残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな

文字の大きさ
上 下
137 / 302
第三章 共和国編

第136話 アークドラゴン①

しおりを挟む
 気持ちをたかぶらせた俺は、熱意とともに冷静さも増した。普通の人なら逆に冷静さを欠くところだろうが、俺という人間は違う。
 すぐにアークドラゴンを探すより、アークドラゴンと戦うときのために体を休めようと考える。

 大きい島に降りると先ほどのようなトラブルが発生しかねないので、今度は小さい島を探した。無人で草木がなくて見晴らしのいい島がいい。警戒を解けるなら精神も安らぐからだ。

 海上を高速で飛び、島をいくつか見送った。そしてついに俺はちょうどいい島を見つけた。
 広大な島から少し沖に出たくらいの場所に裸の山があった。草木がまったく生えておらず、黒褐色の岩肌が隆起している。
 俺は岩山の頂上に降り立ち、腰を下ろした。見晴らしがいいので、島に住む民族やイーターからの不意打ちの心配がない。
 だからといって、完全に警戒を解いてしまうのはだ。常にあらゆる可能性に備える必要がある。

「エア、アークドラゴンを見たことはあるか?」

「ある」

 エアは俺の前に顕現けんげんした。
 相変わらず簡素な白いワンピースをまとうのみだが、そこから伸びる四肢の白肌には、血流からくる赤みを含んでいる。顔のパーツもさることながら、指や爪といった末端のディテールも作り物の領域ではない。
 彼女の姿は完全に人間の少女だ。もはや彼女が人間の姿をしているかどうかを観察するのはナンセンス。人間として見たときにどうかと評価する段階にある。

 エアの身長はマーリンよりは大きいが、キーラよりは小さい。俺の世界で言うところの中学生くらいだろうか。それも新入生くらいの。
 そして、顔も端整だ。綺麗な流線型で、上品な口と小鼻としとやかな目がバランスよく配置されている。つやのある長い白髪は、毛の一本一本が滑らかで美しく、彼女の立ち姿には気品がある。

「アークドラゴンはどれくらいの大きさなんだ?」

「翼を広げたら、魔導学院の校舎くらいの大きさはある」

 恐れを抱くでもなく、ただ知っている事実を淡々と口にする少女が目の前にいる。
 抑揚はないが、流暢ちゅうちょうな回答。そして、数字ではなく比喩で分かりやすく説明しようとする意図が汲み取れる。

 エアはずいぶんと成長したものだ。
 俺は感慨にふける自分を、まるで親戚のおじさんのようだと鼻で笑った。

「エスト」

「ん?」

「見つけた」

 突如、俺はバランスを崩した。腰を落ち着かせていた岩が動いたのだ。
 こうなる可能性を、もちろん俺は見落としてはいなかった。ただ、可能性が低いため確認をおこたった。
 俺は反省しながら空気に乗って即座に宙へと上がった。

「グルルルルゥ! ゴロロロロロォオオオォ!」

 雷のような重厚な音が空気を震わせる。
 さっきまで俺が座っていた岩がり上がり、島が面積を増していく。
 海水で幾筋もの滝を作りながら黒褐色の塊が上昇し、そしてその全貌をさらけだす。

「ここにいたか」

 翼をバサリと広げて首を持ち上げた姿は、たしかに魔導学院の校舎くらいの大きさはあった。だが高さはそれ以上だ。頭を上げると高さは学院の屋上を遥か下に見下ろせるくらい高い。

 おそらく、いや、間違いなく、いままで会ってきた中で最強であろうイーター。
 ネームド・オブ・ネームドイーター。

「アークドラゴン!」

 返事をするかのように鼻から解き放たれた息は、暴風となって俺とエアをはためかせた。

 それを目の前にした俺の心に、心臓に針を突き立てられたような恐怖が寄り添った。
 しかしそれが引き起こすのは萎縮いしゅくではない。
 高揚感!
 俺が少しでも恐怖を覚えるほどの迫力を眼前にのぞみ、そこにいっさいの後悔はなく、狂わんばかりの喜びを感じている。
 最強竜と戦えるのだ。期待感が体内に充満してはち切れそうだ。

「グルルルゥオオオオォッ!」

 今度は咆哮という形で熱風が俺とエアを襲う。
 その風には大粒の唾液が多分に含まれていた。触れれば火傷は必至。
 俺は空気の壁で風も唾液もさえぎった。しかし一所ひとところに留まれば熱でやられかねない。俺はアークドラゴンの頭上へと飛んだ。

「さて、どう攻略するか」

 本来であれば相手の強さや能力を想定してあらかじめ戦闘シミュレーションをするのだが、こいつに対しては何も準備をしていない。
 それは楽しみにしていたからだ。
 あっさり終わってはつまらないではないか。

 俺は肩ならしと小手調べを兼ねて、最初の攻撃方法を決めた。

 俺はまず空気の塊を作った。大きさにして十メートルくらいか。鉄球並みに硬度を上げる。
 手を振りかざし、そして振り下ろす。必須ではない動作だが、それをすることで空気の塊が動くという魔法のイメージを増強できる。
 空気塊は加速した。初速を速くするよりも、距離をとって高い加速度を与えたほうが最終的に速い砲弾となる。後者のやり方でアークドラゴンにぶつけた空気塊の時速はおよそ九十キロ。

「グガァア!」

 頭部に直撃。アークドラゴンの頭が衝撃で腹の位置まで下がった。まるで頭を垂れる従者のように。

 だが、顔を上げて俺をにらむその瞳には鋭い殺意が光っていた。
 羽ばたく速度が倍になり、高度を上げて俺に接近する。太く鋭い牙を並べた大口が俺へと向かってくる。
 俺はその軌道から退避しつつも、その場所に空気でつっかえ棒を残す。竜の口は俺を捕らえられなかったが、空気の異物の存在など意に介さないとばかりにガチリと閉じた。あごの力がすさまじい。

 アークドラゴンの羽ばたきによる風圧を利用して即座に距離を取る。
 一瞬、アークドラゴンが鋭い爪でぎ払おうと構えていたが、距離が足りないと判断したのか動作を中断した。
 代わりにこちらへ向けて大口を開けた。

「これは!」

 放たれる業炎。
 激烈な光、熱、音。

 俺は全速力でその軌道の外へ出て、さらに距離をとった。それでもヒリつく高熱によって大きなダメージを負う。
 熱のダメージによる影響は皮膚の痛みだけではない。運動能力と思考力が奪われる。

 火炎が中空を駆け巡り、下方の島の森が熱によって発火した。

「ちっ」

 俺は真空の塊を島に落として火事をしずめた。
 諸島連合の国々を助ける義理はないのに、俺はなぜ彼らを助けているのか。何か理由があったはずだが忘れてしまった。

「グルルルゥ」

 アークドラゴンが顔の向きを変え、それに追従するように体の向きを変えた。そして再び火を吹いた。今度は別の島に向かって火を吹いたのだった。

 俺は即座に風の流れを作り、島側から暴風を吹かせた。真空を作って火を消すだけでは島が熱でやられるため、熱ごとはね返す必要がある。
 火炎のブレスと俺の暴風は拮抗きっこうした。
 いまの位置で暴風を強くしすぎても島に被害が出る。それに、俺の想像の上限に近い力で風を吹かせているので、アークドラゴンのブレスに対して真っ向からぶつかって圧倒することは難しい。

 それにしても、なぜアークドラゴンはそんなことをしたのか。俺と戦っている最中に脇見をして、そちらに手を出すとは。
 俺はいくつか可能性を考えた。

 一つ。俺が島を鎮火したため、かばいながら戦わなければならない俺のウィークポイントと判断したということ。

 一つ。俺が魔法で空気を操作しているということを理解していないために、俺のことなど眼中になくただ破壊衝動に駆られているということ。

 一つ。アークドラゴンは俺ではなく、人類と戦っているつもりだということ。俺は人類の一戦士でしかなく、人類に対してダメージを与えるために、島に向かって火を吹いた。

 もっと考えればほかにもさまざまな可能性が沸いてきそうだが、それがどんなものであれ、俺の納得する理由は出てきそうにない。
 俺は決闘に水を差された気分になった。もちろん、俺が勝手に決闘として戦闘に臨んでいるだけだということは分かっている。

 アークドラゴンはいまの位置からだと島を焼けないと判断したか、羽ばたいて移動を始めた。俺に背を向け、品定めするように下方の島々を見渡しながら飛んでいく。
 アークドラゴンのその行為は俺の逆鱗に触れた。

「つまんねーことしてんじゃねえよ……」

 やはり俺のことは眼中にないらしい。
 相手の力量を測れない雑魚め。

 昂ぶっていた気持ちが急激に冷えていく。
 ガスバーナーで一生懸命に熱して赤い光を放っていた鉄が、突然に冷たい冷水中へと放り込まれた感覚だ。
 ぶくぶくと煮えきらない気持ちの泡を浮かび上がらせながら、水の底に沈んだまま冷え固まっていく。

 実は俺には秘かに考えていたことがあった。
 アークドラゴンを倒し、あわよくば従属させようと考えていたのだ。
 ドラゴンは知能が高いと聞く。あれだけの巨大な頭をしているのだから、脳も大きくてしかりというもの。言葉を話せなくとも理解はできるはず。
 だが興醒めした。一度でも俺の気分を害した以上、もう愛着が沸くこともないだろう。
 もういらない。抹殺してやる。完膚なきまでに叩きのめし、細かく切り刻んで、海中のイーターどもの餌にしてやる。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

処理中です...