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第四章 最強編
第162話 擬態
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俺はとにかく先制攻撃に出た。
ドクター・シータの笑いがやまぬうちに、その体を空気で包んで拘束し、外側全方位から空気の杭千本で串刺しにした。
ドクター・シータの体に蓮根の断面のごとく無数の穴が開いた。
しかし血は出ない。白衣も白髪も肌色の肌も、すべて白い粘土のような流動物となって床に形を崩した。
これでドクター・シータが死んだはずもなく、今度は俺が攻撃を受ける番となった。
さっきまで俺が座っていた椅子や机が白く色を変え、形を崩して俺に飛びかかってきた。
俺は自分を囲む曲面状の壁を作り、白い流動物を防いだ。それはどうも肉塊のようだった。つまりドクター・シータの体なのだ。
俺は脱出するために天井に穴を開けようと空気の槍で突き刺した。だが天井は弾力のあるゴムシートのように伸びて貫通しなかった。
「なるほどな」
この小屋すべてドクター・シータの体の一部だったのだ。
今度は目標物の性質を考慮しなおして、再度の槍を放った。ゴムシートを突き破るつもりで、強力に突き刺す。
天井に小さな穴が開いた。
空へ上がろうと、俺はすかさずそこへ飛び込む。予想どおり、小屋全体が白い肉塊となって俺の体にまとわりつく。だが俺は空気の膜を着ているので、肉塊は直接俺の体には触れない。
俺は小屋だった白い塊から頭だけを出した状態になり、首から下は白い肉に完全に包まれた。そしてその白い肉は首を這って頭の方に登っていく。完全に包み込んでしまおうという魂胆だ。
まだ空間把握モードを展開していない状態で完全に包まれてしまったら、俺の空気操作できる範囲は自分を包む膜だけになってしまう。魔導師は目視などして操作するエレメントの位置を正確に把握しなければ魔法が使えないのだ。
元々ただの人間で魔導師でも魔術師でもなかったドクター・シータだが、魔導師の魔法に関する仕組みを熟知している。
「そうやってエアを捉えたのか。包み込んで空気も魔導師も視界に入れさせないようにすることで魔術を使えなくしたわけだ。ま、予想はついていたけどな」
俺は身にまとう空気膜の表層の流動性を上げ、まとわりつく白い肉をすべて足の下へと水洗いするように流し落としていく。ベルトコンベアと同じ原理で空気を体表にて循環させ、すべての肉塊を足下に受け流した。
下へ流れた空気は固定した別の空気の間に滑り込ませ、肉塊を削ぎ落としてから膜の内側を再び上方へと登る。
肉塊を切り離して空に上がった俺は、とにかく空気にリンクを張り空間把握モードを展開した。
空間把握モードはいかなる角度からの攻撃をも察知できるので、防御や回避の要となる。よほどの大火力攻撃でも来ないかぎり、負けることはないだろう。
問題は攻撃手段のほうだ。
ドクター・シータは攻撃しても肉塊になってしまい、それがダメージになっているのかどうかも不明だ。
さすがに不死身ということはないだろう。俺に取引を持ちかけたということは、俺でも倒し得るような弱点を持っているということだ。おそらく、心臓、いや、心臓に相当する核のようなものがどこかにあるはずだ。
いまも小屋がまるごと肉塊になってウネウネと動いているが、あれは小屋を取り込んだのではなく、初めから体の一部を小屋に擬態させていたのだ。それならば核を探す方針も立てられる。
奴は体の一部を何かに擬態していて、その奥深くに核を隠しているはずだ。奴の擬態をすべて暴く必要がある。
「ウィッヒッヒ。ゲス・エスト、いまごろ一生懸命に私の戦力分析をしているのだろうね。構わんとも。好きなだけするがいい。貴様がむやみに攻撃しないのは、攻撃が情報と引換えだと思っているからだろう? 同感だよ。だがね、私は実に多くの能力を得た。こうなると見せびらかしたくなるというものだ。大量の情報を与えても勝てる自信がある。だから貴様に大量の情報を与えて勝つ。出し惜しみはしない。むしろすぎた出し惜しみは敗北の原因になり得る。こと戦略的な戦いにおいてはね!」
奴は小屋だった肉塊の一部を再び人型に形作った。
俺は上空からそいつを見下ろして呼びかける。
「おい、ウィッヒッヒ!」
「呼び方!」
ドクター・シータは左手を振り上げて怒りを示した。
細かい表情を作るよりも大きな動作のほうが感情表現として楽なのだろう。
「イーターになってもおしゃべりだな。俺も少しだけ情報をやる。予告してやるよ。おまえは敗北するよりも先に敗北を自覚する」
「それは普通ではないのかね?」
「いいや、そうでもないさ。いろいろあるぜ。じわじわ追い詰められて敗北する前に敗北を悟るパターン、予想外の絡め手に敗北してから敗北を自覚するパターン、敗北を認識することなく消し去られるパターン」
ドクター・シータは腕を組んでから、怪訝そうな表情を作ってみせた。
「意味のない情報提供ご苦労さん。実にどうでもいい話だ。時間を無駄にした。私は無駄な会話が嫌いなのだよ。有益な情報交換は好きなのだがね。ああ、時間稼ぎか? ならば少しは意味があったな。懇願すればもう少し待ってやってもいいが、もういいかね?」
おまえが話の無駄を語るかよ。時間稼ぎのつもりもないが、それを言うと怒って余計に話が長引きそうだ。
「いちいちそんなこと確認しなくていいぜ。いつでも来なよ。とっととかかってこい!」
「ならば行くとも! モード・オルタナドラゴン!」
白衣の男を大量の白い肉塊が包み込み、白衣の男自身も形を崩して白い肉塊となる。そして、それらの白い流動物は地上から高く盛り上がり、ドラゴンの形を造りあげた。なかなか大きい。
そして真っ白なドラゴンが黒褐色に体の色を変化させていく。カメレオンの体色変化のごとく、じんわりと、しかしあっという間に、腹から背へ、そして頭と尾へ。
変身が完成したその姿はアークドラゴンであった。
ドクター・シータはアークドラゴンを喰らっている。変身できてもおかしくはない。
しかし、いま目の前にいる竜は本物のアークドラゴンではない。
おそらく……何倍も強い。
「オルタナドラゴンとは何だ? オルタナティブなドラゴンってことか?」
その問いに返ってきた返事は、激烈な咆哮であった。
ドクター・シータの笑いがやまぬうちに、その体を空気で包んで拘束し、外側全方位から空気の杭千本で串刺しにした。
ドクター・シータの体に蓮根の断面のごとく無数の穴が開いた。
しかし血は出ない。白衣も白髪も肌色の肌も、すべて白い粘土のような流動物となって床に形を崩した。
これでドクター・シータが死んだはずもなく、今度は俺が攻撃を受ける番となった。
さっきまで俺が座っていた椅子や机が白く色を変え、形を崩して俺に飛びかかってきた。
俺は自分を囲む曲面状の壁を作り、白い流動物を防いだ。それはどうも肉塊のようだった。つまりドクター・シータの体なのだ。
俺は脱出するために天井に穴を開けようと空気の槍で突き刺した。だが天井は弾力のあるゴムシートのように伸びて貫通しなかった。
「なるほどな」
この小屋すべてドクター・シータの体の一部だったのだ。
今度は目標物の性質を考慮しなおして、再度の槍を放った。ゴムシートを突き破るつもりで、強力に突き刺す。
天井に小さな穴が開いた。
空へ上がろうと、俺はすかさずそこへ飛び込む。予想どおり、小屋全体が白い肉塊となって俺の体にまとわりつく。だが俺は空気の膜を着ているので、肉塊は直接俺の体には触れない。
俺は小屋だった白い塊から頭だけを出した状態になり、首から下は白い肉に完全に包まれた。そしてその白い肉は首を這って頭の方に登っていく。完全に包み込んでしまおうという魂胆だ。
まだ空間把握モードを展開していない状態で完全に包まれてしまったら、俺の空気操作できる範囲は自分を包む膜だけになってしまう。魔導師は目視などして操作するエレメントの位置を正確に把握しなければ魔法が使えないのだ。
元々ただの人間で魔導師でも魔術師でもなかったドクター・シータだが、魔導師の魔法に関する仕組みを熟知している。
「そうやってエアを捉えたのか。包み込んで空気も魔導師も視界に入れさせないようにすることで魔術を使えなくしたわけだ。ま、予想はついていたけどな」
俺は身にまとう空気膜の表層の流動性を上げ、まとわりつく白い肉をすべて足の下へと水洗いするように流し落としていく。ベルトコンベアと同じ原理で空気を体表にて循環させ、すべての肉塊を足下に受け流した。
下へ流れた空気は固定した別の空気の間に滑り込ませ、肉塊を削ぎ落としてから膜の内側を再び上方へと登る。
肉塊を切り離して空に上がった俺は、とにかく空気にリンクを張り空間把握モードを展開した。
空間把握モードはいかなる角度からの攻撃をも察知できるので、防御や回避の要となる。よほどの大火力攻撃でも来ないかぎり、負けることはないだろう。
問題は攻撃手段のほうだ。
ドクター・シータは攻撃しても肉塊になってしまい、それがダメージになっているのかどうかも不明だ。
さすがに不死身ということはないだろう。俺に取引を持ちかけたということは、俺でも倒し得るような弱点を持っているということだ。おそらく、心臓、いや、心臓に相当する核のようなものがどこかにあるはずだ。
いまも小屋がまるごと肉塊になってウネウネと動いているが、あれは小屋を取り込んだのではなく、初めから体の一部を小屋に擬態させていたのだ。それならば核を探す方針も立てられる。
奴は体の一部を何かに擬態していて、その奥深くに核を隠しているはずだ。奴の擬態をすべて暴く必要がある。
「ウィッヒッヒ。ゲス・エスト、いまごろ一生懸命に私の戦力分析をしているのだろうね。構わんとも。好きなだけするがいい。貴様がむやみに攻撃しないのは、攻撃が情報と引換えだと思っているからだろう? 同感だよ。だがね、私は実に多くの能力を得た。こうなると見せびらかしたくなるというものだ。大量の情報を与えても勝てる自信がある。だから貴様に大量の情報を与えて勝つ。出し惜しみはしない。むしろすぎた出し惜しみは敗北の原因になり得る。こと戦略的な戦いにおいてはね!」
奴は小屋だった肉塊の一部を再び人型に形作った。
俺は上空からそいつを見下ろして呼びかける。
「おい、ウィッヒッヒ!」
「呼び方!」
ドクター・シータは左手を振り上げて怒りを示した。
細かい表情を作るよりも大きな動作のほうが感情表現として楽なのだろう。
「イーターになってもおしゃべりだな。俺も少しだけ情報をやる。予告してやるよ。おまえは敗北するよりも先に敗北を自覚する」
「それは普通ではないのかね?」
「いいや、そうでもないさ。いろいろあるぜ。じわじわ追い詰められて敗北する前に敗北を悟るパターン、予想外の絡め手に敗北してから敗北を自覚するパターン、敗北を認識することなく消し去られるパターン」
ドクター・シータは腕を組んでから、怪訝そうな表情を作ってみせた。
「意味のない情報提供ご苦労さん。実にどうでもいい話だ。時間を無駄にした。私は無駄な会話が嫌いなのだよ。有益な情報交換は好きなのだがね。ああ、時間稼ぎか? ならば少しは意味があったな。懇願すればもう少し待ってやってもいいが、もういいかね?」
おまえが話の無駄を語るかよ。時間稼ぎのつもりもないが、それを言うと怒って余計に話が長引きそうだ。
「いちいちそんなこと確認しなくていいぜ。いつでも来なよ。とっととかかってこい!」
「ならば行くとも! モード・オルタナドラゴン!」
白衣の男を大量の白い肉塊が包み込み、白衣の男自身も形を崩して白い肉塊となる。そして、それらの白い流動物は地上から高く盛り上がり、ドラゴンの形を造りあげた。なかなか大きい。
そして真っ白なドラゴンが黒褐色に体の色を変化させていく。カメレオンの体色変化のごとく、じんわりと、しかしあっという間に、腹から背へ、そして頭と尾へ。
変身が完成したその姿はアークドラゴンであった。
ドクター・シータはアークドラゴンを喰らっている。変身できてもおかしくはない。
しかし、いま目の前にいる竜は本物のアークドラゴンではない。
おそらく……何倍も強い。
「オルタナドラゴンとは何だ? オルタナティブなドラゴンってことか?」
その問いに返ってきた返事は、激烈な咆哮であった。
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