殺さない意図が分からないから、それを知りたいのだ。

「お互い、腹を割って話そうじゃないか。俺はおまえにタイマンで戦いを挑むつもりだ。俺はおまえに勝ちたい」

「いまなら私を殺せる」

「そりゃあ、おまえが意識を失っている間に目隠しして拘束すれば、おまえは魔術が使えないのだから誰だって勝てるさ。そうじゃない。俺はおまえと戦って勝ちたいんだ」

「じゃあこの布を取って」

「ああ、その布は取ってやる。だが、それはいまじゃない。俺はドクター・シータとの戦いで消耗しているし、おまえと戦うためには準備が必要だ。三日ほど欲しい。その間の食料は俺が準備をするし、イーターからも守ってやる。おまえにはここで待っていてもらいたい」

「好きにすればいい。いまの私は抵抗できない」

 意気消沈している。人成してからはもっと人間らしさが現われていたはずだが、いまのエアは精霊のときのような無機質なしゃべり方をする。

「なあ、教えてくれないか? おまえはなぜ俺や魔導師たちを殺そうとしているんだ?」

「それは言わない」

「なぜ言わないんだ? 俺を憎んでいるなら、遠慮なくそう言えばいい」

「違う」

「じゃあ、何なんだよ……」

「言わない」

 エアの表情からの情報量は、目隠しをしている分だけ少ない。
 しかし、彼女は精霊のときとは違い、口元やほおからだけでも読み取れるほど感情が表に出ている。

「言えないのではなく、言わないということか」

「そう」

 彼女はひと言そう答えると口を引き結んだ。
 言えない呪いのたぐいではない。彼女は言わないと固く決めたから言わないのだ。

 俺はそれを聞きだすための方法を考えた。
 言わざるを得ない状況を作ればいい。

「俺が勝てば、教えてくれるか?」

 そう、俺が勝てば、エアは目的を果たせない。秘密を貫き通すのはおそらく目的を果たすためであり、それがなし得ないのであれば、秘密を守りつづける理由もなくなる。

「……うん」

 やはり俺の考えは間違っていなかった。
 エアもその結論に達し、口を横に結んだまま小さくうなずいた。

 目の前にいる少女は、首も胴も腕も足もほっそりしていて弱々しい。それはドクター・シータに捉えられていたため衰弱していたことも起因しているだろう。
 だが、彼女の本質は見たままだ。彼女の体はか細い。
 ただし、彼女の精神力は肉体とは裏腹で、行使する魔術は世界最強のものなのだ。

「エア、改めて決闘を申し込む。俺は三日後にここへ一人で来る。そのとき、おまえの目隠しを取って一対一の決闘をしよう。もし俺が勝ったら、おまえが俺たちを殺そうとした理由を教えてくれ。それから、理由を聞いてからになるが、もう魔導師を狙わないことを誓え。おまえが勝てば、俺を殺せばいい。それがいちばんの望みなんだろ? 俺を殺した後は好きにしろ。魔導師を皆殺しにしたとしても、それは死人が知るところではない」

「分かった。……ありがとう」

 小さく付け足された感謝の言葉。
 こんなものを聞いたら、ますます彼女が胸の内に抱える理由というものを聞き出さなければならない。

 俺は飛び立った。まずはエアの食料を調達するために、シミアン王国の西端へ。同じく大陸の西端たるジーヌ共和国西端は食料がとぼしかったので、馴染みのない国で新規開拓するしかない。
 だが面倒には感じなかった。むしろ楽しいくらいだ。
 エアにおいしい料理をたくさん食べてもらい、体力をつけた全力の彼女と戦いたい。
 そして何より、彼女の喜ぶ顔が見たいと思った。
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